69.海底都市②
お昼ご飯を食べた後、潜水艇を抜けて通路を更に進んで行く。
潜水艇も調べてみたが、入り口がない。
厳密には入口の様な場所はあったが、開き方が分からなかった。
潜水艇を抜けると正面に壁が見える。
壁の中心にドラゴンでも通れそうな大きな扉がある。
左下には人族など僕達がちょうど通れる様な扉もある。
左下の扉はどこかで見た事がある。
エレベーターに似ている。
扉の右側に△と▽のボタンが上下に並んでいる。
△ボタンを押すと目の前の扉が開いたので中に入る。
振り返ると左右にB5,B4…~…10Fのボタンがある。
エレベーターそのものだった。
僕達は今5Fにいるらしい。
総司:(とりあえず1Fを押すね。)
マリカ:(そうだね。)
ソフィ:(これ、イルスの家にあるエレベーターと同じだね。)
マリカ:(機能としては同じだけど、魔力を通す必要がなかった。
もしかしたら電動かもしれない。)
ソフィ:(電動?)
マリカ:(簡単に言うと金属に電子の流れを作って、
熱、光、磁力などのエネルギーにして利用する。
電動は電子の流れで磁力を制御して動力に変えることだ。)
ソフィ:(魔法と一緒じゃない?)
マリカ:(魔法は魂の器を通して、
魔力界の魔素や霊子を物質界で元素や電子に
変換して利用している。
電動は既に物質界にある電子を金属の回路、
要するに、金属に電子を循環させることで、
熱、光、磁力にして利用している。
効果としては似ているけど、その根本に違いがある。)
ソフィ:(魔法の方が簡単で便利っぽいね。)
マリカ:(そうだね。だけど魔法は魂の器が無いと使えない。
要するに人格を持った生命、もしくは神器が無いと使えない。
電動などの電気の力は、術者や神器が無くても、
何処でも、何時でも、使うことが出来る。)
総司:(アイさんは魔法で電子の流れを作って、
電気の力にして利用したりもしてるよね。)
マリカ:(アイさんは分野を問わず、
高度な知識を持っているからね。)
ソフィ:(マリカさんの言う通りだとすると、
アイさんくらい頭の良い人がここにいるってこと?)
マリカ:(いたのはほぼ間違いないな。
今もいるかはわからないけど。)
海底宮殿に入る前に懸念はしていたけど、
魔力が高く、知識も豊富な人がいたのは間違い無さそうだ。
そして、これだけの物を創ったなら根気強い人でもあるだろう。
少なくとも急に襲って来たりはしないよね。
1Fに到着して扉が開いた。
閉じ込められたとしても魔法で壁を壊せば問題無い。
出来るだけ壊したりはしたくないけど。
エレベーターから出ると、5Fと同様に正面には通路と
潜水艇があり、左側には大きな扉がある。
5Fと違うのは、右側にも扉があることだ。
総司:(ここにいても仕方がないし、
右側の扉から先に移動するね。)
ソフィ:(わかったわ。)
扉を開けると、その先は室内や通路では無かった。
ソフィ:「外!?ここは海底だよね!?」
扉の外は、信じられない光景だった。
海底なのに地上の様な広い空間が目の前にある。
上を見るとかなり高い所に天井があり、
天井を支えるフレームが光っている。
巨大なドームの中にいるみたいだ。
ドームの天井を支える様に高い柱が何本も伸びている。
柱の壁面はオフィスビルの様に大きな窓ガラスになっている。
最初は柱に見えたが、ビルの様に中に空間が有りそうだ。
総司:(海底宮殿というより海底都市だね。)
マリカ:(すごいな。端から端まで数kmはあるね。
どれだけ多くの人が住んでいるのか想像も出来ないな。)
海底からも大きなドーム形状に見えたが、
入口から入って概ね真っすぐ進んだ先で
エレベーターで降りたことから考えても、
かなりの部分が地中に埋まっていることになる。
ソフィ:「なんか変なのが一杯いるよ?」
僕もソフィさんの目線を追う。
銀色の足の短い蜘蛛のようなロボットが道を走っている。
全長は2mほどだろうか。足の先が丸くなっていて、
それがタイヤの様に回転して移動している。
同様に蜘蛛の様な形状で胴体から更に上に複数の
手の様なロボットアームが出ている個体もある。
人型のロボットは今のところ見当たらない。
総司:「ロボットに見えるね。」
ソフィ:「ロボット?」
マリカ:(ヒューズの町でアイさんが作った機械と同じ様な物だ。
機械よりも複雑な動きや、自立稼働が可能な物を
ロボットと呼んでいる。)
ソフィ:(あれが機械なの?人が乗ってないのに動いてるよね?)
マリカ:(人が乗ってなくても、予めケース分けされた命令が
入力されていて、状況に応じてそのケースに
即した命令通りに動いているんだと思う。)
ソフィ:(生き物じゃないのに魔力無しで動いているってこと?)
マリカ:(何が動力なのかは分からない。
さっき乗ったエレベーターと同じ様に
電気の力で動いていると思う。)
ソフィ:(聞いといてなんだけど、
総司君とマリカさんは何で知ってるの?)
マリカ:(元の世界で似たような物があったんだ。)
総司:(うん。僕も一緒。でも、僕のいた世界には
これほど高度なロボットは無かったよ。)
ソフィ:(近づいたら襲って来たりしないかな?)
マリカ:(ロボットは基本的に役割に応じた形状で作られる。
武器の様な物は付いてないし、
戦闘や捕縛を意図した形状には見えない。
襲ってくることは無いと思う。あくまで推測だけど。)
総司:(戦闘用ロボットは別にいて不審者を発見したら、
呼び出されるかもしれないよ?)
マリカ:(確かにその可能性はあるな。)
ソフィ:(私がロボットの近くに行ってみようか?)
総司:(行くなら僕が行く。)
マリカ:(一緒に行こう。対処出来ない状況になったら、
ソフィを抱えてここの5Fの扉に突っ込んで、
そのまま外に出ればいい。
警戒は必要だけど、過度に心配する必要は無い。
これだけのことが出来る存在だ。
侵入を拒むつもりなら、方法はいくらでもある。)
総司:(そうだね。探索を続けよう。
まずは近くのロボットのところに行ってみるね。)
僕達が近づいていくと、ロボットがこっちに寄って来た。
警戒して身構えるが、そのまま僕達を通り過ぎて止まった。
ロボットは胴体の下部からモップのような物を出した。
そしてそのまま僕達が通って来た道を遡っていく。
僕達が通って来た道を掃除しているみたいだ。
その後、僕達が出てきた扉に着くと、
扉の横にアームを当てて何かをしてから、
戻って来て僕達の近くでまた止まった。
このロボットは結構大きい。
目の前に立たれると、それなりに威圧感がある。
総司:「事後報告で申し訳ありませんが、お邪魔してます。」
挨拶してもロボットは何も反応しないが、
そのまま僕達の近くから移動する気配もない。
僕達が立っている通路は結構広い。
僕達が邪魔で通れないということも無いだろう。
総司:(どうしよう?)
マリカ:(ここにいても仕方ない。
とりあえず移動しよう。)
僕はロボットと逆方向に歩いて移動すると
ロボットも付いてきた。
胴体の下でモップが回転している。
マリカ:(感じ悪いな。)
総司:(僕達が汚して歩いてるみたいだよね。)
ソフィ:(勝手に掃除してくれて、ありがたいでしょ。)
掃除:(そうだけどね…。でも、そんなに汚れるかな?)
僕は靴底を確認する。
土が付いていたりと、汚れている様には見えない。
マリカ:(飛行の魔法で浮いて移動してみよう。)
マリカさんが言う様に浮いて移動してみる。
ロボットは付いてくるのを止めた。
ついでに更に高度を上げて周りを確認してみる。
同じ様な清掃タイプのロボットはゆっくり移動しているが、
アームの多いロボットは、その場に留まっている。
そのまま周りを観察していると、
僕達が出てきたビルの手前の地下から複数のロボットが出てきた。
壁の無いエレベーターで、1Fを通り過ぎて5F辺りで止まると、
扉が開きロボットはそのまま扉から中に入って行った。
総司:(地下にもロボットがいるみたいだね。)
ソフィ:(帰り道を塞がれたりしないかな?)
マリカ:(掃除するだけだと思うけど、行ってみるか?)
総司:(何で5Fなのかな?
掃除するにしても、直接5Fに行くってことは、
僕達が通ったことを知ってるってことだよね?)
マリカ:(監視カメラの様な物が付いていたか、
さっきのロボットがエレベーターの履歴を見て、
連絡した可能性もあるな。
ロボットはシステムか個体同士かは分からないけど、
ある程度は連携しているってことかな。)
総司:(とりあえず見に行ってみよう。)
5Fの扉は空いたままになっている。
飛行したまま中に入ると案の定、ロボットが掃除していた。
僕達は特に隠れたりはしていない。
ロボット達は僕達を認識しているはずだが、
まったく注意を向けてこない。
掃除が終わったのか、みんなエレベーターに向かう。
僕達も一緒に扉から外に出た。
ロボット達はエレベーターで地下に戻って行った。
マリカ:(行動がハッキリしていて分かり易いね。
あの形状のロボットは基本的に巡回と掃除が仕事だね。
それとある程度、管轄する領域が割り当てられてる。
巡回中に破損や故障個所を見つけたら、
胴体の上部に複数のアームの有るロボットに連絡が行って、
そのロボットが補修するとか、そんな感じだと思う。
要するにロボット達が組織的に
この都市を維持するために活動している。
私達がこの都市の維持の弊害にならない限り、
干渉してこないんじゃないかな。)
総司:(とりあえず探索は出来そうだね。)
ここは海底にあるだけでなく、都市としても僕の常識では
考えられない程に高度の技術で作られているのが分かる。
都市の中心にドームの中心を支える大きなビルがあり、
そのビルを中心にして放射状に都市が構成されている。
都市の四方にロボットが出入りしている大きなビルがある。
あそこで、ロボットのメンテナンスやエネルギー補給を
しているのかもしれない。
ビルの形状はいくつか種類があるが、
その中で一種類が圧倒的に数が多い。
まずはそのビルの中を確認することにした。
入り口に立つと扉が自動で開き、中でライトが点いた。
ビルの中は大きさの違う部屋がいくつもあり、
布団や椅子、机が隅にまとめて置いてあった。
調理場の様なフロアもあり、
たくさんの調理器具や器も棚に入っていた。
調理場のすぐそばに、食材などの物資運搬用と
思われるエレベーターも設置されていた。
ガスコンロの様な物は無かったが、
代わりにホットプレートやオーブンがあった。
蛇口も有って、レバーを降ろすと水が出た。
お湯は張られていなかったが、大浴場のようなフロアもあった。
マリカ:(明らかに人種が生活することを意図した環境なのに、
肝心の住人が誰もいないな。)
総司:(でも、誰かが暮らしていた痕跡も無いよね。
使った痕跡も無い。新築のまま放置されているみたい。
ゴーストタウンと言うには全てが綺麗で新しく、
暮らす人達への労りや親切心まで感じられるから
不気味さがまったく無いんだよね。)
ソフィ:(NRTに似てるね。)
総司:(そうだね。
景観などの美的感覚よりも機能や効率を重視している
感じもよく似ていると思う。)
マリカ:(対称性や思想が感じられる分、
これはこれで景観に配慮されていると私は思うぞ?)
総司:(確かに整然とした美しさはあるね。)
マリカ:(次は地下に行ってみるか。
エレベーターで地下に行けたはずだ。)
エレベーターに移動してB1を押す。
総司:(動かないね。)
マリカ:(他の階は?)
僕は、B2、B3…と、地下階のボタンを押したが反応は無い。
このビルにはエレベーターが4つあるので、
他の3つも同様に試したが、どれも無反応だった。
総司:(地下は全部ダメみたいだね。)
ソフィ:(入口のところのエレベーターはどうかな?
地下からロボットが上がってきたよね。
あそこなら地下に行けるんじゃない?)
マリカ:(行ってみようか。)
海底都市の入口にあるエレベーターでも同様に試したが、
地下階には行けなかった。
マリカ:(ロボットは地下から上がって来たし、
掃除が終わったら、地下に戻って行ったから、
地下階があるのは間違いない。
ロボットはエレベーターのボタンを押して無いだろうし、
無線で通信しているのかもしれない。
ボタンにはセキュリティーがかかっているのかもね。)
総司:(地下は後回しにするしかないね。
本命の中心の大きなビルに行こうか。)
マリカ:(そうだな。)
中心のビルはドームの中心を支えているだけあって、
他のビルに比べてかなり大きく高い。
中に入ると1Fは広いロビーと、
講堂の様な大きな部屋がいくつかあった。
このビルにはエレベーターが5つある。
中心のエレベーターに乗って、
念のため地下階のボタンを押してみた。
B1、B2…と順番に押してみたが、反応がない。
他のビルには無かったB6のボタンも押してみる。
エレベーターが地下に降りて行く。
総司:(うわっ!地下に行けちゃった。)
ソフィ:(地下6階だけは行けるんだね。)
マリカ:(一応、警戒しておこう。)
海底に存在した巨大な都市。
無人でありながらゴーストタウンの様な雰囲気は一切無く、
ロボット達によって、住み易く綺麗なまま保たれている。
巨大蟹が上陸してくる海の底には、
想像も出来ない様な未知の世界が存在していた。




