37.武術大会⑨四日目、表彰式と温泉
「これより表彰式を始めます。
1位~3位の方は会場までお越しください。」
総司:「ソフィさん、行こうか。」
ソフィ:「そ…そうね…。ごめんね…。
急なことで呆然としちゃってたわ…。
私が一番事情を知っているはずなのに…。」
総司:(言えない事情だし、仕方ないよ。
待たせると悪いから行こう。)
デル:(あとは任せて。安心して行ってらっしゃい。)
総司:(デルさん…。信じてるからね?)
不安だ…。僕とソフィさんは会場まで飛んで行く。
会場の中央にアナウンサーの方と
豪華な椅子に座った80代くらいの良い服を着たお爺さん、
そしてアイさんが待っていた。
僕とソフィさんはアイさんの後ろに降りる。
「まずは今回の武術大会の上位3名に盛大な拍手をお願いします。」
会場から拍手と歓声があがる。
「これより上位3名を改めて紹介させて頂きます。
続いて領主様から褒賞が授与されます。」
お爺さんが領主様らしい。笑顔でこちらを見ている。
「まずは3位からとなります。
マジック商会所属のソフィさんです。
褒賞金として金貨30枚が授与されます。」
領主様がゆっくり立ち上がり、
アナウンサーの方から金貨の袋を受け取り、
丁寧に両手でソフィさんの方に袋を差し出す。
ソフィさんは恭しく金貨の入った袋を受け取る。
「次は準優勝者です。マジック商会所属の総司さんです。
褒賞金として金貨50枚が授与されます。」
僕もソフィさんと同様に恭しく金貨の入った袋を受け取る。
「次は優勝者です。マジック商会所属のアイさんです。
褒賞金として金貨100枚が授与されます。」
アイさんも恭しく金貨の入った袋を受け取る。
「領主様が高齢のため、講評と追加の恩賞について
私の方から報告させて頂きます。
今回の大会はこれまの大会とは比べものにならない
卓越した魔法と武術が予選から使われていたと聞いています。
決勝戦では神々の戦いとも言うべき、
異次元の戦闘を実際に目にしました。
これまでは常に上位を独占していたイルス兵団ですが、
今回はマジック商会に所属する3名の魔法と武術に
抗する術もなく、相対した全員が敗退しております。
これはイルスの街を守護するイルス兵団にとって由々しき結果です。
この重要課題に対して、
マジック商会に協力を依頼したいと考えています。
詳細は後日の会談で改めて話をさせて頂きます。
また、皆様もご存知の通り、
イルスの街はこの一か月で家々の外装は強く美しいものに変わり、
課題であった中心街の老朽化は既に問題なく対処されました。
これは今回の優勝者でもあるアイさんの御業によるものです。
既にイルスの街へ多大な貢献をして下さっています。
アイさんの所属するマジック商会にはいくつかの特権と
引き換えにイルス兵団への指導を行って頂く立場として、
名誉団員の肩書きを用意します。」
「「「よろしくお願いします!!!」」」
観客席から拍手と歓声、そして願いの声があがる。
アイさんが両手で頭の上に丸を作る。
観客からの拍手と歓声が最高潮になる。
領主様は嬉しそうな顔でアイさんに手を伸ばしてきた。
アイさんも笑顔でその手を取った。
観客からの盛大な拍手と歓声が続く。
「ありがとうございます。続きまして公営賭博の倍率ですが、
1位アイさん、2位総司さんで150倍となります。
こちらについても稀に見る超高倍率となりました。
当たった方はおめでとうございます。外れた方は残念でした。」
アナウンサーの方と領主様が頭を両手で抱える。
罵声と共に観客席から大量の賭札が投げ込まれてくる。
僕達も防御壁を展開した。これも毎回の恒例なのだろう…。
暫くして観客席も落ち着いてきた。
「これにて武術大会を終了します。それでは最後にもう一度、
上位3名の強く美しく、可愛くもある女性達に盛大な拍手を!」
観客から割れんばかりの拍手と歓声が起きた。
総司:「ちょっと待ってください。僕は男です!」
僕の声は拍手と歓声にかき消された。
僕は失意のまま観客席へ戻り、そのまま飛んで家へ帰った。
みんなでリビングに集まる。
みんな楽しそうに会話しているが、僕一人だけ暗い。
アイ:「総司君?どうしたの?」
アガサ:「最初に私が総司君に武術大会の話をした時、
大会で目立てば街のみんなに男って知ってもらえるからって。
それを大きな目的にして大会に出てたもんね…。」
シモン:「ずいぶん悩んでたもんね…。」
ソフィ:「そうだったの!?
最後のアナウンスで確実に女性って思われたよね。
そう言っちゃってたし。」
デル:「完全に裏目の結果になったわね。」
レン:「そんなくだらない理由であんなに頑張ってたの?」
ダリア:「悩みは人それぞれでしょ。」
ダリアさんがレンさんの頭を後ろから叩く。
総司:「いや、頑張ってたのはアイさんと出来るだけ
良い勝負がしたかったからだけどね…。」
レン:「それなら最高の結果だった。
強者の不屈の精神を見せて貰った。誇っていい。
俺は君を尊敬する。素晴らしい勝負だった。」
総司:「うん。ありがとう。」
デル:「ウジウジしてても仕方ないよ。温泉にでも行かない?」
総司:「この姿で温泉とか無いから。」
楓:「私が頑張って総司君を癒す。だから温泉に行こう。」
なんで温泉なの?からかう気満々だよね…。
アクア:「温泉は入ったことがありません。
是非行ってみたいですね。
総司様にも悪い結果にはならないと思いますよ?」
そうなの?アクアさんはとても頭の良い人だ。
ヒヤヒヤさせられるが、いつも良い結果にしてくれる。
何か考えがあるのかな…。
総司:「そうなの?」
デル:「なんなら私が温泉の中で演奏もしてあげるよ。」
ダリア:「私もデルさんと合わせるよ。私も結構上手いのよ?」
アイ:「面白そうね。私も総司君のために演奏しちゃうよ。」
温泉に浸かりながら優雅に生演奏を聴くなんてすごく贅沢だ。
確かに気持ちよさそうだね。
デル:「温泉に浸かりながらだと、
ヴァイオリンとフルートかな。
アイさん、現地で作って貰っていい?」
アイ:「いいよ。」
もう行く方向で話が進んでる…。
白狐:「大森林のみんなに、すぐに行くから準備しておいてって
モニターで連絡してくるわ。」
白狐さんが地下へ走って行く。行くことに決まってしまった…。
こういうのは早く断らないとダメだね…。
アイ:「それじゃ、遅くなっちゃうし、すぐに行こうか。
夕ご飯は温泉を出てからにしよう。」
蘭:「白狐様にも連絡してくる。」
蘭さんは白狐さんを追いかけて行く。楓さんもついて行った。
アイ:「地下にモニターを設置したけど、
ここに設置した方が良さそうだね。
今度ここに持ってきておくよ。」
みんなで屋上へ移動する。
アイ:「私がアガサさん、ソフィさんがフランさん、総司君が…、
って、ちょっと今はマズいね…。総司君はフランさん、
ソフィさんがアガサさん、私がシモンさんを抱えて飛ぶね。」
シモン:「ちゃっかり付いて来ててごめんね…。」
アイ:「気にしないで。一緒に来てくれた方が嬉しいから。」
ソフィ:「それだとアイさんが良くないでしょ。
もうバレてるし、私がドラゴンになって、
みんなを背中に乗せていくよ。」
レン:「それ良いね!乗ってみたい!」
ダリア:「私も!」
アイ:「ありがとう。それじゃ、お願いしちゃうね。」
ナギ:「ドラゴンの背に乗るとか、
ここにいると色々な体験が出来るね!」
ソフィさんがドラゴンに変身して、みんなが背に乗っていく。
白狐さん達も来た。
白狐:「ソフィさんの背中に乗って行くのか…。」
蘭:「すご~い!勇者になった気分になれるね!」
楓:「私も乗る~。」
白狐:「行くとは連絡してあるけど、ドラゴンがいきなり
降りてくると、みんながビックリするかもしれないから、
着いたら私が先に降りるわ。」
白狐さん達もソフィさんの背に乗った。
ソフィ:「みんな乗ったね。それじゃ、いくよ~!」
ソフィさんは勢いよく羽ばたき、一気に加速する。
前に乗せて貰った時よりもかなり速い。
フラン:「うは~!夢みたい!」
アガサ:「ほんとアイちゃん達と会ってから毎日が夢みたいね。」
シモン:「人生何があるか分からないね~。」
アクア:「私もアイ様達にお会いし、ずっと暮らしていた
人魚の島を出ましたけど、毎日が新鮮です。」
ソフィ:「ごめん。良く考えたら私は大森林に行ったこと無かった!
誰か案内して!」
総司:「僕が先導するよ。」
白狐:「先に降りたいから私も行くわ。申し訳ないけど、
この速度についていけないから、抱えてほしい。」
総司:「いいよ。」
僕はソフィさんの背中から降りて、白狐さんを後ろから抱えて飛ぶ。
慣れてないから胸のところが変な感じだ…。
白狐:「そろそろ着くわ。先に降りてみんなに伝えるから、
5分後くらいに降りてきて。」
ソフィ:「わかったわ。」
僕は白狐さんと狐人族の大森林に降りる。
「「「おかえりなさい!」」」
「早かったですね。」
「あれ?二人だけ?」
白狐:「ただいま。今から他の人も降りてくるけど、
ドラゴンに乗って降りてくる。
みんながビックリしないように伝えてきて。
私も一緒にみんなに伝えてくる。」
「「「ドラゴン!?」」」
総司:「お久しぶりです。
僕の従者のソフィアが竜族なんです。」
「さすが総司君!」
「竜族が従者って、総司君は勇者だったんだね!」
「普通の人じゃないとは思ってたけど、やっぱりね!」
「みんなに伝えてくるね!」
ソフィさんは従者というより、
僕にとっては仲間と言うべき存在だけど、
従者と言った方がみんなが安心すると思って、あえてそう言った。
「ところで総司君…。胸が…。
さすがにそれは筋肉じゃないよね?」
むしろ筋肉って言い張っちゃおうかな…。流石に無理だよね…。
総司:「え~とですね…。事情があって
今は女性の身体になっちゃってるんです…。」
「そんなことがあるんだ…。
相変わらず総司君は不思議な人だね。」
「どっちでも総司君は綺麗だねぇ。」
「もうどっちでもいいんじゃない?」
どっちでもいい?考えてみればそうかもしれない。
拘るから難しくなっていただけかもしれない。
この身体は男性である僕と、女性であるマリカさんが共存している。
一方を否定する方が間違ってたんだ。
それにマリカさんと、より同じ存在だと思う方が、
僕にとって自然で幸せな考え方のはずだ。
総司:(なんか今の言葉ですごく救われた気がする。
僕の身体は僕であり、マリカさんでもある。
そして僕は男で、マリカさんは女性だ。
結局どちらでもあるんだ。
そして僕はマリカさんと同じ存在と思える方が、
自然で幸せな考え方だって気が付いたよ。)
マリカ:(そうか?嬉しいけど、極論な気もするぞ?
でも、それで総司が納得できるなら、それが一番だね。)
総司:「ありがとうございます!なんだか目が覚めた気分です。
どっちでもいいですよね!」
「急に御礼を言われても、よく分からないけど、
お役に立てたなら嬉しいよ。」
「そうそう!総司君は総司君だよ!」
ちょうどソフィさん達が降りてきた。
「本当にドラゴンが降りてきた!」
「大きいな~!」
「真紅の鱗がキラキラしていて綺麗~!」
「綺麗なドラゴンだね!」
ソフィさんが地面に降りると、
みんなもソフィさんの背中から降りてきた。
みんなが降りるとソフィさんは人型化した。
アイさんが僕の方へ走って来る。
アイ:「総司君の顔がスッキリしてる。何か良いことが有った?」
アイさんが両手を僕の頬に当てて言う。
総司:「そうだね。良い事があったよ。
狐人族のみんなのお蔭でね。」
アイ:「良かったね!狐人族の皆様、ありがとうございます!」
アイさんは笑顔で言う。僕も笑顔だ。
そして狐人族の人達も笑顔で答えてくれる。
アクア:「総司様、私が何かするまでも無く解決された様ですね。」
総司:「ありがとう。何をしてくれるつもりだったか
わからないけど、もう大丈夫だよ。」
マリカ:(アクアさんが総司に何をしてくれようとしていたか
気になるね。)
総司:(こういうのは聞かぬが花ってやつだと思うよ。)
マリカ:(その通りだね。)
「みんな温泉に入りに来たんだよね。
みんなもう入ったから、貸し切りにしてあるよ。」
「蘭、楓、案内してあげて。」
蘭:「わかった。」
楓:「みんなこっちだよ。」
みんなで蘭さんと楓さんに付いて行く。
途中で白狐さんとも合流して温泉に入った。
シモンさんとレンさんは少し離れたところにいる。
湯煙で姿はぼんやりとしか見えない。
僕は蘭さんと楓さんに引っ張られて
女性の輪の中心に連れて行かれた。
シモンさんとレンさんの近くというのも恥かしいし、
二人も困るだろう…。
楓:「総司君を堪能する。」
楓さんはピタッとくっついてくる。
白狐:「楓、はしたないぞ。」
楓:「白狐様も同じようにすればいい。
総司君は今は女性。何も問題ない。」
お湯の中からユラユラと誰か近づいてくる。
アイ:「ぷはぁ!私も~。」
アイさんが目の前に現れて楓さんの逆側からくっついてきた。
楓:「白狐様残念。早い者勝ち。」
白狐:「………。」
デル:「良い気持ちね~。」
アクア:「水の中は慣れていますけど、
お湯に浸かるのはまた格別ですね。気持ち良いです。」
ナギ:「しばらく人魚の姿になってなかったから、
折角だし人魚になっておくわ。
マリンもアクアもそうしなさい。」
マリン:「そうね。」
アクア:「仕方ないですね…。」
人魚の三人は人魚化して温泉の中をクルっと泳いで、
水面から顔を出す。
アクア:「座れないじゃないですか。」
ナギ:「そうね…。」
マリン:「寄りかかるしかないね。」
温泉と人魚の取り合わせは相性が悪いらしい。
深さが微妙なんだろう…。
温泉とはいえ、人魚と水は絵になる。
いつも綺麗だけど、より一層三人とも綺麗に見える。
ソフィ:「鱗が綺麗になりそうね。私はちょっと変われないけど。」
アクア:「そういえばこういうワザがありますよ。」
アクアさんは温泉のお湯を細かい泡にして僕に向けてくる。
ジャグジーみたいで気持ちいい。
総司:「それ気持ちいい。ありがとう。」
ナギ:「そうなの?それなら私もやってあげるわ。」
マリン:「仕方ないわね…。」
三人分だとアイさんと楓さんにも泡が届く。
アイ:「確かに気持ち良いね。」
楓:「狐人の温泉に新境地。私もその魔法を覚えたい。」
フラン:「総司君…。思いの外、堂々としているわね…。
もっと恥かしがるかと思ってたけど。」
アガサ:「私も恥かしいかと思ったけど、気にならないわね。
みんなが綺麗過ぎて現実感がないからかしらね。」
僕はマリカさんの魔法のお蔭で常時賢者モードだ。
デル:「アイさん、楽器を作って貰っていい?
そろそろ三人で演奏したい。」
アイ:「いいよ。」
アイさんは、ヴァイオリンをデルさん、
フルートをダリアさんに渡し、
アイさん自身はヴァイオリンを持つ。
デル:「それじゃ、いくわよ~。」
デルさんがコンサートマスターとして演奏を開始すると
アイさんとダリアさんが続く。落ち着く綺麗な曲だ。
綺麗な曲を聴きながらジャグジー温泉に浸かる。
至福のリラクゼーションではないだろうか。
僕はそのまま眠ってしまった。




