2-8.凧揚げと珈琲
「蒔田さん、李 蘭玲さんは大学生ですよね」
「あぁ、そう聞いてますけど……」
「大学生はもう少しで夏休みです! 大学生の夏休みは長いんですよ。ということは、彼女も暇になる日があるってことです。例え気がない相手でも、暇だったら遊んでみようかなって気持ちになるかもしれないじゃないですか! チャンスは今ですよ、今!!」
ママがいない間に、根拠もない話を一気にまくしたてる。
「えぇ……、そんなもんかなぁ……」
俺のいきなりの熱量に、凧揚げアニキも少し引き気味だ。だがここで手を緩めたら彼はママの餌食である。
「俺が今日合コンで会った女子大生は、年上の男性は包容力がありそうで素敵だって言ってましたよ! 一緒にいて楽しいか、波長が合うかが大切だって! 何にしたってまずは話しかけるところからですよ。このまま見てるだけで恋を終わらせて良いんですか!?」
合コンで望美さんから聞いたことを引用しただけだが、凧揚げアニキの瞳には光が宿り生気を取り戻していくように見えた。
「そうだ、そうですよね!! ここで怖気づいてたら、記憶にも残らないまま彼女は帰国しちゃいますもんね」
蒔田さんは何度も頷いて、自分を鼓舞しているようだ。
「女子大生ってやっぱりスイーツとかショッピングが好きみたいなんですけど、蒔田さんは甘いものって好きですか?」
俺の質問に、蒔田さんは頭を横に振った。
「スイーツなんて、たまにコンビニでアイスを買うくらいで詳しくないですねぇ……。服を買うのもネットだし」
俺のギフトで見える李 蘭玲さんの特技は“珈琲を淹れる”だ。珈琲と併せて甘い物を食べることが好きな可能性は高いのではないだろうか。それに珈琲が美味しいお店なら、凧揚げアニキの誘いにも乗ってくれるかもしれない。
「まずは彼女をお茶に誘ってみましょうよ。スイーツと珈琲が美味しい喫茶店でお喋りするのはどうです? 李 蘭玲さんだって占いの館で働いている時によく珈琲を飲んでますし。近くに珈琲豆にこだわってる喫茶店があるんですよ」
ちなみに李 蘭玲さんがよく珈琲を飲んでいるというのは嘘である。一回見たことがある程度なので、つまりハッタリだ。ただ彼に珈琲というワードを伝えたいと思ったのだ。
「珈琲なら僕も好きで仕事中によく飲んでますよ! アドバイスしてくれてありがとう、勇気を出して彼女を誘ってみます……!」
その返事を聞いて俺は密かにガッツポーズをした。共通の好きな嗜好品、最高じゃないか。どうか上手くいきますように。
***
後日、凧揚げアニキから李 蘭玲さんを何とかお茶に誘うことが出来たと報告を受けた。その時の彼は本当に嬉しそうに照れ笑いを浮かべていて、少しでも凧揚げアニキの背中を押せたなら良かったと思った。
ほんの些細なことだが、俺のギフトは他人の役に立っただろうか。
ママに恋路を邪魔したことを侘びたところ、
「まだチャンスがあるもの。アタシ、待つのは得意なの。焦ったりしないわよ」
なんて穏やかな笑顔で言われたが、獲物を狩る肉食動物のように一瞬の隙を捉えるかのような迫力を醸し出していた。
凧揚げと珈琲の恋は果たしてどうなっていくのだろうか。
ママの魔の手から守りつつ、温かく見守っていこうと思う。
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第ニ章はここで終わり、次から第三章へ突入します。
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