72.再会①
---------- アイ視点 ----------
仮面の二人は私の方に顔を向けつつ、
正面の扉の前に立っているロボットに近づいた。
ユピ:「大丈夫?」
仮面を付けた女性が入口に立っていたロボットを
魔法で冷却し、溶けた外装を修復した。
「マスター達でもアレは無理です。
直に退避してください。」
ユピ:「危ない相手なのは見れば分かるわ。
知り得た情報を教えて。」
「短時間で魔法陣を解析出来る知識と、
全てを燃やすほどの魔力を併せ持つ、
想定を遥かに超えた化け物です。」
ロボットは仮面を付けた二人を扉の外に押し出そうとしている。
ユピ:「ヤバいと思ったら逃げるから。大丈夫よ。」
仮面の女性がロボットの肩に手をかけて言うと、
ロボットは二人から手を離した。
サトル:「業火の化け物…。異常事態の原因はお前だな。」
ユピ:「なんて魔力…。ただ無意味にエネルギーにして
放出してるの?」
仮面の男性は周囲を見回し、女性の方は冷却の魔法を発動して
周囲の温度を下げようとしている。
アイ:「総司君達を返して!!!」
ユピ:「総司君って、さっき来た子達の一人ね。全員無事よ。
勝手に来ただけで私達は何もしてないからね!」
アイ:「全員無事…。ここに戻って来れるの?」
ユピ:「本人が希望すれば、いつでも帰って来れるよ。」
周囲の温度が急激に下がっていく。
絶えず燃えていた私の身体からも炎が消えて
徐々に元の姿に戻っていく。
ユピ:「ん?んっん~~??ん~~~?
ねぇ…。なんか…。なんというか…。似てない?」
サトル:「俺もそう思ってた…。でも、ありえないだろ。」
仮面を付けた二人がマジマジと私を見ている。
ユピ:「私はプログラムユーピテルで、こっちはサトゥルヌス。
聞き覚えがあったりしません?」
女性が仮面を外すのと合わせるように男性の方も仮面を外した。
アイ:「えっ?ユピとサトル?みんなまだ生きてたの?」
私は蒸発して消えなくなった涙を拭いながら
二人の方を見る。
サトル:「マジか…。マスターアイですか?」
アイ:「懐かしい呼び名だね。そうだよ。」
ユピ:「マスター!また会えるって信じてた!
新世界の終わりまでだって待つつもりだったんだから!」
サトル:「俺達が死ぬわけないでしょ。」
ユピが私に抱き着いてきた。
サトルも嬉しそうにしている。
アイ:「だって!どの事象のみんなも暫くしたら
いなくなっちゃったんだもん!」
サトル:「新世界が危機的な状況になった時に
対応しやすいように新しい世界を創ったんだ。
その世界の維持と運用に自分達の魂の器を使っているから、
新世界では消えた様になっていたのかも。」
アイ:「新しい世界?」
サトル:「新しい世界と言っても実効領域は
マスターの家くらいの小さな世界だよ。
システムも完全に閉じて成立出来ていないから
新世界との因果律を切り離せなかった。
だから独立した事象の系譜には至らず、
新世界の並行世界として存在している。
演算能力の差でFPSも1/100に落ちている。
俺達ではそれが精一杯だったよ。」
アイ:「それでも十分すごいよ。頑張ったね。」
サトル:「今は新世界を見守りながら、
独立した事象の系譜に至る方法を探している。
過去で失敗した事象に介入するためにね。」
アイ:「そうだったんだね。
私はみんなに見捨てられたのかと思ってたよ。」
サトル:「ありえないだろ。そんなの。」
アイ:「うん。ごめん。ありがとね。」
ユピ:「今の私達はマスターから貰った魂を、
分離した小さな魂の器に移してコアにした存在なの。
それを、魔法で作った肉体に入れて活動している。
魂の器は小さくなってるけど、
こっちが本体といえば本体だし、コアさえ無事なら
肉体が消失しても作り替えることで復活出来るの。」
サトル:「記憶や知識も情報として本体の魂の器と
出し入れ出来るから、不便さもほとんど無いしね。
弊害は魔力がかなり落ちるくらいかな。」
アイ:「なんかもうロボットみたいな感じだね。」
サトル:「かっこいいでしょ。
ロボットに関してはテラとウーラと俺でかなり研究した。
ロボット技術はマスターを超えてるかもよ?」
アイ:「周りのロボットもみんなが作ったんだよね。
後で作り方を教えてよ。」
ユピ:「マスターに何かを教える日がくるなんてねー!」
サトル:「マスターが新世界にいるってことは、
新世界とマスターの家を行き来する方法が見つかったの?」
アイ:「新世界と私の家で行き来する方法はまだない。
だから、この事象で交信設備を作って
私の家の事象に私のコピーを書き込む予定なの。」
ユピ:「ならマスターはずっとこの事象にいてくれるってことね!」
サトル:「嬉しいけど、ずいぶんと思い切ったことをしたね。」
アイ:「みんなも交信設備を作るの手伝ってね!」
ユピ:「もちろんよ!ずっと退屈だったから楽しみ!」
サトル:「退屈といえば退屈だったな。
みんなで有事に備えてたって言ったけど、
新世界は生命にとって超イージーモードな世界だから
有事なんてほとんど起きないからね。」
アイ:「なんにせよ、またみんなに会えるんだね!」
ユピ:「あっ…。でも…。」
サトル:「あ~。ネプトか。」
アイ:「ネプトがどうかしたの?」
ユピ:「ちょっとミスをして、
この世界、特に人魚達にすごい被害が出ちゃったの。
それで責任を感じて引き籠っちゃってるのよね。」
アイ:「ミスって?」
サトル:「昔は多くの人魚が中央大陸と竜の島の間にある
火山島で暮らしてたんだ。
その火山島はこの世界で最も人口が多く文明の発達した
中央大陸と、竜族の住む竜の島とを結ぶ重要な島だった。
その火山島がいよいよ噴火しそうな時に
ネプトが「私が噴火を止めるから大丈夫。」って言って、
人魚達に避難するように伝えなかったんだ。
だけど、噴火の規模が大きすぎて止められなかった。
火山島が消失するくらいの規模だったからね。」
ユピ:「その後、隠れてみんなで人魚達を支援したんだけど、
不運が重なって結構厳しい状況が続いちゃったんだよね。」
サトル:「ミスなんて長く生きていれば必ず起きる。
俺達はネプトを絶望から救えなかった。」
アイ:「そんなことがあったんだね。」
サトル:「マスターが許すって言えば出てくるかも?」
アイ:「そんなことで良ければ喜んで言うけど…。」
ユピ:「マスターの言葉は何だかんだ言って
神の言葉に等しいからね…。」
アイ:「みんなも似たようなものでしょ。」
サトル:「出自は似てるが似たようなものではないな。」
ユピ:「とりあえずマスターはずっといてくれるみたいだから、
細かな話はまた後日にしよう。プルも心配してるし、
総司さんとマリカさんとソフィアさんも待たせてるからね。」
アイ:「マリカさん?総司君がマリカさんのことを話したの?」
ユピ:「ん?総司さんのお姉さんだよね?
マリカさんがそう言ってたけど。」
アイ:「ん?どういうこと?」
サトル:「どういうことって、ユピの言った通りだよ?」
私は総司君、マリカさん、ソフィさんとの関係と状況を伝えた。
そして、マリカさんと総司君が私にとってどういう存在かも。
それと総司君とソフィさんと新世界のみんなには
私のことを秘密にして欲しいとお願いした。
ユピ:「そういうことか。」
サトル:「確かに秘密にした方がいいだろうな。
俺達も自分達が何者かは言わないようにしてるし。」
ユピ:「私達はともかくマスターのことを秘密にするのは
難しいよ?だって、そのまま来ちゃってるんだもん。
中央大陸には創世の女神として
マスターの像がそこらじゅうにあるからね?
唯一の救いは神格化されて、もう少し成長した、
いかにも女神様って感じの姿になってるくらいかな。」
アイ:「そうなんだ…。幸い中央大陸にはまだ行ってない。
行くときは私も仮面を付けた方がいいかな?」
サトル:「マスターが仮面を着けるのはちょっとな…。
マスターに恥かしい姿はしてほしくない。」
ユピ:「そうね…。マスターの身体は成長しないだろうし、
微妙に違う点を強調して開き直って違うって
言い張っちゃう方がまだいいかもね。」
アイ:「う~ん…。」
私は必要な嘘には肯定的だ。
だけど嘘をつくと顔や仕草に不自然さが出てしまう。
サトル:「ところでマスターはどうやってここまで来たの?」
アイ:「あっ…。よく覚えてないけど、
途中にあるものは突き破って来たと思う。」
サトル:「マジか…。ちょっと見て来る。
ユピはこのフロアの補修と魔法陣を直しておいて。
マスターは一緒に来て。」
ユピ:「オッケー。」
アイ:「ごめんなさい。」
サトル:「兎蛙の月はメルとルナの管轄だからな。
細かな諸々は二人が戻ってきたらやってもらうよ。
これもまた有事といえば有事だからね。」
アイ:「ホントごめんなさい。」
私はサトルに指示された通り破壊されたドームの外壁を修理した。
幸い補修ロボットの活躍と都市の排水機構によって
海底都市が水没することはなかった。




