52.三種族の対立②猫人族との会談
兎人族と会談した翌日、
ヤルザの町でみんなと朝ご飯を食べた後に、
僕は再び三角大陸に向かった。
まずは戦争と関係の無さそうな、
鳥人族の人達から話を聞こうと思い、
昨日三角大陸に来た時に見かけた鳥人族の集落を訪問した。
上空から降りてすぐ手前にいる人に話しかける。
総司:「すいません。ちょっと教えて下さい。」
「魔法使い…。何かな?」
僕は相手の警戒を解くために笑顔で言う。
総司:「僕は北の大陸から来たんですけど、
この大陸の生活はどうですか?」
「食べ物は豊富だし、生きていく分には困らないよ。
ただ、今は辞めておいた方がいいかな。」
総司:「何か起きてるんですか?」
「この大陸では猫人族と犬人族のそれぞれで大きな国があって、
その二国がずっと争っているんだ。
基本的に大陸の中心にある山、泰山って言うんだけど、
その東側で戦っている。
少し前から猫人族と犬人族の両方に魔法使いが参戦して、
戦闘が激化したことで、この辺に住む猫人族も参戦するために
向こう側に引っ越したりしていたんだよ。
それが最近になって急に泰山の西側、
要するにこちら側でも戦うようになった。
巻き添えになりたくなければ、この大陸には来ない方がいいよ。
まあ、お嬢ちゃんのような魔法使いなら大丈夫かもしれないけど。
俺達もいざとなったら飛んで逃げられるからね。
いつでも逃げられるように準備はしてあるんだよ。」
以前、鳥人族のマテオさんから聞いた話と一致する。
でも、兎人族の話が出てこなかったな…。
それに何で急に西側でも戦うようになったんだろう…。
総司:「なんで急に西側で戦うようになったんですかね?」
「それはわからないなぁ…。」
総司:「この大陸には猫人族と犬人族と鳥人族がいるのは
わかりましたけど、他の種族はどうなんですか?」
「あとは南西の大きな森に兎人族がたくさん暮らしているよ。
そういえば、少し前から平地でもよく見るようになったね。」
総司:「兎人族は猫人族や犬人族と争ったりはしていましたか?」
「猫人族と犬人族の争いはずーーっと昔かららしいからね。
猫人族と犬人族が、兎人族も含めて他の種族と争ったとか、
そういう話は聞いたことないな。
でも、最近は兎人族も平地でよく見るようになったから、
揉め事が起きてもおかしくはないね…。」
マリカ:(大体状況が見えてきたな…。)
総司:(うん。結構シンプルな話かもね。
簡単に言っちゃうと、猫人族と犬人族の戦闘が激化して
戦闘地域の東側に、猫人族と犬人族が集まる。
西側の土地に空きが出来て、
その隙に西の森に住んでいた兎人族が平地に進出する。
お互いが戦っている間に縄張りを冒された猫人族と犬人族は
怒って西側に大挙して押し寄せてきて、兎人族を追い払ってる。
猫人族と犬人族から見れば、
兎人族は空き巣みたいなものだから、卑怯者って話になる。)
マリカ:(私もそう思う。その推測で大筋は間違いないだろうね。)
総司:(でも、これってどの種族が悪いの?)
マリカ:(難しい話だな…。空き巣と言っても、
一時的とはいえ、引っ越して空き地にしたのは事実だし、
後に他の種族が住んだ事が悪いとも言えない。
各種族が合意の元でルールを作っていて、
兎人族がそれに反したというなら、
まだ話は分かるけど、そういう感じでもなさそうだし。
それでも猫人族と犬人族は空けたのはあくまで一時的な話で、
自分達の縄張りだって言いたいんだろうけどね。)
総司:(そうだよね…。)
マリカ:(善悪という物差しは置いておいた方がいい。
それを測る基準によって見方はいろいろ変わってくる。
基本的にこういう場合はシンプルに強いやつが取る。
それがまあ、世の中のルールといえばルールだけどな…。)
総司:(それだと今の状態を肯定しちゃうけど…。)
マリカ:(なるようになってるって話だな。
平和的に解決するには兎人族がまた森へ引くか、猫人族、
犬人族が兎人族に譲るか、どちらかだね。)
総司:(それだと無理そう。もっと慎重に「どこまで」って
話もちゃんと入れた方がいいよ。兎人族がどこまで引いて、
猫人族と犬人族がどこまで譲るか。
みんながギリギリ許せる線を探すしかないね。)
マリカ:(そうだね。今はお互い険悪になっちゃってるから、
そこから何とかしないといけないな。)
総司:(みんな目が合ったら喧嘩を始めちゃうような
人達だから難しいよね…。)
マリカ:(背景は大凡わかったんだから、予定通り、
猫人族と犬人族の代表に会いに行ってみよう。
知って話すのと、知らずに話すのは大きな違いがある。
やっぱりここで話を聞けてよかったよ。
ただ、私達の推測が間違っている可能性もあるから、
固執しないようにな。)
総司:(そうだね。)
総司:「貴重な話をありがとうございます。
最後にもう一つだけ教えて下さい。
猫人族と犬人族ってどの辺りにいます?」
「え!?ああ、ごめんこめん。考え込んでいる姿が
綺麗で見入っちゃったよ…。なんだっけ?
ああ、猫人族と犬人族が住んでいるところね。
猫人族は基本的に大陸の北側、犬人族は大陸の東側に
多く住んでいるよ。」
総司:「助かりました。これは心ばかりですが。」
僕は金貨を一枚渡した。お礼の気持ちもあるが、
この大陸でも金貨が使えるか知りたかったのもある。
「これはいくらなんでも多いよ…。」
総司:「僕にとって、それだけありがたい話でした。」
「このくらいみんな知ってるよ…。」
総司:「この大陸でも金貨は使えるのですね。
どのくらいの価値がありますか?」
「町に行けば一か月は普通に暮らせるかな。」
総司:「北の大陸とそれほど変わらないのですね。」
「そうなんだ。俺は北の大陸のことは知らないからなぁ。」
僕は改めてお礼を言って手を振りながら飛び立ち、
そのまま高度を上げていく。
総司:(北の方が近いから猫人族からかな。)
マリカ:(威勢の良い虎娘が代表っぽかったな。)
総司:(でも、自分のことを俺って言ってたから、
男性かもしれないよ?)
マリカ:(そうだったのか?気が付かなかったな。
でもまあ、あれは女性だよ。)
総司:(ダメだよ。
そうやって決めつけて話をする人が多いから、
僕も勘違いされるんだよ。)
マリカ:(そうか…。気をつけるよ…。)
僕は昨日戦闘のあった場所から北東方向に沿って
地上をよく見ながら飛んで行く。
広い道が見えたので、
それに沿って進むと正面に大きな川が見えてくる。
川の手前には町があり、川岸にはたくさんの船が停泊している。
町には兵士と思われる猫人族がたくさんいた。
総司:(見つけた。この町にいるかもしれないね。)
マリカ:(そうだな。
戦時体制だろうから、
町の入口には検問があるかもしれない。
見えないところに降りて走って行くにしても、
検問で引っかかると面倒だな。
変装していくか。)
総司:(変装って…。どうするの?)
マリカ:(私に任せろ。)
僕は猫耳の魔道具と、猫の尻尾の魔道具を身に付けた。
総司:(え…。これで人前に出るのは嫌だな…。)
マリカ:(総司は種族の融和を何だと思ってるんだ?
猫人族の人を変だと思うのか?)
総司:(猫人族の人はそういう姿なんだから自然なことだよ。
僕のこれはコスプレみたいなものでしょ…。
猫人族からみれば、僕の行為は好ましいものじゃないよ…。)
マリカ:(コスプレは趣味だ。変装は仕事だよ。
一緒にしてはいけない。
変装は必要だからする。それだけだ。
プロ意識を持て。恥かしさなんてなくなる。)
総司:(そうだね。僕が間違ってたよ。)
マリカ:(総司はもう少し人を疑うようにした方がいいかな…。)
総司:(うん。大丈夫。それじゃ、行ってみよう。)
マリカ:(まあ、私がずっと一緒に付いてるから心配ないけどね。)
僕は走って川岸の町へ行く。検問はなく、そのまま町に入れた。
町には猫人族が圧倒的に多いが、猫人族以外の種族も見かける。
猫人族でも耳が短くて髪の毛と見分けがつかない人もいた。
総司:(普通に入れちゃったね。)
マリカ:(戦時中なんだから普通は検問とかあると思うけどな…。
潜入して調べられたら戦力とか筒抜けになるぞ?)
総司:(あんまりそういうこと考えないんじゃない?
全力で正々堂々と戦って勝利することで神の意思が示される。
そういう考え方のような気がする。)
マリカ:(その全力の中に戦略があると思うけどね…。)
総司:(正々堂々と戦い、勝利する。
そういう儀式なんじゃないかな…。
だから猫人族も犬人族もどちらかが勝ち切ることもなく、
長く闘争が続いているって気がする。)
マリカ:(儀式か。確かに殺さずのルールを守っていくと、
逆に突き詰められて、そうなっちゃう気もするな。
そもそも負けても傷さえ癒えれば戦力も落ちないしね。)
総司:(もうこの変装やめていい?)
マリカ:(そうだね…。)
僕は魔道具を外していつもの姿に戻る。
少し町を見て回ることにする。
少しくらい観光してもいいよね。
普通に雑貨屋や飲食店もある。
変わっている点は、一階と二階が違う店になっていて、
跳躍して直接二階の店に入っている人がいる点だ。
猫人族は老若問わず跳躍力が高く、
階一つ分くらいなら階段など必要ないのだろう。
川岸の町ということで、川で取れる魚がたくさん売っている。
マリカ:(総司、あれ買おう。すっかり忘れてた。うなぎだ!)
総司:(うなぎいいね!)
マリカ:(イクラも売ってる。当然サケもいるな。
ニジマスとなまずも、コイやフナもいるね…。
ちょっと名前がわからない大きい魚もいるな。)
総司:(どうしよう。覚えてほしいな。)
マリカ:(とりあえず、かたっぱしから買って料理して
少しずつでも食べたいな。)
総司:(お店の人にお願いしてみよう。)
総司:「こんにちは。買った魚をこの場で調理して
食べたいんですけど、調理場を借りられますか?
いろいろな種類のお魚をたくさん買って、
少し食べたら残った料理は店先で無料で提供するので。」
「変なことするんだね…。まあ、たくさん買ってくれるなら、
いいかな。終わった後にちゃんと片付けてくれよ?」
総司:「もちろんです。ありがとうございます。」
総司:(良かったね。)
マリカ:(まずはうなぎだね!)
僕はうなぎから順番に買って調理していく。
お店の人も無料で提供する料理を置く場所を用意してくれた。
総司:(うなぎのかば焼き美味しー!)
マリカ:(やっぱり美味しいよね!)
順番に調理して食べては残った料理を店先に出す。
「こんな料理初めて食べたよ。美味しいな!
どうやって作ってるか見せてくれよ。」
お店の人も食べていた。見てもいいけど参考にならないと思う…。
総司:「いいですけど、秘密ですよ。」
「秘密か。いいね!」
お店の人が喜んで見に来た。そして違う意味で驚いていた。
「魔法で料理か…。
そんなことが出来るんだね。
うちにない食材まで料理に入ってたから、
どうしてるのかと思ってたけど。
まあ、真似出来るところは参考にするよ!」
時間的にもお昼ご飯にちょうど良かったし、
無料なのでたくさんの人が店の前に来ていた。
「美味しい!」
「さっきのはもうないの?もっと食べたい!」
「うまいにゃ!」
「無料じゃなくても食べたい!もっと出すにゃ!」
総司:「同じ料理はもう出ないですよ。早い者勝ちです。
まだまだいろいろな料理が出ますから、
みんな少しずつ食べて、分けあってくださいね。」
小骨の多い魚はすり身にして薬味と混ぜて天ぷらにした。
ちょっと臭い魚もあって僕の口には合わなかったけど、
猫人族の人達はみんな美味しそうに食べていた。
「魔法で料理すると早いねー。もううちの魚が無くなっちゃうよ。
俺までご馳走になっちゃってるし、お代はまけておくよ!」
その後すぐに店の魚が無くなってしまったので終わりにした。
僕もお腹いっぱいになるまで食べたので、もういいだろう。
店の前にはたくさんの人だかりが出来ていた。
総司:「終わりです。お粗末様でした。」
「美味しかったよ!ありがとう!」
「またやってにゃ!」
「お前一人で料理してたの?すごいにゃ!」
「天才料理人だにゃ!」
目立ってしまったけど、みんな喜んでくれているからいいだろう。
店主にお礼を言って店を出る。
総司:(うなぎのかば焼きはやっぱり至高だね!美味しかった~!)
マリカ:(よくわからない魚も美味しかったな。
この世界にはまだ食べたことが無い、
美味しい物がいっぱいあると思う。
魔法でエネルギー消費をコントロール出来るから、
いくら食べて太らないってのもいいな。
もう面倒なことはほっといて食道楽の旅に行こうか!)
総司:(いいね!まだ食べたことが無い究極の味を探す旅へ!
って、ダメでしょ。)
マリカ:(ほっといてもなるようになると思うぞ?)
総司:(え!?マリカさん本気で言ってるの!?)
マリカ:(もちろん冗談だよ。
でも、なるようになるって言うのは本当かなぁ。
新世界は魔法の恩恵で飢饉や疫病がほぼ起きない。
怪我や病気で死ぬこともほぼ無い。
疲労もほぼ無いから労働に対しての忌避感も薄い。
労働に忌避感が無ければ自然と助け合う社会になる。
総じて大半の人が将来へ不安を感じることがない。
不安もなく、衣食が足りて礼節を知る人が圧倒的に多いから、
理不尽な悪意、憎悪といった感情が沸きにくく、
あらゆる問題が時間の経過によって解決するからね。)
総司:(でも、種族を超えて
皆が仲良く暮らしていける世界を作るんでしょ?
ここはほっといたら仲良くならない気がするなぁ。)
マリカ:(あれはあれで仲良くやってる様にも見えるけどね。)
総司:(そうかなぁ。)
雑談しながら町を歩いていたら、広場のようなところに出た。
怪我をしている人と治療をしている人がたくさんいる。
僕も治療を手伝うために怪我をしている人の傍にいく。
総司:「こんにちは。怪我の治療を手伝いますね。」
「にゃ?よろしくにゃ。」
猫人族には「にゃ」と言う人と、言わない人がいるみたいだ。
猫人族特有の方言みたいなものだろうか。
仲良くなれた人が出来たら聞いてみよう。
「魔法使い!一瞬で直っちゃった!孟様よりもすごいにゃ!」
治療した猫人族の人は立ち上がって治した手を振る。
「なんか前より調子がいいにゃ。ありがとう!」
マリカ:(孟様って威勢のいい虎娘のことだよね。)
総司:(そうだね。)
総司:「孟様という方もこの町にいらっしゃるんですか?」
「にゃ?お前、それだけの魔法が使えて軍の人間じゃないにゃ?
そういえば、お前のことは見たことないにゃ…。まあ、いいにゃ。
孟様はこの町にいるにゃ。」
総司:「孟様とはどのような方なのですか?」
「お前、孟様を知らないにゃ?余所者…。まあ、いいにゃ。
孟様は北戯の国王にゃ。一番偉くて一番強いにゃ。」
猫人族の国は北戯って言うのか。
マリカ:(なんかあれだな…。いや…。なんでもない。)
総司:(孟さんって国王だったんだね。
備玄さんも国王って言ってたし。
そうすると犬人族の三人の真ん中の人も国王なのかな…。
三種族、三国で争ってるって感じなのか。)
マリカ:(そうだね…。)
総司:「いろいろ教えてくれてありがとうございます。」
「こっちこそ治療ありがとにゃ。
孟様はこの町にいる間はあそこの家にいるにゃ。」
そろそろ怪しまれてるから他の人に聞こうと思っていたけど、
何も言わなくても教えてくれた。
感はいい人っぽいけど…。
僕はその後も怪我人の治療を続ける。
治療が終わった人も暇なのか僕が治療しているのを見ている。
情報が伝わったのか、
別の場所からも怪我人がこの広場に集まって来る。
時間はかかったが、怪我人は全て治療出来た。
「怪我人の治療をありがとう。
孟様にも話が伝わって、是非お礼を言いたいから
連れて来てほしいと言われている。
来て貰えるかな?」
そろそろ孟さんの家の方に行ってみようと思っていたので
ちょうど良かった。
総司:「わかりました。」
僕はそのまま案内の人について行く。
いつの間にか完全武装した猫人族の人達に囲まれていた。
あの場にもたくさんの猫人族の人達がいた。
あの場があの後、戦闘の最前線になったのは間違いないので、
怪我人には昨日の戦闘で僕のことを見た人もいるだろう。
まあ、バレて当然だよね。
大きな商館のような屋敷で、中に入るとエントランスには
たくさんの猫人族の人が周りに立っていた。
正面には昨日の戦いで前に出てきていた3人がいる。
孟:「みんなの怪我を治してくれてありがとう。
それと、昨日は世話になったな。」
総司:「こんにちは。治療は好きでしているので
気にしないでください。」
「こんにちはだって。この状況でよく言えるわね…。」
孟さんの右側にいる女性が驚いている。
孟:「俺は北戯の国王で孟だ。
左の眼帯をしているのが元、
右のポヤンとしているのが妙。
俺達三人は魔法使いだ。
お前も相当強い魔法使いだよな。
名前を教えてくれよ。」
総司:「総司と言います。
元さんの目はどうされたのですか?
よろしければ私が治療できるか見てみたいのですが。」
元:「必要ない。怪我や病気ではない。この眼帯は封印だ。」
妙:「病気は病気なんじゃない?
いい歳して思春期特有の…。
従兄だと思うと恥かしいわ…。
孟様は孟様でアレだし…。まともなのは私だけね。」
総司:(どういうこと?)
マリカ:(総司はわからないのか?気にしなくていいよ。
怪我でも病気でもない。
ファッションみたいなものだ。)
総司:(そうなんだ。
アイさんが少しの間、身に付けていた
レンズの無いメガネみたいなものかな?)
マリカ:(似たようなものだね。)
孟:「男みたいな名前だな。」
総司:「はい。僕は男です。」
孟:「もしかして仲間か!?」
妙:「それ強い魔法使いで流行ってるの?」
孟:「俺は生まれた時からだ。
って、流行ってるってなんだよ…。
生まれた時に、たまたまアレがついてなかっただけだ。」
妙:「たまたまだけに…。」
周りの猫人族の人が顔を伏せてピクピクしている。
笑いをこらえているのだろう。
笑ったらお尻を叩かれるのだろうか…。
マリカさんは聞こえないのをいいことに大爆笑している。
マリカさんは案外こういうネタが好きっぽい。
この世界に来て魂というものを強く意識出来る。
魂が男性であれば身体が女性だとしても、それは男性だろう。
逆もまたそのまま言えることだと思う。
魂や思い、それと身体とで、どちらがその人の本質なのだろうか?
身体だけを基準で考えるから、おかしなことになるのかもしれない。
それでも難しいことは事実として無くなりはしないけど。
元:「妙、客人の前で恥かしいだろ…。」
妙:「笑ったら無礼を責めようと思ってたんだけど、強いわね。」
やはり罰があったか…。危ない危ない…。
孟:「単につまらなかっただけだろ。妙の冗談は下品だよ。」
妙:「二重に屈辱…。しかし負けないわ。」
孟:「総司は兎人族には見えないが、兎人族の味方なのか?」
総司:「昨日も言いましたが、追われていたので助けただけです。」
孟:「それで今日もたまたま怪我人を見かけたから治療しただけか?」
妙:「孟様はたまたまが好きね。」
みんな笑ってない。マリカさんだけが煩い。
総司:「今日は争いの理由を調べに来ました。
こうして孟さん達に会うことが出来て良かったです。
怪我人を治療したのは、偶然見かけたからです。」
妙:「言葉を変えてはいけません。
偶然ではなくて、たまたまと言った方が孟様は喜びますよ?」
孟:「喜ばねーよ!」
上手くその言葉を避けたのに…。
しかし妙さんも十分におかしな人というのは分かった。
そろそろこっちが会話の主導権を取った方がいいかな。
無礼にならないように気をつけないとね。
総司:「僕は正義を欠いたり、不当なもので無い限り、
どの種族の争いにも味方しないつもりですが、
どの種族とも仲良くしたいと思っています。
争いの原因についてお聞かせ頂けないでしょうか?」
孟:「犬人族との争いは太古から続いているものだ。
これを止めることは出来ないし、皆止めることを望まない。
少なくとも猫人族と犬人族はな。
兎人族との争いは極最近始まったものだ。
兎人族が、建国と国王の僭称を撤回すれば、
少なくとも俺達からの手出しは止めよう。
この大陸で許されるのは猫人族と犬人族の国だけだ。」
マリカ:(森に引っ込めとは言わなかったな…。)
総司:(言ってなかったね。)
総司:「兎人族は森から出て平地での暮らしを始めましたが、
それは許してもよいとお考えですか?」
孟:「森だけで暮らすには厳しいだろう。
会戦の際に多くの兎人族を見たが、
あの人数があの森で暮らすのは
さすがに厳しいと思う。幾分かは譲ってもいい。」
マリカ:(驚いたな…。
昨日の感じでは話の通じない虎娘と
思っていたけど、まったく逆だったな。
寛容な王様だ。
兵士に慕われている感じがしたが、これなら納得だね。)
総司:(そうだね。
やっぱり実際に話をしてみないと
わからないことだらけだね。)
マリカ:(ただ、建国と国王の僭称を撤回しろって条件は
いくら話をしても折れそうにない雰囲気だね。)
総司:(そうだね。
種族に関わる伝統、思想、文化の
どれかが関わっていそうな感じがする。
土地よりもそれが大事って話だもんね。)
マリカ:(土地を譲る話に関しては、
単純に兎人族のことも思いやっているのかもな。)
総司:「お答えいただき、ありがとうございます。」
孟:「素直に答えたのだ。
俺からの質問にもいくつか答えて貰うぞ。
総司はどこから来た?
それほどの強者の名前が、知られていないはずはない。
この大陸の者ではないだろう?」
総司:「はい。北の大陸から来ました。」
孟:「理由は?」
総司:「北の大陸の港に多数の兎人族が避難してきたため、
その理由を探りに来ました。」
孟:「なるほど。理由はもう分かっただろう。
それで今後はどうする?」
総司:「方法はまだわかりませんが、
争いを止めたいと思っています。」
孟:「それならば、兎人族に建国と国王の僭称を辞めさせろ。
そうすれば、土地に関しては話し合いの場を作ってやる。
犬人族とはもう会ったのか?」
総司:「まだ犬人族とは会っていません。」
孟:「紹介状を書いてやろう。仲は悪くても、信義はある。
心配しなくても犬人族の国王、文と会えるだろう。」
総司:「ありがとうございます。非常に助かります。」
孟:「よい。争いには味方しないと言っていたが、
総司のような強い魔法使いとはよい関係でいたい。
こちらが困っている時には助けて貰おう。
人助けが趣味みたいだからな。」
孟さんは綺麗な笑顔を浮かべた。素晴らしい人だ。
総司:「喜んで。」
その後、孟さん達の夕ご飯に同席した。
僕も魔法で料理を振るまったが、大好評だった。
いつもの定番のステーキや、ピザ、鮎の塩焼き、
魚の方が感触が良かったので、
覚えたてのうなぎのかば焼きも作ってみた。
昨日とはまったく逆の有意義な会談になった。
まずは信頼関係を作ることが大事だと痛感した。




