59.三種族の対立⑨兎人族の秘密①
フランさんをヤルザの家に送り届けて、
僕とソフィさんは三角大陸に向かう。
時間にそれほど余裕が無いので、
僕がソフィさんを抱えて飛んで行く。
総司:「ソフィさん、今日会う兎人族の人達は、
ちょっと配慮が無かったり、
空気を読まないところがあるけど、怒らずに我慢してね。」
マリカ:(そうだな…。ソフィにはちょっと
我慢出来ないところもありそうだね…。)
ソフィ:「昨日、話を聞いただけでもイラッときたからね。
でも、我慢するわ。」
マリカ:(冷静に脅すくらいなら、むしろよろしくね。
総司はそういうことをしたがらない。
交渉事でそれは長所でも何でもない。総司の悪いところだ。
その辺はソフィに上手に対応して欲しい。)
ソフィ:「わかった。総司君のために喜んで悪役を引き受けるよ。」
総司:「無理に脅しなんて、しなくていいんだからね?
誠意をもって話をすれば分かってもらえるよ。」
マリカ:(そうだったか?)
総司:「………。」
ソフィ:「大陸が見えてきたね。」
総司:「今日も直接屋敷へ行くね。」
前回と同様に直接屋敷の入口に降りると、
今日は門番の代わりに、先日の会談で
睡眠薬入りのお茶を持ってきた給仕さんが待っていた。
給仕さんの案内で屋敷の中に入る。
今日は最初の会談で通された広い部屋だった。
部屋に入ると備玄さんを含めて6人の兎人族の人達がいる。
給仕さんも案内の後、兎人族の人達が並んでいる、
右側手前に並んだので、合計で7人になる。
備玄:「約束通り来て下さり、ありがとうございます。」
総司:「約束は守ります。」
備玄:「今日はお連れの方がいらっしゃるのですね。」
総司:「私の仲間のソフィアです。」
ソフィ:「総司の従者をしています。竜族のソフィアです。
ソフィと呼んで下さって結構です。」
「竜族…。」
備玄:「ソフィさんは竜族という種族なんですね。
角のある珍しい種族ですね。」
マリカ:(竜族を知らないのか…。
確かに月には居ないだろうし、地球でも見ることは
滅多にないだろうから、知らないのかもね。
でも、左列の奥の人だけは知っていたみたいだね。)
マリカさんの言う通り、ソフィさんが竜族と言った時、
左奥の人だけが驚いていた。
ただ、その後、嬉しそうな顔をしていたのが気になるけど…。
備玄さんと左奥の人が目を合わせて頷きあっている。
「こちらの出席者を紹介します。
中心が備玄、兎月にある月兎国の第一王女であり、
我らの盟主です。
そして総司さん達から見て右側の奥から、
羽雲、飛益、雲子
左側は総司さんから見て手前から、
超孟、忠漢、そして私、亮孔
となります。
羽雲、飛益、雲子、忠漢、超孟の5人が武官位、
そして私は文官位となります。
ここに居る7人全員が一年半前に兎月から地球に
落ちてきた者です。」
忠漢さんが一番年上に見える。
髪と髭にちょっと白髪が混じっている。
亮孔さんはメガネをかけた可愛い感じの女性だ。
総司:「備玄さんが国王ではないのですか?」
亮孔:「王家は2年前に途絶えましたので、
現在の月兎国の国王は不在です。
途絶えたと言っても国王様は大魔法使いで
長命な方であり、月兎国の初代国王でもあります。
国王様にお子様はいらっしゃいませんでした。
亡くなる前に備玄を養子として王家へ
迎え入れ、第一王女となったのです。」
総司:「今のお話しですと、
備玄さんが現国王ということになりませんか?」
備玄:「私が王家を継ぐなど恐れ多いことです。」
他の兎人族の6人は難しい顔をしている。
亮孔:「備玄様、普通は総司さんも言っているように
備玄様が正式に国を継ぐ立場になるのですよ?」
備玄:「亮孔、くどいわよ。」
亮孔:「という状況なんです。」
総司:「よく分かりました。」
総司:(なんだか思っていたのと全然違うね。)
マリカ:(だな。芝居をしているようにも見えないし。)
亮孔:「それでは、本題の方に入らせて頂こうと思いますが、
昼食を用意してあります。
皆で頂きながらお話しをしましょう。」
料理が運ばれてくる。
小籠包、餃子、焼売、春巻、胡麻団子、月餅…。
マリカ:(飲茶か。この辺は手薄だったね。良い所をつかれた。
これが食べられるだけでも来て良かったと思っちゃうよ。)
総司:(美味しそうだね。毒が入ってないといいね…。)
マリカ:(さすがにもうないだろ。)
ソフィ:(う~ん。良い匂い。
見たことない料理ばっかりだけど美味しそうだよ。)
飛益:「酒がないぞ。酒を持ってこい!」
備玄:「飛益、お願いだから今日はお酒はやめて。」
亮孔:「総司さん、今日は安心して食べて大丈夫ですよ。」
備玄:「遠慮なく召し上がって下さい。」
亮孔さんと備玄さんが笑顔で言う。
なんとも白々しい笑顔だ…。
総司:「それでは頂きます。」
ソフィさんが僕の方を見ている。
ソフィ:(私もお酒が飲みたいな~。)
総司:(今日は我慢してね…。)
マリカ:(ん~。美味しいな!)
亮孔:「既に備玄から話があったと思いますが、
私達の望みは月へ帰ることです。」
言い終わると亮孔さんは雲子さんの方に目で合図している。
雲子さんが箱を持ってこちらに来る。
箱の中を見るとブレスレットが5つ入っている。
亮孔:「宇宙空間を航行可能にする魔道具の一部です。
4つは補助推進装置の魔道具、1つは宇宙船内の酸素濃度を
保つための魔道具です。」
総司:「一部ということは他にもあるのですか?」
亮孔:「あと2つ、中央推進装置、船体維持の魔道具が
必要ですが、これは地球に落ちた時に、
宇宙船と共に失われました。
2つとも宇宙船自体に取り付けられた魔道具でしたので、
宇宙船と共に海の底です。
宇宙船を作ることは可能ですが、
この魔道具の機能のうち、一方を担うに足りる魔法使いが
一人、どうしても必要なのです。
そしてそれが総司さんにお願いしたい内容になります。」
亮孔さんと備玄さん以外は食事に夢中みたいだ。
案の定、ソフィさんも食事に夢中で聞いてない。
確かにすごく美味しいけどね…。
総司:(なんだが随分と簡単だけど、それで地球と月を
行ったり来たり出来るの?)
マリカ:(ちゃんと考えたわけじゃないけど、
冷却の魔法はみんな使えるだろうから、
それだけあれば出来そうな気がするね。
魔法はそもそも何も無い所から物質とエネルギーを
作り出せる。長距離移動で燃料等の重量を無視出来る
メリットは特に大きいな。)
総司:「見せて頂いていいですか?」
亮孔:「総司さんは魔道具の術式が読めるのですか?」
総司:「はい。」
亮孔:「どうぞ。手に取って見て下さって結構です。」
僕は2種類の色違いのブレスレットを手に取ってみる。
マリカ:(一つは酸素濃度を測定する術式と酸素を生み出す
術式が組み込まれているね。
もう一つは水素と酸素を生み出して燃焼させる術式、
そして手前を冷却する術式が一連で記述されてる。
コップ型の推進部に向けて魔力を通せば簡単に
推力が得られる様になってるね。
この補助推進装置が中央推進部の四方の推進部に
使われて、5つの推進装置で飛ぶんだろね。
連動関係の術式が無いから、結構練習しないと
上手く飛べない気がするな。
それと、術式が私とデルさんに似ている。
魔道具を作れる事からも、国王は転生者だな。)
総司:(やっぱりそうだよね。)
総司:「ありがとうございました。
宇宙船について概要は把握出来ました。
私がお手伝い出来る内容だと思います。
ですが、実際に手を貸すかどうかは、
これから私が知りたい内容の2つに答えが得られる事。
そして私からお願いする内容の2つを聞き入れてくれる事。
これが条件になります。」
亮孔:「わかりました。
それでは総司さんが知りたい内容について、
質問をお願いします。」
総司:「まずは最近の三角大陸の犬人族、猫人族、兎人族の
三種族の対立の真相です。
私はこれまでの情報で、これが真実であろう推測を得ています。
包み隠さず、正直にお答えください。」
亮孔さんが備玄さんの方を向く。
備玄さんは無言で頷いた。
亮孔:「わかりました。
始まりは私達が三角大陸の南西の海に落ちたところからです。
三角大陸の兎人族の祖先は月から降りてきた兎人族です。
私達と同族になります。
地球に落ちている時に、何とかこの地の近くに落下する様に、
コントロールしました。
由有るこの地で月へ帰るための情報収集と
準備を進めようと思ったのです。
まずは信頼を得るために、この地の兎人族に協力して、
いくつかの課題を解決していきました。
そしてその間に集めた情報の中で重要な事柄と
それによって進めるべき方向性を得ました。
月に帰るために必要な魔法使いが猫人族と犬人族に居る事。
そのお互いの種族が争っている事。
魔法使い達は戦闘には参加していない事。そしてその理由。
どちらの種族の魔法使いも王とその周辺の人です。
協力を得るには最低でもどちらかの国と同盟を結ぶか、
支配する必要があります。
雲子と私は北戯、忠漢と超孟は東娯へそれぞれ密偵として
入りました。
そして両方の国に相手の魔法使いが参戦するという情報を流し、
時期を合わせて、両方の国の魔法使いに偵察に行く様に
働きかけました。
そうして、お互いがお互いの魔法使いが参戦したという事と、
参戦した事を確認したという事が既成事実となります。
また、その事で私達自身も功労者として信頼を得ました。
その後は戦闘を激化させる様に上手く働きかけ、
西部を手薄にして兎人族の勢力を拡大させていったのです。
ここまでは上手くいっていました。
誤算だったのは、その後、猫人族と犬人族が協力して
西部の兎人族を押し返しに来た事です。」
総司:「北戯の国王が私達のために用意してくれた紹介状を
すり替えたのも亮孔さんですか?」
亮孔:「そうです。」
マリカ:(ここまでは総司の推測通りだったのか?)
総司:(うん。予想通りだった。
今日、最初に亮孔さんが話すのを聞いて確信した。
頭の良い人なら考えそうな事だよね。)
マリカ:(そうか…。)
総司:「建国の宣言は備玄さんの国王になる事への
抵抗感を薄れさせるためですか?」
亮孔:「そうです。新しい国であれば、
抵抗感も低いであろうと思い、私から進言しました。」
総司:「分かりました。」
周りを見ると、僕と亮孔さん以外はお昼ご飯を食べ終わっている。
備玄さんはまだちゃんと聞いているが、
他のみんなは退屈そうにしている。ソフィさんも含めて…。
総司:「席を2つに分けませんか?
会談は私と亮孔さんで十分みたいですし、
他の皆さんは、お酒でも飲みながら、
親睦を深めて頂ければと思います。
ソフィもお酒が大好きなので。」
飛益:「お!いけ好かないお嬢ちゃんだと思ってたけど、
なかなか分かるヤツじゃねーか。」
備玄さんと亮孔さんが小声で話をしている。
ソフィ:(総司君、いいの?)
総司:(ソフィさんもお酒が飲みたいって言ってたからね。
無難にいけば、ここに居る人達と月まで旅することに
なるんだから、なるべく仲良くなっておいて欲しいな。)
ソフィ:(わかったわ!
総司君も早くお酒が飲める様になるといいね!)
亮孔:「お気遣いありがとうございます。
それでは総司さん、付いて来てください。」
総司:「亮孔さんもお昼ご飯が残っていますので、
食べていてください。その間に私もお酒を用意しますので。」
総司:(マリカさんも手伝って。)
マリカ:(オッケー。)
僕とマリカさんでお酒を用意していく。
飛益さんがこっちに来て、お酒を1本手に取ってラッパ飲みした。
飛益:「本当に酒だ!しかも美味いじゃねーか!」
亮孔:「ホントに!?」
亮孔さんもコップを持ってこっちに来た。
亮孔:「ホントですね…。こんな魔法が存在するんですね…。」
他のみんなもコップを持ってこっちに来た。
羽雲:「美味であるな!」
雲子:「美味しいですね!」
みんながワイワイやっている間に、
それなりの量のお酒が用意できた。
総司:「亮孔さん、それでは案内をお願いします。」
亮孔:「え!?あ、はい…。」
総司:「亮孔さんも飲みたいなら、案内された先で
別に用意しますよ。」
亮孔:「いえ…そんな…ありがとうございます。」
総司:(ソフィさん、後はよろしくね。)
ソフィ:(任せといて。)
飛益:「お嬢ちゃんも今度一緒に飲もうな!」
僕は笑顔で手を振って応えた。




