53.三種族の対立③紹介状の罠
昨日の夜は結局ヤルザの町へ帰ってから寝た。
孟さん達は泊まっていってほしいと言っていたが、
フランさんやジルさん達が心配するかもしれないし、
大して時間もかからないので、帰れるときは帰ることにした。
ヤルザの家でみんなと朝ご飯を食べて、
今日も三角大陸へ行くことにする。
今日は犬人族の人達に会いに行く予定だ。
総司:(孟さんから紹介状も貰ってるし、
犬人族の国王に直接会いに行っちゃう?)
マリカ:(それだと一昨日の兎人族との会談の様に
ならないかな…。)
総司:(そうならないための紹介状だと思ってるけど。)
マリカ:(何が書いてあるんだろうね?)
総司:(僕の素性のことが書いてあるんじゃないかな。
封蝋がしてあるから、読めないけど。)
マリカ:(封蝋を解いて読んでみないか?
一晩寝て思い返してみると、
昨日の会談は上手く行き過ぎな気がするんだよね。
紹介状が無くても自力で会談を申し込めばいいだけだし。)
総司:(こういうのって指定された受取人以外は
解いちゃいけないんじゃないの?)
マリカ:(封蝋と言うくらいだかね。でも用心はした方がいい。
封蝋の周りの紙を切って後で切った場所を魔法で復元しよう。
そうすれば封蝋を解かずに中身が読める。)
総司:(そんなこと出来るの?)
マリカ:(念のためちょっと練習してからにするか。)
僕は魔法で紙を出して、その紙を切る。
そして切り口を魔法で正確に復元する。
見た目は違和感がないくらいに復元出来ている。
総司:(これなら大丈夫そうだね。)
マリカ:(それじゃ、紹介状に何が書いてあるか読んでみよう。)
総司:(なんだか悪いことをしているみたいで気が引けるけど…。)
僕は封蝋に傷がつかない様に封蝋を避けて手紙を切る。
そして手紙を開いて書かれていることを読んだ。
「愚かな犬共。
先日の戦闘で私の顔は覚えているだろう。
私は兎人族と共闘している。
吠えるだけの犬とは、戦うまでも無く勝負は見えている。
愚かな抵抗はせずにこの大陸から出ていくがよい。」
総司:(なにこれ…。)
マリカ:(紹介状じゃなくて
兎人族から犬人族への宣戦布告みたいだな…。
まったくの出鱈目だけど、
総司が兎人族の国王を助けたのを見ているから、
そのまま信じられてもおかしくはないな…。)
総司:(昨日の会談の内容は嘘だったってこと?)
マリカ:(どこまで嘘かは分からないけど、
少なくともこの手紙に関しては嘘になるな。
手紙の差出人がそもそも変えられてる。
総司と犬人族が敵対するのはほぼ確実だな。
そしてこのまま兎人族と犬人族が争えば儲けもの。
上手くいかなくても、
総司との話はそのまま真実にして、
手紙を犬人族にすり替えられたなど、
言い訳は出来そうな気がする。
そもそもこのまま犬人族に会いに行った場合、
猫人族が介在する要素がまったくない。
犬人族にも全部が兎人族の陰謀だと言えば、
完全に否定することも出来ないだろう。
筆跡も別人だろうし、封蝋の紋章も偽物だろうからな。
そもそも三勢力が争い合っている状況だ。
何かあってもこれ以上悪化する要素もないしね。
上手くいけば儲けものくらいの策略なんだろうね。)
総司:(完全に騙された…。昨日喜んでたのが恥かしいね…。)
マリカ:(相手を騙し、自分達に有利な状況を作ることも
戦術と言えば戦術だしね。)
総司:(兎人族と違って話が通じると思ったのに…。)
マリカ:(争いを止めるっていうのは思っている以上に難しいね。
そもそも兎人族も猫人族も争いを止める気が無いからね。
まだ会ってはいないけど、犬人族も同類じゃないかな。
手紙を見ずに犬人族に会っていたら、
逆に争いを加速する可能性すらあったな…。)
総司:(どうしようかな…。)
マリカ:(足掛かりが出来たと思ったら振り出しに戻ったね。
迂闊に動かない方が良さそうだね。
もう一度いろいろと整理しようか。
選択できる選択肢をまずは挙げてみようか。
・犬人族の国王に会いに行く。
現実的に取り得る選択。
目的をどうするか事前に整理した方がいい。
・兎人族の国王に再び会いに行く。
現状は決裂状態。戦闘になる恐れあり。
・猫人族の国王に再び会いに行く。
偽の紹介状を持たされた状態。
嘘を追及することに利点はあるか?
敵対する可能性有り。
・三角大陸に対しては何もしない。
これも有りえる選択肢。そもそもの発端は避難民にある。
避難民が北の大陸に行くのをやめさせるのではなく、
来る前提で避難民を受け入れる態勢を作る。
ヤルザの町とヒューズの町の道と輸送の整備を行い、
ヒューズの町など北の大陸で受け入れる。
直に思い付くのはこの4つかな。)
総司:(兎人族と猫人族に会いに行くのは明確なリスクがあるね。
そうすると犬人族に会いに行くか、北の大陸の方で
受け入れ態勢を作るっていうのが現実的かな。)
マリカ:(私もそう思う。
それと犬人族の国王に会いに行く目的だけど、
私には一つあるにはあるんだ。
昨日までの情報と会った人達とのことで、一つ疑問がある。
今回の話の発端は猫人族と犬人族の魔法使いが参戦したことだ。
ただ、猫人族の国王と側近の2名、
戦闘の時に見た犬人族の国王と側近の2名、
この6名の魔法使いの全員が、
急に魔法が使えるようになったとは考えにくい。
これまで戦闘には参加していなかった魔法使いが、
何かしらの理由で急に参戦することになったと
考えた方が自然だ。
この争いの原因はそこにあると思う。)
総司:(確かにそうだね。
争いが激化した理由が魔法使いの
参戦って話は鳥人族の人達に聞いた話だけど、
これは本当だと思う。
だけどなぜ急に参戦することになったのか、
それはまだわからないよね。
マリカさんが言う様に6名の
全員が急に魔法使いになったとは思えないし。
孟さん達に会いに行き難い状況だから、犬人族の国王に
会ってそれを聞くのが目的ってことだね。)
マリカ:(そうだ。
ただ、これまでの感じだと、
会って冷静に話が出来る機会は一回しかない可能性が高い。
だから、犬人族の国王に会いに行く時は目的をちゃんと
整理しておいた方がいい。
総司は他に思い付くことはあるか?)
総司:(う~ん…。気になると言えば、孟さんの言っていた、
「この大陸で許されるのは猫人族と犬人族の国だけだ。」
って言葉かな。
自分達猫人族だけだ。
と言われれば分かるけど、争っている犬人族の国も
認めているのはちょっと変だよね。
それに、「兎人族がこの大陸に住むことは認めるけど、
建国することは認めない」とも言っていたよね。)
マリカ:(言ってたね。
会談中に総司が言っていた、
種族に関わる伝統、思想、文化など、
その辺りの理由がありそうだな。)
総司:(今思い付くのはそれくらいかな…。)
マリカ:(とりあえず目的はその2つにしておいて、
次は素直にそれを聞いて教えて貰えるかってことだね。)
総司:(会い方によるかな…。
友好的に会談に持ち込める前提なら
特に隠すような話じゃないと思うけど…。)
マリカ:(犬人族の状況がわからないから、
その辺は行き当たりばったりになるなぁ。
猫人族の時のように兵士の治療で
軽く恩を売ってから会えるといいけどね。
そういう意味では今挙げた目的も猫人族の国王との会談で
聞いておけば良かったな。)
総司:(昨日の時点では会おうと思えば、
簡単に会える感じだったから、軽く考えちゃったよね。)
マリカ:(そうだね。私も騙されているとは思わなかったよ。)
総司:(僕も全然そういう印象は受けなかったよ…。
まさかとは思うけど、
孟さんがくれた紹介状がすり替えられた
なんてことはないよね?)
マリカ:(書いているところは見てないからな。
それと本人から直接渡されたわけじゃなかったよね。
侍従のような人から渡されたんだっけ…。
紹介状自体も別の人に書かせていたかもしれないね。
親書としての体裁は封蝋の紋章で証明しているし、
中身の文章は別の人の文字でも問題無いと言えば問題無い。
紹介状を書いた人が偽装すれば出来ないことは無いか。
あれだな…。
疑い出すと何もかも怪しく思えてくるな。)
総司:(そもそもこの紹介状の罠も杜撰だよね。
実際に僕達は気が付いたし。
今更だけど、孟さん達がこんな杜撰な罠を実行するかな?)
マリカ:(そう言われると確かにおかしいな…。)
総司:(もしもこの紹介状が孟さん達が意図したもの
じゃなかったら、孟さん達に会って、この紹介状を見せれば
一気に黒幕がわかったりするかもしれないね。)
マリカ:(そうだね…。但し、本当に罠だったとしたら、
見抜いた私達とは決裂して戦闘になるだろうね。
逃げきれないとは思わないけど、
それなりに備えているだろうから、リスクは高いな。)
総司:(アイさんなら騙されたとわかった時点で、
迷わずこの選択をしそうだね。)
マリカ:(明確に相手に非があるのが分かった時点で
相手を制圧して全てを聞き出すだろうね。)
総司:(僕達だけだと殺さずに全員を無力化するのは
ちょっと難しいよね。)
マリカ:(万が一にも誰か殺してしまったら、取り返しが
つかないくらいに決裂するから取れない選択だな。)
総司:(アイさんに相談する?)
マリカ:(いいけど、せっかく頑張って私達だけでやってきたのに
困ったらすぐにアイさんを頼るのはちょっと情けないな。)
総司:(何でも頼るのは良く無いか…。
もうちょっと自分達で頑張ってみる?)
マリカ:(どうにもならなくなるまでは私達で頑張ろう。
アイさんなら、どんな状況からでも挽回出来るからね。
これもまた私達の成長のためだよ。
長期的に考えれば、それが一番意義がある。)
総司:(わかった。それじゃ、この後どうするかって話だけど、
①孟さん達に会って紹介状のことを聞く。
②犬人族の国王に会いに行って2つの疑問を聞く。
③三角大陸に対しては何もしないで、
避難民のスムーズな受け入れのために
北の大陸でヤルザの町とヒューズの町との道路を作る。
この3択から選ぶ感じかな。)
マリカ:(うーん…。③は緊急性が無いから、
他の2つが上手くいかなかった後でも実行出来る選択だね。
まずは①と②の2択かな。
①と言いたいけど、私達の実力を考えると②かなぁ。
紹介状は犬人族の国王にはもう渡さないんだから、
②が上手くいかなかった後でも①は選択できるよね。)
総司:(そうだね。予定通り犬人族の居る所に行ってみようか。)
マリカ:(いきなり犬人族の国王に会いに行かずに、
駐屯している場所で情報収集してからにしようね。)
僕達は今日も三角大陸へ向かうことにした。
紹介状は念のためヤルザの家に置いていく。
総司:(昨日と同じように戦闘があった場所から南東の方へ
進んでみるね。)
僕は一昨日に戦闘のあった場所から南東方向に沿って
地上をよく見ながら飛んで行く。
広い道が見えたので、それに沿って進むと
正面に大きな川が見えてくる。
川の手前には町があり、川岸にはたくさんの船が停泊している。
町には兵士と思われる犬人族がたくさんいた。
マリカ:(細部は違うけど、昨日と似た感じの道筋だね。)
総司:(そうだね。ついでに高速飛行で三角大陸を一周してみる?)
マリカ:(一度この大陸の全体像を見ておいた方がいいね。)
僕達は川を越えて北東へ進んでいくと大きな川が見えてくる。
その川の両岸で犬人族の軍団と猫人族の軍団が対峙していた。
南側が犬人族で北側が猫人族だ。
たくさんの船が両岸に停泊している。
開戦は船での戦闘になるのだろう。
そのまま中心の山を遠巻きに回るように島を一周する。
三角大陸の名前の通り、正三角形のような大陸だった。
中心に大きな山があり、山を中心にして大陸を三分割するように
Y字に大きな川が流れている。
大陸と川と山で綺麗な幾何学模様の地形になっている。
中心の山も綺麗な形をしている。
どの方向から見ても同じ形に見えるのだ。
山の中腹まではなだらかな斜面で、
中腹より上は急斜面で歩いて登るのは不可能に思える。
上部には雪が積もっている。いかにも霊山という見た目だ。
ハッキリ言ってこの大陸の全てが自然に出来た地形には見えない。
総司:(これ…。自然に出来た地形じゃないよね。)
マリカ:(一見そう見えるけど、気のせいだと思うよ…?)
総司:(え!?マリカさん本気で言ってる!?
自然にこうなるなんてちょっと考えられないよ。
どう考えても意図されて出来た地形でしょ。)
マリカ:(………。)
総司:(大陸、山、川、この規模のことを意図して作るって、
さすがにアイさんでも出来ないよね?
でも、アイさんの本気がどの程度なのか見たことないか…。)
マリカ:(そうね…。)
総司:(少なくともアイさんみたいな超越者が
他にもいるってことになるよね?)
マリカ:(自然に出来たって可能性を排除するのは早計だよ。)
総司:(いやいやいや…。それはどう考えたって無いよ。
絶対に警戒した方がいい。
リスクはこれまでの出来事とは比較にならないほど高いよ。
今更だけど竜族の住む竜の島が
竜の形っていうのも作為的だよね。
なんであの時は疑問を持たなかったんだろう…。)
マリカ:(総司、落ち着け。仮に何者かが造ったとしても、
遥か昔のことだ。今慌てても意味はない。)
総司:(そうだね…。さすがに生命が誕生するより前の話だよね。
今不安に思っても意味はないか…。)
マリカ:(そうだよ。一旦そのことは忘れて、
今すべきことをしよう。)
総司:(わかった。)
確かに今気にしても仕方ないのはそうだと思う。
でも、マリカさんの言い様に違和感を覚える。
いつもならもっとリスクや疑問に正面から考察するはずだ。
今回は始めから考えることを放棄している。
結果的には合理的とも思えるけど、
思考の過程を無視するようなことは、
いつものマリカさんならしない。
よく考えてみると、竜の島について疑問に思わなかったのは、
たぶんアイさんが居たからだ。
アイさんのような超越者がいると、
無意識のうちに超越者が受け入れたことに疑問を持たなくなる。
マリカさんが言う様に、アイさんに何でも頼るのは良く無い。
いずれ自主性を失ってしまう危険もあると思う。
三角大陸を一周して再び犬人族の軍団が駐留している町へ着く。
マリカ:(今度はどうする?変装しておくか?)
総司:(必要ないでしょ…。)
マリカ:(そうやって気を抜いたときこそ危ないんだぞ?)
総司:(もう…。わかったよ…。)
僕は町から見えない位置に降りる。
マリカ:(猫人族に変装するときに使った魔道具に
犬人族に変装する術式を追加するね。)
僕は変装用の魔道具を頭と腰に装備する。
総司:(これでいいかな?)
マリカ:(よく似合ってるよ。)
総司:(見てもいないくせに…。)
僕は犬人族の軍団が駐留している町に走って行った。




