24.狐人の大森林①狐人族と長耳族
僕が温泉にゆっくり浸かっていると、白狐さん、蘭さん、楓さん、
他にも多数の狐人族の人が温泉に入ってきた。
男性は僕から遠巻きに。女性は僕のすぐ傍まで来る。
楓:「総司さん首まで浸かってる。恥かしがり屋さん。」
蘭:「着替えが必要かと思って用意しておいたよ。
和服も巫女服も両方あるから、好きな方を着てね。」
白狐:「ここは源泉掛け流しで湯量も多いから、
温泉の中でバチャバチャ洗っちゃっても大丈夫だよ。」
楓:「総司さんの身体見たい。胸はどんな感じかな。」
楓さんが飛びかかって来る。
総司:「うわっ!ダメだよ。」
僕が慌てて立ち上がる。
「「「「「「「えっ!?」」」」」」」
みんなが僕の胸を見ている。幸い下は水面の下だから無事だ。
蘭:「男に見える。」
楓:「女に見えないね。」
「男っぽい名前だな。とは思ってたんだよね。」
「マジか…。全然わからなかった。」
「いや、極端に胸の小さい女性かもしれない。」
「狐人は大き目だしね。そういうものかもしれない。」
「そうだね。まだ確定してないね。」
みんなの目線が下へ移動する。
僕はゆっくり座りなおす。
白狐:「蘭、楓。」
蘭:「やった!」
楓:「任せて。」
僕は蘭さんと楓さんに腕を左右から持ち上げられる。
「「「「「「「!!!!!!!」」」」」」」
直ぐに蘭さんと楓さんは僕の腕を離す。
胸が腕に当たって気持ちよかった。
僕はまた首までお湯に浸かる。
こういうのばっかりだ…。
前回見られたのは御神体だったけど…。
イルスでは二回も触られたし…。
総司:「ひどいよ。」
蘭:「ついてたね。」
楓:「棒だったね。」
僕はコソコソと狐人族の男性の方へ移動していく。
男性のみんなの顔が赤くなってきたので、行くのをやめた。
行く場所がなく、ちょうど真ん中辺りで止まる。
白狐:「総司は男だったのか…。男に負けたのか…。」
「「「白狐様、おめでとうございます!」」」
白狐:「そう…。だね…。ありがとう…。かな…。」
白狐さんの顔が少し赤くなる。チラチラ僕の方を見てくる。
色っぽくて可愛い。
しかし、その裏にある理由が怖い。
どういうことなんだろう…。
総司:「何がおめでとうなの?」
蘭:「白狐様はちょっと狐人族と違うの。妖狐って言ったかな?
強く不老な代わりに自分より強い男にしか発情しない。」
楓:「白狐様は今まで男に負けたことが無いらしい。
総司君が初めて。」
総司:「いや、勝ってないでしょ。引き分けだよ。」
「「「完璧に勝ってました!しかも手加減して!」」」
白狐:「総司は私が嫌いか?」
総司:「そんなことないよ。むしろ好みのタイプだけど…。」
白狐:「ならいいわ。蘭、楓、引き続き総司の世話をお願い。」
マリカ:(八方美人は後で大変だぞ…。)
蘭:「やった!誠心誠意奉仕しちゃうよ。」
楓:「任せて。常に知の極致へ連れて行く。
賢者モード。なんちゃって。」
最悪だ…。
最初もそうだったが楓さんは特にヤバそうだ…。
白狐:「そういう世話じゃないからね…。」
蘭:「大丈夫です。私の忠誠は白狐様のもの。
白狐様のものは私のもの。」
楓:「私の忠誠も白狐様のもの。
蘭のものは私のもの。何も問題ない。」
蘭:「それ楓が一番多くない?」
楓:「気のせい。」
白狐:「みんな上がりましょう。明日から楽しくなりそうね!」
みんな僕を見ている。僕が最初に上がらないといけないらしい。
総司:「今日は夜分に突然すいませんでした。
皆さん明日からよろしくお願いします。」
「「「「「「「総司君、よろしくね!!!」」」」」」」
僕は温泉を出た。
蘭:「総司君、外で待ってて。寝るところに案内するから。」
総司:「わかった。」
みんなも温泉から出てくる。
楓:「家まで案内する。」
総司:「よろしくね。」
僕と白狐さん、蘭さん、楓さんで歩いていく。
楓:「着いたよ。ここが族長の家。白狐様と蘭、私で住んでる。」
仲が良いと思ったら家族みたいな関係だったのか。
白狐:「もう総司の家よ。遠慮はいらないわ。」
違うよね。僕が居るのは一か月って言ったの忘れてないよね?
蘭:「もう遅いから布団敷いちゃうね。
白狐様と総司君は同じ布団で良い?」
総司:「ダメでしょ…。」
楓:「やっぱり総司君は恥かしがり屋さん。」
蘭:「大丈夫だよ。3つ並べて私達も横で見てるから。」
総司:「お願いだから4つ敷いてね。」
白狐:「総司と私が真ん中で蘭と楓はその隣ね。」
蘭:「わかりました。」
楓:「私も総司君の隣。」
マリカ:(私がちょっとだけ長く起きてるから心配ないよ。)
総司:(マリカさんも変なことしないでよね…。)
こうして4人並んで眠りについた。
狐人の大森林に来て次の日、僕はみんなの朝食を作るために
少しだけ早起きする。
お世話になるからにはそれくらいはしたい。
魔法の訓練にもなるしね。
三人は寝ていたが、僕は起きて外へ出た。
外へ出ると狐人族の人達が朝食の準備をしていた。
やっぱりある程度大人数で集まって食べるらしい。
総司:「おはようございます。朝ご飯の支度は僕も手伝いますよ。」
「おはよう。昨日の夜は大変だったでしょ。
ゆっくり寝てていいんだよ?朝の支度は私達がするから。」
「白狐様には幸せになって貰いたいからね。」
総司:「大丈夫です。」
気になる言い様だけど、気のせいだろう。
僕はいつものように魔法で料理を始める。
マリカさんに協力してもらって、大人数が食べられるように
大きな鍋や調理器具と大量の食材を魔法で出す。
「魔法で調理器具と食材を出しちゃうのか。すごいね~。」
総司:「全員分に足りるかはわかりませんけど、
たくさん作るから皆さんも食べて下さいね。」
さっぱりした肉野菜スープを作る。煮込んでいる間に
パンを魔法で用意して机に並べる。
「良い匂い。美味しそう。」
総司:「スープも出来たから欲しい人は取りに来てください。」
「私もらう~。」
「私も~。」
来てくれた人達に魔法で器を出してスープをよそっていく。
「白狐様達は起きてこないね~。」
「え?三人とも?」
「総司君ってすごいんだね。」
「総司君は朝早くから元気に起きて来てるし、更にすごいよね。」
「総司君っていろいろ強いんだね!」
朝から微妙な会話が全開だった。
これ以上言われないためにも、みんな早く起きて来てほしい。
楓:「おはよう。朝食は何だろう?お赤飯かな?」
蘭:「おはよう。昨日の夜いろいろあって遅くなっちゃったよ。」
白狐:「みんなおはよう。遅くなってすまない。」
「「「白狐様、おはようございます!」」」
総司:「おはよう。朝食出来てるから食べて。」
白狐:「総司がみんなの分も作ったのか。ありがとう。」
楓:「総汁美味しそう。いっぱい飲みたい。」
蘭:「私も頂戴。」
白狐:「それじゃ食べましょうか。頂きます。」
「「「頂きます。」」」
狐人族は頂きますをする人達だった。
いろいろ違うけど、日本の文化に近いところがあるのかな?
白狐:「パンもスープもすごく美味しい。」
蘭:「いつもはご飯だけど、パンも美味しいね。」
楓:「ほんとに美味しい。総司君は料理も上手なんだね。」
みんなで朝食を食べ終わり、
僕は大森林の先の山の上で魔法の訓練を始める。
僕とマリカさんの魔法の同時発動で刃の魔法の展開数を
増やしたり、防御壁の二重展開など、組み合わせにより
効果が高められる方法をいくつか作っていく。
マリカさんが新たな術式を作り、
自動でシンクロする部分も増やしていく。
マリカさんの使っていた術式には限定的だが、
物理法則の制限を受けない様な効果を持つものもあり、
その効果を僕も連動して使えるようになった。
それらは秘術に分類される術式らしい。
新しい方向性は大きな成果になる。
魔法のメカニズムは基本的に魔力の生成と発動の連鎖だ。
これを交互に同時に行うことで、切れ目なく効果を得られる。
これらを自動で発動できる術式により、
これまでにないスピードを得られる様になった。
マリカ:(たった半日の成果にしては大きいな。)
総司:(二人で同じ術式を共有して連動出来るってすごいね。
マリカさんのアイデアと知識のお蔭だね。
魔法を使えた時に近いくらいの感動だよ。)
マリカ:(まだまだ強くなれるさ。
この感覚を普通にして更に上に行こう。)
総司:(うん。)
昼食の時間になったので、
狐人の大森林へ戻り、昼食の準備を始める。
みんなの分も含めて大量に作る。
「総司君ありがとう。とっても助かるよ。」
総司:「いえいえ。
一人分もみんなの分もそれほど変わりませんし、
魔法の訓練にもなるので。ところで白狐さん達は?」
「今日は三人で出かけたよ。
白狐様からの伝言で、
今日の午後の稽古は無しにして欲しいって
言ってたのを伝え忘れてたね…。ごめんね…。」
総司:「大丈夫ですよ。それじゃ、
今日は一日魔法の訓練をするので。」
「剣術も白狐様並なのに、魔法も超一流ってすごいね。」
総司:「僕なんてまだまだです。
もっとすごい人もいるんですよ。
それこそ信じられないくらいに。」
「世の中広いんだね。」
総司:「この大森林を出て外の世界に行けば、すごいこと、
楽しいこと、辛いこともあるかもしれないけど、
いろいろなことを知ることが出来ますよ。」
「そういうのもいいね。私もちょっと考えてみるよ。」
僕は午後も山頂へ行き、魔法の訓練を続けた。
夕方は飛躍的に向上したスピードと、
身体能力と動作とのズレを補うために、
型のようないくつかの定型動作を繰り返す。
一応の区切りがついたときには結構遅くなっていた。
急いで狐人の大森林へ戻る。
「総司君おかえり。夕ご飯出来てるから食べて。」
総司:「ありがとうございます。頂きます。」
僕はすぐに夕ご飯を頂く。
総司:「そういえば白狐さん達はまだ帰って来て無いんです?」
「今日は長耳族の大森林に行ったみたいだから、
そろそろ帰って来ると思うよ。」
総司:「長耳族と交流があったんですね。」
「毎年、演奏を聞かせに来てくれるんだよ。大昔の約束でね。」
そういえばナギさんがそんな話をしていたね…。
「とっても美しい演奏なのよ?私達も毎年楽しみにしてるの。」
総司:「僕も聞いてみたいな。」
「たぶん総司君に聞かせるために、
長耳族にお願いに行ったんじゃないかな?」
「三人で行ってるからね。楽器を持つのに人手がいるから。」
そうなのか。だとしたら嬉しいな。
夕ご飯も食べ終わったので、ちょっと様子を見に行こうかな。
僕は長耳族の大森林へ向かって飛んで行く。
道中に光などは見えない。
さすがにこの時間で無灯火ということはないだろう。
高速で飛んだので長耳族の大森林の中心部まで着いてしまった。
マリカ:(速く飛べるようになったよね…。)
総司:(アイさんに比べれば全然だけどね。)
マリカ:(それは仕方ないよ。
ところで、長耳族のところには行ってみるか?)
総司:(でも、長耳族の代表にはアイさんが
話をするって言ってなかったけ?)
マリカ:(言ってたね。)
総司:(気が付かれない様に白狐さん達が居るか
確認出来ないかな…。)
マリカ:(どっちの種族も耳が良さそうだからな…。
気が付かれずに近づくのは無理だろうね。
昨日と同じ方法で行ってみるか?)
総司:(アイさんの言葉もあるしなぁ…。
それに今度は理由がない。)
マリカ:(理由はあるだろ。白狐さん達が心配なんだろ?
様子を見に来たというのは立派な理由だ。)
総司:(そういえばそうだったね。まあ、いいか。行ってみよう。)
マリカ:(最近は総司も男らしくなってきて良いね。)
総司:(マリカさんを真似て男らしくなるって変だよね。)
マリカ:(気にするな。)
僕は警戒される前に一気にライトの多い場所に降りる。
「だれ?」
総司:「こんばんは。今日、ここに狐人族の白狐さん達が
来ていませんか?」
「確かに来てるわね。その前に貴方は何?」
総司:「僕は狐人族の大森林でお世話になっている総司です。
狐人族の白狐さん達が戻らないので心配で確認に来ました。」
「誰か、狐人族の人を呼んできてくれる?」
「わかった」
なんとかなりそうだ。
だけど、白狐さん達はまだここに居るみたいだ。
総司:「対応して下さり、ありがとうございます。」
「え…ええ…。私は名乗って無かったわね…。ダリアよ。」
総司:「ダリアさん、素敵な名前ですね。」
ダリア:「あ…ありがとう…。」
マリカ:(総司が化けたか。魔法だけじゃなくて、
いろいろ私とシンクロしちゃったか!?)
総司:(どうしたんだろ…。つい…。)
マリカ:(え!?ホントに性格までシンクロしちゃうのかな?
それは問題だな…。術式を間違えたかな…。)
楓:「総司君どうしたの?」
呼ばれて来たのは楓さんみたいだ。
総司:「心配で見にきたんだよ。大丈夫かい?」
楓:「え…。うん…。ありがとう。なんか雰囲気違わない?」
総司:「心配だったからだよ。」
僕は楓さんの頬に手を当てる。
楓:「総司…様…。」
マリカ:(ちょっと急いで術式を確認する。)
総司:「みんなのところに案内してくれるかい?」
楓:「はい。」
楓さんは僕の方をチラチラみながら歩いて行く。
顔が真っ赤だ。
そういえば、あんまり長耳族の人を見かけないな…。
楓さんは大きな家の前で止まった。
楓:「みんなこの中だよ。」
総司:「ありがとう。」
楓さんは扉を開ける。
中にはたくさんの長耳族の人がいた。
白狐さんと蘭さんも居る。
楓:「総司さ…君…入って。」
僕は家の中に入る。白狐さんと蘭さんが驚いてこっちに来る。
白狐:「どうしてここにいるの?」
総司:「心配で見にきたんだよ。何かあったのかい?」
白狐:「そうなのね…。ありがとう。心配はないよ。
お花畑が持って行く楽器と人員に迷っていたら、
こんな時間になっちゃったのよ。」
またお花畑…。どういう意味だろ?
昨日といい、文脈から人の名前っぽいな。
蘭:「総司君わざわざ来てくれたんだね。」
総司:「心配だったからね。大丈夫かい?」
僕は蘭さんの頬に手を当てる。
蘭:「ちょ…。なんか雰囲気違わない?」
楓:「今夜の総司様はやばい。」
蘭:「…様?」
楓:「間違えた。」
総司:「白狐さん。長耳族の方に僕を紹介してもらっていいかな?」
白狐:「そうよね。ごめんね。お花畑!ちょっと来て。」
「はーい。」
ピンクの髪をした、おっとりした美人の長耳族の人がこっちに来る。
あの人がお花畑さんらしい。
白狐:「紹介する。昨日から私達と共にいる総司だ。
既にお花畑には総司について話はしてある。」
総司:「総司です。よろしくお願いします。」
白狐:「こちらが…名前なんだっけ?」
「デルフィニウム・ド・フラワーガーデンですわ。
長耳族の代表をしています。
お花畑じゃなくて、デルって呼んで下さいね。」
苗字?がある人は初めてだ。しかも名前が長い…。
ド?ドって何だっけ?
総司:「素敵なお名前ですね。
親愛を込めてデルさんと呼ばせて頂きます。」
デル:「まあまあまあ!素敵な方ですね!」
白狐:「そうだろう。私のだからね。」
デル:「そうなの?
強い男性じゃないとダメなんじゃなかったっけ?」
白狐:「総司は強いわよ。昨日の夜負けたわ。」
デル:「白狐ちゃんが?うっそだぁ。」
総司:「白狐さん。狐人族のみんなが心配している。
ここでの話もあるだろうけど、一度無事を知らせに行こう。」
白狐:「私を心配?そんなことはないと思うけど…。」
うん。あんまり心配してなかったね…。
なんでこんなこと言っちゃったんだろう…。
総司:「僕がこうして心配で見に来ている。」
僕は白狐さんの頬に手を当てる。
白狐:「そうだね…。ありがとう。」
デル:「総司さんが強いって女に強いって意味?
夜負けたってそういうこと!?」
楓:「最強。」
蘭:「いやいや、何かさっきから総司君がちょっと変だよ。
朝と雰囲気が全然違うよね。」
白狐:「そういえば、総司がここに来てくれたなら、
わざわざ行かなくてもいいわね。
総司に長耳族の演奏を聞かせたかったの。
とっても良い演奏なの。」
デル:「私もその方が助かるわね。それじゃ準備するね。」
総司:「準備にはどのくらい時間がかかりますか?」
デル:「人も呼んでこないといけないから一時間くらいかな。」
総司:「僕のためなんですよね。ありがとうございます。」
デル:「白狐ちゃんの頼みだからね。」
総司:「白狐さん、みんなのところに無事だけでも知らせに行こう。
一時間あれば行って帰ってこれる。
白狐さんが説明してくれた方がみんな安心するから。」
白狐:「一時間で行って帰って来るなんて無理よ。」
総司:「大丈夫。僕を信じて。」
白狐:「わかったわ。」
デル:「ゆっくり準備しておきますわね。」
僕は白狐さんの腰に両手を回して抱きしめる。
総司:「白狐さんも両手で僕の首に掴って。」
白狐:「わ…わかったわ。」
楓:「白狐様うらやま。」
蘭:「私もやってほしいな…。」
白狐さんが僕の首に掴まる。
総司:「いくよ。しっかり掴っててね。」
僕はそのまま扉を出て飛行の魔法で飛び立ち全力で飛行する。
白狐:「ほんとに速いわね。これなら本当に
行って帰ってこれそうね。総司は本当にすごいね。」
総司:「嘘は言わないさ。」
狐人族の大森林につく。
総司:「ただいま。みんな聞いて。
長耳族のところで、楽器の演奏を聞いてくる。
準備が遅くなって今からだから、
今日は向こうに泊まって来るね。」
白狐:「総司の言う通りよ。明日帰ってくるから心配しないでね。」
「総司君がいないと思ったら、白狐様のところに行ってたのか。」
「熱いわね。」
「白狐様、こっちは心配ないから、ゆっくりしてきてください。」
白狐:「ありがとう。急ぐから行くね。」
「「「行ってらっしゃい!!!」」」
僕はまた引き返す。
長耳族の大森林に着き、デルさんの家に入る。
総司:「着いたよ。もう手を離していいよ。」
白狐:「うん。」
白狐さんが僕の顔を見ていたが、少ししてから手を離した。
デル:「忘れ物?」
白狐:「いや、もう行ってきた。」
デル:「うっそだぁ。」
白狐:「ほんとだってば。信じられないのもわかるけど。」
デル:「まあ、用事が済んだのならどっちでもいいわ。
まだ準備が出来てないから、もうちょっと待ってね。」
楓:「総司君、私も忘れ物した。取りに帰りたい。」
楓さんが両手を伸ばしてくる。
蘭:「嘘を言うんじゃないの。」
蘭さんが楓さんを引き離す。
楓:「蘭はわかってない。協力した方が得だぞ?」
蘭:「楓は後で私を蹴落とすでしょ。」
舞台を見るといろいろな楽器がある。
総司:「あの楽器はデルさんが作ったのですか?」
デル:「そうなの。すごいでしょ。」
総司:「本当にすごいです。聞くのがとても楽しみです。」
笑顔でデルさんに言う。
デル:「楽しみにしててね。」
「デルさん準備出来たよ~。」
デル:「は~~い。」
長耳族の人達が各々の楽器を手に持つ。
デルさんが指揮者だ。
デル:「今日は狐人族の方々が来てくれています。
楽しい時間を過ごして貰えるように
最高の演奏にしましょう。」
僕達は用意された椅子に座り、静かに待つ。
デルさんが指揮を始めると、美しい演奏が始まる。
元の世界で聞いたことがある曲もあった。
なるほど。
アイさんと知り合いという話と合わせて考えると
間違いないだろう。
デルさんは転生者だ。
マリカ:(良い演奏だね。)
総司:(そうだね。懐かしいね。)
マリカ:(そう…だな。)
マリカさんも聞き入っていると思う。
僕も懐かしさにこみあげてくるものがある。
気が付けば涙が流れていた。
唐突にたくさんのことを思い出す。
僕は死んだという感覚があまりない。
転生した直後から優しい人達に囲まれた幸せな毎日だったから。
それでも…。
僕は理不尽に、たくさんのものを失っていたことに、
今になって気が付いた。
演奏が終わっても僕の涙は止まらない。
デルさんが僕の頭を撫でていた。
いつの間にか僕の前に来ていたみたいだ。
デル:「頑張ったね。」
僕はデルさんに縋りつき、声を出して泣いていた。




