57.三種族の対立⑦兎人族との会談
総司:(それじゃ、行こうか。)
僕は料理の後片付けをしながら言う。
マリカ:(そうだね。直接4日前に会談した屋敷に行くか、
まずは森の外から入って行くかだけど、どうする?)
総司:(もう直接屋敷に行っちゃおうと思う。
見え難い高高度から一気に屋敷の入口まで降りて、
門番の人に取り次いでもらおうかな。)
マリカ:(律儀なのか律儀じゃないのか微妙な訪問だね…。)
総司:(猫人族の時はちゃんと町の入口から入って
上手くいったけど、
犬人族の時は無駄な戦闘が増えただけだったからね。)
マリカ:(行き当たりばったりなのは、どっちも一緒だね。)
僕は泰山の頂上から高度を落とさずに兎人族の森へ向かう。
総司:(上空に着いたら、とりあえず屋敷の周辺を見て、
なるべく人目に付かないタイミングを狙って降りようかな。)
マリカ:(それなら、着いたら簡単な望遠鏡でも作るか。)
総司:(いいね。)
兎人族の森の上空に着いたところで
マリカさんが望遠鏡を作ってくれる。
総司:(屋敷の入口には門番が二人いるね。
死角になる道で人目に付かないタイミングで一気に降りるね。)
マリカ:(わかった。気をつけてね。)
総司:(うん。あそこで歩いている人が
曲がったタイミングで行くよ。)
一気に急降下して着地する。
周囲を警戒するが、特に変化は無い。
僕はそのまま素早く屋敷の入口へ向かい門番に話しかける。
総司:「こんにちは。
北の大陸から来た総司と言います。
備玄さんと面会したいので、取次をお願いできますか?」
「北の大陸の総司?
備玄様の面会の予定にはないな。
確認してくるからちょっと待っていてくれ。」
総司:「はい。」
門番の人は僕のことを知らなかったらしい。
もう一人の門番の人は特に話しかけてこない。
しばらく待つが中々連絡が来ない。
「ずいぶん時間がかかっているみたいだな。」
総司:「いつもはもっと早いのですか?」
「こんなに時間がかかることは無かったな。」
マリカ:(面会は出来そうだが、
いろいろと準備をしているといった感じだろうね。)
総司:(そうだね。)
もうしばらく待つと、確認に行ってくれた門番と
合わせて4人ほどがこちらに向かってくる。
門番:「遅くなって済まない。備玄様はお会いになるそうだ。」
「ささ。こちらへ。」
門番の人と一緒に来た3人のうち一人が中に入るように促してくる。
総司:「ありがとうございます。」
僕が門に入ると先ほどの案内の人が先導するように歩いていく。
その後について行くと、残りの二人が僕の後ろからついてくる。
案内の人が扉を開けて部屋に入る。
前回とは違う場所みたいだ。
それほど大きくない部屋で、中央に大きなテーブルがある。
「こちらの椅子にお掛けになってお待ちください。」
総司:「ありがとうございます。」
僕は言われるままに椅子に座って待つ。
案内の人が、入ってきた扉から出ていく音が聞こえる。
直にまた扉が開く音が聞こえる。
右を見ると備玄さんが奥に向かって歩いている。
それを見て椅子から立ち上がろうかとも思ったが、
変に立ち上がると警戒される可能性があるので座ったままにした。
僕は備玄さんがテーブルの反対側の椅子の位置に着くと同時に
立ち上がる。
総司:「面会の時間を頂き、ありがとうございます。」
備玄:「先日は失礼しました。どうぞお掛けになって下さい。」
僕は促されるままに椅子に座る。
備玄さんも椅子に座った。
マリカ:(このテーブル変だね。
無駄に長いし、入り口の扉に微妙に近い。
テーブルの下に誰かが入っていても
見えない様に死角になっている。
気にし過ぎかもしれないけど、
警戒はしておいた方がいいな。)
総司:(僕も部屋に入った瞬間、違和感があったよ。
何かあるかもね。)
総司:「先日、備玄様と面会した後に北戯の孟様、
東娯の文様とも面会してきました。」
備玄:「そのようですね。」
総司:「ご存知だったのですか?」
備玄:「ええ。会話の内容も知っていますよ?
総司さんは私に国王の座を降りろと言いに来たのですよね。」
総司:(どういうこと?)
マリカ:(北戯と東娯の両方に密偵が入ってるんだろうね。)
総司:「そうです。」
後ろの扉が開く音がして、一瞬ビクッとして振り返る。
グレーの髪の綺麗な女性が入って来る。
「お茶です。」
総司:「ありがとうございます。」
給仕の人だった。
そのまま備玄さんの方にもお茶を出して部屋から出て行った。
備玄:「喉が渇いたでしょう。どうぞ召し上がって下さい。」
総司:「お返事は頂けませんか?」
備玄:「時間はあります。そう慌てることもないでしょう。」
僕はお茶を一口だけ口に含み、残りを魔法で消して、
飲んだふりをする。
総司:(どう?)
マリカ:(即効性の高い睡眠薬が入ってるね。)
僕は口の中のお茶も魔法で消す。
備玄:「お味はどうですか?」
後ろの扉が開く。
僕は失礼とは思いつつ振り返る。
手にお菓子の乗ったトレイを持って給仕の人が入って来た。
給仕の人は僕のカップを見て備玄さんの方に頷いた。
バンッと音がする。
備玄さんの方から音がした。
たぶん備玄さんがテーブルを足で蹴った音だ。
その瞬間に足に痛みを感じる。
見ると足が両断されている。
僕は急いで滞空し、両足を復元する。
給仕の人が掴みかかってきたので、蹴り飛ばす。
左右の壁が開き、羽雲さんと飛益さんが飛びかかって来る。
どちらも武器は持っていない。
僕は抜き打ちで掴みかかって来る飛益さんの右手を斬り落とし、
そのまま飛益さんを蹴り、反動で羽雲さんに体当たりする。
羽雲さんが掴みかかって来たので、羽雲さんの右手を左手で掴み、
そのまま右手を爆裂の魔法で吹き飛ばす。
刀を持ったままの右手で羽雲さんを突き飛ばす。
備玄さんから氷の槍が飛んできたので、防御壁を展開する。
そしてテーブルの下にいた人が上半身だけ出た状態で、
氷の矢を僕の方に放とうしていたので、
斬撃波で氷の矢を粉砕する。
斬撃波はそのまま相手の右手を斬り落とした。
麻痺毒を塗布した細い氷の槍を備玄さん以外に放ち、動きを封じる。
全員、既に止血の魔法で血は止まっているようだ。
備玄さんは逃げずに立っている。
総司:「もう一度聞きます。お返事は頂けませんか?」
備玄:「どうしても強力な魔法使いの助けが必要なのです。
総司さんの協力が必要なんです。」
マリカ:(なかなか厚かましい人だね…。
ただ、総司を殺す気が無かったのは確かだね。)
総司:(普通にお願いするって考えは無いのかな…。
こんなやり方で捕まえて、
僕が協力すると思っているところが理解出来ないよ…。)
マリカ:(捕まえた後に説得か篭絡させる術があるのかもね。)
総司:「備玄さん達の望みとは何ですか?」
備玄:「国王の座を降りることを条件に
総司さんも私達に協力すると約束してください。」
総司:「内容によります。備玄さん達の望みは何ですか?」
備玄:「月に帰ることです。」
総司:「月って…。空に浮いている、あの月ですか?」
備玄:「そうです。」
総司:(月に住んでいる人達がいるってこと?)
マリカ:(私もそれは知らない。
でも、この世界の月は見た目が地球っぽいから、
大気や水もあると思う。いてもおかしくはないな。)
総司:「月に帰るということは、
備玄さん達は元々は月に住んでいたという事ですか?」
備玄:「はい。私と、あと6人は一年半前に
月から地球に落ちてきたのです。」
総司:(とんでもない話になってきたね…。)
マリカ:(一年半前ってのが、ちょっと気になるな。
ちょうど私達がこの世界に転生した時期と重なる。)
総司:(僕達にも関係する可能性が有るってこと?)
マリカ:(まだそれはわからない。)
総司:「詳しい話を聞いてもいいですか?」
備玄:「構いませんが、
まず先に総司さんが私共に協力する
意思があるのか確認させて下さい。
私共に出来得る限りのお礼をすると誓います。」
総司:(どうする?)
マリカ:(詳しい話は聞きたいな。
どの程度のことをさせられるのか分からないけど、
協力してもいいんじゃないか?
備玄さんが国王の座を降りてくれれば、
今回の問題は一番良い形で決着する。
何より楽しそうだしね!)
総司:(マリカさん…。)
総司:「わかりました。
全てを了承出来るとは言いませんが、
協力出来ることは協力しましょう。」
備玄:「ありがとうございます!」
備玄さんは深々と頭を下げた。
総司:(最初からちゃんとお願いすればいいのに…。)
マリカ:(月に行きたいから手伝えと言うのは
現実感が無さ過ぎるし、流石に厳しいと思ったんだろうね…。)
総司:「皆さん、聞いてましたよね?
もう私に攻撃してこないでくださいね?」
僕は一人一人解毒していく。
羽雲:「姉上、ご無事で良かったです。」
給仕:「備玄様、良かったですね!」
備玄さんは優しく頷く。
備玄:「雲子と超孟は亮孔と忠漢を呼んで来て。」
給仕をしていた人は「くもこ」さんと言うらしい。
読み方を間違えちゃダメだ。
テーブルの下に隠れていた人は超孟さんという方みたいだ。
備玄:「詳しい事は皆が揃ってからお話ししたいと思います。
亮孔と忠漢はそれぞれ、北戯と東娯に
密偵として潜伏しています。
戻ってくるのは明日の朝になると思いますので、
それまではここでゆっくりと御寛ぎください。」
総司:「明日の昼頃にまた来ますので、
一旦、北の大陸に戻ります。」
飛益:「逃げる気じゃないだろな?」
総司:「逃げようと思えば
何時でも逃げられたって分かりますよね?」
飛益さんはめんどくさい…。
備玄:「それでは、また明日の昼頃に再びお会いしましょう。
総司さん、信じていますよ?」
備玄さんから信じています、と言われてもね…。
これまでの仕打ちを考えると裏切りたくなってくるのは
僕の心が狭いせいじゃないよね?
総司:「約束は守ります。それでは。」
僕は部屋を出て、そのままヤルザの町へ飛び立つ。
マリカ:(月に行くのに強い魔法使いが必要ということは、
月に行くまでの推進力に強い魔力が必要って事だと思う。
月から地球ならまだしも、地球から月は相当難しいと思う。
総司も一緒に月に連れて行かれる可能性が高いな。)
総司:(本当に月になんて行けるのかな?
行けるなら、行ってみたいなんて思っちゃうけど…。)
マリカ:(実は私も行ってみたいと思ってる。
ただ、リスクは相当高い。
これは流石にアイさんに相談しよう。)
総司:(そうだね。)
マリカ:(それと、流石に月となると行って帰ってくるのに
かなりの日数がかかると思う。
今後の引き継ぎも兼ねて、フランさんも連れて行こう。)
総司:(了解だよ。)
僕はヤルザの家に寄って、フランさんをつれてイルスの家へ向かう。
フランさんは家を出る前に、周りの人に指示を出していた。
いつの間にかアクアさんと見紛うばかりの立ち振る舞いだ。
僕達はイルスの家に着き、モニターでアイさんに呼びかける。
マリカ:(ソフィとデルさんにも声をかけて。)
総司:(わかった。)
モニターに出た人魚さんは軽く雑談した後、
アイさんを呼びに行ってくれた。
NRTの方も同様に、
ソフィさんとデルさんを呼びに行ってくれている。
アイ:「総司君、フランさん、お待たせ!久しぶりだね!」
アクア:「総司様、フランさん、お久しぶりです。アイ様は」
モニターの向こうでアイさんがアクアさんに飛びかかり、
口を塞いでいる。
アイさんの姿を見ただけで、多幸感が溢れてくる。
僕の緊張が一気に解けていくのが分かる。
総司:「二人共元気そうで良かったよ。他のみんなは?」
アイ:「あー。今ちょっと忙しいみたいだから、
声をかけるのは止めておいたよ。」
アクアさんは、もう見てすぐにわかるくらいにお腹が大きい。
他のみんなもいろいろと頑張っているみたいだ。
総司:「ソフィさんとデルさんにも声をかけてるんだけど、
時間がかかりそうだから、簡単に状況を説明しておくね。」
僕はヤルザと三角大陸で経験した話を簡単に説明する。
フラン:「言ってよ!
そんなことになってたなんて知らなかったよ…。
まあ、私に出来ることなんてたかが知れてるけど…。」
アクア:「総司様も相変わらずですね。
今は何も出来ませんが、
落ち着いたら全力で協力させて頂きます。」
アイ:「それで、総司君は月に行きたいの?
さすがにちょっと心配だよ。」
マリカ:(事の発端が一年半前っていうのが気になるんだよね。)
アイ:(私達がこの世界に来た時と同じ時期ってことね。)
総司:「正直に言うと、行ってみたい。
アイさんも来てくれる?」
アイ:「心配だから行きたいのはやまやまだけど、
期間が読めないからね…。
ここでこれから生まれてくる子達は
教育を間違えると、この世界の厄災になりかねないから、
しばらく私はここに居たいのよね。
三つ子の魂百までじゃないけど、
幼児期は私が面倒を見たいと思ってるの。
何より総司君の子供だしね!
それと、ずっと後回しにしていたけど、
他にもここでやらなきゃいけない事があるし。」
総司:「そっか…。」
僕の子供か…。
申し訳ないけど、僕がその実感を持つのは難しい…。
可愛いだろうけどね。
アイ:「う~ん…。
さすがに今の総司君にどうこう出来る存在は
いないだろうけど、
宇宙の移動となると危険はあるからね。
仕方ないか。
私が宇宙船を作ってあげるから、
それを使って移動して。」
マリカ:(それなら安心だね!アイさんありがとう!)
ソフィ:「お待たせ!どうしたの?」
モニターが2画面に切り替わる。
デル:「久しぶり!待たせちゃってごめんね!」
ソフィ:「アイさんもいるんだね。何か大変な事が起きたの?」
総司:「ちょっと事情があって、
月に行くことになりそうなんだよね。」
ソフィ:「月って、空に浮いてる月のこと?」
総司:「そう。その月だよ。」
ソフィ:「総司君は一緒にいないと
いつも大冒険を始めちゃうよね。」
僕じゃない。とは言えないか…。最近は…。
マリカ:(ソフィも一緒に来てくれないか?
総司だけだと、いつも相手になめられて、
まともな会話が出来るようになるまでが面倒なんだよね。)
ソフィ:(総司君はそれでいいの?
私はもともと総司君からデルさんと
一緒に訓練して欲しいと言われているから
ここにいるんだけど。)
デル:(私も一緒にいきたないな!)
マリカ:(デルさんは武術大会に出るでしょ。
それに北の大陸に残っている人が今でさえ少ない。
デルさんには残ってほしい。
人魚の島が落ち着いたら、自由に出来るから。)
アイ:(そう。今はデルさんにはフランさんと一緒に
北の大陸の方をお願いしたいな。)
デル:(アイさんとマリカさんの頼みじゃ仕方ないね。了解よ。)
総司:(ソフィさん、一緒に来て貰っていい?
実際に僕だけじゃ上手くいかないことが多かったんだ。)
ソフィ:「私は総君の従者だよ?私も一緒に行く!」
デル:「ソフィさん、今までありがとう。
一緒に訓練が出来て、すごく強くなれたよ。」
ソフィ:「こちらこそだよ。」
アイ:「ソフィさん、総司君をよろしくね。」
総司:「ありがとう。」
アイ:「総司君、ソフィさん、私、マジック商会の4人のうち、
3人が長期に不在になる。
下部組織はいくつも作ったけど、全ての取り纏めである、
マジック商会が空洞化しちゃうのは流石にマズい。
これを機会に人事を一新します。
今日から、マジック商会の代表はフランさんにやってもらう。
デルさんに新たにマジック商会に加わってもらって、
デルさん、ソフィさん、総司君、私の4人を相談役にします。
相談役の代表はデルさんお願い。」
デル:「わかったわ。」
フラン:「ちょちょちょちょちょ…。ちょっと待って!」
総司:「僕の都合でごめんね…。
でも、フランさんなら僕も安心して月まで行ってこれるよ。」
フラン:「殺し文句来た…。わかったわよ…。
これを言われるために、今日は連れて来られてたんだね…。」
ソフィ:「私みたいに名前だけって訳にはいかないだろうけど、
気楽に頑張ってね!」
アイ:「私には普通に連絡できるし、
困ったらなんとでもなるから。気楽にね。
お礼にすっごいプレゼントをあげちゃうよ!」
デル:「アイさんのすっごいプレゼントって…。」
アクア:「神器級の何かでしょうね…。」
フラン:「いやいやいや、お礼を言いたのは私だし。」
アイ:「ちょっとお肌が綺麗になる指輪だよ。」
フラン:「それ欲しいかも…。
ありがたくもらっちゃおうかな。」
フランさんが何を貰えるのか、大体わかっちゃった…。
僕が付けてる指輪と同じようなものだろうな。
自動発動で魔素を扱える指輪…。
記載する術式によっては本人の実力に関係なく高度な魔法が使える。
それは魔法適正が無くても強い魔法使いになれる指輪に他ならない。
フランさん…。それは正に神器と言っていい指輪だからね…。




