60.三種族の対立⑩兎人族の秘密②
亮孔さんに別の部屋に案内される。
亮孔:「どうぞお掛けになって下さい。」
総司:「ありがとうございます。」
亮孔:「総司さんはすごい魔法使いですね。
国王様以上の魔法使いなんている訳ないと思っていましたが、
総司さんは国王様より上かもしれません。」
話をしながらも、亮孔さんはソワソワしている。
僕は察してグラスとお酒を作り、グラスにお酒を注いで
亮孔さんに渡した。
総司:「どうぞ。好みの味がありましたら、
次はそれに合わせて作るので言って下さい。」
亮孔:「ありがとうございます。
これもとっても美味しいですよ。」
総司:「そのまま飲みながらでいいですからね。
話だけでも、そろそろ本題に戻りますか。
次の質問です。
月から地球に落ちた理由を教えて下さい。」
亮孔:「分かりました。
きっかけは国王様の最後のお言葉です。
死の間際になって、地球にいた頃に作った女神様の像を
最後にもう一度見たかったと、おっしゃっていました。
私達は国王様の最後の願いを叶えるために、
御遺骨の一部を女神様の像の近くに埋めることにしました。
女神様の像の場所については聞いていました。
私達が生まれる遥か昔に、
地球と月を何度が行き来していたそうです。
その時に地球に行きたいと言っていた兎人族を
連れて行き、希望者はそのまま地球に残してきたそうです。
そこは過去に女神様の像を作った大陸とおっしゃっていました。
その大陸は三角形で中央に高い山があるそうです。
正に今いる三角大陸のことです。
私達は昔使われていた宇宙船を修復し、地球に降りるべく、
試運転を重ねていました。
そして今から一年半前くらいでしょうか、
試運転の最中に宇宙船が急に加速して、
月の重力圏から飛び出してしまったのです。
その後、地球の重力圏に入り、地球へ落下しました。
地球に降りるという目的は
ある意味では達成出来ましたが、試運転であっため、
国王様の御遺骨は宇宙船に乗せていませんでした。
一度月へ戻り、再び地球へ降りる必要があるのです。」
一通りの説明が終わって喉が渇いたのだろうか、
亮孔さんはお酒をグイッと飲んでホッとした顔をしている。
総司:「宇宙船が急に加速した理由に、
思い当たることはありますか?」
亮孔:「直接的な原因は魔力界で周囲の魔素濃度が急に
上がったためだと思います。
月は地球に比べて魔素濃度が低いため、
地球で発生した何かしらの魔素の対流現象で、
月周辺の魔素濃度が変わることがあるそうです。
特にその数日前に地球で大きな光る珠を
見たという話もありました。
その辺りが関係しているかもしれません。」
僕が亮孔さんのグラスにお酒を注ぐと、
嬉しそうにして、また飲み始めた。
少し顔が赤くなってきている。
総司:(どう思う?)
マリカ:(亮孔さんはお酒は好きだけど、
強くはないみたいだね。)
総司:(そうじゃなくて…。話の内容についてだよ。)
マリカ:(関係あるだろうね…。)
総司:(僕は見てないんだけど、大きな光る珠って
マリカさんは見た?)
マリカ:(アイさんが転生した時だと思う。)
総司:(アイさんがこの世界に現れた瞬間とか、
この世界にとっても大きなインパクトだよね…。
むしろそれが原因としか思えないね…。)
マリカ:(あくまで時期的に可能性が高いってだけだ。
これが原因と決めるにはまだ早い。
この事は、流石に話せないけど、
協力はしてあげないとね…。)
総司:(そうだね…。)
亮孔さんが僕の方を心配そうな目で見ている。
僕が納得したかどうか気になっているのだろう。
僕はまた亮孔さんのグラスにお酒を注ぐ。
お酒が無くなったので、ボトルの中にまた新しいお酒を作る。
マリカ:(国王様の名前を聞いて貰っていい?)
総司:「国王様のお名前を聞いてもいいですか?」
亮孔:「国王様の名前は分かりません。
ずっと長く王位にありましたので、みんな王様と。
月兎国に戻ったらご存知の方がいるか、
聞くことは出来ます。」
総司:「わかりました。」
マリカ:(ありがとう。)
総司:「真摯にお答え下さり、ありがとうございました。
次は私からのお願いです。
先日の会談でもお願いした通り、建国の撤回です。
北戯と東娯の国王それぞれに、建国の撤回とお詫びを記載した
正式な書状を用意して下さい。
お詫びの中には備玄さんの三角大陸からの退去も含みます。
備玄さんだけは月へ行ったら、
三角大陸にはもう戻れない事の了承を貰っておいて下さい。
それと書状は私が届けます。
皆様の中で使者になれる方は居ませんから。」
亮孔:「お気遣いありがとうございます。
忠漢、雲子、超孟、それと私は密偵に入っていた手前、
使者は出来ません。
羽雲、飛益は性格上不適当でしょう。
私達の後始末を押し付ける事になってしまい申し訳ないです。
念のため正式な返事は、備玄に確認した後にさせて下さい。」
亮孔さんがチラチラとボトルの方を見てくるので、
僕はまたグラスにお酒を注いだ。
もうかなり酔っている感じだ。
仕草や口調こそしっかりしているが、
目がとろんとして、耳が垂れてきた。
総司:「わかりました。
では最後に2つ目のお願いになります。
月に行く宇宙船ですが、こちらでも用意しますので、
どちらか良い方にさせて下さい。」
亮孔:「それはもちろん構いませんが、総司さんは月に
行ったことがあるのですか?」
総司:「ありませんが、仲間に詳しい者がおりまして、
その者が用意してくれる事になっています。」
亮孔:「わかりました。出来るのはいつ頃になりそうですか?」
総司:「順調であれば、明後日にはお見せ出来ると思います。」
亮孔:「は…早いですね…。ヒック…。」
僕はまた亮孔さんのグラスにお酒を注ぐ。
マリカ:(そろそろ止めといた方がよくないか?)
総司:(なんだか可愛くてつい…。)
マリカ:(気持ちは分かるけどね…。)
総司:「ありがとうございました。
そろそろみんなの居る場所に戻りましようか。」
僕が立ち上がると亮孔さんも合わせて立ち上がるが、
急に座り込んだ。
マリカ:(急に立ち上がって一気に酔いが回ったみたいだね…。)
総司:「大丈夫ですか?」
亮孔:「美味しいお酒で飲み過ぎてしまったみたいです…。」
仕方ないな…。僕は亮孔さんの前で逆向きに屈んだ。
総司:「背中におぶさって下さい。」
亮孔:「ありがとうございます…。」
亮孔さんが背中におぶさってくる。
亮孔:「アレ?なんだか変ですね…。いやいやそんなはずは…。」
総司:「どうかしましたか?」
亮孔:「いえ…。ちょっと総司さんの身体が男性みたいだなと…。
失礼ですよね…。ごめんなさい。」
総司:「間違ってませんよ。私は男です。」
亮孔:「え!?はわわわわわ…。
私はこのままお持ち帰りされちゃうんですね。」
総司:「ここは亮孔さん達の屋敷ですよね?
わざわざ持って帰りませんよ。」
亮孔:「総司さんはイートイン派なんですね。
お外じゃなくて良かったですぅ…。」
マリカ:(寝ちゃったな…。)
総司:(仕方ないなぁ…。)
僕は亮孔さんをおぶったままみんなの所へ戻る。
ソフィ:「お!総司君おかえり~!」
ソフィさんはすっかり仲良くなっているみたいだ。
雲子:「美味しいお酒をありがとう~!
ちょうどお酒が無くなっちゃいそうだったんだ~!」
足りなくならない様に結構な量を作っておいたはずだが、
雲子さんが言う様に、作っておいたお酒はほとんどなくなっている。
備玄:「亮孔はどうしたの?」
総司:「お酒を飲みながらお話しをしていたのですが、
飲み過ぎて寝てしまいました。」
僕は亮孔さんを備玄さんの近くの床に下ろして寝かせる。
備玄:「仕方が無いわね。」
備玄さんは優しく亮孔さんの髪を撫でている。
総司:「備玄さんはあまり飲んでいなかったのですか?」
羽雲:「姉上は酒にも強いのだ。
亮孔は昔から頭は良いが酒には弱いな。」
飛益:「ソフィも強いな!
姉上と飲み比べしてまだ平気にしているのは大したもんだ!
それと酒が無くなった。早く作ってくれ。」
仕方ないので、空いたボトルにお酒を作っていく。
ソフィ:「竜族なんだから、お酒に強いに決まってる。」
超孟:「竜族という種族は初めて見るな。
月兎国にも竜の像はあるが、あくまで幻獣という存在で
実在していたという話は聞いたことが無い。
人型とはかけ離れたものだ。
同じ竜にまつわるものなのか?」
総司:「どういう姿なんです?」
超孟:「蛇の様に細長い動体に手足が生えていてる。
頭には角があって、口が大きいな。」
総司:(ソフィさんは西洋の竜、ドラゴンの姿だけど、
超孟さんが言っているのは東洋の竜だね。)
ソフィ:(西洋と東洋?何の事かよく分からないけど、
見るのが一番だし、変身して見せてあげる?)
総司:(特に隠すつもりはないけど、まだやめておこう。
ヤルザみたいに兎人族の森の人達が
大混乱になっちゃうかもしれないし。)
ソフィ:(は~い。)
総司:「角があるのは一緒ですね。」
雲子:「亮孔なら知っているかもね。寝ちゃってるけど。」
羽雲:「亮孔はそれこそ子供の頃には飛兎竜文と言われ、
王様に可愛がられていた。
王様から地球の事も聞いていたかもな。」
羽雲さんは懐かしそうに虚空を見つめている。
総司:(飛兎竜文ってどういう意味?)
マリカ:(才能のある優れた子供のことだ。)
総司:(そうなんだ。亮孔さんは子供の頃から優秀だったんだね。)
お酒を全てのボトルの中に作り終わる。
改めて周りを見てみたが、おつまみが無い。
僕がお酒を作ったので、おつまみくらいは相手が用意するかと
思っていたけど、用意してくれていないみたいだ。
総司:(ソフィさん、おつまみとかは出てこなかったの?)
ソフィ:(あの後すぐに総司君が作ってくれたお酒を
美味しい美味しいってみんなで飲み始めて、
そのままずっと飲みっぱなしだね。)
総司:(仕方ないね。何か作るか…。何がいいかな?)
マリカ:(やっぱり人参だろ。)
総司:(人参は馬だと思うけどなぁ…。)
僕は人参を細長く切り、コップに入れて野菜スティックにした。
マヨネーズとトマトケチャップを小さな器に入れて添える。
飛益:「美味そうだな!」
飛益さんは豪快にコップを持って一口で口に入れる。
総司:「せっかく綺麗に切ってるんですから、
一本づつ食べて下さいね…。」
雲子:「ん~。お洒落な料理ですね。それにとっても美味しい!」
忠漢:「王様も食べ物を魔法で出していたが、
同じ魔法を使える人が他にも居たとは驚きだ。」
超孟:「俺が子供の頃には、もう王様は魔法があまり
使えなくなっていたから、食べさせて貰ったことは無いな。
王様が魔法で作る料理なんて、
さぞかし美味しかったのだろな。」
一瞬場が静かになる。
僕は調理器具も出して、人参のソテー、
人参のかき揚げなどを作っていく。
みんな美味しそうに食べている。
ソフィ:「人参以外もたべたいな~。」
総司:「了解だよ。」
僕はチーズやナッツ、お魚料理などを作っていく。
雲子:「ソフィは総司さんの従者なのよね?」
ソフィ:「そ…そうよ?」
備玄:「主従にもいろいろな形があるのね。」
亮孔:「あれ?ここは?」
備玄さんの声で亮孔さんが起きたみたいだ。
備玄:「会談で飲み過ぎて寝てしまったみたいよ?」
復活するのが早いな…。もしかしたら備玄さんが、
魔法でアルコールの分解を促進していたのかもしれない。
亮孔:「これは失礼しました。
ですが、話し合うべき内容は全て終わっています。」
亮孔さんが僕の方を見てきたので、僕も頷く。
亮孔さんが会談の内容をここに居るみんなに説明する。
備玄:「わかりました。総司さん、色々とありがとうございます。
ですが、猫人族と犬人族との会談には私もついて行きます。
亮孔がいれば、月へ行くのは問題ありません。
幸いソフィさんも魔法使いですし、
私に何かあっても魔法使いの人数は足りますので。」
羽雲:「姉上、お供します。」
飛益:「俺も行く。」
雲子:「私もついて行きます。
備玄様の身の回りの世話をするのが私の務めです。」
三人が備玄さんの前で膝をつく。
総司:「猫人族と犬人族との会談は私に任せて下さい。
正直に言いますと、付いてこられても邪魔です。
仮に揉めた場合、私は備玄さんを守るために、
猫人族と犬人族と戦う事になるかもしれません。
猫人族と犬人族と争うのは私にとって本意ではありません。
私が皆様に協力するのは、
この大陸に住む人達が出来るだけ平和に暮らすために、
一番良い方法だと思っているからです。
私は皆様の味方では無いという事を忘れないで下さい。」
備玄:「そうハッキリと言われてしまうと言い返せませんね…。
わかりました。総司さんにお任せします。」
マリカ:(総司はまだ若いな…。その通りだとは思うが、
口に出して言う必要はないぞ?)
総司:(筋を通したい備玄さんの気持ちは分かるよ。
だからこそ、こういう言い方の方が、
備玄さんも納得しやすいと思って。)
忠漢:「若いが優しい御仁だ。感謝する。」
亮孔:「総司さん、ありがとうございます。」
わかってくれる人はわかってくれる。
その後も宴会は続き、ソフィさん程ではないが、
僕も兎人族のみんなと仲良くなれた。
いつもの様にみんな僕のことを女性と勘違いしていたみたいだ…。
結局その日はソフィさんと一緒に備玄さんの屋敷に泊まった。




