8-6.エンコントラールホテル横浜桜木町
時刻は十九時四十五分過ぎ。エンコントラールホテル横浜桜木町の目の前でタクシーを降りる。
最上階が見えない程に高い、ずどんと四角く大きな建物。洗練されたエントランス。いかにも高級感溢れるホテルだ。
「こんなところ、入ったことない……」
そのゴージャスさについ圧倒されてしまう。
「いかん、関心してる場合じゃない……ッ!」
俺は自分の頬をパシパシと二回叩き、ホテルに乗り込んで行った。
エントランスから、どっぷりしたソファーや背の高い観葉植物がいくつも置いてあるロビーを抜けてフロントへ。
自分の場違い感が凄くて、キョロキョロしてしまう。
フロントにいるピシッと髪を固めたスタッフの男性が、こちらを見ている。不審者だと思われただろうか。いや、そんなことはどうでもいい。
タクシーの中で打ち合わせた通りにスタッフへ声を掛ける。
「あの……。ちょっとお伺いしたいのですが……」
「はい、どのようなご要件でしょうか?」
スタッフの男性は笑顔で応対してくれた。
「ここのホテルの1218号室、新堂 琉為さんって泊まっていますか……?」
「申し訳ございませんが、宿泊されているお客様の個人情報はお答えしかねます」
恐縮しながらもスタッフの男性がお手本のようなお辞儀をしてみせたので慌ててしまう。
「あっ、えっと、その人に部屋まで来て欲しいって呼ばれていて……!」
「左様でございますか。お客様のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「俺は谷崎 光っていいます」
「谷崎 光様ですね。確認いたしますので、少々お待ちくださいませ」
そう言ってスタッフの男性は手元のパソコンを操作し、何かを確認すると電話を掛け始めた。
ちらりとスマホを確認してみたが、ママからも笠井さんからもまだ連絡は入っていない。尾方 翠がピックアップした三ヶ所のホテルのどこにも新堂 琉為が居なければ、俺達は振り出しに戻ってしまう。
頼む、居てくれ……! 頼む……!!
必死に祈っていると、スタッフの男性が保留ボタンを押して俺に笑顔を向けながら受話器に手を添え、差し出してくる。
「谷崎様、1218号室のお客様からお電話でございます」
俺は唾を飲み込み、その受話器を受け取った。
「もしもし……」
口の中が乾いて上擦った声が出た。
「……もしもし、光君?」
電話口からは、聞き覚えのあるとろけるような優しい声が嬉しそうに弾んでいる。
「新堂さんですね……」
「ふふっ。待ってたよ。早く部屋までおいで。もう時間がないよ」