64.三種族の対立⑭月兎国の国王
備玄さん達の屋敷の上空に到着し、僕達は着陸の準備をする。
宇宙船の画像認識の結果、屋敷の庭は十分な広さがあって
着陸が可能なことが分かった。
僕が先に降りて宇宙船の着陸を伝えに行く。
雲子さんが箒を持って庭の掃除をしていた。
庭に降りると、雲子さんは僕に気が付いて声をかけてきた。
雲子:「総司君いらっしゃい!
亮孔~~~!総司君が来たよ~~~!」
雲子さんは僕に挨拶をした後、大きな声で屋敷の方へ呼びかけた。
僕が小さい頃に、友達の家に遊びに行った時に
友達を呼ぶお母さんを思い出す…。
総司:「お邪魔します。突然で申し訳ありませんが、
この庭に宇宙船を降ろしても良いですか?」
雲子:「どうぞ。宇宙船の事は亮孔から話を聞いてるよ。
もう出来たんだね。」
許可を貰えたので、上空を見上げて両手を挙げて合図する。
直に宇宙船が下降してきて庭に着陸した。
宇宙船の底部にあるノズルから出る爆風で土埃が舞った。
雲子:「あぁ…、せっかく掃除したのに…。」
雲子さんが恨めしそうに僕を見てきたので目を逸らす。
亮孔さんと超孟さんが走って来た。
亮孔:「総司さんいらっしゃい。これが宇宙船ですか!」
超孟:「すごい音がしたけど、何かあったのか?」
兎人族の人達がゾロゾロと集まって来る。
亮孔さんが超孟さんに何か話をすると、
超孟さんは屋敷の中に戻って行った。
宇宙船の下からアイさんとソフィさんも出てきた。
アイさんは髪型をツインテールに変えている。
亮孔:「超孟にみんなを呼びに行って貰ったので、
もうしばらくお待ちください。」
総司:「分かりました。」
雲子:「いらっしゃい。飴は好き?」
雲子さんが飴をポケットから出してアイさんに話しかけている。
アイ:「甘い物は好きだよ。ありがとう。」
ソフィ:「私にも頂戴!」
雲子:「飴はもうないから、お菓子をあげるよ。」
アイ:「甘くて美味しいけど、
歯にくっついて食べにくいね…。」
ソフィ:「私の貰ったお菓子は食べると、
口の中がパサパサになる…。」
ソフィさんが指を咥える。たぶん指先から水を出すのだろう…。
雲子:「亮孔と総司君も食べる?」
亮孔:「いらない。」
総司:「僕もいいです…。」
雲子さんがお菓子を一つ食べる。
雲子:「この口の中に貼り付く感じがなんとも言えないのに。」
雲子さんはちょっと変わった趣向のようだ。
何か貰う時には気をつけよう…。
備玄:「お待たせしました。」
飛益:「おいおい。何で子供がいるんだ?
ここは子供が来るところじゃねーぞ?」
アイさんはニコニコしながら飛益さんを見ている。
飛益:「いだだだだだだだだだだだだだだだ!!!!」
飛益さんが叫びながら硬直している。
お願いだからアイさんの機嫌を損ねないでほしい…。
総司:(マリカさん、あの魔法はどうやってるのか分かる?)
マリカ:(ん?今のは私がやったんだよ。)
総司:(あ、そうなんだ…。)
新しい指輪の術式にあったのかな?
便利そうだから後で教えて貰おう。
総司:「紹介します。僕の師匠のアイさんです。
この宇宙船もアイさんが作ってくれました。」
アイ:「アイよ。よろしくね!」
備玄さん達が揃ったので、アイさんを紹介する。
亮孔:「アイ…さん、ですか。」
続いて亮孔さんが備玄さん達を一人ずつ紹介する。
備玄:「素晴らしい宇宙船をありがとうございます。」
アイさんはニコニコ頷く。
飛益さんは辺りをキョロキョロと見まわしている。
亮孔:「総司さんの師匠ということは、
総司さんより優れた魔法使いなんですか?」
総司:「この宇宙船を見れば分かると思いますが、
僕なんて足元にも及ばないくらい、すごい魔法使いです。」
亮孔:「たしかにすごい宇宙船ですね。
総司さんから宇宙船を用意すると
聞いてはいましたが、正直なところ半信半疑でした。
私は国王様から教えを受けましたが、宇宙船を造るには
魔法使いの力量とは別に専門的な知識が必要です。
早速中を見せていただいて良いですか?」
総司:「その前に、亮孔さん達の宇宙船について教えて下さい。」
亮孔:「分かりました。
外形はこの宇宙船を一回り小さくして、
より細身にした形です。」
亮孔さんは指で形を示してくれる。弾丸の様な形みたいだ。
総司:「七人乗るには結構狭そうですね…。」
亮孔:「かなり狭いです。
私が中心に屈んで座り、中央推進装置に魔力を通します。
備玄様と雲子が私の横に並んで座り、
冷却と船内環境の維持をします。
そして、その周囲に四人が屈んで座り、
補助推進装置に魔力を通します。
床に備え付けてあるベルトで身体を固定するので、
航行中は基本的にその場から移動しません。」
総司:「食事はどうするんです?」
亮孔:「交代で休憩し、各自で携帯した食料で済ませます。」
トイレはどうしたのかな…。聞かない方が良さそうだね…。
アイ:「ブラックね…。」
亮孔:「アクシデントで地球に降りることになりましたが、
予定通りに地球へ向けて出発した時でも状況は
それほど変わりません。
想定外に困難だったのは、地球の大気圏に入ってからです。
船内の温度を維持するのに全員で冷却する必要があったため、
船体を回転させて減速させる余裕がなく、
海に突っ込む選択をせざるを得ませんでした。」
雲子:「冷却が間に合わなくて焼け死ぬ寸前だったし、
最後は着水の衝撃で宇宙船が壊れて、
全員瀕死の重傷を負ったわね。」
亮孔:「魔道具と同じ人数の魔法使いがいれば、
可能だと思っていましたが甘かったです。」
マリカ:(これまでの行動で分かってはいたけど、
無謀な人達だな。)
総司:(よく生きてたよね…。)
アイさんが宇宙船を作ってくれなかったら、
僕もその一員になっていたかもしれない。
そう思うと今更ながらゾッとする。
アイ:「この宇宙船なら全然心配ないからね。
それじゃ、私が中を案内するね。ついて来て。」
アイさんに続いてみんなで宇宙船に入る。
みんな中の広さに驚いている。
まずはアイさんが全員分の宇宙船の認証と説明をしてくれた。
備玄:「すごいシステムですね。
まるで宇宙船自体が優れた魔法使いのようです。」
亮孔:「そうですね。
それとその表現は的を得ていると思います。
この宇宙船は魂の器が使われていますね?」
アイ:「よく知ってるね。誰に聞いたの?」
亮孔:「国王様から教えて頂きました。
そして備玄様が国王様から託された指輪にも使われていると。」
亮孔さんが備玄さんが身に付けている指輪を見る。
アイ:「見せていただいてよろしいでしょうか?」
備玄:「どうぞ。」
備玄さんがアイさんに指輪を渡す。
アイさんは指輪を受け取ると目を閉じた。
アイ:「ありがとうございました。」
暫くして指輪を返した。
備玄:「こちらこそ、素晴らしい宇宙船をありがとうございます。」
アイ:「もう一つお願いがあります。
月の兎人族の国王様のことを教えていただけませんか?」
備玄さんが亮孔さんの方を向くと亮孔さんが頷く。
亮孔:「国王様は月を目指す魔法使い達のお一人だったそうです。
その方々は凡そ700年前に月への移動に成功し、
その後は頻繁に月と地球を行き交ったそうです。
国王様は人間族でしたが、王妃様と出会い、
ご結婚されて私達の住む月に残られました。
国王様と王妃様はとても仲が良かったそうです。
王妃様が亡くなられた後も国王様は私共の暮らす月に残り、
そのお力をもって、私共兎人族のために
多くのことをして下さいました。
そして死期を悟られた国王様は、王妃様の一族の備玄様を
養女として第一王女に迎えられたのです。
私も魔法の才能を見込まれて、国王様から多くのことを
教えて頂きました。
月の王宮にはお若い頃の国王様と王妃様の像があります。」
雲子:「そういえば、アイちゃんって王妃様と似てない?」
超孟:「あ、実は俺もそう思ってた。」
忠漢:「備玄様は王妃様の一族だ。
髪も備玄様と同じで白い髪であったろうから、
本当に似ていただろうな。」
アイ:「教えてくれてありがとう。」
亮孔:「国王様は転生者で、転生の際に女神様から教えを受けた
とおっしゃっていました。
王妃様は女神様とよく似ていたそうです。」
なるほど。なるほど。マリカさんも言っていたけど、
国王様ってやっぱり転生者だったんだね。
なんかもういろいろと繋がっちゃうな~。
アイさんの顔を見ると、僕と目が合う。
少し慌てた顔に変わった。
アイ:「聞きたいことも聞けたし、そろそろ宇宙船から出ようか!」
その後、みんなで備玄さんの屋敷に移動して、
明日の三種族の代表会談に向けて話合う。
亮孔:「明日ですが、忠漢、雲子、超孟、私の4人は
密偵に入っていた手前、会談の場に行くことは出来ません。
備玄様、羽雲、飛益の3人に行って貰います。
それと砦までは兵として50人ほど一緒に行ってもらいます。」
備玄:「私達はもう少ししたら出発します。
砦に着くのは明日の昼前ですね。」
アイ:「移動するみんなの晩ご飯と明日の朝ご飯は
私が行って作ってあげるよ。
こっちのご飯が終わってからだけど。」
備玄:「ありがとうございます。」
羽雲:「姉上、皆に伝えに行ってきます。」
羽雲さんと飛益さんが部屋から出て行く。
総司:「僕とソフィさんは中立の立場ですし、
明日の昼前に直接現地に行きます。」
備玄:「分かりました。」
その後も引き続き明日の会談に向けての話し合いをした。
備玄さん達が出発した後、この大陸に住んでいる
兎人族の人達のために、広い人参畑を作った。
ソフィさんがドラゴンになって草原を焼き払い、
アイさんと僕と兎人族のみんなで人参の種をまいた。
兎人族のみんなと夕ご飯を食べた後、
アイさんと僕で移動中の備玄さん達の夕ご飯を作りに行った。
その後は、アイさん、ソフィさん、僕の3人で
備玄さんの屋敷に泊まった。
明日はいよいよ三種族の代表会談だ。
三角大陸の争いも明日でなんとか決着させたいな。




