8-5.「1218」
タクシーが首都高に入り、しばらく進んだ頃。
後部座席に座っている俺は、スマホで新堂 琉為のSNSを見つめていた。見つめているというよりも、睨んでいた、の方が正しいかもしれない。俺の横で笠井さんも熱心にスマホを見ている。
そんな車内のピリピリとした重たい空気を切り裂くように、助手席に座っていたママのスマホの着信音が鳴り響いた。
「もしもし、スイちゃん?」
ママの電話口の相手は尾方 翠のようだ。俺と笠井さんは目を見合わせる。
「ちょっと待って。スピーカーにするわ」
そう言ってママは通話をスピーカーモードにしてくれた。電話の向こうから、尾方 翠が話し始める。
「皆が出発した後、ホワイトボードに書いてあった「1218」についてもう一回最初から考えてみたんだ。新堂 琉為のファンの人たちはドラマの最終回の放送日だって書き込みして盛り上がってたけど、他の縦読みメッセージの投稿から考えても詩織の物を使った写真は間違いなく谷崎宛だ」
「そうね。アタシもそう思うわ」
ママの言葉に、俺も笠井さんも頷く。
「メッセージ通り、奴は谷崎に会いに来て欲しいんだ。だから弁当やベッドスローの写真で、自分の居場所を何気なくアピールしていたんだと思う。そのおかげで俺達は奴がいる地域やホテルの名前までわかったわけだけど……」
尾方 翠は歯切れ悪くそう言った。
結局俺達はずっと新堂 琉為の手の内で転がされているのだ。重たい何かがのしかかってくるように感じる。
「これは俺の推測だけど……。人に会いに来てもらうために他に必要な情報って、ホテルの部屋番号じゃないか?」
「確かに翠が言う通りかも……。部屋番号を知らない相手に会いに行くなんて到底無理だもんね」
笠井さんはなるほど、と呟き何度も頷いている。
「……そう思ってエンコントラールホテルのフロアガイドを調べてみたんだけど。「1218」号室があったのは、横浜駅東口にあるエンコントラールホテル横浜ベイ、西口のエンコントラールホテル横浜グランドタワー。桜木町駅にあるエンコントラールホテル横浜桜木町の三ヶ所だった」
「三ヶ所……」
思わず言葉に出していた。時刻はもうじき十九時半になる。この短い時間で新堂 琉為のいるホテルを見つけ出さなければならないのか。
「あぁ。あの数字を部屋番号とするなら、だけどな……」
電話口の尾方 翠も、確証が持てないためかいつもの強気な態度はどこかに行ってしまったようだった。
それでも俺達は、この小さな手がかりを信じて進むしかないのだ。