47.交流への道⑨領主との会談④
目が覚める。
昨日はマリカさんに後のことをお願いして
温泉に入ったまま寝ちゃったんだよね。
外を見ると薄明るくなっている。
総司:(マリカさん起きてる?)
返事がないな。まだ寝てるみたいだ。
起きて周りを見てみると誰もいない。
個室に一人で寝ていたみたいだ。
先日まで寝泊まりしていた家と違う。ここは宿泊所かな?
外に出て建物を見ると予想通り宿泊所だった。
仮運営も兼ねて宿泊所を使ったのかもしれない。
朝ご飯まで時間があるので、僕は外を見て回ることにした。
住民の人達も何人か既に起きていて、
僕のように散歩をしている人や、何かの作業をしている人がいる。
少し飛んで上空からこの辺り一帯を見てみる。
麓の町の方を見ると農道にも人がいて、
朝早くから仕事をしている人達が見える。
よく見ると、麓の町の端に魔法で家を作っている人がいる。
アイさんだ。僕は手伝うために近くに降りる。
総司:「おはよう。朝早くからお疲れ様。」
アイ:「おはよう。今日は早いね。
ああ…、そういえば、
昨日は温泉で先に寝ちゃったんだったね。
前にみんなで温泉に入った時もそうだったけど、
ああいう状況でマリカさんに代わるのは、
あんまり良くないと思うよ?」
総司:「そうだね。マリカさんには悪いと思ってるんだけどね…。
どうしても眠くなっちゃたから、マリカさんに後を頼んで
そのまま寝ちゃった。」
アイ:「そういう意味で言ってるんじゃないけどね…。」
総司:「マリカさんなら間違いなく僕より上手くやってくれるよ。
それはそうと、僕も手伝うよ。」
アイ:「まあ、確かにある意味上手くやってるけどね…。
それじゃ、総司君は向こうの列を作って。」
総司:「わかった。」
アイさんはこうしていつも、見えないところでも
いろいろ頑張ってくれているのだろう。
僕も手伝うが、アイさんの仕事量に比べれば微々たるものだ。
それに今はマリカさんが寝ているので、魔法もかなり制限される。
それでも、こういうのは気持ちが大事だよね。
アイ:「そろそろ朝ご飯を食べに行こうか。
今日の朝ご飯は食堂で料理を担当する人達が
用意してくれるんだよ。」
総司:「楽しみだね。」
アイさんは町の人に声をかけて
何か話をした後にNRTへ飛び立つ。
食堂に入るとアクアさんが席に座っていた。
他の席にはこの町で暮らしている人達もいて、
朝ご飯を食べている。
アクア:「おはようございます。」
総司:「おはよう。今日も早いね。」
少しアクアさんの顔が赤い様にみえる。
アイ:「おはよう。みんなはまだ来てないかな。」
総司:「食堂も初めて来たけど、綺麗だね。」
豪華さはないが、シンプルで清潔感のある内装だ。
マリカ:(おはよう。)
総司:(おはよう。昨日はごめんね。)
マリカ:(構わない。気にするな。)
総司:(ありがとう。)
みんなも食堂に集まってきた。
各々挨拶をして席についている。
朝ご飯が配膳されていく。
メインは鮎の塩焼きみたいだ。
近くの川で取れたものだと思う。
これは食べたことがないので、どんな味がするのか楽しみだ。
アイ:「それじゃ、頂きましょう!」
アイさんが声をかけるとみんな食べ始める。
総司:(鮎の塩焼き美味しいね!)
マリカ:(天然物だから匂いもいいね!これも覚えよう。)
総司:(そういえば、川の魚はあんまり覚えてないね。)
マリカ:(それを言ったら、きのこもまだ十分とは言えないな。
しかし、きのこは毒があるし判別はさすがに素人には難しい。
安易に山で取って食べるという訳にもいかないからな…。)
アイ:(この辺りに住んでる狐人族や長耳族の人に
聞けばわかるんじゃない?
私ならすぐに毒があるか調べられるよ。
それに私達なら食べても魔法で解毒出来るからね。
むしろ試すなら私達がやった方がいいよ。)
マリカ:(そういえばそうだね。ちょっと抵抗あるけど…。)
総司:(渓流釣りとかいちご狩り、ぶどう狩り、きのこ狩り、
イルスやザウルの街中の人達なら大自然と馴染みが
ないだろうから、登山だったりキャンプもいいかも。
山で出来るレジャーはいろいろあるから、
そういうのも拡充していけるといいね。)
アイ:(今度都合が良い時に試しに私達でやってみよう。)
総司:(そうだね。)
食堂での朝ご飯が終わり、ルイさん達を送り届けるために
イルスの街に戻ることにする。
白狐さん、デルさん達は当初の予定通りに
このままNRTに残って準備を進めてもらう。
僕達はソフィさんの背に乗ってイルスの街へ移動し、
直接領主の屋敷の庭に降りた。
屋敷にいた人達はみんなビックリしていたが、
ルイさんが話をすることで落ち着いた。
ルイ:「いろいろと素晴らしい経験をさせて貰った。
それと、何度も来てもらうのも悪いので、
このまま領主と会談していってほしい。
もちろんここにいる皆で出席して構わない。」
アイ:「ありがとう。そうさせて貰うね。」
フラン:「私も一緒でいいのかな…。」
シア:「私もいいのかな…。」
ルイ:「問題無い。むしろ歓迎する。
ひとまず中のエントランスの席でお待ち頂きたい。」
みんなと感謝やお礼の挨拶などを交わし、一旦分かれる。
僕達は屋敷の中に入り、エントランスのテーブルで待つ。
天上が高く荘厳な雰囲気だ。
アイさんや僕の造る家とは違い、
この屋敷の歴史を感じさせられる。
しばらくするとマリーさんが来た。
マリー:「準備が出来ました。ご案内します。」
僕達はマリーさんに付いていき、エントランスの正面の入口に入る。
広い部屋で、正面に一段高くなっている場所に豪華な椅子がある。
いかにも謁見の間という雰囲気だ。
しかし正面の椅子には誰も座っていない。
領主様やルイさん達は部屋の左奥に並んでいた。
マリー:「こちらに。」
僕達は領主様の前へ案内され、
アイさんを中心に、領主様やルイさん達と向かい合う様に並ぶ。
マリーさんは向かい合って並ぶ
領主様側と僕達側の中心の端に立つ。
屋敷の使用人と思われる人達が領主様側と僕達側の後ろに
椅子を用意している。
マリー:「椅子におかけください。」
マリーさん以外の全員が席に座る。
簡単な挨拶が終わると、ルイさんが立ち上がり、
昨日の会談で決まったことを一つ一つ宣誓する。
ルイさんの宣誓が終わると、領主様が大きく頷く。
領主:「宣誓の内容を必ず実行することを
イルスの街を代表して約束しよう。」
領主様はゆっくり立ち上がって宣誓する。
アイ:「ありがとうございます。
私共も宣誓の内容を必ず実行することを誓います。」
アイさんも立ち上がって胸に手を当てて宣誓する。
領主様は笑顔を浮かべる。
領主:「さて、儀礼的なことはこれでいいかの。
弟のレオン、孫のマリー、そして又姪のフェリ、
三人のことを、よろしくお願いします。」
アイ:「喜んでお引き受けします。」
領主:「ルイ」
ルイ:「はい。」
領主様がルイさんに小声で何かを言うと、
ルイさんが領主様の手を取って中心まで歩いてくる。
ルイ:「アイさん、ちょっと来て貰えるかな?」
アイ:「はい。」
アイさんも中心まで歩いていく。
ルイさんは席に戻り、中心には領主様とアイさんだけになる。
何かを話した後、領主様とアイさんが膝をついて座る。
見様によっては領主様がアイさんに膝をついて座るのを
アイさんが止めたようにも見えた。
ルイさん達も驚いた顔をしている。
二人は小声で話をしていて何を話しているのか聞こえない。
アイさんの顔は見えないが、領主様は笑顔で話をしている。
曾祖父と曾孫くらいの差がある二人が
仲良く話をしているようにも見える。
話が終わったのか、アイさんが領主様の手を引いて、
領主様の席まで連れて行く。
領主様はマリーさんの方を向いて頷く。
マリー:「それでは会談を終了します。」
僕達はマリーさんの案内で謁見の間を出て、
再びエントランスの席で待つ。
マリー:「お疲れ様でした。
アイさんはお爺様と面識があったのですか?」
アイ:「無いよ。良いお爺ちゃんだね。」
領主様をお爺ちゃんと言っちゃうか…。
マリー:「ありがとうございます。
とても優しくて、身内のことながら素晴らしい人です。
若いころに先代と一緒に旅をしたことがあるそうで、
いろいろなことを知っているんですよ。」
アイ:「なるほどね…。私もいろいろお話し出来て良かったよ。」
マリーさんと話をしているうちにルイさん、レオンさん、
フェリさんの三人が来る。
ルイ:「ありがとう。アイさんは父と面識があったのかな?」
やはりマリーさんと同じようにルイさんも気になるらしい。
アイ:「無いよ。」
ルイ:「そうか…。何を話したのか聞いてもいいかな?」
アイ:「秘密だよ。」
アイさんは笑顔で答える。
ルイ:「そうか…。父も教えてくれなくてね…。」
アイ:「そう。二人の秘密なの。」
ルイ:「父はとても嬉しそうにしていたよ。
改めてお礼を言わせてもらいたい。」
アイ:「こちらこそ。」
レオン:「それでは行こうか。」
アイ:「あ、もう一緒に来れるの?」
レオン:「もう大丈夫だ。何かあっても直に戻れるからね。」
アイ:「そうね。近いけど、あると便利だから、
ここにもモニターを設置しておこうかな。
約束した行政への協力にもなるもんね。」
僕が支えるように手を出したところにアイさんがモニターを作る。
マリー:「魔道具ですね。
アイさん達の家にも同じ物が有ったと思いますけど…。
これはどういう物なんですか?」
アイ:「実際に使うのを見てもらった方が早いかな。」
総司:「それなら僕が急いで家まで行って
リビングにあるモニターを起動してくるよ。」
アイ:「そうね。お願い。」
僕は飛行の魔法で急いでリビングに行く。
設置されているモニターを起動するとアイさんが映る。
アイ:「お疲れ様。早かったね。」
総司:「急いだからね。」
アイ:「それじゃ、みんなこのモニターに魔力を通してみて。」
アイさんが言うとモニターにみんなの顔が順次映し出される。
総司:「皆さん聞こえますか?
僕は今イルスの僕達の家のリビングにいます。」
マリー:「聞こえます。総司さんのお姿も見えています。」
ルイ:「これはすごいな。離れた場所で姿と声が伝わるのか。」
アイ:「モニターさえ設置すれば、どんなに距離が離れていても
同じように連絡が可能なんだよ。相談事があったら、
このモニターで連絡してきてくれれば、対応するからね。」
ルイ:「これでいつでもアイさんと話が出来るのか。
これはありがたい。素晴らしい魔道具をありがとう。」
総司:「マリーさん、レオンさん、フェリさんとも
会話出来るので、気軽に使って下さい。」
ルイ:「ありがたく使わせてもらおう。」
アイ:「総司君ありがとう。もう少ししたらそっちに戻るからね。
総司君はそのまま家で待ってて。」
総司:「わかった。」
会話が終わったのでモニターを落とす。
昨日の会談の後片付けをして、お昼ご飯の用意をしながら
待っていると、二階からアイさんが降りてきた。
アイ:「お待たせ!」
アイさんが体重を感じさせないステップで僕の傍までくる。
さっきまでの凛々しい姿と違って、とても可愛らしい。
総司:「おかえり。」
アイさんに続いてソフィさん、マリーさん、フェリさん、
レオンさん、フランさん、シアちゃん、アクアさんが降りてくる。
アイ:「お昼ご飯の準備もしてくれてたんだね。」
フェリ:「いつも美味しいご飯でいいね!」
レオン:「協力するために同行したはずなのに、
総司君達の世話になるばかりだな…。」
アクア:「率先して行動しないとアイ様と総司様が
全てやってしまいますよ?」
アクアさんは配膳しながら笑顔で言う。
総司:「大した手間じゃないので気にしないで下さいね。」
ソフィ:「下手に手を出すと、返って邪魔になっちゃいそうで
難しいんだよねー。」
アクア:「ソフィはドラゴンになる特技があるからいいでしょう?」
ソフィ:「特技って…。まあ、適度にアイさんが振ってくれるから、
そんなに気にしなくてもいいかなって思ってるわ。」
マリー:「逆に振られなくなったら終わりってことですね…。」
フェリ:「頑張るわ…。」
アイ:「まずは自力を上げてもらった方がいいね。
レオンさん達とシアちゃんには私が訓練メニューを用意するから
暫くこの家の地下で特訓だよ。私が毎朝来て確認するからね。」
レオン:「早速指導を頂けるのか。よろしくお願いします。」
フェリ:「頑張るわ…。」
マリー:「よろしくお願いします。」
シア:「頑張ります!」
フラン:「私は事務仕事を頑張るよ…。」
アイ:「私達が留守にしがちだから、
ここに居てくれるだけでも助かってるよ?」
総司:「お昼ご飯が出来たから食べよう。」
みんなでお昼ご飯を食べながら会話を続ける。
アイ:「私は基本的にこことNRTの麓の町の開発ね。
NRTも私が定期的に様子を見に行くよ。
総司君は人魚の町とザウルの街をお願い。
アクアさんとソフィさんで人魚の町の観光と開発をお願い。
基本的に今まで話をしていた通りね。」
総司:「わかった。」
今回の会談でNRTの麓の町が一番仕事量が多くなった。
今日の朝、少しだけ手伝ったけど正直僕ではあまり役に立てない。
いつもながらアイさんが頑張ってくれるつもりなんだろうな…。




