34.武術大会⑥三日目、最終日前夜
フラン:「先に家に帰ってて。チケットを買って帰るから。
ほんとにキッチリ6枚で足りるね。」
総司:「僕も行きます。飛んで行った方が早いですし。
みんなに先に帰っててって言っておいて。」
僕は白狐さん達に伝言をお願いして、
フランさんを後ろから抱えて役場へ飛ぶ。
フラン:「すごいねー。ほんとに三人全員が準々決勝まで
勝ち上がっちゃったね。」
総司:「そうですね。」
僕達は直に役場につき、裏口に降りる。
フラン:「ちょっと待っててね。」
フランさんは役場へ入って行く。
暫くしてフランさんが出てくる。
フラン:「ちょうど15人分の一塊の位置が取れそうだったから、
チケットを交換したり、価格差分のお金を払って確保出来た。
明日はみんな一緒に観戦出来るよ。」
総司:「いいですね。ありがとうございます。
フランさんのお蔭ですね。」
フラン:「たまたま運が良かっただけだよ。」
総司:「お金は足りましたか?足りない分は払いますよ?」
フラン:「大丈夫だったよ。余った分はアイさんに返しておくね。」
総司:「お金は返さなくて良いですよ。
職員の人達にご馳走してあげて下さい。」
フラン:「結構な金額が余ってるけど…。
遠慮なく頂いておくね。みんなにはマジック商会からの
寄付ってことで、ご馳走しておくよ。」
裏口から職員の人も出てくる。
「「「総司君、8位入賞おめでとう!」」」
総司:「ありがとうございます。」
「すごいねー!」
「強いんだねー!」
「素敵だわ!」
「結婚して!」
折角だから、頑張ってる職員の皆さんに甘いものでも用意しよう。
僕は魔法でアイスを作る。
この魔法ってこういう時に便利だよね。
総司:「良かったらどうぞ。」
「「「ありがとう!」」」
「美味しい!」
「今魔法で出したよね!?」
「何でも出来ちゃうんだね!」
「子供も作っちゃおう!」
全員にアイスを渡し終わった。
フランさんが一人の職員の口を塞いでいる。
総司:「器は返さなくていいので、良かったら使って下さい。
それでは、皆さんお仕事頑張って下さい。」
僕は後ろからフランさんを抱えて飛び立つ。
「「「明日がんばってね~!」」」
職員の人達が、手を振りながら応援してくれている。
フラン:「みんなもチケットの手配に協力してくれたんだよ。
総司君がアイスを配ってくれて良かったよ。」
総司:「それならもっと良いものにすれば良かったですね…。」
フラン:「総司君のアイスは最高に美味しいから大丈夫よ。」
家に着いてリビングへ行くと、みんなもう家に着いていた。
シモンさんとアガサさんもいる。
総司:「ただいま。」
フラン:「ちょうど良かった!
アガサさん達の分も含めて、ここにいる15人が
一塊の場所で観戦出来るようにチケットが取れたの。」
アガサ:「ありがとう!すごいわね!」
フラン:「ちょうど運が良かったのよね。
職員のみんなも協力してくれたし。」
アイ:「ありがとう。座席指定があったのね…。
チケットさえ人数分あれば、
みんな一緒の場所で観戦出来ると思っていたよ…。」
僕も座席指定のことは頭になかった。
みんながバラバラの席で見る可能性もあったんだね…。
フラン:「明日はこれまでと違って、ずっと同じ会場だから、
座ってゆっくり三人の試合が観戦出来るわよ。」
デル:「明日はアイさんも総司も試合で忙しいだろうから、
飲み物だったり食べ物が欲しかったら、
遠慮なく私に言ってね。簡単なものしか作れないけど、
魔法で用意するから。」
ソフィ:「これまでは正直余裕だったけど、
明日は一回勝てば、次はアイさんとだからね。
もうドラゴンの姿で戦っちゃってもいいよね?」
アイ:「いいんじゃない?でもブレスが観客席に
いかない様に注意してね?」
ソフィ:「アイさんにお願いがあるんだけど、
対戦は会場よりずっと上の上空にしない?
そうすればブレスの心配がないし。」
総司:「その前に武術大会でドラゴンの姿ってどうなの?」
フラン:「少なくとも禁止事項にはなってないね…。
良いとか悪いじゃなくて想定外すぎる事態だからだね…。」
シモン:「ドラゴンって…どういうこと?」
ソフィ:「私は竜族なの。」
ソフィさんはカチューシャを外して角を見せる。
朝と同じ会話になる。
アガサ:「ビックリだわ…。」
デル:「禁止されてないなら、問題無いでしょ。
みんなの驚く顔が楽しみね。」
アイ:「私はオッケーだよ。」
蘭:「ドラゴンの戦闘なんて見たことない…。
どういう感じなのかな…。」
総司:「一番特徴的なのはやっぱりブレスだね。
上空からブレスを吐かれたら、
それだけで普通の人では為す術がない。
ドラゴンと戦うには飛行と強力な防御壁の魔法が必須になる。
鱗は堅いし、回復も早い。魔力も高くなっているから、
魔法の攻撃が人型のときよりも強くなっている。
要するに強力な魔法使いでないと勝負にすらならない。
反面身体が大きくなるから攻撃が当たりやすく、
小回りが利かない。胴体が大きいから死角も広い。
ブレスを防げる魔法使いなら、
むしろ戦いやすい相手だと思う。」
楓:「そうか…。
総司君も戦ったことが有って、勝ってるんだったね。
ドラゴンは絶対的強者ってイメージだったけど、
絶対に勝てないって訳じゃないんだね。」
いや、僕は戦ったことは無い。アイさんの戦闘を見たのと、
マリカさんから聞いた話だ。ちょっと偉そうだったかな…。
ソフィ:「くっ…。総司君の冷静な分析でアイさんと戦うなら
人型の方がまだ良い様な気もしてきた…。」
総司:「誰もアイさんには勝てない。ソフィさんがどっちで
負けた方が納得がいくかって話なのかな…。」
ソフィ:「そうね…。」
レン:「どっちでもいいなら、ドラゴンの姿で戦ってほしいな。
正直、すごく見たい。」
ダリア:「私も…。」
蘭:「私も…。」
ソフィ:「考えとく…。」
総司:「勝てないとは言ったけど、良い勝負はしたいと
思ってるからね。そのために頑張ってきたんだ。」
ソフィ:「私も頑張ったよ。」
アクア:「そうですね。ソフィも頑張っていました。」
マリン:「何故か私もやらされたわね…。」
アイ:「ありがとう。二人の気持ちは嬉しいよ。」
シモン:「そういえば、遅くなっちゃったね。総司君、
準々決勝進出おめでとう。二人には来た時に言ったけど、
総司君にはまだ言えてなかったから。」
アガサ:「おめでとう。」
総司:「ありがとうございます。」
アイ:「それじゃ、夕ご飯の準備をするね。
シモンさんとアガサさんも食べていってね。」
アイさん、僕、デルさんとソフィさんで料理を作り、
みんなで配膳していく。今日も豪華な夕ご飯だ。
総司:「明日の対戦相手のイルス兵団の人達だけど、
みんな魔法使いかな?」
シモン:「勝ち残ってる人はみんな魔法使いだね。そのうち
4人は飛行の魔法を使っているのをみたことがあるよ。」
ソフィ:「この街の魔法使いは
みんな常備兵団に所属しているのね。」
フラン:「特に魔法使いは給金が良いからね。
かなり自由も認められているらしいし。
ただ、魔法使いでなくても強い人は、
同等の扱いを受けているわ。
何より名誉もあって人気のある仕事だからね。」
僕達はお金の事はあまり気にしなくてもいいけど、
普通はお給料が働くうえで重要な要素になるよね。
ソフィ:「私のところにも勧誘が来たよ。
私は総司君の従者だから総司君が入れば入るって
言っておいたけど。」
アイ:「私のところには来なかったな…。」
一瞬静かになる。
アガサ:「アイちゃんが街の家々を修復していたのを
みんなが見ていて知ってたからじゃないかな。
要するに他にやりたいことがあって、
稼ぎも相当あるのを知ってたから、
勧誘しても無駄だと思ったからだと思うわよ?」
アイ:「そうだよね。」
総司:「そうだよ。」
みんなも頷いている。
ソフィ:「ええと…。話を戻すと、
準々決勝からは相手も魔法使いってことだね。」
総司:「そうなるんだね。」
シモン:「準々決勝でアイちゃん達が対戦する相手は
飛行の魔法が使える魔法使いだね。」
フラン:「その三人とレオンさんが元々優勝候補と
言われていた人達だね。」
アガサ:「アイちゃん達の予選を見た人の中で、
見たものを冷静に受け止めた人と、対戦情報を聞いて、
アイちゃん達の実力を正確に認識出来た人は
アイちゃん達に賭けてるかもしれないけど、
事前情報を元に賭けてる人は、だいたいその四人から
二人を選んで、どっちが優勝するかで賭けているわね。」
フラン:「そう。目立ってたけど、総司君達に賭けてる人は
本当に少ないと思う。倍率がすごい事になりそうね。」
デル:「でも私は結構突っ込んだから、賭け金としては
それなりにアイちゃんと総司に賭けられてるよ。」
アイ:「どのくらい賭けたの?」
デル:「金貨100枚。」
シモン:「すごいね…。」
フラン:「本当に当たったらすごい額になるわね…。」
ダリア:「私とレンも10枚ずつ買ってるわ。」
白狐:「私達も10枚ずつだね。そもそも貰った金貨だけど…。」
ナギ:「私とマリンで金貨50枚賭けてるわ。」
フラン:「みんなお金持ちね…。普通の人は月の給金が
金貨2~3枚くらいだからね?
でも、私ももうちょっと賭けとけば良かったわね…。」
デル:「まあ、ほどほどにね…。
私はいくらでも稼げるから適当に賭けられるのよ?」
魔法で作ることを稼ぐと言っていいのだろうか…。
本当のことは言えないから、そう言うしかないんだろうけどね…。
でも、みんな楽しそうに話をしている。
賭博も娯楽といえば娯楽だよね。
この街は娯楽が少ないってデルさんも言っていたね…。
それだけに、この武術大会の賭博も街全体で盛り上がるのかな。
娯楽って、音楽、演劇、絵画、観光、ギャンブル、風俗、
あとはスポーツ関係と飲食も娯楽といえば娯楽かな‥。
アイさんは武術大会が終わったら、
この家でどんな商売をするか話をしようと言っていたけど、
娯楽関係を商売にするのが良いかもしれない。
話をしているうちに、みんな夕ご飯を食べ終わったみたいだ。
総司:「みんな食べ終わったみたいだね。片付けるよ。
みんなは話をしていていいからね。
僕は賭札を買ってないし。」
アイ:「私もする。」
アクア:「私も買っていないので、お手伝いします。」
真面目三人組で夕ご飯の片付けをする。
総司:「食後のアイスとか、欲しいものがあったら言ってね。」
ソフィ:「お酒もいい?」
総司:「いいよ。」
マリン:「え?いいの?なら私も。」
総司:「他にも欲しい人はいる?」
シモンさんやアガサさんも申し訳なさそうに手を上げる。
みんなが手を上げたので、一昨日と同様に用意する。
アイさんもついでにチーズやおつまみになりそうなものを出した。
レン:「デルさんは暫くこの街にいるの?」
デル:「そのつもりよ。」
レン:「仕方ないな。俺もデルさんの護衛だから
もうしばらくここに住ませてもらおう。」
ダリア:「私も…。いいかな?」
アイ:「もちろん良いよ。」
僕は片付けとお酒の準備が終わると地下二階に降りた。
総司:(アイさんの光輝巨槍多重陣はすごかったね。
竜の島で見たときと比べて、数も大きさも大規模になってた。
あれって防御出来るかな?)
マリカ:(普通に防御壁を展開しても簡単に砕かれるね。
避けるにしても広範囲で高密度だから、
全てを避けるのも無理だね。)
総司:(やっぱりそうだよね。)
マリカ:(多重防御壁の範囲を更に頭と身体の範囲だけに絞って、
枚数を増やせば、なんとか防ぎきれるかな。)
総司:(足は斬り飛ばされる前提で、後で復元するんだね…。)
マリカ:(せっかく地下二階まで来たから調整してみよう。)
僕は多重防御壁の範囲を絞って枚数を重視して展開する。
マリカさんと相談しながら何度か試し、範囲と枚数を調整する。
マリカ:(次は飛行して移動しながらやってみよう。)
やってみると防御壁の一枚一枚の位置がズレて重ならない。
マリカ:(移動しながらは厳しいな。
受けるときは動きを止めないとね。)
総司:(そうだね。移動しながら展開すれば当然ズレるよね。)
マリカ:(それと突破されたときも考えて、
展開するときは刀は構えたままにした方が良い。
威力が落ちれば複数でも刀で払いながら反動で避けられる。
防御壁の範囲外の槍が既に通り抜けてる前提だけどね。)
総司:(それなら多重防御壁を着弾する直前に前に射出して
威力と速度を抑えつつ僕自身も前に進んだ方がいいよね。)
マリカ:(その方がいいな。
うん。それならなんとかなりそうだね。)
光輝巨槍多重陣への対策はこのくらいしかないだろう。
総司:(追尾矢対策は自分の片手を斬って投げるんだっけ?)
マリカ:(そう。前回私がアイさんと戦闘した時、
切り離した足に全ての矢が刺さった後は追尾してこなかった。
一番近い対象の肉体が追尾の対象になる。それと着弾すると
追尾は停止するのを確認済みだ。これが一番有効な方法だよ。)
総司:(絵的に美しくないけど仕方ないよね…。)
マリカ:(複数の矢に串刺しにされたら、抜いている時間がない。
これが一番リスクが低く効率的な方法なんだよ。)
確かにそうなんだろうけどね…。
総司:(次は対近接戦だね。
アイさんの一回戦で見た光り輝く刀だけど、
僕達の光輝剣と効果は同じだよね。
でも、アイさんのは常時発動出来そうだよね。)
マリカ:(そうだね。普通の防御壁では受けられないな。
総司の刀は魔道具だから刀ごと斬られることは無い。
刀で受けるしかないな。前にも言ったけど、受けるときと、
そのまま斬られるときを見極めた方がいい。
速度もアイさんの方が数段上だ。
刀を持った方の手と頭、首、身体、この位置以外は斬られる
前提でやるしかないな。)
総司:(遠距離戦から近接戦まで、
ほとんどがトカゲの尻尾戦法だね…。
尻尾がないから、そのまま手足が逝っちゃってるけど。)
マリカ:(そういう名称を思い浮かべるから忌避感が沸くんだよ。
取捨選択…。選択と集中戦法だね。)
総司:(それも良いイメージが沸か無いけど…。
肉を切らせて骨を断つって言いたけど、骨を断ってないね…。
再生戦法の方がまだいいかな…。)
マリカ:(その方がいくらか前向きな印象だね。そうしよう。)
僕とマリカさんはくだらない事も含めて話し合いながら、
最新のアイさんの戦闘情報を元に戦い方を再構築していく。
マリカ:(それと剣術は結構訓練したけど、
体術の方はおろそかだったね。
アイさんは刀での斬り合いの中でも
手足での攻撃に急に切り替えたりしてくる。
とりあえず形だけでも説明するから、
その通りに動いて、アイさんの攻撃の方法の
一つとして覚えておいた方がいい。)
総司:(わかった。竜の島のアイさんとマリカさんの戦闘とか、
アイさんとフェリさんとの戦闘の時の
蹴りみたいな種類の攻撃のことだね。)
マリカ:(そう。)
とりあえず、見様見真似でやってみる。
マリカ:(空中では踏ん張りが利かない。作用と反作用を考えて
力のかかる向きに加速の魔法を合わせるんだ。
威力を上げるのにも使える。)
僕はマリカさんの説明を聞きながら身体を動かし、
体術の訓練を行った。
気が付くと結構遅い時間になってしまった。
マリカ:(遅くなってしまったね。そろそろ寝よう。)
リビングに戻ると、もう誰もいなかった。
テーブルの上には紙があって、
みんなからの労いの言葉が書いてあった。
マリカ:(明日も頑張ろうね。)
総司:(うん。)
僕達は二階に上がり、明日に備えて床についた。




