65.三種族の対立⑮三種族会談
三種族の代表会談に備えて、各種族の軍が砦まで進軍している。
アイさんから会談がスムーズに進むように、
事前に挨拶回りをしたいとお願いされて、
会談前に三人で猫人族と犬人族の砦を訪問することにした。
まずは猫人族の砦を訪ねた。
猫人族の軍は出発の準備のために既に砦の前で待機してる。
そのため、正面にいる孟さん達の近くに直接降りた。
総司:「御足労ありがとうございます。
会談の開始時間ですが、会場の準備が出来ましたら、
ソフィの方から合図させて頂きます。
それと、私共の一員として、こちらのアイも
会談に参加させて頂きます。」
アイ:「アイです。よろしくお願いします。」
アイさんは丁寧に腰を折って挨拶する。
孟:「孟だ。それと元と妙だ。
会談にはこの三人で出席する。」
孟さんは名乗った後、元さんと妙さんをアイさんに紹介した。
アイ:「これは心ばかりの品ですが。」
アイさんはそう言うと、魔法で重箱を出し、
わざわざ見せるように一段目に金貨をビッシリ敷き詰め、
二段目にたくさんのイチゴを入れて孟さんに渡した。
孟:「これはなんだ?」
アイ:「イチゴです。美味しいですよ。」
アイさんは重箱のイチゴを一つ取って食べる。
そして取った場所に新しいイチゴを作って入れる。
妙:「甘い良い匂いね。」
妙さんも一つ取って食べる。
妙:「あまっ!超美味しい!」
妙さんが二個目を取って、また食べる。
それを見て元さんも一つ取って食べる。
元:「これは美味しいな!」
孟さんが困った顔をして二人を見ている。
孟:「はぁ~。ありがたく頂くとしよう…。」
孟さんはため息をついて、そのまま重箱を受け取った。
アイ:「兵士の皆様も労いたいと思いますが、
よろしいでしょうか?」
孟:「え?まあ、今の状況でダメとは言えないな…。」
孟さんの曖昧な返事を聞くと、アイさんは兵士達の前へ行き、
みんなから見えるように滞空した。
アイ:「皆様ーーーー!
わざわざ御足労頂きありがとうございまーーーーーす!
今回の一連の騒動について、
兎人族に変わってお詫びしまーーーーす!」
アイさんはよく通る大きな声でそう言うと、
大量の透明なボール作り出してばら撒いた。
「うわ!これ金貨が入ってる!」
「これ本物だぞ!」
アイさんは再び、大量の金貨入りの透明なボールを作り出す。
しかし、まだばら撒かない。
アイ:「これまでのことを水に流して、
仲良くして下さいませんかーーーー!?」
「俺は仲良くしても良いぞーーー!」
アイさんは声がした方へ金貨入りの透明なボールをばら撒く。
「俺も仲良くしても良いぞーーー!」
「俺も!」
「私も!」
「「「「「「「俺も!!!!!!」」」」」」」
アイさんは声がした方へ順次ボールをばら撒いていく。
透明なボールは所謂、毒饅頭というものだろう…。
ほぼ全員に行き渡ったところで、アイさんは地上に降りて
ニコニコしながらこっちに走って来た。
アイさん可愛いなぁ~。やってることはえげつないけど…。
アイ:「兵士の皆様も、もう怒ってないみたいですね。」
孟:「そうみたいだな…。」
アイさんが僕の方を見ながら頷いた。
総司:「それでは、また後程よろしくお願いします。」
僕達はそのまま犬人族達の砦へ向かった。
そして犬人族の人達にも同様に手土産と労いを行った。
伯さんも呆然としていて、特に文句も無かった。
挨拶回りが終わり、三人で会場の準備に取り掛かる。
半円の豪華で大きなテーブルに椅子、
そして中心には2つの大量の金貨の山。
会場の回りには大量の酒樽が積んである。
おつまみ用にピーナッツの樽も用意してある。
酒樽の中身は白酒が主で紹興酒もある。
アイ:「準備が出来たから、合図を送ろうか。
ソフィさん、ドラゴンになって空に向かって
全力でブレスを吐いて。
その後もそのままドラゴンの姿で私達の後ろに居てね。」
ソフィ:「わかったわ。」
マリカ:(贈賄、圧迫、有効な外交手段ではあるね…。)
贈賄、圧迫、あえて悪い言い方をするなら金と暴力だ。
言葉の印象は悪いが、今回の場合、
誰も損していないようにも思える。
各国の兵士の気持ちのケアまで考えている。
いや、僕達の損失で成り立つ構造ではある。
ただ、「力ある者の責務」と考えられなくもない。
アイさんの圧倒的な力で損失にもなっていないが。
それに「力ある者の責務」は行使される方にも問われている。
孟さんや文さん達の尊厳が少なからず侵害されている点を
受け入れて貰う必要がある。
事態を進めること。問題を解決すること。
犠牲者を最小限にすること。
大切なのはこの3つだと思う。
今回に限って言えば、アイさんのやり方は
今の僕とマリカさんなら、やろうと思えば出来た。
でもやらなかった。次に同様なケースがあってもやらないだろう。
アイさんと僕の違いはなんだろう。
いや、薄々は分かっている。「覚悟」の有無だ。
各国の代表がテーブルに集まった。
テーブルの右側に犬人族、正面に猫人族、左側に兎人族に
座って貰った。
みんなチラチラとソフィさんの方を見ている。
ソフィさんが伏せて、僕のすぐ後ろに頭を下げてきたので、
手を伸ばして鼻の頭を撫でたら、
ソフィさんが嬉しそうに鼻を鳴らした。
みんなビクッとなって、落ち着かない感じでソワソワしている。
マリカさんの言葉じゃないけど、
圧迫外交と言われても仕方が無い…。
その間にアイさんが出席者の前にケーキと紅茶を出してくれた。
総司:「お集まりいただきありがとうございます。
今日の代表者会談の発起人として、
僭越ながら、私が進行を務めさせて頂きます。」
孟さん、文さん、備玄さんが頷く。
総司:「議題ですが、
まず第一に兎人族との戦争の終戦に関してです。
そして戦争の発端でもあります、兎人族が抱えている問題、
土地の不足の解決に関してです。
最初に備玄さんからよろしくお願いします。」
備玄さん、羽雲さん、飛益さんの三人が起立する。
備玄:「既に総司さんに届けて頂いた書状でお伝えしておりますが、
三角大陸の地で騒乱をおこしたこと、
申し訳ございませんでした。
建国と国王の宣言は撤回させて頂き、
私はこの三角大陸から出て行きます。
残る兎人族に罪はありません。全て私が悪かったのです。
どうか残る兎人族には寛大な待遇を、
伏してお願い申し上げます。」
発言の後、三人で深く頭を下げた。
孟さん、文さん、そして各々の随伴の二人も目を見合わせている。
孟:「既に終戦の条件は総司に伝えている。
そして、その通りの返答で間違いないようだな。
北戯は終戦を受け入れよう。」
文:「東娯も受け入れよう。」
備玄:「ありがとうございます。」
総司:「ありがとうございます。
次の議題に移らせて頂きます。
兎人族が抱えている問題、土地の不足の解決に関してです。
三角大陸は大きな川で三等分されていますが、
その南西側を更に三等分して、
南西側を兎人族に割譲をお願いします。
対価として目の前に金貨を用意しています。
それぞれの金貨の山を各々の国にお支払いします。
移住が必要な方への補償も考えての金額です。」
孟:「金額は申し分ない。
それで長期的に問題が解決するのであれば、
悪い話ではない。受け入れよう。」
文:「東娯も受け入れよう。」
備玄:「ありがとうございます。」
総司:「ありがとうございます。」
あっさり終わってしまった。
アイさんの方を見ると、アイさんが頷く。
アイ:「会談も速やかに纏まりました。ありがとうございます。
兵団の方々にも御心労を労いたいと思い、
お酒を用意しています。
こちらに来ていただいて構いません。
何か揉め事が起きても私共が責任をもって治めます。
ソフィさんも、もう戻って良いよ。
一緒に頂きましょう。」
アイさんは新しくテーブルと椅子を作った。
僕は参加者にコップを作って渡す。
ソフィさんは人型に姿を変える。
ソフィ:「私も飲んで良いよね?」
アイ:「いいよ。」
ソフィさんが嬉しそうに酒樽を一つ持ってきた。
備玄:「飛益は今日は飲まないでね。」
飛益:「姉上…。」
孟さんと文さんも、
それぞれ妙さんと仲さんに使いをお願いしている。
暫くして兵達が酒樽を取りに来た。
元:「総司、お疲れ様だ。共に飲もう。」
総司:「ありがとうございます。
でも、僕はお酒が飲めないんです。」
ソフィ:「代わりに私が飲むよ。」
妙:「総司さんにも苦手なことがあるんだね~。」
元さんと妙さんが僕の正面に来て、ソフィさんが僕の隣に座る。
孟さんと文さんはアイさんのところに行っている。
伯さんと仲さんは二人で楽しそうに飲んでいる。
備玄さん、羽雲さん、飛益さんも三人で飲んでいる。
飛益さんも結局お酒を飲んでいるみたいだ。
各国の兵団同士での交流は無かったみたいだけど、
何回かトラブルは発生し
その都度ソフィさんが行ってくれた。
夕刻前にはお酒が無くなり、解散になった。
今日は各々の砦で一泊して明日撤退することになった。
孟さん、文さん、アイさんで今後の話をしたみたいで、
今回の様なことが起きた時のために、
三国間でモニターと大使館の設置を行うことに
なった。
話をすれば解決する様な問題ばかりではない。
相手の文化や考え方、直近の状況を理解することは
とても重要だ。
それによって未然に防げる問題もあるだろう。
そのための大使館ということらしい。
モニターも大使館も各国の兵団が首都に撤退した後、
落ち着いてからになるので、
アイさんが都合が良い時に対応してくれることになった。
三種族の対立の解決については概ね目処が付いた。
次は備玄さん達との約束通り、月への渡航だ。




