63.三種族の対立⑬宇宙船
僕達は家を出てヒューズの町の方へ向かう。
人魚の町は思っていたより人が多かったので、
ヤルザの町とヒューズの町の間の未開地に
宇宙船を置いてきたそうだ。
アイ:「アレが宇宙船だよ。」
総司:「僕が想像していた形と全然違うね…。」
ソフィ:「不思議な形だね。」
マリカ:(かっこよくはないな…。)
ロケットやスペースシャトルのような形を想像していたが、
縁がちょっと広がったお椀を逆にしたような形だ。
いわゆるちょっとモッサリしたお椀型UFOのような形である。
ただ、表面は全て鏡のように光を反射していてキラキラしている。
直径は10m、高さは5mくらいかな。
底部に噴射口のノズルがたくさん有り、
中心が大きなノズルになっている。
ノズルが地面に当たらない様に周囲に脚立がある。
アイ:「無駄なく、出来るだけ小さな船体。
推進部の面積を出来るだけ広くする。
十分な視界の確保。
搭乗員や貨物室のスペースの確保。
エコノミー症候群対策。
そういった諸々を考えるとこういう形になるのよね…。」
機能重視だった。アイさんらしいと言えばアイさんらしい。
アイ:「それじゃ、船内と操作方法を説明するね。
と言っても、基本的に自動で目的地に着くよ。
操作が必要なのは離着陸と緊急時くらいだね。
外見はイマイチかもしれないけど、
中は綺麗に作ってあるから期待していいからね!」
アイさんが宇宙船に近づくと底部のノズルの付いていない位置から
タラップが降りて来た。
アイ:「認証された人が近づくと
入り口が開いてタラップが降りてくるよ。」
アイさんはそのまま宇宙船に乗り込んだので、
僕とソフィさんも後を追う。
ノズルを含まない底部は、ちょうどアイさんの身長くらいなので、
僕とソフィさんは屈んでタラップのところまで行く必要がある。
中はアイさんが言うように綺麗で面白い構造だった。
中心部に円柱があり、その周囲に座席が配置されている。
椅子取りゲームのように外向きに並んでいる。
それと驚きなのは外からは中が見えなかったのに、
床と中心の円柱以外は視界が開けていて、外が見える。
アイ:「説明するね。中心の円柱の中がトイレと簡単なシャワー、
それと貨物室になってるよ。
その周辺を搭乗員の座席が14席並んでる。
一か所だけ横に長めの座席があるけど、
そこが操縦席と副操縦席になっているよ。
そこにだけ付いているモニターが宇宙船のコンソールね。
とりあえず、搭乗員の認証だけしちゃおう。
認証者がモニターに手を当てた状態で、
認証したい人が手を当てると認証されるよ。
総司君には星間航行の起動権限も付与するね。」
僕とソフィさんが交代でモニターに手を当てる。
マリカ:(総司、私がいいと言うまで触れててくれ。)
マリカさんの言う様にモニターに手を当て続ける。
アイ:「はい。認証は無事に終了したよ。
操作方法だけど、基本的にこのモニターに映っているマップで
行きたいところを指でタッチする感じだよ。
左下に「移動」「着陸」のタグがあるから、それぞれで
タグをタッチしながら行きたい場所をタッチしてね。
マップの拡大と縮小は指を二本使って広げたり、
狭めたりすればその場所から拡大、縮小されるよ。」
総司:「確かに簡単だね。ありがとう。」
ソフィ:「これなら私でも出来そうだね!」
すごいとしか言いようがない。
アイ:「あと、細かな内容だけど、
この宇宙船が画像認識出来ていない場所は
地形データがないから、近くに行ってからでないと
詳細な場所は選べないの。
だから、行ったことがない場所は、
まずは行きたい場所を選んで、画像認識出来てから、
詳細な場所を選ぶ感じかな。
まず使うことは無いと思うけど、緊急時には
左上の「航行モード切替」をタッチすると自分で操作できるよ。
操作方法も簡単で、真っすぐ進むときはモニターの真ん中を
タッチする。上下左右に指を動かすとその方向に曲がるよ。
速度は押す指の力でコントロール出来るからね。
指をモニターから離すと減速していって
高度を保ちながら止まるよ。
手動航行を解除したいときは、
もう一回「航行モード切替」をタッチしてね。
一通りはこれで十分だと思うけど、
もっといろいろやってみたいときは右上の「詳細」を
タッチすると、いろいろ変えられるよ。
危険な変更内容の場合には警告が出るようになってる。
初期化をタッチすれば、今の状態に戻るから、
心配せずにいろいろやってみてね。
一応、右下のマニュアルってところをタッチすると
今の説明も含めて操作方法が書いてあるから、
忘れたり、困ったことが有ったら、ここを見るといいよ。」
総司:「全部覚えられたと思うけど、
忘れたとしてもマニュアルがあるなら安心だね。」
ソフィ:「私もたぶん大丈夫。」
マリカ:(もうモニターから手を離してもいいよ。)
総司:(うん。魔道具に記載されていた術式を読んでたの?)
マリカ:(表面的な構成だけだけどね。)
アイ:「それじゃ、最後に星間航行の説明ね。
「航行モード切替」のタグを長押しすると、
モニターに月が映し出される。
この世界の月は四つある。
指で画面を横に大きくスライドさせると、
月が切り替わるよ。
行きたい月をタッチすると確認のポップアップが出るから、
「OK」を押せば、その月に移動を開始する。
着いたら、その月の外周を周回して画像認識が始まるよ。
降りたいところの画像認識が出来たら、着地点をタッチしてね。
ところで、行きたい月がどの月かは分かってるんだよね?」
総司:「そういえば、月は四つあるんだよね…。
確認してないから分からない。
分かっていると信じたいね…。」
アイ:「まあ、この月だとは思うけどね。」
アイさんは画面をスライドさせて一つの月を選ぶ。
そして、その月をタッチしなが指を動かすと、
それに伴って月が回転する。そしてアイさんが画面から指を離す。
よく見るとモニターに映っている大陸は
兎の形をしているように見える。
夜に見える月には雲がかかり、月の大陸の形は分かり難い。
と言っても、雲で月が見えにくいのではなく、
月にある雲で月の大陸の形が分かり難いという状態だ。
昼も月は見えるが、夜の方が鮮明にみえる。
モニターに映る大陸はシンプルに描写されているとはいえ、
雲は無く、綺麗にそのものの大陸の形を表している。
総司:「ちょっと僕にも使わせてもらっていい?」
アイ:「いいよ。」
僕はその月を指でスライドさせる。
元の世界のスマートフォンのような使い心地で直に馴染める。
兎の形をした大陸の他にもいくつか大陸があるが、
ちょうど兎の大陸の真逆の位置に蛙の形をした大陸があった。
総司:「この大陸には蛙にまつわる何かが住んでいるのかな?」
アイ:「そうかもしれないね。分かり易いよね!」
総司:「そうだね。分かり易いね。」
アイさんは笑顔で僕の方を見ている。
そう。分かり易い。違う言い方をすれば、覚え易く、間違い難い。
竜の形をした竜の島に住む竜族と恐竜族。
北の大陸も今思えば、綺麗な楕円形をしている。
東側に切り立った山々が偏西風に乗った雲から雨や雪を降らす。
川は水が大地へ満遍なく行き渡る様に流れていた。
大地は緩やかな斜面が続き、水が淀むことなく流れる。
平地部は人族が住むのに、とても適した平地。
大森林は森に住む種族、生命が生きるのに適している。
三角大陸はその名の通り三角形で、それを三等分するように
綺麗に流れる川。
大陸間の距離も絶妙に思える。
お互いが交流を望まない限りは長期に交わることは難しい。
お互いが交流を望めば、それほど難しく無い距離。
そして、どちらかに不都合があれば分断することも難しくない。
全てがあまりにも作為的だ。
この世界の魔法も含めて、知性を持つ生命にとって、
分かり易く、とても住み易い。トラブルの際にも解決し易い。
総じて幸福に生き易い世界だ。
知性を持つ生命のために設計された世界。
この世界はとても優しい存在によって創られた。そう思える。
三角大陸に住む猫人族、犬人族の人達が言う様に
この世界を創ったのが本当に女神様なら、それは
ソフィ:「私にも触らせて~。」
僕は少し横にズレてソフィさんにモニターの正面を譲る。
アイ:「考え込んでどうしたの?」
アイさんが僕の顔を見ている。少し心配そうな顔になった。
総司:「ううん。なんでもないよ。」
僕は笑顔でアイさんに答える。
アイ:「そう。良かった。」
ソフィ:「見て。ほらここ。
この月のこの大陸って羽の生えた人みたいに見えない?」
アイ:「見えるね。」
ソフィ:「面白いね!」
アイ:「面白いよね!」
アイさんもソフィさんも嬉しそうだ。
僕は隣の座席に座った。リクライニングシートになっていて、
背もたれも倒れ、レッグレストも上がる。
寝る時も座席で快適に寝れそうだ。
総司:「長時間でも快適に過ごせそうだね。」
僕は寝ながら言う。
アイ:「ヘッドレストにマイクとスピーカーが内臓されてるから、
アームレストにあるマイクのマークのボタンを押すと
全員に聞こえるように話が出来るよ。
煩い人への対策でスピーカーのボタンを押せば、
スピーカーをオフ出来るし、
周囲の音へのノイズキャンセル機能もあるからね。」
総司:「それ便利だね。ありがとう。」
飛益さん対策として活用出来そうだ。
アイ:「エコノミー症候群対策で外周を歩いて回れる
様になってるから、たまに座席から立って、
周りを歩いて回るようにしてね。」
総司:「うん。わかった。」
分かっていたことではあるが、
この宇宙船は今のこの世界の文明レベルとはかけ離れている。
僕の元いた世界も文明レベルはこの世界よりも高いと思うけど、
この世界は基本的にエネルギーや動力に魔法が使われることが多い。
魔法が便利過ぎて結果的に元の世界の知識があまり役に立たない。
アイさんも転生者と言っていたが、その知識は、
僕がいた元の世界よりも高い文明レベルから来ていると思う。
そして、この世界の魔法とも見事に融合させている。
そもそも知っていれば作れるというものでもない。
僕も飛行機、自動車、スマートフォンなど、
この世界にあれば便利な物をたくさん知っているが、
そのうちどれ一つとっても作れるわけではない。
アイさんは魔法使いとしての神懸った実力だけでなく、
その知識においても神懸っている。
そしてこの世界の有り様に沿う慈愛に満ちた存在でもある。
どうしても一つの結論に向かってしまうな…。
でも、確信までは出来ない。
そもそも神様が本当にいるのかという点と、
神様が人と共に生きているという点も
中々に理解し難い話ではある。
マリカさんはたぶん何か知っている。
そしてそれを僕に隠そうとしている。たぶんアイさんもだ。
僕…というより、周りの人達全員にかな。
知られれば、共に普通に暮らすのは難しくなる。
たぶんそういうことなんだろな…。
とりあえず納得できる答えは得た気がする。
アイ:「そろそろソフィさんも慣れたかな。」
ソフィ:「もう大丈夫だよ!」
アイ:「それじゃ、そろそろ三角大陸へ行こうか。」
総司:「え!?アイさんも来てくれるの?」
アイ:「もちろん!さすがに今は月までは行けないけど、
総司君達が月に行くまでは一緒にいるからね。」
総司:「ありがとう!」
ソフィ:「ところで、月まで行くのに何日くらいかかるの?」
アイ:「自動航行で三日くらいかな。
急げばもうちょっと早く着くよ。」
総司:「そうなの!?一か月くらいかかるのかと思ってた…。」
アイ:「移動自体は時間がかからなくても、
行って何があるか分からないから…。
直には帰れないかもしれないし…。
本当に気をつけてね。
そうだ。念には念を入れておこう。
ソフィさん、指輪を外して私に貸して。」
ソフィ:「ん?わかったわ。」
ソフィさんは指に付けている2つの指輪をアイさんに渡す。
アイ:「ちょっと待っててね。」
アイさんは貨物室に入って行く。
ちょっと待つとアイさんが出てきた。
アイ:「はい。手を出して。」
アイさんはソフィさんの指に指輪を着ける。
ソフィ:「総司君のと似てるね。」
ソフィさんは指輪を不思議そうに見ている。
アイ:「形だけはね。総司君の付けている指輪クラスは
さすがに使いこなせないと思うから、
あそこまでじゃないけど、総司君のに準じる指輪だよ。
もともと使っていた指輪も組み込んであるから、
術式もそのまま残ってるからね。
月に行っている間はマリカさんに教えて貰って、
その指輪に見合う様に魔法の勉強をしてね。」
マリカ:(総司が寝た後に魔法の勉強だな。)
ソフィ:「これ着けてるだけで強くなった気がする。ありがとう!」
アイ:「次は総司君も指輪と刀を貸して。」
また、アイさんは貨物室に入って行く。
しばらく待つとアイさんが出てきた。
アイ:「はい。手を出して。」
僕が手を出すとアイさんが僕の手を取って指輪を着けてくれる。
その後に刀を手に持たせてくれた。
刀は見た目が豪華でカッコよくなった。
和風から洋風に変わった感じだ。
ソフィ:「刀が随分とカッコ良くなったね。
それと指輪の形は私のとピッタリ一緒だ。
アイさん、ありがとう!」
マリカ:(随分と奮発してくれたね…。大丈夫なの?)
アイ:(大丈夫だよ。もう大体目処がたったからね。)
着けただけで分かる。
常時発動している魔力が倍以上ある。
魔力界の魔素の対流無しで使える魔素の量と
発動している魔力の辻褄が合っていない気がする。
術式に関してもマリカさんに教えて貰って
かなり読めるようになったが、
まったく読めない術式がたくさん記述されている。
今の僕に読めない術式は、秘術と呼ばれる術式ということだ。
総司:「すごい指輪と刀だね。いつもありがとう。」
アイ:「本当に気をつけてね。
それと新しい術式の解説も記述してあるから、
マリカさんも頑張って勉強してね。」
マリカ:(ありがとう。もちろん頑張るよ。)
3人で昼ご飯を食べた後に、宇宙船に乗って三角大陸に向かう。
僕が操縦してみた。と言っても、移動のタグを押しながら、
備玄さん達の屋敷の近辺をタッチしただけだけど。




