71.緊急事態
---------- アイ視点 ----------
二度目の人魚の島への訪問から一か月半。
そして御神体を作ってから大凡9カ月半になる。
いよいよ人魚達の出産が始まった。
人魚は人魚の姿で水中で出産する。
妊娠後期では水中の方が楽らしいので、
ほとんどの人魚は水の中にいる。
ナギさんやマリンさん、そして北の大陸の人魚の町から
来た人魚達が生まれてきた子供達と
出産を控えた人魚達の面倒を見てくれている。
交代で神殿にも入っているみたいだが…。
いつも陸上にいるのは狐人族の三人と
長耳族のダリアさんの四人だけだ。
もっともこの四人は神殿に籠っていて
広間にはご飯のときにしか出てこない。
みんな出産すると陸に上がって子供を私に見せに来てくれる。
名付けを頼まれることも多いのでちょっと困っている。
今後数カ月で千人近い魔法適正を持った人魚の子供が
生まれることになる。
この島の外の海でも安全に過ごせるように、環境の整備を行った。
基本的に時間がある時は子供達への魔法の教育のための
魔道具を作っている。
術式を書き変えれば成長してもそのまま使えるので、
ずっと身に着けられるようにイヤリングにして
全員に着けてあげている。
魔法以外の知識は人魚族の常識や思想があるだろうから、
人魚達の教育係に任せることにした。
但し、総司君の子供でもあるから、おかしなところが有ったら
遠慮なく介入するつもりだ。
一人とて不幸な境遇にするつもりはない。
スピネル:「アイ様!無事に生まれたよ!
総司様と私の子供を見て!」
アイ:「総司君じゃなくて御神体でしょ。」
スピネル:「同じこと!」
スピネルさんが子供を抱いて上がって来た。
スピネルさんと同じ綺麗な赤い髪の子供だ。
アイ:「おめでとう!可愛い子だね!」
スピネルさんは私によく見える様に屈んで子供を見せてくれる。
子供が私の方に手を伸ばしきたので手を握ってあげる。
可愛いなぁ。もう…。
甘やかしちゃいけないと思いつつ我慢できる自信がない。
生まれたばかりの子供は目に映る像が何を意味するのかを
理解していない。
魔法適正のある子供は魔力界の魔素を感じ取れるため、
目に映る物質界の膨大な情報の意味を理解していないと
魔力界の魔素の動きに注意が向くことが多い。
魔力界で特異点になっている私はどうしても
生まれたばかりの子供の興味を引いてしまう。
魔力界への意識が強ければ魔力をコントロールしやすくなる。
成長と共に魔力が高くなりやすいこの子達には大事な特性になる。
スピネル:「アイ様に名前を付けてほしい!」
アイ:「いいよ。そうね…。綺麗な赤い髪だから
ルビーちゃんとかどうかな?」
スピネル:「ありがとう!」
ルビーちゃんに異常がないか額に私の額を当てて脳と身体の
状態を詳細に確認する。特に問題無く健康そのものだ。
そして痛覚を遮断して両耳にイヤリングを着けて傷を治す。
髪色と名前に合わせて大粒のルビーのイヤリングにした。
スピネル:「綺麗な宝石!私にもお揃いのが欲しいな!」
アイ:「仕方ないなぁ…。
ベースになってる魔素結晶と記載されている術式が重要で、
見た目はオマケみたいなものなんだけどね。」
厚かましいお願いだが、気持ちはわかるので
希望通り作ってあげることにした。
今のスピネルさんに使えない魔法の術式を組み込んで
同じイヤリングを作って両耳に着けてあげる。
スピネル:「ありがとう!」
「アイ様~!私の子供も見て~!」
「私も~!」
アイ:「は~い!」
私は水辺の方へ走って行く。
子供達の状態確認の後にイヤリングを着けてあげる。
名付けも要望があれば、その子に合いそうな名前を伝える。
外も暗くなり一段落したところで、ご飯の準備を始める。
アイ:「痛っ。」
みんなの状態確認のための指輪が緊急事態を知らせている。
子供達の誰かに何かあったのかな?
魔道具で、誰が、何処で、どのような状態なのかを確認する。
子供達の全員に問題が無いのを確認した後、
何が起きたのかを悟る。
総司君とソフィさんの信号が無い。
事前の変化は特に無く、急に消えている。
こんなことありえない。
可能性を模索するが思考が発散して考えがまとまらない。
最適な行動が見つけられない。
あらゆる状況に発散する思考が無限に繰り返される。
この状況に至った自分の不甲斐なさに怒りがこみ上げる。
周囲が水蒸気によって曇ってくる。
無意味に変換された魔力がエネルギーとして放出されている。
このまま私がここにいたらマズい。
「アイ様?どうかしましたか?」
近くにいた人魚が私の異常に気が付いたみたいだ。
アイ:「ごめん。ちょっと出かけて来る。」
何とか声を出し、近くにいた人魚に伝える。
私は洞窟上部の穴から外に出る。
何が最適か分からない以上、総司君とソフィさんの
信号が消えた座標へ直行するしかない。
既に周囲の空気が燃焼反応を起こすほどに、
エネルギーの放出が抑えられない。
私の身体も燃えているが再生されて延々と燃え続けている。
早く総司君達のところに行かないと。
一気に加速して総司君達の信号が消えた座標へ突っ込む。
宇宙空間では重量物を反対方向へ射出し反作用で加速していく。
いつの間にか目的地に着いていた。
広い部屋で天井には大きな穴が開き、
溶けた何かが絶えず落ちてくる。下には大きな魔法陣がある。
落ち着け。これが総司君達が消えた原因だ。
魔法陣が光りを放つ。発動している魔法を解析する。
私の魂の器を読み込んで、転写しようとしているみたいだ。
違う世界に取り込まれようとしているのを理解する。
総司君達が消えた理由は分かった。
非常に危険だが、私も今から転移することを覚悟する。
絶対に救い出す。
私に出来ないことなんてない。絶対に何とかするんだ。
魔法陣の光りが消え、転移の魔法が停止した。
再起動する素振りはない。待って。待ってよ。
総司君達のところに行かなきゃいけないんだ。
魔法陣を動かすしかない。
起動コードを見つけ、強制的に起動させるが直に停止してしまう。
先程の読み込みで私の魂の器の情報は弾かれる様に
設定されたのかもしれない。
転移魔法システムの本体は別にある。
魔法陣はこの場で必要な手続きをするにすぎない。
この場で転移魔法を解析するのは難しいし時間もかけられない。
今この場で出来ることをするしかない。
こうなったら向こうから出て来てもらうしかない。
ここまで出来る存在なら異常が起きれば原因を調査に来るだろう。
魔法陣の起動を繰り返し、魔力の塊を転移させ続ける。
またしても魔法陣の光りが消える。起動しなくなった。
魔法陣を見ると地面が溶けて魔法陣が歪んでしまっていた。
アイ:「いやあああああああああああーーーーーー!!!」
私から更に激しく炎が立ち昇り、天井が溶け落ちて来る。
自分の愚かさに怒りを超えて悲しくなってくる。
サトル:「おい!ここを開けろ!」
「拒否します。来てはいけません。」
ユピ:「ごめん。強制的に開けるね。」
声がした方をみるとロボットがいる。
奥には大きな扉が見える。
アイ:「総司君達を返して!!!」
ユピ:「誰かいるの!?」
アイ:「総司君達を返して!!!」
奥の扉が開いて大きなロボットがたくさん出てきて
私の周りを囲んできた。
その後に仮面を付けた人が二人出てきた。
大きなロボット達は手に大きな銃と盾を構えている。
銃はガトリングガンで実体弾を撃ってくるタイプだ。
今の私に近づけば全ての物質は蒸発する。
何もしなくても近づくことすら出来ないはずだ。
但し油断は出来ない。周囲のロボット達は、
この事象の文明を遥かに超えた技術によって作られている。
特に転移の魔法システムは私の知らない技術だ。
私が知らないということに恐怖を覚える。
元凶と思われる仮面の二人の動向を注視する。
何としてでも総司君達を救い出す。




