表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイの新世界(物語)  作者: 夢のファイヤー
79/89

66.月へ

三種族会談から数日が経った。

備玄さん達が月へ行く準備と残る兎人族の人達への

挨拶や引き継ぎは概ね終了した。


月へ行くのは備玄さん、羽雲さん、飛益さん、雲子さんの4人と

ソフィさんと僕の計6人だ。


忠漢さん、超孟さん、亮孔さんの3人は

旧西飾王国を新しい組織にするために残ることになった。

これにはアイさんも手伝ってくれるので何の心配も無いだろう。


僕達は出発の挨拶を済ませて宇宙船に乗り込んだ。

食料や水なども用意してある。


宇宙空間は魔力界の魔素が薄く、

何か魔法で作るにしても極端に時間がかかるそうだ。


シートベルトの着け方や、安全のために

床から足が離れないように強磁性体のリングを

両足と腰に取り付けるなどの説明を受けた後、

みんな各座席に座った。


コントロールパネルの付いた座席には僕とソフィさんが座った。

星間航行モードを起動して目的地を設定する。


「皆様、今日はマジック商会の試作型宇宙船、

 αムーン行をご利用下さいましてありがとうごさいます。

 この便の機長は総司、アナウンスを担当しています私は

 総司のつま…ムグッ…。」


「ちゃっかり都合の良い嘘を広めようとしないで。

 リテイクするの大変なんだから!」


「失礼しました。私はアクアマリンと申します。

 まもなく出発いたします。

 シートベルトを腰の低い位置でしっかりとお締め下さい。

 αムーンまでの飛行時間は50時間の予定です。

 快適な旅をお祈りしております。

 総司様、ソフィ、無事に帰って来てくださいね。

 それでは、いってらっしゃいませ。」


「みんな気をつけて行ってきてね~!」


操作の後にアナウンスが流れた。

アイさんらしい親切設計だ。

なんだかバタバタしてるみたいだけど…。

50時間ということは2日ちょっとで着くってことだね。

そんなに早く着いちゃうんだ。


雲子:「すご~い!この船しゃべるんだね!」


僕は雲子さんに録音した音声を流していることと、

録音について説明した。

この世界で録音の技術は一般的ではないらしい。

元の世界の録音とはかなり方法が違いそうだけど…。


「全員のシートベルトの着用を確認しました。

 座席のリクライニングが倒れますので、

 楽な姿勢でお待ちください。」


僕とソフィさんが座っているコントロールパネルの付いた

操縦席以外の背もたれが倒れていく。


「操縦席にお座りの方はコントロールパネルに表示される

 発射シークエンスの指示に従い実行してください。」


コントロールパネルの指示通り、

画面に両掌を付けて魔力を通す。


下部に設置されている5つのノズルから空気が噴射され

宇宙船が浮き上がる。


ある程度高度が上がった後、

燃焼による爆風で一気に加速した。

強烈な加速で椅子に押し付けられるような力を感じる。


雲を突き破り、大気圏を抜けて宇宙空間に到達した。


地球を概ね一周した後、月に向かって進んで行く。


「これより星間航行に入ります。

 シートベルトを外して離席しても構いませんが、

 着席指示の際には速やかに着席して

 シートベルトを着用して下さい。」


魔力供給の指示は既に消えているので、

僕はシートベルトを外して立ち上がる。


コントロールパネルに星間航行での注意事項が

表示されている。

事前にアイさんから説明されていた内容と概ね同じだ。


宇宙空間でも周回軌道ではないので、重力は感じるらしい。

まだ加速しているので、いつもより身体が重く感じるくらいだ。


月に近づくにつれて地球の重力の影響は小さくなり、

地球と月の重力がつり合う位置で無重力になる。

その先は月の重力の影響が強くなり、

重力の向きが反転するらしい。


また、この宇宙船は月に着陸する前に、

月の周りを周回し、地形データを読み込んだ後、

着陸地点を選ぶことになる。

月の周りを周回している間は無重力になるそうだ。


総司:「大丈夫?」


僕はソフィさんの方に手を伸ばす。

宇宙空間は魔力界の魔素が薄いので、

魔法の効果が低下する。


特に竜族は存在の維持に他の生物よりもエネルギーや魔力を

必要とするので、疲れやすくなるみたいだ。


僕は新しい装備に追加された術式の効果で、

限度はあるが魔力界の魔素を使わなくても

魔法を使うことが出来る。


この術式はこの世界の魔法システムに関して深い理解が無いと

発動しないので、ソフィさんにはまだ使えないらしい。


マリカさんが分かる範囲で説明してくれたが、

新しい術式の効果で、僕とマリカさんは混沌で発生した魔素が

魔力界で分散される前に直接使えるようになったため、

魔力界の魔素濃度に影響されず高濃度の魔素を使えるらしい。


要するに魔力界を飛ばして混沌の魔素を直接使えるということだ。


世界の法則に介入する秘術と言われる魔法の一つとのことだ。

これまでも重力や慣性、魔素の対流など、

物質界の物理法則と魔力界に介入する秘術は使っていたが、

この世界の基本構造である混沌、魔力界、物質界の三界のうち、

混沌の法則に介入する秘術はマリカさんも初めてと言っていた。


混沌の法則って、言葉としておかしな表現だけど、

そういうことらしい。


簡単に言うと、

この世界の混沌は無から有を生み出す現象、

元の世界でも原初にのみ発生したであろう起源の混沌と

同様の現象を意味している。


この世界では、その現象が管理された状態で

ずっと続いていることで

魔法という効果が存在出来ているらしい。


そもそも魔法という言葉自体、混沌とか無秩序という言葉を

前向きな表現にしているだけの様な気もする。


ソフィ:「大丈夫だけど、まだもうちょっと座ってる。」


ソフィさんはシートベルトをしたまま僕の手を

両手で握ってきた。

僕はもう一方の手でソフィさんの手を擦ってあげる。


ソフィさんは辛そうなのに笑顔で話てくれるのを見ると、

僕だけズルをしているみたいでちょっと心苦しい。


僕はソフィさんが楽になるように操縦席の背もたれを倒した。


宇宙船はまだ加速を続けている。

宇宙船が魔素を使い続けている状態だ。


重力と魔素濃度はほぼ比例するので宇宙空間の魔素はかなり薄い。

その薄い魔力を更に宇宙船の加速に使っているため、

今はほとんど魔素が無い状況になっている。


絶えず高速で移動しているため、

魔素を使う領域も移り、魔素が尽きることはないが、

加速が終わるまでは魔素が極端に薄い状態が続く。


もう暫く、ソフィさんには我慢してもらうしかない。


備玄さん達もまだ座ったままだ。

心配していた飛益さんも大人しく座っている。


魔法の回復効果も少なく、

加速による急激な力の変化など、

いろいろな環境変化が身体の負担になり、

疲れを感じているのだろう。


普段は魔法の恩恵で疲れるという感覚がほとんど無いため、

疲れに対する慣れもなく、

強い不快感を感じているのかもしれない。


甘く考えていたつもりは無いけど、

宇宙空間を経て月へ行くのは想像以上に厳しいみたいだ。

僕には申し訳ないくらい影響が無いけど…。


マリカさんも新しい装備の術式の解析に

忙しいみたいで、あまり話しかけてこない。


周囲に星は見えず、吸い込まれそうな暗闇が広がる。

上を見ると綺麗な月が見える。

他に見て面白い物は特に無い。


やることがない…。


魔素が薄くても食事をすれば

エネルギーを得られるので少しは楽になるかもしれない。


まだ早いけど、出発前に予め用意しておいた

食べ物をみんなに配ることにした。


みんなお礼を言って受け取ってくれたが、やっぱり元気が無い。


ご飯を食べ終わったらみんな寝てしまった。

僕ももう寝ちゃおうかな…。


総司:(マリカさん、もう寝るね。)

マリカ:(ん?ずいぶん早いな。)

総司:(だって、みんなももう寝ちゃったし。)

マリカ:(あー。魔素が薄くて動くのは辛いのかもね。)

総司:(そうみたい。)

マリカ:(総司が寝ている間はソフィに魔法を

  教える約束をしてたけど、寝ちゃってるな。

  総司には、私が新しい術式を理解してからの方が

  効率が良いから、もうちょっと待ってね。)

総司:(うん。よろしくね。それじゃ、お休みなさい。)

マリカ:(お休み。総司。)




「皆様、これより船体の上下が反転した後、減速します。

 速やかに着席してシートベルトを着用して下さい。」


マリカ:(起きたか?)

総司:(うん。おはよう。)


「繰り返します。これより船体の上下が反転した後、減速します。

 速やかに着席してシートベルトを着用して下さい。」


船内アナウンスが流れている。

もう着くの?早過ぎない?


コントロールパネルを見ると、

僕が寝てから40時間くらい経過している。


総司:(40時間も寝てたの?)

マリカ:(起きていても暇だろうから、私がやっといたよ。

  久々に身体を動かしたかったのもあるし。)

総司:(そうなんだ。ありがとう。)


「全員のシートベルトの着用を確認しました。

 減速を始めます。」


座席の背もたれは倒れたままで、寝ているような姿勢だ。


宇宙船が回転を始める。

上に見える月が下がっていき、違う月が逆側に見えてくる。

そして、光る大きな円が見えてきた。


太陽と地球が重なり、奥の太陽の光りが周囲に見えて、

地球が影になり、光る円に見えているのだと思う。


地球が概ね真上になると回転が止まった。

その後すぐに減速が始まり、

椅子に押し付けられるような力を感じる。


「皆様、お疲れ様でした。

 αムーン上空に到着しました。

 これより周回軌道に入ります。」


減速が始まって5時間程度経過した頃にアナウンスが流れた。

再び宇宙船が回転を始め、宇宙船の先端が進行方向に戻り、

背もたれも元の位置に戻った。


コントロールパネルに周回軌道航行時の注意事項や、

月の観測データが表示されている。


高度約10kmを周回しているみたいで地形は目視でも、

ある程度わかる。


月面と言っても、この世界の月は地球の様に水や生命も

存在しているので地球の地表と変わらない。


地形データの読み込みは、周回軌道の回転軸を変えていき、

全ての地形を観測するようにしているみたいだ。


元の世界と同様に月は地球よりもかなり小さいが、

この世界の月は地中の物質の比重が高く、重さは全然違う。

そのため、月面での重力は地球とほぼ変わらないらしい。


同様に地表での魔素濃度も地球と同等で、

地球と同様の魔法効果が得られるみたいだ。


こんな短時間にこれほどの観測データを得られるなんて

すごいシステムだ。


そして、月までも生命が生き易く調整された

としか思えない様な世界だった。


ソフィさんを見ると顔色が良くなっている。

備玄さん達の顔色も戻ったみたいだ。


総司:「宇宙船が地形情報の読み込みを終えるまで、

  しばらくかかります。

  その間に着陸の準備をお願いします。」


着陸の準備と言っても特にすることはない。

心構えくらいのものだろう。


みんなシートベルトを外して席を立って

ストレッチをしたりしている。


ソフィ:「はぁ~。ずっと不快感が続いてきつかった~。

  月への旅なんて楽しいかと思ったけど辛いだけだったよ。」

備玄:「月から降りた時に比べれば何倍もマシでしたよ。

  こんなに早く着きませんでしたし、何かミスをすれば

  みんな死ぬのが分かっていましたから、

  精神的にもずっと追い込まれた状態でしたね…。」


雲子:「総司君のお蔭だね!」

羽雲:「感謝する。」


羽雲さんが胸の前で手を組んでお辞儀をした。

堂々としていてカッコいい。

最近は会話する機会も多いが基本的に理性的な人だ。

備玄さんのことが絡む時だけ理屈が通じなくなるみたいだ。


総司:「僕じゃなくてアイさんのお蔭ですよ。」

飛益:「あのチビッ子はすげーな!」


アイさんをチビッ子って言うな。


総司:「今のうちに食事を済ませておきましょう。」

ソフィ:「早く月に降りて美味しいご飯が食べたいね~。」

雲子:「私はこれでも全然美味しいよ。」

飛益:「飯はともかく酒がないのがな。」

羽雲:「国王様を永くお待たせしてしまっている。

  早く今後のことをご報告しないとな。」

備玄:「そうね。」


久々にみんなで集まって食事をする。

これから降りる月と月兎国について、

ある程度は聞いていたが、

改めて今後の行動と懸念点などを確認した。


「地形情報の読み込みが終了しました。」


読み込んだ地形情報を確認してみる。

基本的に海のような領域が多くを占めている。

その中で多くの島があるが、特に大きな大陸が二つある。

島や大陸は緑の占める割合がとても大きい。


地球で観測した情報からもある程度は分かっていたが、

やはりデフォルメした兎の顔のような形の大陸と、

座った蛙のような形の大陸だ。


たぶん、兎に関係した生き物と、蛙に関係した生き物が

それぞれの大陸に住んでいるのだろう。


総司:「どの辺りに降りたら良いですか?」


僕は兎の顔の形をした大陸を表示しながら備玄さんに確認する。


備玄:「まずはこの辺りに行って下さい。」


僕は備玄さんが指差したところへ移動する様に操作する。

ちょうど兎の顔の両耳の間の頭の部分だ。


宇宙船は進行方向から逆向きに反転して高度を下げていく。

上空からも見て取れたが、木々が高く、森が多い。

ただ、町や集落が森に侵食されている様にも見える。


雲子:「ちょっとおかしくない?」

羽雲:「森が広がっているな。」

総司:「地球に降りる前と変わっているのですか?」

備玄:「変わっていますね。」

総司:「備玄さん達が地球に降りてきたのって、

  一年半~二年くらい前ですよね?」

備玄:「そうです。二年足らずで各地で森が拡大しています。」


みんな心配そうな顔をして、地表を見ている。


僕は前の月を知らないけど、

まだ人が住んでいそうな町や集落が森の一部になっているのは

どう考えてもおかしい。

異常な状況であるのは疑いようがない。


総司:(マリカさんは何か分かる?)

マリカ:(状況に対する推定だけど、

  この月の領域の魔力界の魔素濃度が急激に上がって、

  全ての生命の生命活動が活性化されたんだと思う。

  特に植物は成長が止まらない種類が多い。

  急に使える霊子が増えて、一気に成長したんだと思う。)

ソフィ:(魔素が極薄で辛かった次は、高濃度の魔素の世界か…。)

総司:(宇宙船の観測データでは地表での魔素濃度は

  地球とそれほど変わらないって分析されてたから、

  今は大丈夫なんじゃないかな?

  元々の魔素の濃度が地球よりも薄かったのかもしれないし。)


備玄:「あの城の前の広場に降りて下さい。」


遠くに大きな城が見える。見覚えがある城だ。

その辺りは森の浸食を受けていないみたいた。


総司:「わかりました。」


羽雲:「何が起きているのか分からない。

  気を引き締めていこう。」

飛益:「ああ。」

雲子:「みんな無事だと良いね…。」


飛益さんも真剣な顔をしている。


マリカ:(降りたらまずは怪我人がいないか確認しよう。)

総司:(そうだね。)


マリカさんから聞いた推測の通りなら、

アイさんの転生が原因ということだ。


何が何でも僕達がなんとかしなくちゃいけない。

この状況を不幸な出来事で終わらせてはいけない。

絶対にアイさんに悲しい想いをさせちゃダメだ。


僕は決意を新たに宇宙船が地表に降りるのを待った。

感想やいいねなど頂けると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ