8-5.「1218」
今まで黙って尾方 翠の話を聞いていたママが口を開いた。
「ありがとう。スイちゃんが調べてくれたおかげで助かったわ……。どうやって客室に乗り込めば良いものかをずっと考えてたのよ。アタシ達はホテルのフロントで「1218」号室に泊まっている人にコンタクトが取れるかを確認すればいいんだわ。まずは一番近くのエンコントラールホテル横浜ベイから当たってみましょう」
横浜駅に着いて、一箇所ずつホテルのフロントに確認して、いなかったら別のホテルに行って……。そんなことをしていたら。
「……いえ、三手に別れましょう」
「えっ?」
俺の言葉に、ママは勢いよく振り返った。
「その方が絶対効率的です。全員で順番にホテルを回っていたら、もし三ヶ所目のホテルに新堂 琉為がいた場合は二十時までに間に合いません……!」
「だけど、相手は……」
「しーちゃんの命がかかってるんです……! 悠長にしている時間はないですよ!」
新堂 琉為は俺に会いに来いと言っている。詩織が誘拐されたのは俺のせいだ。一刻も早く助けてあげないといけないんだ。
俺はママの座っている座席に手を掛けて近づき反論した。すると笠井さんもぐっと助手席に体を寄せてくる。
「ママ、私達を危ない目に合わせないように思ってくれてるのはわかるよ。だけど、自分の安全と引き換えにしーちゃんを助けられなかったら……私、自分が許せないよ……!」
「海鈴……」
「それにまずはフロントに確認なんでしょ? それなら手分けしても大丈夫だよ。奴が滞在してるホテルが分かったら、合流すればいいでしょ?」
笠井さんの後押しもあって、ママは折れてくれた。
「そうね……。分かったわ。三手に別れましょう」
そうして横浜駅東口のエンコントラールホテル横浜ベイには笠井さん、西口のエンコントラールホテル横浜グランドタワーにはママ、エンコントラールホテル横浜桜木町には俺が向かうことになった。
「でも約束してね。もし貴方達が向かった先に新堂 琉為がいたなら、アタシが行くまで待っていて。お願いよ」
ママの念押しに俺と笠井さんは強く頷く。
そしてママと笠井さんは横浜駅でタクシーを降り、俺はそのままタクシーでエンコントラールホテル横浜桜木町へ向かった。