2-4.土曜日の夜
「本当のことなのに。そういえば、笠井さんはいつからWeirdosで働いているの?」
「……去年の四月、占いの館とWeirdosがオープンしてから」
決して楽しい会話とは言えないが、笠井さんが返事をしてくれるのが嬉しかった。俺は浮かれていたのだと思う。
だから、間違えたのだ。
「そうなんだ。占いができるなんてすごいよね! 働く前から占いが好きだったの? 次は俺もちゃんと占ってもらいたいなー」
「それは……無理。占いなんて出来ないし」
「え?」
「……質問で誘導して、ギフトでお客さんの考えてることを見て……何となくアドバイスしてるだけだから」
「えっと、それって……さ」
言葉に詰まった。笠井さんはそんな俺をキッと睨む。涙が少し滲んでいるように見えて、ぎょっとする。
「何よ、ズルだと思った?」
「そ、そんなズルだなんて思ってないよ!」
慌てて弁解をするが、笠井さんは止まらない。
「私だって相手の考えてることなんか見たくない、知りたくもない! ママはギフトとか甘い呼び方するけど、私にとっては呪いなの。 こうやって利用してないとやってられないじゃん!!」
と絞り出すように叫び、スクランブル交差点へ消えていった。一人残された俺は呆然としたままその後ろ姿を見送った。
や、やってしまった……。
笠井さんを怒らせてしまった。さっきまでいい感じに話してたのに。深い深い溜息が出た。
笠井さんに指摘されたことは、図星であったと思う。無意識に「それって占いじゃないよね」と口に出そうとしていた。別に軽蔑した訳ではなく、冗談というか。いや、そうじゃないな。
そんなことしていいの?が本音だった。
笠井さんは、ギフトのことを呪いと言った。その言葉が、胸に突き刺さる。
俺はギフトが発現してから間もないし、呪いだと言えるほど辛い出来事があった訳ではない。ただ、今日出会った尾方 翠という少年の伸ばした前髪や、先程の笠井さんが発した言葉から、ギフトという能力を持った人達の葛藤を垣間見た気がして。自分の軽率な言動が心底嫌になる。
深く考えてこなかったが、俺もこの先この見える力に悩まされていくのだろうか。
「もしかして、俺って空気読めてないのかな……」
ポツリと呟いた言葉は渋谷の喧騒に掻き消された。初夏の夜の風が、さらりと吹き抜けていく。
Weirdosに戻った後、落ち込む俺の様子を見てママに何かあったのかと聞かれたが、何も答えることができなかった。




