39.交流への道②温泉リゾートNRT
僕達は上空から大森林を見ている。
アイ:「ちょっと大森林の奥に入るけど、山裾の位置がいいよね。」
総司:「少し高いところの方が景色もいいよ。」
アイ:「それじゃ、少し上がったところに温泉街を作るよ。」
少しと言っても高さ400mくらいの位置だ。
北の大陸の東側は山脈のようになっている。
2000m~3000m級の山々が連なっている。
山頂から東側が急斜面で西側がなだらかな山々だ。
綺麗な川がいくつも流れていて、山のレジャーには良い感じだ。
アイ:「さすがに何日もかかるだろうから、
まずは私達が寝泊まり出来るところから作ろう。」
ソフィ:「大がかりな作業ならドラゴンになった方が早いかな。」
アクア:「それならブレスで焼き払ってもらって、
私達人魚族が水で消火しましょう。」
ソフィさんがブレスで木々を焼き払う。
必要以上に燃え広がらない様にアクアさん達が周囲を消化する。
白狐:「私はお花畑にみんながここにいるのを伝えに行くわ。」
白狐さんは長耳族の大森林へ飛んで行く。
木々が無くなったところから、
僕とアイさんで土を掘ったり、固めたりして平地を作る。
がけ崩れしないように、深い岩盤に支柱を打ち込んだ堤防も作る。
そして、魔法で大きな家を作る。
アイ:「ひとまずはここを活動拠点にしよう。」
僕達は家の中に入る。
アイ:「シモンさんとアガサさんは、
この場所に合った町のイメージを作って。
基本的にこの周囲の自然と調和するような感じで。」
アイさんは何枚も大きな紙を出す。
シモン:「わかった。頑張って町の設計をしてみるよ。」
アイ:「とりあえず運営、維持、管理で30人、
宿泊客は100人くらいの規模から始めよう。
部屋は1部屋2~5人くらいが目安ね。
宿泊所は3階建てで管理室が1つ、
宿泊客の部屋が大小含めて30程度。
2棟でちょうど100人くらいで。
それぞれの宿泊所で温泉が1つ。
お客が多くなったら、温泉1つ、宿泊所1棟で
50人単位で増築していく感じかな。
共通施設として食堂、飲食店、喫茶店、売店、
コンサートホール、公園が大小含め3つ。
コンサートで演奏する人員は別枠でね。
最初は赤字で問題無い。客数200人くらいから
利益が出てくるくらいの料金設定でお願い。」
アガサ:「わかったわ。」
アイ:「それじゃ、他のみんなでこの家の内装を作ろう。
イルスの家の地上階と同じ感じで。
後で従業員と演奏してくれる人が宿泊する家として
使うことも頭にいれておいてね。」
僕達は作業を開始した。
とにかくアイさんの作業量が凄まじい。
すぐにイルスの家と同じようになった。
ちょっと遅いお昼ご飯にしようとしたときに、
白狐さんとデルさん達が来た。
白狐:「ただいま。」
デル:「ただいま。みんなに相談してきたわよ。
たくさんの人に演奏を聞いてもらいたいって人が多かったわ。
でも、初めてのことだから試しに実際にやってみてから
先のことは決めたいって。」
アイ:「ありがとう。
イルスの街の前に、ここにリゾート温泉のような施設を作って、
まずはここにコンサートホールも作ろうと思うの。
ここなら長耳族の人も近くて抵抗が少ないと思うし。」
デル:「確かにその方がいいわね。さっき決めたの?
なんかもう大きな家まで出来てるし…。
さすがアイさん…。行動が早いわね…。」
アイ:「お昼ご飯を食べながら、いろいろ相談しよう。」
アイさんと僕、アクアさん、ソフィさん、デルさんで
お昼ご飯の準備をする。
出来たものからみんなに食べてもらいながら会話する。
アイ:「温泉街の設計が出来るまでは、
ここから狐人族、長耳族の大森林の中心までの道、
それとイルスの街までの道を作っていこう。
物資の運搬もしやすい様に広めで舗装した道にしてね。
イルスの街までの道は私。
狐人族の大森林の中心までは総司君と白狐さん達、
長耳族の大森林の中心までは
ソフィさんとアクアさん達とデルさん達。
途中で移住して頂く必要がある方がいたら、
その方の生活環境の用意と金銭で交渉して。」
総司:「狐人族の大森林までは白狐さん、
長耳族の大森林まではデルさんがいるから
話をしやすいけど、アイさんは大丈夫?」
アイ:「私が一番心配ないと思うよ?
イルスの東側はそれほど発展していなかったし、
いても道が出来れば、感謝して貰えると思う。
同等の家や耕地を用意するくらいで済むよ。」
総司:「なるほど。」
アイ:「それじゃ、お昼ご飯を食べ終わったら早速始めよう。
19時にまたここに集合ね。」
お昼ご飯を食べ終わってみんなで作業に入る。
僕が木を伐り、みんなで燃やしながら進む。
今まで見たことが無かったが、
白狐さんの出す青い炎はとても温度が高くて木々が一瞬で燃える。
マリカさんに頼んで術式化して貰おう思ったが、
種族特性の魔法みたいで僕とマリカさんでは上手く使えなかった。
ソフィさんのブレスや、人魚族の水を扱う特殊魔法に近い。
ある程度進んだら、表面を超高温に熱して硬質化させて進む。
総司:「なかなか進まないね…。目的地まで道を作るのに
一か月くらいかかりそうだね…。」
直線距離にして100kmくらいあると思う…。
それに途中にいくつも川があるので橋も作る必要がある。
蘭:「いやいや、すごく早いと思うよ?」
楓:「うん。普通は森を切り開いて道を作るなんて大人数で年単位。
4人でやろうというのが、そもそも頭がおかしい。」
白狐:「狐人族はたくさんの集落でバラバラに暮らしているけど、
こうして大きな道が出来れば、
狐人族の中でも交流が進むようになるわね。
今回のことを抜きにしても、とても有意義よ。」
蘭:「私達は道が無くても結構速く移動出来るから、
大きな道を作ろうとまでは思わなかったね。」
楓:「特に速く行きたい場所も無かったもんね。」
みんなで雑談しながら作業を進める。
3kmくらい道が出来ただろうか。
辺りは暗くなり、もうすぐ19時になる。
総司:「今日はこのくらいにして戻ろう。」
僕達が帰ると、ちょうどみんなも戻って来た。
アガサ:「おかえりなさい。」
アガサさんとシモンさんはここで温泉街の設計をしてくれている。
シモン:「どのくらいかかりそう?」
アイ:「思ったより大変だった…。
私は二週間くらいかかりそうね。」
ソフィ:「私達も二週間くらいかな。」
総司:「みんなすごいね…。僕達は一か月くらいかかると思う。」
アイさんは距離で僕らの倍以上あるし、途中に農地などもある。
住民との交渉と転居の準備なども必要になってくる。
ソフィさんは僕達と作業量はそう変わらないはずだ。
ソフィ:「私達は相性が良いから作業の効率が良いのよ。」
アクア:「そうですね。私達人魚が道の幅分の左右に水の壁を作り、
ソフィがブレスで間を焼き払って進む。
焼き払った場所をデルさん達が舗装していく。
それぞれの特性を生かして分業出来ていますからね。」
デル:「いやいやすごいわ…。このまま長耳族の大森林の
各集落への道もお願いしたいくらい…。」
レン:「ものすごい光景だよ…。水の壁の間をドラゴンの
ソフィさんがブレスで木々を焼き払って進んでいく。
そしてそこに道が出来ていくんだよ…。」
シモン:「温泉街の設計は一週間くらいで出来るように頑張るよ。
ずっと店を閉めたままにも出来ないからね。」
アイ:「ありがとう。道が出来た順に設計通りに
温泉街を作って行こう。」
総司:「そういえば、イルスの領主との面会って日程は
決まってるのかな?僕達がイルスにいないと連絡の
しようがないよね。」
アイ:「昨日武術大会が終わって、
すぐに次のことに取りかかったからね。
フランさんにイルスの私達の家から仕事に通って貰おうか。
マジック商会の専属職員ってことになってるし、
領主への連絡もやってもらおう。
ここにもモニターを作っておけば、
何かあればモニターで連絡も出来るし。」
デル:「それならついでに賭札の換金もお願いしちゃおうかな。」
レン:「デルさんは何枚になったんだっけ?」
デル:「金貨15000枚。」
ダリア:「それ、一人じゃ絶対持てないよ…。荷車が必要ね…。」
アガサ:「すごい大金ね…。」
アイ:「それなら私が全員の賭札を預かって、
明日の午前中にイルスの街の役場に行ってフランさんと
今後のことも含めて会話をしてくるね。
金貨はひとまずイルスの家に大きな金庫を作って
そこに入れておくよ。」
デル:「ありがとう。アイさんなら何があっても大丈夫ね。
私が当てた金貨だけど、みんな必要なときは
好きに使っていいからね。」
アイ:「私も足しておくよ。
お金で解決出来るなら一番手っ取り早いからね。」
シモン:「違うはずなのに、違わない現実に混乱しそう…。」
アガサ:「そうね…。」
アイ:「それじゃ、夕ご飯の支度をするから、
食べたら今日は早く寝よう。
それと明日の朝の分も作っておくから、
みんな早起きして道路作り頑張ってね。」
総司:「明日からはお昼はアイさんだけこの家に帰ってもらって、
アイさん、僕、それとソフィさんとデルさんでお昼ご飯を
用意して、現地で食べて作業を進めれば、
少しは早く終わるかな。」
レン:「アイさんも総司君も不老なんだよね?
どうしてそんなに生き急ぐの…。」
デル:「長耳族はのんびり生きていく性分の人が多いからね…。」
ソフィ:「総司君もアイさんに影響されてきちゃったね。
前はアイさんだけだったんだけどね。」
アクア:「毎日が充実して素晴らしいですね。」
マリン:「アクアも昔からそうだったわよね…。」
アクア:「アイ様には遠く及びません。」
アイ:「そうだ。道の途中で移住が必要な方々に
温泉街の話をして、この周辺に住んでも良い方が
いたら、積極的にお願いしてね。
住居は良いものを用意するし、農地や果樹園、牧場なども
用意するから。」
総司:「将来的に周辺で食べ物を用意出来た方がいいね。
消費地が近い方が生産する人達も便利だろうし、
良い事が多いよね。」
白狐:「そうね。ちゃんとお願いしておくわ。」
デル:「私も了解よ。」
アイ:「ありがとう。それなら私はそっちを先に着手するね。
たくさんの人を誘ってきてね!」
こうして僕達の温泉街造りが本格的に始まった。
一週間後にはシモンさん達が素晴らしい温泉街の設計図を
完成させてくれて、アイさんと僕でイルスの街へ送って行った。
10日後にソフィさん達の道路造りが終了し、
温泉街の敷地作りとコンサートホールの作成に着手する。
この近くに住んでくれることになった長耳族の人達は
アイさんが用意した長耳族の大森林に近いの方の住居に
引っ越して来てくれた。魔法使いの人も結構いて
コンサートホール造りも手伝ってくれている。
温泉街の運営が始まったら奏者にもなってくれるそうだ。
30日後にアイさんも道路造りと周辺の居住区画の作成が終わる。
イルスの街への道中で転居に了承してくれた人達は、
山の麓に作った小さな町を中心に農業などに従事してくれる。
アイさんはその後、宿泊施設と周辺施設の作成を進める。
僕と白狐さん達の勧誘に了承してくれた狐人族の人達が、
アイさんと一緒に温泉を作るのを手伝ってくれた。
新たに出来た温泉街周辺の居住区画に1000人を
超える人達が生活することになっている。
周辺に暮らす人達も入れるように、
いくつか追加で温泉を作ることにした。
アイさんが適度な位置に源泉を掘り、温泉にお湯を引いて行く。
全て源泉かけ流しだ。
周辺の川からも水を引いて、温度の調節も可能にすると共に、
一部の要望にも答えて、水風呂も用意することにした。
40日後に僕と白狐さん達の道路造りが終了した。
思いの外時間がかかってしまった。
マリカさんも頑張ってくれたが、
どう頑張ってもアイさんや、
ソフィさんのブレスのようにはいかない。
僕達の道路造りが終わるのと、ちょうど同じ日に
最初に予定していた温泉街の施設も全て出来上がった。
その日の夕方は温泉街に引っ越して来てくれた人達も含めて
大公園で完成祝賀会を行うことになった。
1000人を超える人達が集まっている。
アイさんを始め、僕達がフル稼働して食材を用意して料理をする。
もちろん参加者の人達も手伝ってくれた。
準備が出来たところで責任者としてアイさんが挨拶をする。
アイ:「え~。コホン。
今日、こうして私達が造るこの温泉街に
関わっていくことを決意して集まって下さった
皆様に心から感謝します。
私達がこのような試みをしたのは、種族を超えて
みんなが楽しく生きていける世界を作りたいと、
そう思って活動しているからです。
周りを見て下さい。
今ここに集まって下さってる皆様には
北の大陸に住むいろいろな種族の方々がいらっしゃいます。
ここから見る、この光景が私の望んだ世界です。
とっても嬉しいです。
ですが、まだ始まったばかりです。
皆様にも私のこの幸せな気持ちを共有して頂けるように
これからも頑張ります。
みんな仲良くして下さいね。
皆様本当にありがとうございます!」
アイさんが頭を下げて御礼を言うのと同時に、
僕達も自然と頭を下げた。
集まった人達からも盛大な拍手が起こった。
「この町の名前は何ですか?」
集まった人の中から声が上がった。
アイさんが僕達の方を見る。アイさんが決めるのが一番いい。
僕達は顔を見合わせて、最後にアイさんの方を向いて頷く。
アイ:「そうですね…。大事なことを考えて無かったですね。
北の大陸のリゾート温泉、人々が集まるリゾート地、
うん!Northern Resort Town。NRTです!」
会場が沈黙した。
いや、僕は良いと思うよ。
この世界にもアルファベットはあるし、
日本人の立場からの外来語も普通に使われている。
だけど、頭文字を使って呼称する文化は無かった気がする。
アイさんの誇らしく堂々とした宣言が背後の山に木霊する。
白狐:「流石アイさん!発想が新しいわ!」
蘭:「そうだね!」
楓:「かっこいい!」
一部の人達からも賛同の声が上がる。
大半は狐人族の人達だ。
狐人族にはウケたみたいだ…。
無意味に外国の文化をありがたがる日本人っぽいとか
思ってはダメだ。
ここはアイさんのために僕も乗っかっておこう。
総司:「NRT!いいね!Northern Resort Town。NRT万歳!」
しまった。万歳って文化はあるのかな…。
「「NRT万歳!!、NRT万歳!!!、NRT万歳!!!」」
みんなから歓声があがる。
一転してみんな楽しそうに叫んでいる。
良かった。有った。
沈黙が続いたらどうしようかと思っちゃった。
でも、この世界でその名称の付け方はいいかもしれない。
だって、NRTってどういう意味?って聞きたくなる。
説明すれば普通に北の大陸のリゾート街だけど、印象に残る。
元の世界では使い古されているけど、元々はそういうインパクトを
狙って考え出されたのかもしれない。
この後は種族入り乱れてみんなで宴会になった。
アイさんじゃないけど、この光景は僕にも特別なものに見えた。




