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Weirdos―左頬に文字が見えるギフト―  作者: 七星
10.好感度なんていらない
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10-3.新人教育

 昨日、厄介な電話が立て続けに入ったからだろうか。


 次の日になっても何となく胸に重石が乗っているよう気がして、龍之助は大きく肩で息をした。


 それでも、しっかり仕事はしなければならない。


 気合いを入れて今晩カクテルに使うメロンを一気にざっくり切り分けたところで、


「……りゅーちゃん、おこってる?」


 カウンターからおずおずとこちらを覗き見るしーちゃんの声でハッとした。 


「あら、そんなことないわよぉ!」


 心配させて申し訳ないと思いながら、龍之助はぱっと笑顔を作る。それでもしーちゃんの眉毛は八の字に下がったままだ。


「それじゃあ……、ぐあいわるい……?」


 そんな風に自分を気にかけてくれる、この小さな存在をとてつもなく愛しいと思う。


 しかし同時に姉からの言葉も蘇ってくる。


「母と娘が一緒に暮らせるというのに何を躊躇うことがあるの?」


 一度娘を捨てているとはいえ、本当の親子で過ごせるのなら。


――もしかしたら、その方がしーちゃんにとって幸せなのかしら。


 それに、しーちゃんは一度誘拐されている。


 この場所から離れていた方が、彼女の安全のためにも良いのではないだろうか。


「ねぇ、しーちゃん。もしも……」


 そう言いかけて、龍之助は言い淀んだ。


 カウンターテーブルに置かれたホワイトボードに愛用している伊達メガネ。しーちゃんは未だにこれらを手放せないのに、この場所を離れて暮らせるのだろうか。


 少なくとも、Weirdosにはギフトに理解がある仲間がいる。


 身の安全と心の安寧、優先させるべきなのはどちらだろう。


「なぁに? りゅーちゃんどうしたの?」


 しーちゃんは不安そうな表情を浮かべている。


「……今日のおやつは栗羊羹だって言ったらどうかしら? いただき物があるのよ」 


「しおり、おかしは何でもだぁいすき……」


 しーちゃんは、ほっとした様子で頬を緩めて喜ぶ。その顔を見て龍之助は胸を撫で下ろした。 


 しーちゃんが栗羊羹に入っている大ききな栗を頬張り、ハムスターのようになっていたその時、


「はよーございまーす」


 という気だるげな挨拶と共にスイちゃんが店にやってくる。


 彼は今年の四月から高校一年生となり、晴れてWeirdosでアルバイトをすることになった。


 ちなみに働く日数は週に二回までの制限付き。


 しかも、アルバイトをするにあたり母親と揉めに揉めたようで、テストで順位を一つでも下げたら即退職という約束までしているらしい。


 スイちゃんがこんなに厳しい条件を交わしてまでWeirdosでアルバイトを始めた理由。肝心の海鈴がそれに気が付いていないのだから、あまりの不憫さに涙腺が弛んでしまいそうだ。

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