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Weirdos―左頬に文字が見えるギフト―  作者: 七星
10.好感度なんていらない
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10-1.姉からの電話

 姉夫婦の離婚後、しーちゃんの親権は元義兄の手に渡った。姉は専業主婦で収入もなく、子供を育てることは疎か自分の生活もままならない状況だったからだ。しーちゃんの名字が加納のままなのは、親権を元義兄が持っているためである。


 しかし元義兄はしーちゃんを引き取りに来なかった。一方の姉も実家にしーちゃんを預けたまま蒸発。


 そうやって両人が親の責任を放棄した結果、巡り巡ってしーちゃんの監護者は龍之助となっている。


 実の娘がたらい回しになっているにも関わらず、全く連絡を寄越さずにいた姉から突然呼び出しがあったのが、去年の夏頃。


 離婚が原因で姉は父から親子の縁を切られていた。それでもいずれ経営者である父が亡くなれば、相続権もあるので多額の遺産が手に入ると姉は高を括っていたのだろう。


 だが、思惑通りにはいかなかった。


 龍之助と桜子が父と絶縁状態にあると知っている親戚達は、こぞって相続権は自分にあると言い張っていたようだが、


「縁を切った娘息子に金を遺す気はないが、お前等にも渡す気はない。俺が遺す物があるなら、それは全て孫である詩織の物だ」


 と父は言い放ったのだそうだ。


 主張の激しい親戚達に腹を立てた父親は、どうやら意固地に拍車を掛けて愛人にまで生前贈与を行っているらしい。そのことが親族にバレて更に事態を悪化させているようで、姉にも父親の発言が伝わったという訳だ。


 龍之助も父親の経営している会社を辞める際に勘当されているが、親の遺産なんて微塵も期待していなかった。しかし離婚をして生活レベルが一変した姉にとっては死活問題なのだろう。


 離婚裁判の結果、結局は互いに不貞を働いていたために慰謝料は請求しないということで姉と元義兄は合意した。


 それでも裁判には高額な費用が掛かっているし、姉の不倫相手は不貞を行っていたことがバレて会社に居られなくなり転職。年収は大幅に下がったらしい。


 姉が一刻も早く詩織を引き取りたいと焦っている理由は、龍之助か父親が詩織と養子縁組をすることを恐れているためだ。詩織と暮らしていればいずれ父親が亡くなった時に遺産が転がり込んでくる。そう考えいる姉は今更になって必死に詩織を引き取りたいと訴えてくるのである。


 利己的で最低な姉ではあるが、同情する気持ちもある。


 長男だからと厳しく躾けられた龍之助とは違い、姉は蝶よ花よと足元の石を取り払われながら躓くことなく自由に育てられた。


 そのおかげで姉は龍之助の退職理由を聞いても


「ふぅん、色々大変なのねぇ」


 と済ますくらいおおらかで、自分勝手に娘を捨てられるくらい我儘に成長した。


 唯一、姉の自由が効かなかったのは、当時父親が可愛がっていた部下である元義兄との見合い結婚だ。


「私、あの人のことよくわからないわ。ロボットみたいで話も面白くないんだもの」


 つまらなさそうに愚痴を溢す姉の遠い目が、今でも頭に焼き付いている。


 それでも姉は父親の希望通りの相手と結婚し、その後すぐに専業主婦になった。


 たまに会う時には新作のブランドバッグやダイヤのネックレスを身に着けていた。姉の話はオーガニックにこだわっているやら、エステに通っているやら。


「姉さんは専業主婦でしょう。そんな風に生活していてお義兄さんは怒らないの?」


 久々に一緒にランチを取った際、和牛を口に運ぶ姉に問うたことがある。


「あの人は何も言わないわよ」


 そう言って笑う姉に違和感はあったのだが、夫が許しているのなら、なんだかんだ夫婦円満でいるのだろうと思っていた。


 今思えばただ姉のストレス発散だったのかもしれない。


 龍之助には元義兄の気持ちもよく理解できた。


 いずれは社長の座に就けるという約束で好きでもない女と結婚をしたと思ったら、龍之助という社長の息子が鳴り物入りで縁故入社してきたのだ。そして経歴も浅いまま瞬く間に常務にまでのし上がった。


 結局龍之助は退職したわけだが、社長の側近としてコツコツと道を切り拓いてきた元義兄にしてみれば面白くないし、社長である父親への不信感も膨らんだだろう。姉や龍之助を疎んだはずだ。


 それに仕事の話も出来ず浪費癖が治らない姉と違って、元義兄の不倫相手はキャリアウーマンだったそうだ。自立した他の女性に癒やしを求める気持ちはわからなくもない。結局その二人も地方の支社へ転勤となったそうだ。


 馬が合わない二人を結婚させた父親に、一端の責任があると龍之助は考えている。役員を降ろされた元義兄にも同情はしている。


 そんな背景を理解しているからこそ、ギフトのことを考えればより一層、しーちゃんを両親に会わせる訳にはいかないと思うのだ。


 テーブルの上のスマホがまた音を立てる。


 今度の着信の相手は元義兄である。


 次から次へと。


「勘弁してよね……」


 龍之助は深い溜息を吐いた。

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