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Weirdos―左頬に文字が見えるギフト―  作者: 七星
8.君に会いたい
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8-2.解読

 新堂 琉為に苛立つ気持ちを無理矢理に抑え、冷静になってSNSに投稿されている内容を追って調べていく。


「一体どこで撮った写真なんだろう。この投稿が一時間以内にアップされたなら、Weirdosからの移動距離的にそんなに遠くには行けないと思うけど……」


 と俺が言うと、


「……まぁ、行けても関東近郊だろうね」


 と尾方 翠が反応した。


「あっ! 新堂 琉為が夜ご飯だって写真に載せてるこのお弁当、これ横浜の本店限定みたいだよ!」 


 笠井さんが検索したシュウマイ弁当のホームページには、一部の商品に本店限定の謳い文句が書かれていた。新堂 琉為が載せてるお弁当の写真と見比べてみると、その通り一致している。


「本当だ。それじゃ新堂 琉為と詩織は横浜の方にいる可能性が高いかも……。海鈴さん、ナイス情報です!」


 尾方 翠はこんな状況でもナチュラルに俺と笠井さんへの反応の違いが顕著だが、目線はスマホから離さず無意識のようだ。そして笠井さん自身もSNSの情報に夢中である。


 ママもスマホの画面を穴が開くほど見つめて、新堂 琉為がアップした写真を指先で拡大しながら、


「このベッドスロー、ロゴが入ってるわ」


 と呟いた。聞き慣れない単語だ。


「ベッドスローって何ですか?」


「ほらここ。ベッドの足元部分に掛かってる帯のような布のことよ」


 俺の質問に、ママは新堂 琉為がベッドに寝そべっている写真を指差した。


「これ、ベッドスローっていう名前なんですね。確かに文字が書いてあります」


「ホテルの名前が書いてあるみたいね。一部が新堂 琉為の体で隠れちゃってるわ。ホテルエ……ラール……どこだったかしら……」


 ママが唸っている横で、笠井さんもまた首をひねる。


「しーちゃんの物が写ってる写真と、そうじゃない写真画混ざってるのは何でだろう?」


「海鈴さんは目の付け所が違いますね! えぇと、詩織の物が写ってるのは、一枚目、三枚目、五枚目……」


「七、八、十、十二、十三……。結構多いね」


 尾方 翠と俺がしーちゃんの私物が入ってる写真をあげていくと、


「えっ…? あれっ!?」


 と笠井さんが急に大きな声を上げた。


「笠井さんどうしたの?」


「もしかして……、一枚目の投稿のコメント、縦読みになってる……?」


「縦読み? どこが?」


 俺がそう聞くと、笠井さんはSNSの投稿を指差した。


「ほら、一枚目のコメントの頭文字、縦読みすると『光君』ってなってない?


 そう言われてみれば、光君と書かれているように見える。


 そういえば新堂 琉為から俺は光君と呼ばれていた。なぜだか鼓動が早くなる。


「本当だ……。ほら、でも二枚目の投稿は『皆』と『感』で意味がわからないよ」


 殺人犯から名指しされているなんて考えてたくもない。偶然だったら良いのに、と願う気持ちも少しあった。


 そんな淡い期待は、笠井さんと尾方 翠の解読で打ち砕かれていく。


「これ、詩織の物が写っている写真っていうのがポイントなんじゃないか?」


「そうすると『光君』・『20まで』・『にあいに』・『来て』?」


「ここは20時かもな」


「その続きは『じゃなイ』・『と』……『殺ス』?」


 笠井さんはそう口にした瞬間、口を抑えた。



――光君20時までに会いに来てじゃないと殺す



 そこにいた全員が、凍り付いた。


 明確な、殺意を持ったメッセージ。詩織が誘拐された怒りと、殺人犯に会いに来て欲しいと要求されている恐怖が混ざってぶつかって、頭がぐらぐらした。


 どっと脇から汗が吹き出して、背筋がひんやりして、体温が下がっていくような気がする。目の前がだんだん真っ暗になっていく。 


「手の込んだ匂わせ投稿みたいなことしやがって!! クソ腹立つ!!」


 そう言って尾方 翠が椅子を蹴り、声を荒らげる。その声ではっとして、揺れていた頭が叩き起こされたように、視界の焦点が合った。


 俺の顔を見て笠井さんが気を使ったように、


「でもっ、最後の『楽』って意味わからないよね!」


 と話題を変える。


「あぁ、もう! この最後の投稿の写真に写ってる、ホワイトボードの『1218』って数字もわけがわからない!! 何がしたいんだアイツは!!」


 尾方 翠はそう言いながら髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き乱し、露になった整った顔が怒りで歪んでいた。


 そうだ、俺はこんなところでぼーっと怖がっている場合じゃない。


 新堂 琉為からのメッセージを解読している間にも時間は刻々と過ぎて、もう少しで十九時になる。


そんな中、ママが突如思い出したように顔を上げた。


「……そうよ、エンコントラールホテルだわ……!」


 ママは俺達の顔を見ながら、確信を持って頷いた。


「かなり大きなホテルグループで全国各地に店舗があるの。横浜にもあったはずよ」

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