2-7.戦いの終わり
Weirdosに従業員としてではなく客として訪れるのは初めてだ。
力を込めて重たい扉を押し開けると、ベルの音が鳴る。ママはお酒を作っていた。
「あら。ヒカルちゃん、お休みの日にどうしたの? しかもこの時間に来るなんて珍しいわね」
「近くに居たので来ちゃいました」
店内を見渡すと、平日の月曜日の夜にしては珍しく混み合っている。いつもは全然お客様が来ないから、とママ一人で店を回しているが、今日は忙しそうだった。
「俺、今から仕事に入りましょうか?」
「それは大丈夫よ、ありがと。でも、お言葉に甘えてしーちゃんの様子を少し見てきてもらえないかしら?」
この様子だとお店を抜けられなかったのだろう。
「お安い御用ですよ!」
俺は店のバックヤードの奥にある階段から、居住スペースへ向かった。実は居住スペースに入るのは初めてだ。階段を上がった先にあるドアを開ける。
「おじゃましま~す」
部屋に入ると、そこはリビングだった。
ソファにテレビ、空気清浄機、観葉植物、バランスボール、ぬいぐるみ。実際に見たことは未だないが、OLのオシャレな部屋と言う感じだ。
ダンベルや腹筋ベンチがあるやたらゴツい一角を除けば。
詩織はホワイトボードも眼鏡も外したパジャマ姿でアニメを観ていた。リラックスしている。俺が子供の頃から放送しているアニメで、つい懐かしくなる。
「しーちゃん、こんばんは」
声を掛けると詩織は驚いた様子で、無言で会釈をした。
「このアニメ、俺も小さい頃見てたよ! しーちゃんはアニメが好きなの?」
と聞くと詩織は、
「……人が出てるのは、ひみつが見えちゃうから……見ないの」
と細い声で言って膝を抱えた。慌てて話題を変える。
「今日はお店が混んでて、俺がママの代わりにしーちゃんの様子を見に来たんだ。何か困ったことはない?」
詩織は頷くと、
「これ見たら……ちゃんと、ねるから、大じょうぶだよって、りゅーちゃんに言ってくれる……?」
と遠慮がちに言う。俺が子供の頃なんて遠慮知らずで我儘で怒られてばかりだったような。
「わかったよ! ちゃんと伝えておく。それじゃ、俺は店に戻るね。しーちゃん、おやすみなさい」
俺は詩織の様子も確認出来たので店に戻ることにした。またね、と言って手を振ると、詩織も小さな手をおずおずと振り返してくれた。
店に戻ると、何組かのお客様は帰った後らしく店内は少し落ち着いていた。詩織の様子を伝えるとママは安心したようだ。カウンター席に座ると、オレンジジュースとナッツを出してくれた。
「これはアタシからのお礼よ」
と言い、更にウインクをしてくれたが、それは過剰サービスというものである。




