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Weirdos―左頬に文字が見えるギフト―  作者: 七星
7.割れた期待を踏み付けて
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7-9.光と翠

 並んで仲良く、とは言わないが、俺の質問に尾方 翠が渋々答えるような形で会話を進めながらWeirdosへ向かった。それを会話と言っていいものなのかどうかは一旦保留だ。


 多少まともに喋れるようになってくると「憎たらしいガキ」から「憎たらしいガキ(笑)」と思えるくらいには余裕が持てる。


 喉に刺さった小骨が取れたような清々しさもあり、もう少し早く円滑にコミュニケーションを取れるように努力していれば良かったとも思った。


 俺達は若人らしく階段を使って四階にあるWeirdosへ向かった。


 俺はエレベーターを使おうとしたのだが、尾方 翠が当たり前のように階段を登ろうとした。それに張り合う形で俺も階段を使ったのだ。


 立ち仕事をする前にちょっとした運動をするハメになってしまったが、


「体力のないヒョロもやしはどうぞエレベーターを使ってください」


 という尾方 翠の言葉に屈するわけにはいかなかった。


 軽く息切れしながらも階段を登り切ると、Weirdosの重たい扉の前に赤い物体が鎮座していた。


 それは概ね四角のような形で、高さは約二十一センチ程。つるりとした見た目。


 よく見てみるとそれは横に倒された赤いランドセルであった。


 拾い上げてみると、どっかりと重たく、中に入っている教科書等々がゴトゴトと音を立てる。


「何でこんなところにランドセルが?」


 念のため尾方 翠に話を振ってみるが、


「俺が知ってるわけないでしょ」


 とバッサリ切り捨てられる。そりゃそうだ、と思い、とりあえず扉を開けて店内へ。すると、


「しーちゃんっ!?」


 と声を上げながら、フルスロットルでママが飛び出して来た。


「うわッ!!」


 あまりの迫力に俺はつい驚いて声を上げ、尾方 翠もびっくりしたと言いながら胸をなで下ろした。


「あら、ヒカルちゃんにスイちゃん……」


 呆気に取られる俺達を見て、ママはあからさまにガッカリする。


「そんなに慌ててどうしたんですか?」


「しーちゃんがまだ帰って来ないのよ。いつもなら二十分前くらいには帰って来てるんだけど……」


 ママのその言葉を聞いて、俺と尾方 翠は顔を見合わせた。


「このランドセル、店の前に置いてあったんですが……」


 ついさっき拾ったランドセルを見せると、ママはそれに飛びついてすぐさま中身を確認した。教科書やノートには“かのうしおり”と平仮名で名前が書いてある。


「これは間違いなくしーちゃんのランドセルだわ! どうしてランドセルだけ……。しーちゃんはどこに行っちゃったのかしら……」


 ママは心配で落ち着かないといった様子で、意味もなくその場をウロウロしたり、時計を何度も見たりしている。


「ランドセルを置いて遊びに行ったとか?」


 と言ってみたが、


「しーちゃんがアタシに何も言わずに遊びに行くなんて、それはあり得ないわ」


 ママはすぐにそれを否定した。


「それじゃ、学校に忘れ物を取りに行ったとか!」


 他に可能性がありそうなことを言ってみたものの、


「ランドセルを店の前に放り出して? 詩織はそんなことしねぇよ」


 今度は尾方 翠に却下される。


 それ以上、他に言えることは何もなかった。本当のところ、俺だって詩織がママに何も告げずにどこか行くなんて考えられないのだ。


「悪いけど、アタシ、ちょっと近所を見てくるわ」


「わかった。詩織が帰って来たら連絡するから」


 尾方 翠の言葉にママは頷いて、店を飛び出して行く。その後ろ姿を見送りながら、なんだか俺は嫌な予感がしていた。

これで7章は完結です。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

引き続き8章もどうぞよろしくお願いします。

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