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Weirdos―左頬に文字が見えるギフト―  作者: 七星
7.割れた期待を踏み付けて
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7-9.光と翠

 翠と言い争った数日後。アルバイト先であるWeirdosに向かう途中、前方に見知った制服姿でゴツいヘッドフォンを付けている中学生が歩いているところを発見した。


 どうやら尾方 翠もWeirdosに向かっているようだ。


 尾方 翠はなぜか途中で歩くスピードを落としたりして、考え込むような動作を繰り返しながら進んでいた。


 Weirdosで見ているような自信に満ち溢れた横柄な態度とはかなり様子が違うが、これはチャンスだろう。


 駆け足で近づき、翠の肩を叩く。一瞬驚いたようにビクッと体を震わせながら勢いよく振り返った翠は、


「何」


 短く一単語だけ言葉を発した。


 振り返った瞬間に彼の前髪の隙間からちらりと見えたのは、まるで親の仇に出会ったかのような鋭い目つき。


 なんで出会い頭にガンを飛ばせるんだ。ある意味で尊敬する。


 本当ならばその様子を茶化すか、普段されているように嫌味の一つでも投げつけてやるかしたいところではあるが、ぐっと堪える。


 俺は覚悟を決めて大きく息を吸い込んだ。


「この前は、俺、君の事情も知らないのに言い過ぎた! ごめんッ!」


 半ばヤケクソのように大声を出す。


 俺から謝られることが想定外だったのか、翠は驚いたように少し後ずさった。珍しくオドオドとしながら、


「……まぁ……、俺も、悪かったよ。ごめんなさい」


 と言った。こちらを見ようとはしないが、決まりが悪そうに尻すぼみに小さくなっていく声。最後の方はゴニョゴニョと発していたものの、やけに素直になられて面食らう。


 もしかすると、彼は下手に出られるのが苦手なのだろうか。


 何れにせよ、今が彼との仲を深めるには絶好のタイミングに違いない。俺の勘がそう言っている。


「今までは君とか曖昧な呼び方をしていたけど、俺も翠って呼んでいいかな? 皆みたいにさ」


 思い切ってそう聞くと、


「何、急に。キモチ悪い」


 潮が引いたように、まさにドン引きといった形で尾方 翠は更に後退した。さすがにそんな態度を取られると心痛いが、ここで引き下がっては元も子もない。


「ほっ、ほら。来年からWeirdosでアルバイトをするんだろ? 一緒に働くことになったら、俺は一応先輩だから。ギスギスしながら働くのも嫌だし、仲良くしたいんだよ!」


 しどろもどろになりながらもそう伝えてみたものの、隙間風が吹くようだ。尾方 翠の表情は前髪で隠れているとはいえ、怪訝そうな顔をしていることは何となくわかった。気まずい空気に嫌な汗が吹き出る。いっそこのまま立ち去ってしまいたい。


 尾方 翠は俺をしばらく見ていたが観念したように溜息を吐くと、


「……好きに呼べば」


 と言って歩き出す。


 てっきり軽く二、三発程は暴言が返ってくるものと身構えていた俺は拍子抜けしてしまった。


 文字通りポカーンとしている俺の方を振り返って、


「何だよ。……谷崎」


 尾方 翠はそう言った。


 名字で呼び捨て、しかも敬語なし。予想していた通り後輩として随分可愛げのない態度だが、まぁ一歩前進といったところだろうか。今はこれで良しとする。

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