51.三種族の対立①兎人族の救出
ヤルザの町を出て暫くすると大陸が見えてきた。
思っていたほど遠くなかった。
高度を上げて大陸を見る。さすがに全体は見えないが、
東の方に高い山があり、そこから西に向かって平地が続く。
更に西に行くと森になっている。
聞いた話と辻褄が合う。
僕は森よりも東側の平地の方へ向かう。
湿地が点々としている。
集落も点々とではあるが、いくつもあり、
兎人族や、鳥人族が暮らしているのが見える。
更に東へ進むとたくさんの人達が見えてきた。
こちらに向かって走って逃げている様に見える。
みんな兎人族の人達だ。
そのまま東の方へ進む。
言い換えると逃げる兎人族と逆方向へ行く。
最後尾に特に耳の長い白い兎人族の女性と、
身体が大きくがっしりした筋肉質な人が二人いる。
いわゆるマッチョな人が二人だ。
その二人が女性を護衛するように傍を逃げ走っている。
熊人族なんているのだろうか…。熊にしては耳が長い。
その先には追っていると思われる猫人族と犬人族が多数いる。
もう少しで追いつかれそうなところで、熊人族の二人が、
迎え撃つように立ち止まる。
しかし二人で対応できる数ではなく、
抜かれて白い兎人族の女性はまだ追われている。
総司:(この人数の足止めはきついけど、助けた方がいいよね。)
マリカ:(マッチョ二人組は大丈夫そうだ。
白い兎人族の人を助けよう。)
僕は急降下して白い兎人族の人の傍へ行く。
猫人族と犬人族の人は今にも追いつきそうだ。
総司:「援護します。全員を足止めするのは無理なので、
僕の傍から離れないでください。」
「え!?」
僕は縛鎖陣の魔法ですぐ近くまで来ている相手の動きを封じる。
続けて細い氷の矢を展開し、
麻痺毒を付けて追ってくる相手に放ち、それを連射していく。
猫人族と犬人族は左右から回り込んで僕の方へ槍を投げてくる。
槍を防御壁で防ぎつつ、氷の矢で応戦する。
そのまま囲むように回り込まれ、全方位から槍を投げてくる。
組織的に動いてくる。
集団戦に慣れている。高度に訓練された動きだ。
完全に包囲された。
僕は白い兎人族の人の直上で滞空し、範囲防御壁で防ぐ。
刀を抜き、近づいてくる相手には斬撃波を放ち、
手足を斬りおとしていく。全員で一気に詰めてこられたら、
白い兎人族の人を抱えて飛び去るしかないな。
暫くすると僕達を包囲した人達は距離を保ったまま動きを止めた。
「おいおい!なんだてめーわ!
関係ないやつが首つっこんでくるなよな!」
威勢の良い高い声が響く。猫人族が3人前へ出てくる。
猫人族というより虎人族という容貌だ。
中心に勝気に見える金髪の綺麗な女性、
左には片目に眼帯を付けた黒髪の男性、
右は黒髪のポヤンとした感じの女性だ。
「卑怯者の兎人族を庇うとか、どういうつもりだよ!ああ!?」
今度は逆側から男性の怒声が聞こえる。
見ると犬人族が3人前へ出てきた。
三人とも灰色の髪で他の犬人族よりも気品を感じる。
かけられた言葉は品があるとは言い難いけど…。
犬人族というより狼人族という感じだ。
中心は40台くらいのカッコいいおじさん。
左には若くて中心の人に似ているカッコいい青年。
右は僕よりは少し年上くらいに見える可愛い女性だ。
総司:「追われていたので助けに入りました。」
「はぁ~!?俺たちは戦争してるんだよ!勝てば追撃するだろ!」
猫人族の中心の女性が言う。
俺?僕と同じで女性に見えるが、
男性なのかもしれない。胸は鎧を着ていて見えない。
「関係ないやつは引っ込んでろ!」
犬人族の3人のうち左にいる若い男性が言う。
総司:「そうはいきません。申し訳ないですが、
今日のところは引きあげて貰えませんか?」
「アホか!引くわけねーだろ!まずはそいつをこっちに寄こせ!」
僕の下にいる兎人族の人を指差して言っている。
総司:「それは出来ません。」
「てめぇ!ふざけんな!」
犬人族の若い男性がこちらに突進してきたので、
刃の魔法を複数展開して放ち、両足を地面に縫い付ける。
「てめぇ…。」
総司:「それ以上近づけば攻撃します。」
暫く睨み合いが続く。
犬人族の女性がゆっくり近づいて来る。
攻撃してくる感じではないので、攻撃するのはやめておく。
そして先ほど近づいてきた男性の足に刺さる刃を抜いて
後ろに連れ帰る。
「犬人族は勇敢ですね!」
僕の下にいる兎人族の女性が言う。
「はあ!?俺らの方が勇敢に決まってるだろ!
アイツらの様にバカみたいに近づくのが勇敢なわけねーだろ!」
「バカだと!?バカにバカとか言われたくねーよ!」
「にゃ…。にゃんだとぉ!!!」
「孟様…。にゃって言ってます…。」
「言ってねーよ!」
「いかにも頭の悪そうな猫だな!」
「はぁ!?てめーみてーなバカ犬にいわれたくねーんだよ!
さっきはかっこ悪かったな!結局何も出来ずに足止めされて
妹に助けられて!情けない兄貴で仲も大変だな!」
「間抜けな猫に言われたくないわよ!」
こちらはお構いなしに犬人族と猫人族のくだらない言い争いが続く。
今にもお互い斬り合いになりそうな勢いだ。
「馬鹿共は放っておいて今のうちに逃げましょう。」
下から声がする。何か釈然としない…。
さっきのこの人の発言に煽られて猫人族と犬人族は争い始めた。
それを意図して言ったのは明らかだ。
こうも簡単に乗せられる猫人族と犬人族の人達もアレだけど…。
しかしここにいても時間の無駄なのは確かだ…。
総司:「わかりました。少し失礼しますね。」
僕は白い兎人族の人を後ろから抱えて、高く飛ぶ。
「てめー!逃げんじゃねー!」
「余所見してんじゃねーよ!てめーの相手は俺らなんだよ!」
結局犬人族と猫人族は戦い始めた。
目の前の標的がいなくなって怒りが収まらなくなったみたいだ。
「いい気味ですね。助けてくれてありがとうございます。
とりあえず、私達の町に案内します。
あちらへ飛んでください。」
総司:(どうしよう…。)
マリカ:(こうなったら仕方ない。言われた方に行ってみないか?)
総司:(この人はちょっと黒いよね…。白いけど…。)
マリカ:(総司は少し潔癖すぎないか?
助かるための方法を考えて実行しただけだと思うぞ?
ただ、善人ってことはないだろうな。
とりあえず、この人の言う通りに町へ行ってみよう。
ただし、話だけ聞いて、後で犬人族と猫人族の人達の話も
聞きに行った方がいいな。)
総司:(そうだね…。)
総司:「わかりました。」
「あちらです。それとお名前を聞いてよろしいでしょうか?
私は備玄と言います。」
総司:「僕は総司です。」
いつもはよろしくお願いします。
と繋げるが、あえてやめた。
案内通りに町へ行くと、たくさんの武装した兎人族の人達がいた。
逃げていた兎人族の人達は追い抜いてきたので、
まだ到着していないはずだ。
「備玄様!ご無事でしたか!
先触の連絡で敗走していると聞いて心配していました。
ちょうど救助部隊を編成したところです。」
備玄:「私が犬猫に掴まるわけないでしょ。
羽雲と飛益が足止めしてるから
救助に行って頂戴。」
「わかりました。」
いやいや…掴まる寸前だったよね…。まあ、実際掴まってないけど。
「この綺麗な方は?」
備玄:「途中で私を助けてくれた方よ。
総司さん。まずは私達の屋敷へ案内します。」
僕は頷いて備玄さんの後について行く。
僕は自分の行動に不安を感じる。
この世界に来てここまで不安を感じるのは初めてかもしれない。
アイさんだったらどうしたんだろう…。
そういえば、アイさんがマテオさん達と最初に会った時の会話で、
犬人族と猫人族の争いを止めるのは難しいって言ってたね…。
兎人族はどうなんだろう。
それに最初は猫人族と犬人族は共闘していた。
ちょっとしたことで争い始めたので、仲は良く無いんだろうけど。
わからないことだらけだ。
だけどこのまま放置するわけにもいかない。
話を聞きつつ、一つ一つ整理して考えて行動していこう。
案内された屋敷はまだ新しかった。
出来て間もないように見える。
備玄さんとは一旦別れて、別の兎人族の人に案内される。
屋敷に入ると複数の兎人族の人が並んでいた。
室内の調度品も目新しいものが多く、
北の大陸では見たいことが無いものも多い。
地球儀のような物まである。
僕が案内されたのは兎人族が並んでいる真ん中辺りだ。
そのまましばらく待たされる。
周りから品定めするような視線を受けて、かなり居心地が悪い。
正面には豪華な椅子がある。
謁見の間のような雰囲気だ。
右奥から着飾った備玄さんが入って来る。
耳飾りが煩いくらいに付いている。
備玄さんは大きくて長い耳なので、豪華には見える。
元が綺麗な人なだけに、あまり華美にしない方がいいと思うけど…。
備玄さんが入ってくると周りの兎人族の人達は膝をついて畏まる。
ただ、最近習ったような動きで、皆ぎこちなく揃っていない。
僕はそうする理由がないので、そのまま立ったままだ。
アイさんだったら周りに合わせたかもしれないが、
僕はなんとなくそうしたく無くて、咄嗟に行動出来なかった。
僕はやっぱり人間が小さいのかもしれない…。
そして備玄さんは正面の椅子に座る。
備玄:「私は西飾の国王、備玄です。
このたびは危ないところを助けて頂き感謝します。」
王様だったのか…。
こうして見ると確かにカリスマのようなものを感じる。
総司:「私は総司と言います。
北の大陸から来ました。
北の大陸の港に多数の兎人族が避難してきたため、
その理由を探りに来ました。
そして来て直に貴方が追われているのが見えたため、
救助に入りました。」
「腰抜け共が…。」
「私も避難しようかな…。」
「北に大陸があるのか…。」
「最近ちょっとずつ人が減ってると思ったら、
別の大陸に避難してたのか…。」
周りの人達は思い思いに話をしている。
品のある行動ではない。
先ほど感じた様に、みんな慣れていないのがわかる。
「姉上!ただいま戻りましたぞ!」
「足止めは成功したみたいだな!」
振り返ると二人のマッチョな熊人族がこちらへ歩いてくる。
「綺麗なお嬢ちゃんだな。なんでここにいる?」
「スパイか何かか?」
二人の熊人族に囲まれる。圧がすごい…。
備玄:「羽雲、飛益、無事で良かったわ。総司さん、紹介します。
左が上の弟の羽雲、右が下の弟の飛益です。」
総司:「ご兄弟でしたか。お二人とも兎人族なのですか?」
飛益:「はぁ!?見てわかんねーのかよ!?
俺達の耳が短いからって舐めるなよ!?」
羽雲:「まあまあ。最初に姉上の立派な耳を見たからだろう。
大人物である姉上を基準にしたら
間違えられても仕方がない。」
いるのか知らなかったけど、熊人族だと思ってた…。
確かに兎人族の耳だ。尻尾はあんまり見たくない…。
総司:「失礼しました。」
僕も、はぁ!?お嬢ちゃん!?俺が女にみえんのかよ!?
舐めてんのか!?とか言っちゃおうかな…。
その方がむしろ仲良くなれるのかもしれない。
いや、喧嘩になるだけか…。どちらにしろしないけど。
髭の長い方が羽雲さんで、短い方が飛益さんか。
みるからに強そうだ。
実際に二人でたくさんの猫人族と犬人族と戦って足止めしていた。
氷の矢の魔法も使っていたので、二人とも魔法使いだ。
備玄:「二人とも列に並びなさい。」
二人は左右分かれて列の一番前へ行く。
羽雲:「姉上、この者は何者ですか?」
備玄:「敗走中に私を助けてくれたの。」
飛益:「俺達が足止めしてたんだから余計なお世話だったな。」
いやいや、普通に抜かれてたでしょ…。
足止めしてたのは、相手の一部だからね?
備玄:「猫人族と犬人族はどうなったの?」
羽雲:「どちらも退却を始めました。
どちらかの大将が討たれたのでしょう。」
総司:「討たれたって…。殺されたんですか!?」
飛益:「部外者が口出しすんな!
討たれたと言っても死んではいない。
精々重症を負ったくらいだよ。」
怒鳴られたけど、教えてくれた。
短気なだけで根は悪い人じゃないのかも。
マリカ:(そういえば犬人族と猫人族の戦いは手や足が
斬り落とされたりしたら、それ以上は攻撃しないらしい。
組織戦なら大将がそうなったら終わりなのかもね。)
総司:(知らなかったよ…。マリカさんは誰に聞いたの?)
マリカ:(昔アイさんに聞いた…。)
総司:(それなら僕達が備玄さんを助けなくても、
あの後、直に戦闘は終了したのかもね…。)
マリカ:(そのルールが兎人族にも
適用されるかは、わからないけどね。)
総司:(余計なことをしちゃったかもね…。)
マリカ:(目的があるだろ。今後も北の大陸に避難してくる人を
どうにかするには何かしらの介入が必要だ。
速やかに対処するという点で、
あのタイミングで介入出来たのは結果的に良かったよ。)
総司:(そうかな…。)
備玄:「このまま前の様に猫人族と犬人族で争ってくれれば、
私達もまた前と同じ様に中心に向かって拡大出来るわね。」
羽雲:「さすが姉上!」
飛益:「正面から戦っても負けはしないけどな!」
こういうところが犬人族の人が卑怯と言っていた理由かもしれない。
まあ、3つの勢力で争う場合は普通のことだとも思うけど…。
それと飛益さんは都合の悪いことは見えず、忘れる性格っぽい。
備玄さんがこちらを見ている。
備玄:「総司さんにお願いがあります。
私達の仲間になりませんか?」
ああ、そのためにここに呼んだのか…。
総司:「私は北の大陸に仲間がいますので、
申し訳ありませんがお断りさせて頂きます。」
飛益:「ああ!?姉上の頼みを断るとか、ありえねーだろ!」
羽雲:「姉上の頼みを断るなど許されんな。
どうせくだらない者だろう。さっさと立ち去れ!」
この人達に交渉する気は無いみたいだ。
大体何が起きているか分かったし、もう帰ろうかな…。
備玄:「羽雲と飛益はちょっと黙ってて!
総司さん、ごめんなさい。少し待ってください。」
総司:「いえ、もう大体何が起きているのかは分かりましたので、
失礼させて頂きます。」
備玄:「逃がしません!みんな捕まえて!」
周囲の兎人族が全員襲いかかってくる。
僕は咄嗟に急加速のバックステップで包囲から抜け出す。
そして正面から襲いかかってくる兎人族に対して、
縛鎖陣の魔法で迎撃し、全員の動きを封じる。
総司:「それでは失礼します。」
すごく後味の悪い結果になった。
まさか襲ってくるとは思わなかった…。
マリカ:(辺りも暗くなってきたし、帰ろうか。
日を改めて猫人族か犬人族の方を訪ねてみよう。)
総司:(そうだね。僕だけじゃ、やっぱりアイさんみたいに
上手くはいかないね…。)
マリカ:(総司のせいじゃない。相手が悪かったな。
まあ、強いて言うなら、夕ご飯まで適当に粘って、
一緒にご飯を食べてからまた話をすれば、
違う結果になっていたかもね。)
総司:(そうなのかな?うん…。そうかもしれないね。
確かにアイさんはそういうところに気を遣っていたね。)
マリカ:(それに三角大陸に来てから、
総司はずっと硬い顔をしている。
総司自身も、いつもとちょっと違っていたかもね。)
総司:(不安だったんだ…。
これでいいのかなって。僕の行動によって
無駄に傷付く人が出るだけかもしれないって。)
マリカ:(気持ちはわかる。ただ、知ってほしい。
総司の行動はどんな結果であれ、世界に可能性を作る。
例え悪い結果でも、何もしないよりずっと良い事なんだよ。
なかなか理解するのは難しいと思うけど、
私は総司の行動を支持するよ。
それがどんな結果になってもだ。
お疲れ様、総司。)
総司:(うん。ありがとう。)
マリカさんの言葉で救われた気がする。
マリカ:(私も昔、同じようなことで思い悩み、アイさんから
私が言ったような事を言われた事があるんだよ。)
総司:(マリカさんも同じように悩んだりしたんだね。)
マリカ:(ああ。だから私に対して恥じる事は無いよ。)
総司:(うん。わかった。頑張ってみる。)
僕はヤルザの町へ戻り、モリスさんに三角大陸の状況を報告する。
そして、引き続き三角大陸で情報収集することを約束する。
また、現状では避難民を止める事は出来ないので、
イルスの街から小型浮遊艇に来て貰い、イルスの街経由で
ヒューズの町へ避難民を送る事にした。
僕はそのままイルスの街へ行き、小型浮遊艇を10台ほど
ヤルザの町に送るようにお願いした。
そしてその後、避難民をヒューズの町に搬送する様にお願いした。
ヤルザの町の小型浮遊艇が機能するようになれば、問題はなくなる。
その後ヒューズの町へ行って、避難民達の受け入れ態勢を
整えてくれるようにお願いする。
アイさんの施策は柔軟性に富み、こういったケースでも、
難なく吸収できるように準備されていた。
一通りやるべきことを済ませて、ヤルザの町の家に戻る。
みんな夕ご飯を済ませて、自室に戻っていた。
もう寝る時間だ。家の内装はみんなにお願いしよう…。
その後、フランさんとジルさんから今日の進捗を聞く。
問題無く順調に進んでいるみたいだ。ありがたい。
一か月後にはイルスやザウルの街と同様に機能するだろう。
フランさんとジルさんはこっちのことは心配ないと言ってくれた。
今日に続き、明日からも三角大陸で活動することにしよう。
暫くは家に帰ってこないかもしれないけど、心配ないと伝える。
さて…。
今日はちょっと失敗したけど、
明日からはもう少し気持ちに余裕を持ってやってみよう。




