1-4.ギフト
「おかえりなさい。この人については後で説明するから、ランドセルを置いて手を洗っておいで。おやつにしましょ」
ママがそう言うと、女の子はこくんと頷いて店の奥にあるバックヤードへと入って行った。
バックヤードには階段があって、五階と繋がっているそうだ。そして五階は居住スペースになっているらしい。
女の子の姿が見えなくなってから、ママに問いかける。
「あの……今の女の子、顔に文字、書いてなかったです……。もしかしてあの子もギフトを持っているんですか」
「そうよ。あの子は詩織。小学一年生の私の姪よ。色々あって今は私が預かっているの」
ママはちょっと考えてからこう続けた。
「詩織のギフトはね、人の秘密が見えてしまうの。詩織にしてみれば不可抗力なんだけれど、勝手に人の秘密を見てしまう自分のことを申し訳なく思っているのね。だからああやって自分の秘密をホワイトボードに書いているのよ。それでお互い様って思ってるのかしらね。小学一年生の秘密なんておねしょしただの、給食残しただの可愛いもんよ。でもこれから先、相手にしても自分にしても、秘密だって複雑になってくるでしょ。アタシはあの子が心配でしょうがないのよ」
人の秘密、そんなものが見えてしまうのか。しかもあんな小さな女の子が。
トントンと音を立てて、詩織が階段から降りてきた。手には国語の教科書とノート、筆箱。そしてやはり首からホワイトボードをぶら下げていた。
カウンター席の後ろにあるテーブル席に座って教科書を広げる詩織に話かける。
「こんにちは、俺は谷崎 光。詩織ちゃんっていうんだよね。国語の勉強するの? 偉いなぁ」
「……こんにちは……。加納 詩織…です。…しゅ…だい…やるだけ、だから……」
しゅ…だい…とは、どうやら宿題のことらしい。
漢字の書き取りを始める彼女に、ママがプリンの乗ったお皿を渡す。
「しーちゃん。ヒカルちゃんはね、しーちゃんや海鈴と一緒でギフト持ちよ。だからホワイトボードは見せなくて大丈夫」
そう言われて詩織はちらっと俺を見て、小さく頷きホワイトボードを机の上に置いた。
そんな詩織を見てママは俺にもプリンを渡してくれる。
「それで、ヒカルちゃんのギフトだけど、具体的に何を指しているのか理解している?」
そういわれると、文字と花が描かれているということだけで、それが何を指しているのかわかっていなかった。
「ええと、まだよくわかってなくて……」
大学での出来事を思い返す。お喋りな八坂は“話を盛る”という文字に小ぶりの花、歌が得意な白井さんは“歌”に大輪の花。
「やりたいこと……? 好きな文字ではなさそうだし。好きなこと? いや何か違うような……」
“テトリス”と書いてあったサラリーマンの萎れた花。生き生きとした花が描いてあった“ネトゲ”さんと、少し元気のない花が描いてあった“早口言葉”さん。
もしかして。
「特技……?」