19.人間の街ザウル⑤イルスの街へ
マリカ:(総司。総司。そろそろ起きなさい。)
総司:「ん…。おはよう。」
人魚達:「「「おはよう。」」」
総司:「え?お…おはようございます。」
起きると人魚達が僕を見ていた。
みんな僕の目線より少し下の方を見ている。
人魚:「触っていい?」
総司:「ダメです…。」
僕は慌てて隠しながら立ち上がる。
人魚:「残念…。せっかく早起きしたのに…。」
人魚:「私はもう一回寝ようかしら。」
総司:(アイさんとソフィさんは?)
マリカ:(朝ご飯の支度に行ったよ。
人魚達はアイさんとソフィと入れ替わりで入ってきたね。)
総司:「みんなは朝ご飯は食べたの?」
人魚:「食べてないよ。」
人魚:「夜の仕事だから、いつもは朝はもう少し遅いんですの。」
総司:「早起きして様子を見に来てくれたんだね。ありがとう。」
笑顔でお礼を言うと人魚達は嬉しそうにしてくれた。
人魚達のうち二人は、誰かと誰かと顔と雰囲気が似ている…。
人魚:「朝ご飯なら食堂に案内しますわ。
アイさん達が用意してますの。」
総司:「ありがとう。」
僕は人魚達に案内されて食堂へいく。
食堂にはアイさんとソフィさん、人魚達も数人いた。
アイ:「総司君、起きたんだね。おはよう。
ちょうど朝ご飯が出来たよ。」
ソフィ:「おはよう。」
総司:「おはよう。今日も良い匂いだね。並べるの手伝うよ。」
アイ:「みんなの分もあるから遠慮なく食べてね。」
人魚達:「「「頂きます!」」」
ナギ:「おはよう。今日はみんな早いんだね。」
ナギさんも食堂にきた。これで全員かな?
アイ:「昨日の夜にみんなへのお土産に装飾品をいっぱい作ったの。
気に入ったのがあったら使ってね。
残ったのは売って、この街の人達と人魚が
仲良くなるための資金に使ってね。」
人魚達:「「「ありがとうございます!!!」」」
ソフィ:「別にしてある出来の良くないのは、
練習で私が作ったのだから…。遠慮なく売っちゃってね。
素材代くらいにはなるから…。」
人魚達:「「「ソフィさんもありがとう!!!」」」
僕製のものはマリカさんの指示で作ったので、案外センスが良い。
僕の好みに合っているだけかもしれないけど。
技巧や精密さではアイさんの作ったものに劣るが、
デザインは個人的にはマリカさんの方が良く見えた。
この世界の魔法で単一金属を作る場合、
例外は多々あるが、基本的に元素番号が高い方が難しくなる。
ソフィさんが作ったのはアルミニウム製だから
簡単な割には高く売れる素材だ。
もちろん物質化の魔法は魔法使いでも出来る人が少ないので、
ソフィさんも一般的には相当すごい部類になる。
アイ:「これからイルスに行くんだけど、
知ってることがあったら教えてほしいな。」
人魚:「ここ何年かはイルスからザウルに
引っ越してくる人が多いですわね。」
人魚:「領主が変わって住みにくくなったって聞いた。」
ナギ:「領主が変わって、人間族とその他の種族で
城壁内に入る通行料が変えられたそうね。
住民は無料だけど、移民や商人は人間族で
銀貨1枚、他種族で銀貨2枚って聞いたわ。
市民権を得るにも人間族以外は厳しくなったみたい。」
人魚:「決まり事もいろいろあるみたいで面倒らしい。」
ナギ:「大きな違いといえば、イルスは常備兵がいることかしら。
ザウルは有事に臨時で徴兵する決まりがあるけど、
私が知る限り徴兵されたことはないわね。」
人魚:「事例はある。
前回は当時代表だったマリンさん達が
ヤルザに報復に行った時に、
ザウルも人魚族の襲撃に備えて徴兵した。」
ナギ:「あったね…。そんなこと…。」
ジルベルトさんの話はこれか…。事実だったか…。
ナギ:「ちゃんと説明するから聞いてね。
若い人魚が攫われた報復のつもりだったの。」
ナギさんはアイさんが怖い目になったのに気が付いて
慌てて説明を始めた。でも言葉尻が曖昧だね…。
人魚:「不幸な行き違いでしたわ。
若い人魚が最後に目撃されたのが南の方の海岸だったので、
ヤルザの住民に攫われたと思い、
報復と救出のために私もヤルザに行きました。
誰も殺しはしませんでしたが、
探しても見つからず、数人の若い男を人質として攫いました。
住民達は慌てて逃げたので何軒か火事になってしまいましたわ。
町に戻って数日後に、若い人魚は
遭難していたらしく、自力で戻って来ました。
勘違いだったと気が付いて、
攫った男達はヤルザの町に返しましたわ。
いろいろしましたけど、
攫った男達はみんな帰りたくなさそうでしたよ?」
ジルベルトさんの話と合う。
嘘を言っているようには見えない。
伝わるうちに誇張されることもあるだろう。
アクアさんの話では、もう少し過激な言い様だったけど、
アクアさんも伝え聞いているだけかもしれない。
人魚は不幸な行き違いと言っているが、確かにそうも思える。
マリンさんの後先考えない性格も悪いけど、
早く救出しなくちゃいけない気持ちもわかる。
人間側の証人は遥か昔に寿命で亡くなっているだろう。
事実はこれだと伝えても信じてもらえるとも思えない。
アイ:「それ完全に人魚の方が悪いよね。」
ナギ:「もっと昔に実際に攫われたこともあったの。
マリンの行動は軽率だったけど、気持ちもわかるわ。」
総司:「これから仲良くする中で返していくしかないよね。
返すと言っても贖罪って意味じゃないよ。
時効って考え方もあるし、
同じ様な事が無い様に注意するしかないよね。
今更事実を伝えても信じて貰えないだろうし、
怖くないと理解してもらうしかないよね。」
アイ:「そうだね。これからは最初に話し合いが
出来るくらいには最低限なってないとね。」
人魚:「昔よりは近い存在にはなってる。もう大丈夫。」
総司:「ナギさん達のお蔭だね。」
ナギ:「そ…そうよ。ちゃんと考えてたんだから。」
アイ:「その話は終わりね。
話を戻すとイルスは、
この街と違って常備兵がいるってことね。
常備兵にはお金もかかるし、
想定している相手がいるってことかな?」
ナギ:「総司君にもっと褒めてもらいたかったのに…。
常備兵の設立は、狐人族と長耳族を警戒してだね。
大昔に長耳族がこの大陸に来た時に、
既に住んでいた狐人族と大森林の取り合いで揉めたの。
そして被害が出ない様に、両方の代表同士の一騎打ちで、
勝敗を決めることになった。
その戦いは狐人族の代表が勝ったんだけど、
狐人族の代表が、戦闘中に長耳族の代表を鼓舞するために
長耳族が演奏していた音楽を気に入って、
長耳族に大森林の南側を分けてあげたの。
大森林は東と南東で2つだったしね。
両方の代表はとても強くて、それを見た人間族が恐れて
数で対抗するしかないと思って、常備兵を作ったのが始まりよ。
その後は不要と思っても、常備兵の組織が既得権になって、
ずっと残っている感じかな。」
総司:「ナギさんすごい詳しいね。見てたみたい。」
ナギ:「いや、実際に見てたの。当時は大騒ぎだったわ。
森だと被害が出るから平地で戦ったんだけど、
イベントみたいにたくさんの人が見ている中での戦闘だったのよ。
今でも思い出せるくらいすごかったわ。」
人魚:「ナギさんは生きている人魚で最高齢。
年寄り扱いされたくないから昔のことはあまり話さないけど。」
アイ:(演奏好きの長耳族ね…。)
総司:(どうしたの?)
アイ:(長耳族の代表の方は私が話をするね。
簡単に協力してもらえるかもしれない。)
ソフィ:(知り合いなの?)
アイ:(もしかしたらね。想像通りなら、まだ生きていると思う。)
マリカ:(でも、狐人族の代表に負けたんだよね?)
アイ:(演奏の練習ばっかりで、
訓練はあまりしない方だったから…。
魔法は一通り出来るから、十分に強い魔法使いなんだけど、
武器を使った戦闘とかは全然なの…。)
マリカ:(そうなんだ…。)
総司:「強い人の戦いって僕も見たかったなー。
どういう戦いだったの?」
ナギ:「どっちも破格の強さだったわ。
長耳族の代表は遠距離、狐人族の代表は
近距離で強い感じだったわね。
そういえば、狐人族の代表の武器は
総司君の持っている武器と似てたわね。
最後は長耳族の代表の手足を切り落として決着だった。
長耳族の代表は手足の1本くらいは切り落とされても
回復してたけど、4本がほぼ同時に切られたら、
さすがにすぐに回復は無理だったみたいで降参してたわね。
長耳族の代表は武器を使ってなかったから
近づかれると慌ててたし。
強い魔法使いだけど、戦闘は苦手に見えたわね。
狐人族の代表は他の狐人族とちょっと違ってたかな。
尻尾がたくさんあったわね。」
総司:(長耳族の代表の人はアイさんの知り合いの方と
特徴が一致してるね。狐人族の人は知り合いじゃない?)
アイ:(狐人族の人はわからないな…。)
総司:「ありがとう。」
アイ:「私と総司君の戦闘は、竜の島の人魚の島にある魔道具に
映像として保存したままだから、行ったときに見れるよ。」
ナギ:「そんなものまで保存できる魔道具があるんだね。
行った時に見てみるわ。」
アイ:「船も改造してあるから、三日くらいで着くよ。」
人魚:「え?竜の島まで三日で着くの?」
アイ:「そうだよ。速すぎて漏らしたりしないようにね。」
人魚達:「「「すご~~~い!」」」
ナギさんが泣きそうな顔でアイさんを見ている。
アイ:「他にもいろいろ変わってるから、
アクアさんに聞くといいよ。」
ナギ:「そういえばまだ聞いてないから、今日聞いておくわ。」
話が変わって安心したナギさんが答えた。
アイ:「一つお願いがあるの。西の大通りにある不動産屋の
ジルベルトさんって知ってる人いる?」
人魚:「知ってますわ。もう十年以上お店に来てないけど、
私のお得意様でしたわね。」
アイ:「ジルベルトさんに、私からお願いしている事があって、
たまに様子を見に行ってほしいの。
それと困っていたら助けてあげてほしい。」
人魚:「わかりましたわ。」
アイ:「ありがとう。よろしくね。」
話ながらの朝食だったが、みんなもう食べ終わっている。
総司:「片付けは僕がするよ。
まだ話があったらそのまま話をしていていいからね。」
僕は立ち上がって片付けを始める。
ソフィ:「私も手伝う。」
ナギ:「ありがとう。
話といえば、さっき話をした常備兵だけど、
領主が変わってから人員を増やしてるって聞いたわね。
前領主は常備兵を少しずつだけど減らしていたらしいから、
大きな方針転換ね。」
アイ:「理由は知ってる?」
ナギ:「知らないわ。聞く限りは領主が変わったからだけど、
その領主がどうしたいのかまでは、わからないわね。」
アイ:「そういえば、この街の領主のことも全然知らないから、
知ってることがあったら教えて。」
ナギ:「この街の領主は商人組合から選出されてるの。
商売が上手くいっていて、
後継者が決まっている商人から選ばれるわね。
任期は罷免されない限り10年。
住民の不満が多くなると実家の商売に
影響するから、みんな頑張ってるわよ。
街の中心の良い家にも住めるしね。」
アイ:「良い方法ね。イルスもそうなの?」
ナギ:「イルスの前領主は魔法使いだったの。
人間にしては長生きだったわね。
住民からも慕われていたらしいわ。
長く領主をしていたけど、数年前に亡くなったの。
その後に後継者がどう決まったかは知らないわ。」
アイ:「いろいろありがとう。参考になったよ。」
総司:「片付け終わったよ。」
アイ:「それじゃ、そろそろ行きましょうか。」
ナギ:「いつでも時間があったら、なるべくここに来てよね。」
アイ:「もちろんよ。定期的に様子を見に来るからね!」
総司:「昨日ナギさんに声をかけて貰えて良かった。
これからもよろしくお願いします。」
ソフィ:「今度はみんなでお酒飲もうね。」
人魚達:「「「また来てね!」」」
みんな家の前まで送りに来てくれた。
ザウルでは二泊三日の短い間だったけど、またすぐに来るだろう。
とても良い街だった。
アイ:「イルスも楽しいといいね。」
総司:「きっと楽しいと思う。」
ソフィ:「私は見るもの全てが新鮮で、ずっと楽しいな。
イルスでもきっとそうだと思う。」
マリカ:(そうだね。)
街を出たところでみんなで飛行の魔法で飛び立った。




