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Weirdos―左頬に文字が見えるギフト―  作者: 七星
10.好感度なんていらない
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10-3.新人教育

「スイちゃん、おはよう。今日からお仕事宜しくね。もう少ししたらヒカルちゃんが来るから、わからないことは何でも聞くのよ」


「うーっす……」


 ヒカルちゃんの名前を出すと、スイちゃんは露骨に不機嫌そうな声を上げた。


 長い前髪で表情は見えないものの、ストレートに感情を表に出せてしまうところがまだまだ子供で可愛いと思ってしまう。


「ほら、仕事する時は前髪は上げる! ちゃんと守るのよ」


「へいへーい」


 彼にどんな理由があろうとも、仕事である以上は衛生的にも髪の毛で顔を隠したままお客様の前に出すわけにはいかない。


 履歴書を受け取った時に何度もそう念押しをしたためか、面倒臭そうな声を上げながらも、スイちゃんは素直に黒いカチューシャを装着する。


 前髪を全てあげて顔周りがスッキリとした彼は爽やかな好青年で、いつもとは別人だ。


 こんなにハッキリとスイちゃんの表情が見えるなんて、いつ以来だろうか。


 それにしても整った顔立ちをしている。時折成長痛を気にする仕草をしているのでまだまだ成長途中のようだが、初めて会った時から身長がぐんと伸びてWeirdosの制服も様になっていた。


 彼がもう少し筋肉を付けてくれたら、そして自分も一回り若ければ、間違いなく射程圏内だっただろう。


「顔周りがスッキリして清潔感が出たわ。仕事中はそれでお願いね」 


 思わず過ぎった邪な考えはなかったことにして笑顔を作る。 


「スイちゃん、かみの毛、とってもにあう……!」


 しーちゃんがスイちゃんの真似をして、自分の前髪を両手であげながらはにかんだ。


 そんな他愛もない会話をしていたところで、ヒカルちゃんがやってきた。


「はぁ、はっ、遅くなってっ、ギリギリになってすみません! 教授に捕まっちゃって……」


 まだ遅刻をしていないのに、何故か平謝りをしながらヒカルちゃんは激しく肩で息をしている。アルバイトの開始時間に遅れてはいけないと急いで走ってきてくれたのだろう。


「遅れるなら連絡してくれれば良かったのよ?」


 仕事に責任感を持ってくれることは有り難いと思いながらもそう伝えると、


「でも、翠は今日、初めての出勤だから……」


 呼吸を整えながらもヒカルちゃんは少し照れ臭そうに、へらっと笑う。今どきの大学生にしてはやけに真面目で不器用な彼を、龍之助は信頼していた。


「……早速先輩ヅラしてんじゃねぇよ」


 案の定、スイちゃんは不服そうに顔を歪ませている。そんな悪態をするりと受け流し、


「うぉっ!? 翠、その前髪ッ!」


 とヒカルちゃんが文字通りに目をまん丸くして叫んだ。


 そんなヒカルちゃんを見てしーちゃんがクスクスと小さな笑い声を上げているが、彼が驚くのも無理はない。 


「俺、翠の顔をまともに見たの初めてだ! やっぱりイケメンなんだなぁ!」


 デリカシーの欠片もなく、好奇心のままにずいっと顔を近づけて顔を覗き込んでくるヒカルちゃんを押しのけながら、


「俺、こんな人の言う事を聞かなくちゃいけないの、マジでヤダ!! 教育担当変えてよ!!」


 スイちゃんは眉間に深い皺を拵えながら抗議の声を上げた。 

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