18.人間の街ザウル④北の大陸の人魚族
アイ:「それじゃ、西の町に行きましょうか。」
ナギ:「あー。えーとね。
夜からお仕事があるんだけど…。」
アイ:「え?夕飯ご馳走してくれるって言ってたのに…。」
人魚:「ナギさんは今日は非番です。」
アイ:「なら問題ないね。」
ナギ:「………」
アイ:「外も暗くなってきたし、
サクッと飛んで行っちゃおう。」
人魚:「ナギさん行ってらっしゃい。アイ様また来てね。」
ナギ:「ちょっとは引き留めてよ…。行きたくないなぁ…。」
アイ:「ぐずぐずしてないで行くよ。」
アイさんがナギさんを後ろから押して外に出る。
アイ:「暗くなってきたけど、
あんまり人に見られたくないから、
高速飛行で行くね。」
アイさんが後ろから僕に抱き着く。
アイ:「ソフィさんとナギさんは
横から私と総司君に抱き着いて。」
ソフィ:「わかった。」
ナギ:「行きたくないなぁ…。」
文句を言いながらナギさんも抱き着いてくる。
ナギ:「総司君良い匂い…。やっぱり男だったのね。」
ナギさんは不必要なまでに密着して足を絡めてくる…。
アイ:「しっかり捕まっててね。それじゃ、行ってくるね。」
人魚達:「「「行ってらっしゃい!」」」
僕達は浮き上がり、
周囲に防御壁が展開された瞬間に急加速で
西へ飛び立った。
防御壁内の空気ごと移動しているため、
風圧は感じないが、加速の衝撃はある。
身体強化されていなければ、
手が千切れるほどの衝撃だったろう。
総司:「ロケット花火みたいだ…。」
ナギ:「手が千切れるかと思った…。
ちょっと漏れたかも…。」
更に水平方向へ加速は続いている。
「パン!」
総司:「何?音がしたけど…。」
アイ:「音速を超えた瞬間だよ。
気流を調整して音が立たない
ようにしてるんだけど、
もう少し上手くやらないと
地上に衝撃波が行っちゃうかな。」
ナギ:「高さも速さもありえない…。」
ソフィ:「私はこういうの慣れてきたなー。」
アイ:「もうすぐ着くよ。減速するね。」
ナギ:「嘘でしょ…。三食のご飯と睡眠以外は
ずっと走って2日はかかるんだよ…。」
地上を見るとペンギンが慌てて町から逃げているのが見える。
総司:「ちょっと下半身が冷たくなってきたんだけど…。」
ナギ:「ごめん…。町の手前で降りて着替えない?」
アイ:「しょうがないなぁ。」
急下降して町の手前に降りる。
僕とアイさん、ナギさんは身体を水で流して、
アイさんが魔法で出した服に着替えて、
着ていた服を焼却処分した。
逆側にいたソフィさんは無事だった。
ナギ:「屈辱だわ…。
こういうの喜ぶ人だっているんだからね!」
人魚の人達のこういうのにも慣れてきたな…。
アイさんが僕の足に鼻を近づけてクンクンしている。
アイ:「匂いは取れたみたいね。」
ナギ:「屈辱だわ…。」
アイ:「さて。気を取り直して行きますか。
ナギさんは娘さんとお孫さんに会うんだから、
しっかりしないとね。」
アイさんはニヤリと笑い、ナギさんを見る。
ナギ:「わかってるわよ…。
アイちゃんの言うことに従うわ!」
人魚の町までの残り少しの距離を、
各々の飛行の魔法で移動する。
町の入口でアクアさんとマリンさんが立っていた。
アクア:「おかえりなさいませ。
ペンギン達が逃げて行ったので、
アイ様がお戻りになると思い、お待ちしていました。」
マリン:「せっかく大丈夫だからって呼び戻したのにね。」
アイ:「ただいま~。昨日出ていったばかりで、
すぐに帰ってきて悪かったわね。
事情があるんだから仕方ないでしょ。」
僕は後ろでモジモジしているナギさんを
後ろから押して前に送る。
ナギ:「久しぶり~。元気だったかな?」
マリン:「元気よ。先代も元気そうね。」
アクア:「おばあちゃん…。まだ生きてたんですね…。」
ナギ:「人間の街でアイちゃん達と会ってね…。
ついでに連れてきてもらったの。」
アクア:「こんな短期間によく見つかりましたね。」
アイ:「人魚ホイホイに引き寄せられてきてね…。
人魚の町と人間の街の交流を進めるのに
丁度いいと思って連れてきたの。」
アクアさんとマリンさんが僕の方を見ている。
僕は何もしていない。不本意な言われ様だ…。
マリン:「立ち話もなんだから、とりあえず家に行こうか。」
アイ:「そうね。」
全員で港傍の家に向かう。
人魚達:「「「おかえりなさーい!」」」
竜の島から一緒に来た人魚達も、みんなこの家にいるようだ。
総司:「ただいま。」
笑顔で答えると、みんな嬉しそうにしてくれる。
アイ:「それじゃ、いきなりだけど、話の本題に入るね。
ナギさんは人間の街ザウルで人魚であることを隠して
人間達と仲良く暮らしていたの。
もう少し先の話と思っていたんだけど、
この際だからナギさんに、
人魚と人間が仲良く出来る様に
協力して貰おうと思うの。」
ナギ:「人魚であることを隠してと言っても、
公然の秘密って感じで、
付き合いのある人達は
私達が人魚だって既に知っている。
それほど難しいことじゃないと思うわ。」
アイ:「人魚の町に住むみんなも必要に応じて人間の街で、
交流を深める協力をしてほしいの。
簡単に役割分担するなら
ナギさんの指示で交流を進めていく。
アクアさんは人魚達と共に道の整備。
マリンさんはペンギン族も含めた仲介かな。
ナギさんの家にもモニターを設置するから連絡に使って。」
アクア:「かしこまりました。」
マリン:「アクアから事情は聞いてる。
竜の島へ行くつもりだったけど、
当面はアイちゃんの指示通りに協力するわ。
この街に住む人魚達への
連絡と協力も私からお願いしておくね。」
人魚達:「「「わかりました!」」」
アイ:「みんなありがとう。」
アクア:「アイ様。お礼を言うべきは私達です。
いつもありがとうございます。」
ナギ:「アクアがこっちに来ちゃってて、
竜の島の方は大丈夫なの?」
アクア:「その辺のことも後でお話しさせて頂きます。」
アイ:「そうね。連絡と今後の話も出来たし、とりあえず、
モニターを設置するのにナギさんの家へ戻ろうか。
竜の島のことは後で、ナギさんの家にいる人魚達も
含めて連絡しておいて。」
アクア:「かしこまりました。」
ナギ:「なんかいろいろありそうね。」
マリン:「今から人間の街に戻るの?」
ナギ:「信じられないだろうけど、
ザウルの家からここまで、
10分くらいで来ちゃったのよ。
帰りもそのくらいで着いちゃうと思うわよ?」
アイ:「それじゃ、戻ろうか。また来るよ。」
来た時と同様に、
ロケット発射と高速飛行でナギさんの家に戻る。
人魚:「忘れ物?」
ナギ:「いや、もう行ってきたよ。」
人魚達:「「「は?」」」
アイ:「ただいま~。早速モニターを設置しよう。
人魚達共有のシークレットルームみたいな部屋はあるかな?
身内だけが立ち入れる場所に案内して。」
既に自分は身内という態度でアイさんは言っている。
ナギ:「モニターって何なのか分からないけど、
私の部屋が二部屋あるから、手前の部屋にしようかな。」
人魚:「まだ仕事までに時間があるから私達も行く~。」
みんな揃ってナギさんの部屋へ入る。
アイ:「ソフィさん、いつもみたいに手伝って。」
ソフィ:「はいはい。」
ソフィさんはモニターが出現した時に
支えられるように手を出す。
アイさんもいつものように両掌を胸の前で向かい合わせて
魔素結晶を作り、モニターを作る。
人魚達:「「「おおお~~~!!!」」」
ナギ:「すごい大きさの魔素結晶だね…。
それで作る魔道具とか、すごそうだね…。」
アイ:「ここに置くね。」
壁際に台座を作りモニターを設置し、
モニターを起動する。
アイ:「聞こえる?」
アクア:「お疲れ様です。
アイ様の声とお姿が問題なく映っております。」
人魚:「代表が映ってる。どういうこと?」
アイ:「同じものを人魚の町に設置してあるの。
モニター同士で姿が確認出来て会話も可能なのよ。
ナギさんとみんなも試してみて。モニターに魔力を
込めて会話すれば、向こうに通じるから。」
人魚達:「「「すご~~~い!!!」」」
ナギ:「夢みたいな話だね…。アクア。聞こえる?」
アクア:「おばあちゃんの姿が映っています。
おばあちゃんの声も聞こえますね。」
ナギ:「ワザとらしくおばあちゃんって繰り返さないで。」
アイ:「問題ないみたいね。みんなも試してみて。」
人魚達:「「「は~い!」」」
みんながモニターを使って会話を始める。
向こうもマリンさんや、周りの人魚達も参加して、
みんなで楽しそうに会話している。
久々の再会だろうから、
話したかったことがたくさんあるだろう。
アイ:「言い忘れてた。竜の島とも繋がるよ。
アクアさんにやり方を教えて貰って、
試しておいてね。」
人魚達:「「「は~い!」」」
いろいろあったが竜の島を出てから、
まだ3日しか経っていない。
アクアさんが北の大陸に無事に着いたことは
知らせてくれているだろうし、
会話に混ざる必要もないだろう。
アイ:「予定通りに高級料理店に食べに行こう。
ナギさん、一番美味しいお店に案内して。」
ナギ:「約束だったしね。良いわよ。」
ソフィ:「今思えば、私はここで待ってても良かったね。」
総司:「ソフィさんはまだいいよ…。
僕は行った意味が無いうえに、ナギさんのせいで
着替えなきゃいけない目にあったんだから…。」
ナギ:「美味しい物を食べて忘れようね。お願いだから。」
ナギさんは人魚達に聞かれる前に僕達を家から押し出す。
総司:「どんなところに案内してもらえるのか楽しみだね。」
ソフィ:「お昼も豪華だったから、期待しちゃうね。」
ナギ:「近くだからすぐに着くよ。
歓楽街は一等地だからね。
この辺には良いお店が集まってるのよ。」
ナギさんは一際豪華なお店に入ると、店員と話を始めた。
ナギ:「この4人だとちょっと目立っちゃうから個室を取ったわ。
遠慮なく注文してね。
お代はアイちゃんから金貨をいっぱい貰っちゃってるしね。」
ナギさんは可愛くウィンクする。
種族のせいとは言え、歳を感じさせない。
とても可愛い仕草もたまにする。とても魅力的な人だ。
店員について行くと丸いテーブルのある個室に案内された。
アイ:「素敵な部屋ね。どんな料理が出てくるか楽しみ。」
ナギ:「コースが良いかな。
いろいろな種類が食べたいんだっけ?」
アイ:「そう。」
ナギ:「それなら使う食材を指定してコースにしてもらおうか。
ちょうど4人だし、魚貝、牛、豚、鳥、羊って感じで。」
アイ:「それいいね!それでお願い!」
ナギ:「それじゃ注文しちゃうわね。」
このお店の料理はとても美味しかった。
種類も調理法も様々で、いろいろな味を楽しむことが出来る。
アイ:「私の料理より美味しい!
覚えるものがたくさんあって嬉しい!」
総司:「アイさんの料理はもちろん美味しいけど、
こっちはやっぱりプロの料理って感じがするね。」
ソフィ:「竜の島にいたらこんなの食べられなかったなー。」
マリカ:(総司、アレまだ食べてないから食べて。)
ナギ:「満足してもらえたみたいで良かったわ。」
総司:「もうお腹いっぱい。」
アイ:「そうね。私も大満足!」
ナギ:「私ももう食べられないわ。
泊まるところを決めてないなら、
うちに泊まって行きなよ。」
アイ:「そうね。今日はナギさんの家に泊めて貰って、
イルスに行くのは明日にしよう。
泊めて貰う代わりにお土産をたくさん作っちゃうよ!」
ナギ:「それじゃ、帰ろうか。お会計してくるわね。」
みんなで店を出てナギさんの家に帰る。
今日一日でいろいろあった。
朝は資金調達のために金を売り、
情報収集のためにジルベルトさんの不動産屋で話を聞いた。
そこでジルベルトさんに、
この街の他種族のことをお願いした。
その後に、この街の食品加工業の多い場所で、
食料事情の確認と食材の魔法の研鑽をした。
その時に人魚のナギさんと出会い、
人魚の町と人間の街の交流を深める準備のために
人魚の町へ行って今後のことを話し合った。
ザウルの滞在期間は短かくなりそうだが、
これから関係する種族が仲良く暮らしていけるような
準備が出来たと思う。
総司:「そういえば、アイさんはこの街で、
まだやりたいことがあるって言ってたよね?」
アイ:「うん。今からするから大丈夫。
ナギさんや人魚達へのお土産や資金援助にもなるし、
良い事ばっかりのことだよ。
総司君も手伝って。」
総司:「良いよ。何するの?」
アイ:「装飾品の大量生産。」
そういえば朝そんなこと言ってたね…。
アイさんは根に持つタイプだった。




