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Weirdos―左頬に文字が見えるギフト―  作者: 七星
1.左頬に文字が見える
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1-1.左頬に文字が見える

 すれ違う誰も彼も、顔に何らかの文字を書いている。


 念の為に大学を出る前、トイレで鏡に映った自分の顔を確認してみたが、勿論何も書いておらず、いつも通りの俺の顔だ。


 まさか、いやそんなことあるはずない。だけど、あの八坂の反応は。


 大学に入学する前は渋谷の一等地にあるこの大学を自慢気に思っていたが、今日は溢れかえる人が鬱陶しい。


“音ゲー”

“化粧”

“嘘を付く”

“説教”

“自撮り”

“空気を読む”

“メール早打ち”

“サボり”

“ソフトボール”

“裁縫”

“速歩き”

“フライ返し”


 なんなんだ。お前ら、一体何を。


 やっとの思いで辿り着いた渋谷駅ハチ公前広場。なるべく人の顔を見ないよう意識をしていたせいか、授業も受けていないのにも関わらずだいぶ疲れていた。


 ハチ公の近くに寄って、リュックから飲みかけのペットボトルを取り出す。お茶を飲みながら、待ちあわせに来ている人の顔を盗み見する。


 平日の午後とは言え、人の多い渋谷駅。自分と同じように顔に文字を書いてない人もいるはず……という淡い期待はすぐに絶望に変わった。


 ふと上を見上げると、ビルに設置された液晶ビジョンの画面越しに、生放送で歌って踊っているアイドル達でさえ顔に文字が書いてある。


 やっぱりこの文字、俺にしか見えていないのか?


 好きな文字を顔に書くことが流行っている、という可能性も考えたが、そんなわけないだろう。なぜなら、あそこで喋っている二人組の女性、なかなかえげつないことが書いてある。


 ショートカットの女性の方は顔に似合わず、なかなかのどエロいワードだし、ポニーテールの女性の方もこれまた腹黒い。


 普通はあんな文字、顔に書いて堂々としてられないだろう。二人と待ちあわせしていたらしい三人目の女性が合流した。彼女は“染み抜き”と割と地味な感じだ。三人目の女性が平穏な一日を過ごせることを願う。


 しばらく周囲を観察していたが、思わずため息が出た。とりあえず帰るか。帰って寝たら何もかも元通り、になっているかもしれない。


 駅の改札口でICカードをかざそうとしたその瞬間。隣の改札から街に出ていく女子高生とすれ違った。


 さらりとなびいた黒いロングヘアにつられて思わず顔を見たその一瞬が、まるでスローモーションのように感じられた。長い睫毛に少し釣り上がった大きな目、その左目の下に泣きぼくろ。色白の肌に桜色のふっくらとした唇。ICカードを携えた手首の細いこと。まさに美少女。


 何より、彼女の顔には何も書かれていなかった。


「えっ」


 驚き過ぎて声が出たが、彼女は振り返りもせずに人の波に溶け込んでいく。


 なぜ今の女子高生が、彼女だけが普通なんだ。


 急いで引き返そうとしたら、後ろにいた若い男にぶつかり舌打ちされた。


「すみません!」


 不機嫌な顔の男性の顔には、“いちゃもん”。相手が口を開く前に、簡単な謝罪とともに走り出す。


 とにかく、あの女子高生を探し出さないといけない。そんな気がした。

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