15.人間の街ザウル①ザウルの人々
ペンギン族と仲良くなることを諦めた僕達は
人間の街に向かった。
近くに行くまでは飛んで移動する。
アクアさんは情報交換と、
今後の人魚の一族の事を話合うために
人魚とペンギンの町に残った。
一緒に来た竜の島の人魚達も
しばらく北の大陸に留まるらしい。
総司:「この大陸ではペンギン族を除いてだけど、
人間が一番多くて、
文化も一番発展しているって話だけど、
どんな感じなんだろうね。」
アイ:「農業、漁業、畜産とかをしてるって話だから
共同体としてはそれなりに機能してるんだろうね。」
マリカ:(ソフィは角を隠した方が良いんじゃないか?
ペンギン族みたいに
見る前から怖がられるって事はないだろうけど、
角を見れば怖がる人もいるかもしれない。)
ソフィ:「そうだね…。
話す前から嫌われるのはちょっと面倒だから、
そうしようかな。」
マリカ:(私が作ってあげるよ。
猫耳、犬耳、狐耳、兎耳のどれがいい?)
ソフィ:「この大陸には狐人族がいるって話だから
違和感が無いのは狐耳かな。」
総司:「逆に人間と狐人族とでトラブルになってたら
弊害になるかもよ?」
ソフィ:「確かにそうだね。
兎だと長すぎて上に当たっても気が付かないで
変装ってバレても面倒だから猫耳か犬耳かな。
アイさんはどっちが良いと思う?」
アイ:「そうね。その前にソフィさんの角は
結構大きいけど隠れるの?」
マリカ:(角が透明になる魔道具にするから大丈夫だよ。)
アイ:「それがあったね。」
ソフィ:「それなら耳じゃなくて良くない?
細いシンプルなカチューシャにしてよ。」
マリカ:(耳の方が可愛いと思うけど…まあいいか。
総司、ソフィの頭に手を当てて。)
総司:「はいはい。」
ソフィさんの頭に細くて黒い
シンプルなカチューシャが出来る。
総司:「おー。見えなくなった。すごいね。」
アイ:「これで見た目は人間3人の旅人っぽくなったね。」
マリカ:(あとは当然初見だろうから、
どこから来たかとか聞かれそうだな。
南の方の小さな島とか言っとくか?)
アイ:「そうね。どこにどんな種族が居るかとか、
周辺くらいしか分かってないだろうし、
そんなので良いよね。」
ソフィ:「全員が念話も使えるし、臨機応変にいけるね。」
総司:「そうだね。」
森を抜けると遠くに牛がたくさんいるのが見えてくる。
アイ:「そろそろ降りて歩いて行こう。」
全員が地上に降りる。
総司:「のどかな雰囲気でいいねー。」
アイ:「そうだね。
本物の牛のステーキとかも食べてみたいなー。
魔法で出す食材って美味しいんだけど、
ほんの少しだけ良いものには劣るんだよね。」
総司:「僕には十分美味しいけどね。」
ソフィ:「人はどこにも見えないね。
家畜が獣に襲われる事もそれほどないのかな。
竜の島だと恐竜にすぐに食べられちゃうと思うけど、
ここではそういう事がないんだね。」
更に進んでいくと田園地帯になる。
人もそこそこ見えてきた。
僕達の方を見ている人もいる。
通り過ぎる人に挨拶すると普通に挨拶を返してくれる。
遠くに街並みが見える。
囲いや門のようなものは無く、
そのまま入っていけそうだ。
北の大陸は思ったより平和みたいだ。
魔法で作った家もちらほら見えるが、
基本的にレンガ造りの家が多い。
大通りには人も多く、ほとんどは人間族だが、
鳥人族や猫人族、犬人族なども見かける。
他にもいろいろな種族が居るかもしれない。
出店もたくさん並んでおり、食料がほとんどだが、
他にもいろいろなものが売っている。
武器を身に付けた人もちらほら見かける。
アイ:「すんなり入れちゃったね。」
総司:「お店もいっぱいあるね。アイさんはお金持ってる?」
アイ:「持ってないよ。」
総司:「ソフィさんは?」
ソフィ:「持ってないよ。」
アイ:「大丈夫よ。作ればいいじゃない。」
総司:「いいのかな…。
まあ、作るにしろ現物を入手しないとね。」
何か聞くにも先立つものがないと切っ掛けが掴み難い。
店員さんに話しかけて、ついでにいろいろ聞くという
ありきたりな方法も使えない。
アイ:「まあ、歩いてれば何かあるでしょ。」
総司:「そうかな…。」
街の中心の方へ行くにつれて建物は大きくなっていく。
お金持ちは街の中心の方に住んでいるみたいだ。
お店も出店ではなく室内の商店が多くなってくる。
更に進むと囲いがあり、
入り口の両脇に兵士のような人が立っている。
アイ:「ここから先は
街で地位のある人達が住んでいる場所っぽいね。」
総司:「怪しまれないうちに移動しよう。」
僕達は左側へ移動していく。
しばらく進むと
木組みに板や藁で覆ったような家々になってくる。
廃材を集めて組み、隙間を藁で隠している感じだ。
アイ:「この辺りはお金の無い人達が住んでるみたいね。」
総司:「僕らもそうだけどね。」
ソフィ:「絡まれそうな気もするけど、
誰も何も言ってこないね。」
総司:「そろそろ辺りも暗くなってきたし、
泊まるところを探さないとね。」
ソフィ:「お金が無いから、その辺で野宿かな…。」
アイ:「あっちの方に空き地があるから、
その辺に泊まれる場所でも作ろうか。」
総司:「勝手に作ったら怒られるんじゃない?」
アイ:「この辺の家は誰かに断って作ったようには
見えないけどね…。」
総司:「それもそうだね。
とりあえず、その辺にいる人に聞いてみようか。」
周囲を見て気の良さそうな女性に声をかける。
総司:「ちょっと聞いても良いですか?」
女性:「なんだい?随分と綺麗な娘達だね。」
総司:「この先の何もない所に
家を建てて泊まろうと思うんですけど、
誰かの許可が必要ですか?」
女性:「知らないけど、今住んでる私達だって
誰かに許可なんて取ってないよ。」
総司:「そうですか。ありがとうございます。」
女性:「宿屋にでも案内しようか?
綺麗な服を着てるし、
それなりにお金はあるんでしょ?」
総司:「いえ。まったくお金が無いんですよ。」
女性:「家を建てるって言っても材料はあるの?
見たところ無さそうだけど。
今から取ってくるんじゃ遅くなるよ?」
女性は僕達三人を見て言う。
総司:「大丈夫です。」
女性:「そう。まあ、頑張りなよ。」
僕は手を振って親切な女性と別れる。
総司:「問題なさそうだね。」
アイ:「ありがとう。それじゃ、
ちゃっちゃと作っちゃいましょうか。」
ソフィ:「明日から仕事でも探すかねー。」
僕達は三人で寝泊まり出来る程度の小さな家を建てた。
10分程度で作った家だが、
魔法の家なので、この辺りでは一番まともな家だ。
「「「すごーい!」」」
いつの間にか子供達が見ていたようだ。
男の子二人と女の子が一人、
みんな10歳くらいだろう。
男の子:「それ魔法なの?」
総司:「そうだよ。」
男の子:「お姉ちゃん達みんな魔法使いなの?」
総司:「そうだよ。」
女の子:「初めて見た!魔法ってすごいね!」
総司:「ありがとう。僕達はこれから夕ご飯にするけど、
みんなも食べていく?」
子供達:「「「たべるー!」」」
アイ:「それじゃ、ご馳走を作っちゃいましょうかね。」
総司:「お父さんとかお母さんが心配しないように、
ここで食べるって言ってこなくて大丈夫?」
子供達:「「「大丈夫!」」」
良いものとは言い難いが普通の服は着ている。
孤児には見えない。
親の帰りが遅いのかな?
家の隣の空き地で料理の準備をする。
アイさんが調理器具を出し、
僕が食材を出して、三人で料理をする。
「お嬢ちゃん達すごいねー!」
「それが本物の魔法使いの魔法かい?
何でも出せるんだねー。」
「美味しそう。」
街の人達が集まってくる。
アイ:「良かったら食べてってね!」
「遠慮なくご馳走になるよ。」
気が付けば50人くらいはいる。まだ増えそうだ。
凝った料理はやめてシチューにした。
総司:「出来た順に渡しますので並んでください。
足りなくなることはありませんから。」
アイさんとソフィさんが次々にシチューを用意していき、
僕が一人一人に魔法で器を作り
鍋に入ったシチューをよそって渡していく。
「お姉ちゃんありがとう。」
「ありがとう。お嬢ちゃん達はここに住むのかい?」
総司:「今日はそこに建てた家に泊まります。
明日からはわからないですね。」
お礼や聞かれたりすることに答えながら
シチューを渡していく。
みんなそのまま周辺の空き地で食べている。
百人以上はいそうだ。
周囲が真っ暗になってきたので、
アイさんがライトの魔道具を作って
人々が集まる真ん中らへんに置いてくる。
この辺りの人は大通りや中心街に比べて
人間以外の種族の比率が多い様に見える。
「お姉ちゃん、おかわりもらっていい?」
総司:「良いよ。遠慮なくおいで。」
みんなからお姉ちゃんとかお嬢ちゃんと呼ばれる。
やはり男には見えないらしい。
訂正するのも面倒なのでそのままにする。
あと10人くらいで終わりそうかな。
総司:「遅くなっちゃったね。僕達も食べよう。」
ソフィ:「お腹すいちゃったよ。」
アイ:「みなさーん!作ったシチューはまだあるから、
おかわりしたかったら自分でよそっていってね!
それと器は持って帰ってね!」
住民達:「「「「ありがとう!!!」」」」
アイ:「さあ、私達も食べよう。」
僕達が食事をしている間も
お礼を言って帰っていく人がいる。
「ご馳走様。ちょっと変わってると思ってたけど、
魔法使い様だったんだね。」
最初に声をかけた女性も食べにきていたのか。
お礼が出来て良かった。
「お姉ちゃん達ありがとう。ご馳走様!」
最初に来た子達もお礼を言って帰っていく。
すぐ後ろで頭を下げていた人達が両親だろう。
ずいぶんと時間がかかったので、
仕事から帰って来ていたようだ。
人間の街は思っていたより平和で活気があった。
貧富の差はあるようだが、
それはどうしようもない部分もある。
自分に合った仕事を見つけられた人、
能力の差、機会の差、生まれの差、違いは必ずある。
それでもここは貧しくても、
それなりに楽しそうにしていたので良い方だろう。
アイ:「そろそろ寝ようか。」
総司:「そうだね。」
ソフィ:「歩いてばっかりだったけど、
初めて見るものが多かったから
私は結構楽しかったよ。」
総司:(マリカさんもお疲れ様。お皿ありがとうね。)
マリカ:(あんなのたいしたことじゃないよ。礼は不要だ。)
念のため戸締りして鍵をかけて寝ることにした。
そして翌朝、
アイさんは起きて室内で出来るご飯の支度をしている。
ソフィさんはまだ寝ている。
総司:「おはよう。」
アイ:「おはよう。ご飯食べたら、また街の見学に行こう。」
ソフィ:「おはよう。」
僕らの会話で起きたのかソフィさんが挨拶する。
総司:「まったくお金を持ってないのも不便だから、
何か売れるものでも作っておいて、
機会があったら売ってお金にしない?」
アイ:「そうね。無難に金のインゴットでも作っておこう。」
総司:「そう言われてみれば、
小さい金の粒とかで物々交換とかも出来たかもね。」
アイ:「思い付かなかったね…。
粒くらいなら握った手の中で作って出せばいいから、
予め作っておく必要もないね。
マリカさんも出来るだろうし。」
ソフィ:「仕事を探そうかと思ってたけど、必要無さそうね…。」
総司:「この家はどうしようか?
またここに帰ってくるかわからないし。」
アイ:「誰かにあげちゃおう。
またここに来ても、また作ればいいしね。」
総司:「それもそうだね。」
アイ:「さて、ソフィさんも起きたし、朝ご飯にしようか。」
朝食を食べて外に出る。
アイ:「おはようございます。」
アイさんは近くに住んでいる人に声をかけた。
「おはよう。昨日はご馳走様。美味しかったよ。」
アイ:「喜んでもらえて良かったです。
この家ですけど、
もうここに帰ってこないかもしれないので、
良かったら使って下さい。
帰ってきたとしても、また新しく作るので。」
「こんな良い家を…。
なんて幸運!遠慮なく貰っちゃうね!」
アイ:「ついでになんですけど、
二つほど教えてほしいことがあります。」
「私にわかることなら何でも聞いて。」
アイ:「一つはお金を得るために
手持ちの金を売りたいと思っています。
取引して下さる場所か、人を教えて頂きたいです。
もう一つはこの街のことや
周辺の地理などに詳しい方に
いろいろと教えて頂きたいと
思っているのですが、
心当たりのある方か、
方法を教えて頂きたいです。」
「それならどっちも中心街の商店なら、
どの店でも大体は取引も
情報提供も対応してくれると思うよ。
私は行ったことはないけどね…。」
アイ:「ありがとうございます。早速行ってみます。」
僕達は昨日通った大通りに面した中心街へ移動する。
昨日は大まかに眺めるだけだったが、
商店を構える店にはいろいろな種類がある。
食料品、服、装飾品、武器、家具、宿屋、料理屋、不動産屋など。
見た目でよくわからない店も看板があり、
文字を読めばわかる。
アイ:「どの店にしようかな。」
マリカ:(それぞれ一人ずつ違う店で売って、
一番高く買い取ってくれたところで
情報を聞くのが良いんじゃないかな。
何も情報無しに誰かの情報を信じるよりは、
良心的な経営者、店員である可能性が高い方が
良いんじゃない?)
アイ:「確かにそうね。みんな別の店に入って
終わったらここに集まろう。」
総司:「僕だけ武器を身に付けてるし、
僕は武器屋にしようかな。」
ソフィ:「私は服屋にするよ。」
アイ:「私は装飾品屋ね。」
各々移動する。僕は武器屋に入る。
店内にはそこそこお客がいる。
僕の方を見てくる人も結構いるが、
特に声はかけられない。
総司:「すいません。金の買い取りは可能ですか?」
店番をしていた若い女性に声をかける。
若いと言っても僕よりは年上だ。
店員:「しょ…少々お待ちください。」
店員は後ろの扉から中へ入っていく。
すぐに店長らしき人を連れて戻ってきた。
店長らしき人は中年くらいの男性だ。
店番の女性とは親子だろうか。
店員:「おと…店長を呼んできたので、店長にお話しください。」
やっぱり親子みたいだ。
店長:「ようこそいらっしゃいました。
金の買い取りをご希望と伺っています。
まずはお見せ頂いてよろしいでしょうか?」
総司:「これです。」
僕は金のインゴットを渡す。
店長は大きさと重さを調べている。
店員:「腰に下げているのは武器ですよね?
サーベルに似た形ですけど、意匠が独特ですね。
装飾は少ないですが神秘的な感じがします。
狐人族がそのような武器を身に着けていると
聞いたことがありますが、初めて見ます。」
僕は店内で売られている武器を見る。
確かに刀は置いていなかった。
この刀は転生した時から身に付けているものだ。
察するに…。
余計なことは言わない方が良いだろう。
総司:「刀と呼んでいます。サーベルに近い武器ですね。」
店員:「見せて頂いても良いですか?」
総司:「お渡しすることは出来ませんが、
見せるくらいなら。」
僕は刀を鞘から抜いて店員に刀身を見せるようにする。
店員が驚いた顔でマジマジと見ている。
店員:「ありがとうございます。
お父さんちょっときて。」
店員は店長を連れ店裏へいく。
すぐに出てきたが、親子は揉み手になっていた。
店長:「珍しい武器をお持ちですね。
私は武器の収集を趣味にしております。
店内のどの武器でも構いませんので
その武器と交換して頂けないでしょうか?」
店員:「お嬢様には長剣の方が似合うと思いますよ。」
武器を見る目はあるようだが、
そんなわかりやすい態度をしておいて
僕が応じるとでも思っているのだろうか…。
馬鹿にされた気分だ…。
総司:「この武器は思い入れのあるものですので
手放す気はありません。」
店長:「そうですか…。残念です。
もし手放すような機会がありましたら
是非ともうちの店にお売りください。
金のインゴットの買い取り値も
サービスさせて頂きます。」
総司:「ありがとうございます。」
僕は金貨を50枚渡された。
そして集合場所に戻る。
僕が一番早く戻ったみたいだ。
アイさんが戻って来て、
ソフィさんが戻ったのが最後だった。
アイ:「どうだった?
私の行ったお店はすごく親切だったよ。」
総司:「僕のはあんまり参考にならないかも。
良心よりも下心が価格に入ってる感じだね…。」
ソフィ:「私も総司君と同じ。
ずっと口説かれて大変だったよ。
お金をまったく持って無いって言ったら
小銭もサービスでくれたし。
ついでに聞いたんだけど、
銅貨100枚で銀貨1枚、
銀貨100枚で金貨1枚の価値なんだって。」
アイ:「みんな大変だったんだね…。
買取価格はいくらだった?
私は金貨30枚だったよ。」
総司:「金貨50枚。」
ソフィ:「金貨50枚、銀貨10枚、銅貨50枚」
マリカ:(………ごめん。良い方法だと思ったんだけど、
こんな方法じゃ人の良心なんてわからないんだね。
勉強になったよ。)
アイ:「次からは装飾品を作って売ろうね。
私、頑張ってたくさん作るよ。」
良心とは難しい。
突き詰めれば長期的に得をする、損をしない、
そういう心持ちと言えるのではないだろうか…。
そして親切や丁寧さとは異なるものだろう。
なんとなくそう思った。




