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アイの新世界(物語)  作者: 夢のファイヤー
北の大陸
24/89

13.航海

外海に出てから直ぐに、

人魚達の数人が武器を持って海に飛び込み、

船に並走するように泳ぎ始めた。


総司:「みんな泳ぐの速いね。

  特に速く泳げる人達を選んだの?」

アクア:「このくらいは子供でも出来ますよ。」

総司:「そうなの?一緒に遊んでいた時は僕と同じか、

  ちょっと遅いくらいだったけど。」

アクア:「どんな遊びをしていたんです?」

総司:「水中での鬼ごっこみたいな感じ…かな…?」

ソフィ:「そんなことしてたの?私もやりたかったなー。」


アクア:「なるほど。

  捕まって気を引きたかったのと、

  総司様が楽しめる様に、

  ゆっくり泳いでいたんだと思いますよ?

  シトリンとスピネルも一緒にやったのですか?」

総司:「え?シトリンさんとスピネルさんだけじゃなくて、

  この船に乗ってるみんなともやったよ?」


アクアさんが周りを見ると、みんな目を逸らせた。

アクアさんにだけ秘密だったらしい。


総司:「みんな気を遣ってくれてたんだね。ありがとう。」

人魚達:「総司様に楽しんで欲しかっただけです。」

人魚達:「総司様と一緒にいたくて…。」

人魚達:「総司様に触って欲しくて…。」


いつも訓練の合間に声をかけてくれていた。

僕の様子を見て楽しめる様に考えてくれていたんだと思う。

本当にありがたい。


アクア:「一部の海獣を除けば

  人魚は水中では最強の一族です。

  水中であれば昼の総司様に

  後れをとることはないのですよ?

  こうして船の傍を人魚が泳いでいれば、

  まず襲われることはありません。」

人魚達:「航海中は私共が命に代えても

  総司様達をお守りします。

  安心して航海を楽しんでください。」

総司:「うん。ありがとう。

  外にいる人達にも後でお礼を言わないとね。」


アイ:「みんなありがとう。

  ついでに航海日程と、

  着く前に北の大陸のことを教えてほしいな。」

アクア:「以前の帆船であれば、

  途中で食料の調達も必要になり

  三週間ほどかかりましたが、

  この速度であれば、途中で食料を調達する必要もなく、

  三日程度で着くと思います。

  北の大陸ですが、竜の大陸と同様の大きさで、

  その中でいくつかの種族が暮らしています。

  有力な種族として私共の一族と、

  ペンギン族、人間族、狐人族、長耳族、

  それと鳥人族が季節によって滞在しています。」

ソフィ:「竜の大陸と違って、いろいろな種族がいるんだね。」


アクア:「竜の大陸は竜族と恐竜族が主な種族です。

  特に恐竜族は、竜族を除き地上と空中で最強の種族です。

  恐竜族へは交渉も出来ません。

  竜族だけが唯一、恐竜族に抗し得るのです。

  竜の大陸は気候も温暖で緑が豊かです。

  本来は生物が暮らすのに最適な環境ですが、

  最強の二種族が独占している形になります。

  人魚の島は離島ですので、

  海から侵入する恐竜を退治することと、

  洞窟内に住むことで空中からの襲撃も回避することで、

  私達人魚は何とか住むことが可能でした。

  竜の大陸が特殊と思って下さい。」


ソフィ:「恐竜は食料って認識だけど、

  他の種族ではそうはいかないんだね。」

アクア:「ソフィが恐竜族以外で初めて会った他種族は、

  アイ様と総司様だと思いますので

  誤解しても仕方ありませんが、

  竜族に抗し得る種族は存在しません。」

ソフィ:「アクアさんの魔法も結構すごいし、

  竜族もそこまで強いってことはないんじゃない?」

アクア:「これでも私は人魚族の中でも歴代最強と言われ、

  子供の時から代表を務めていました。

  人魚族は強い種族と言われていますが、

  それでもこの程度です。

  アイ様とお会いしたことで、

  自分がいかに世間知らずだったかを思い知りました。」

ソフィ:「そんなことないよ。

  人魚の島に行った日に私達を襲撃したのが

  仮に竜族だったとしても、

  結果はまったく変わらなかったと思うし。」


アクアさんとソフィさんがアイさんを見るが、

アイさんはシレッと目を逸らした。

アイさんもアクアさんから多くを学んだようだ。


アクア:「話を続けますね。

  狐人族は東の大森林、

  長耳族は南東の大森林にそれぞれが暮らしており、

  他種族との交流はほとんどなく、

  閉鎖的な社会を作ってます。

  狐人族と長耳族がどのように生活しているかは

  分かっていません。

  北部から西部の沿岸にペンギン族が住んでいます。

  主に海で海産物を取って生活しています。

  中央部から南西部にかけて人間族が住んでいます。

  農業、漁業、畜産、あとペンギン族を狩って

  食料にしながら生活しています。

  私共の一族は西部沿岸のペンギン族と

  共に暮らしています。

  獲った海産物を提供してもらう代わりに

  人間族から庇護することで共存しています。

  人魚の子供は人間族に攫われる危険があるので、

  子供が生まれた場合も

  船で竜の島の一族の方へ送り届けられます。」


アイ:「あの可愛いペンギンを食べちゃうんだね。

  人魚の子供を攫ったりと

  人間族は碌なことしてないね…。」

アクア:「あくまで私共の一方的な見方です。

  私共は私共で、捕まえた人間はその場で殺しますし、

  捕まえた人間に魔法適正者の男性がいれば、

  拘束して使っていたりもしましたし。」


何に使っていたんだろう…。

いや、聞かなくても分かる。

結局はどっちもどっちで、

それぞれの種族で必要と思うことを

しているということだ。


アイ:「やっぱり種族間の融和って難しそうね。」


マリカ:(アイさんは

  念のためアレにも注意した方が良いと思う。

  アレがあった場合、それを見た人がいたら面倒だ。

  そろそろ広く旅をした人がいる可能性がある。

  まあ、私は知られたからって問題無いとは思うけど。)

アイ:(アレってなに?)

マリカ:(アイさんのアレだよ。

  ここがどの辺の事象か分からないが、

  あった事象はあるのだから。)

アイ:(あー…。)

総司:(アイさんのアレってなに?)

アイ:(悪い事はしてないんだけど、指名手配的な?)

ソフィ:(別にいいんじゃない?

  アイさんを捕まえるとか無理でしょ。)

マリカ:(不要なトラブルは避けた方がいい。)

アイ:(そうね。わかった。)


アイ:「せっかく新しい大陸に行くんだし、

  ちょっとイメチェンしようかな。

  総司君お願い。」


総司:(え?どうすれば良いの?)

マリカ:(私がやるよ。とりあえず返事をしなさい。)


総司:「わかったよ。」


マリカ:(まずアイさんの髪をツインテールにして。)

総司:(はいはい。ちょっと髪触るね。)

アイ:(いいよ。)


マリカさんが魔法で櫛を出したので、それを使って

マリカさんの指示通りにアイさんの髪を分ける。

触ったら汚してしまうのではないかと心配してしまう程に

透き通るような綺麗な髪だ。


マリカ:(次はアイさんの顔の前に掌を向けて。)

総司:(はいはい。)


アイさんの顔にメガネが出来る。

縁の太い玩具みたいなメガネだ。

レンズも入っていないため伊達メガネ以下の代物だ。


人魚達も誰もメガネをしていないため、

僕はこの世界でメガネをかけた人を見たことが無い。

この世界にメガネ文化はあるのだろうか?


マリカ:(次はアイさんの両肩に手を置いて。

  上から服を作るから。)

総司:(嫌な予感しかしないんだけど…。)


言われた通りにする。

人形が着ていそうなフリルの

子供っぽい服を着たアイさんが出来た。


アクアさんとソフィさんの顔が青くなっていく。


アクア:「総司様…正気ですか?」

人魚達:「「「キャー!アイ様可愛い!!!」」」


事情を知らない人魚達が絶賛している。


アイ:「総司君、どういうことかな?」


総司:(え?僕じゃないよね?

  アイさんにも聞こえてたよね?)

マリカ:(サングラスとマスクも考えたが、

  それはそれで怪しすぎる。

  方向性は上か下かだ。

  上は背伸びした子供みたいで痛い。

  そうすると見た目通りの下に振り切るしかない。)


マリカさんは男らしく(男じゃないが)

言ってはいけないことを言い切った。


継ぐ言葉がマリカさんから出てこない。

これで済ますつもりだ。


僕がなんとかしないと…。

初めての状況で何が起きるかわからない。

周りを見る。


アクアさんとソフィさんが目を逸らした。

人魚のみんなが笑顔で僕に頷いてくれた。


人魚達:「アイ様、可愛くて素敵です。」

人魚達:「これまで怖い人だと思っていた部分もあったけど、

  今のアイ様はそんなことないです。」

人魚達:「今までよりずっと親しみが持てます。」

人魚達:「可愛いだけで、私達と一緒に見えます。」


人魚達が近寄って来て更に絶賛する。

わざとらしくアイさんの頭を抱きしめる人もいる。


アイ:「そう…?それならこれでも良いかな…。」


いつも少し距離を置かれていたので、

アイさんはすごく嬉しそうだ。


そうだ。

僕は三姉妹だけでなく、

この人達にずっと助けられてきた。


僕はアイさんから見えないタイミングで

深く腰を折ってお辞儀をする。

人魚達は笑顔で答えてくれた。


その後は特に何もなく、順調に航海は進んだ。

僕は甲板でマリカさんと魔法の訓練をしたり、

人魚達と話をしたりして楽しい時間を過ごした。


みんなで夕飯を食べたり、

船の上だが、いつもと変わらない日常を過ごす。


そして夜も更けていく。

空を見上げると、月は2つあるが星はない。

この世界では星が見えない。


夜間の航海は星が見えないと方向が分からなくなり、

遭難する危険が高くなる。

月は動くし、毎日同じ位置に出るわけではない。


総司:「夜の海は周りは暗くて何も見えないし、

  月で方向がわかるの?」

アクア:「いいえ。

  私共は同族が多数いる方向がわかるのです。

  なので北の大陸の一族の方向へ進めば

  正しい方向へ進むことが出来ます。

  人魚特有の能力ですので、

  他種族は陸の見える海路を進み、

  夜間は停泊する必要があります。

  陸から大きく離れる必要がある竜の島への航海は

  他種族では難しいです。

  鳥人族や鳥は他に方向を知る能力を

  持っているという話ですが、

  飛べるため船での航海は必要ないですし、

  していないようです。」


アイ:(星が無いとそんな弊害もあったのか…。)

マリカ:(羅針盤がまだ発明されてないんだね。)

アイ:(そうなのかな…。

  そんなに難しいものじゃないし、

  気が付きやすい現象だと思うけど…。

  まあ、無いなら試しに作ってみよう。

  広めれば世界中で交流が活発になるかもしれないよね。)


アイさんは丸い何かを作り出す。コンパスだ。


アイ:「あれ?ちゃんと北に進んでる?」

アクア:「そのはずです。」

アイ:「おかしいな…。」

総司:「ちょっと貸して。」


アイさんからコンパスを受け取る。


総司:「やっぱり。アイさんを指してるね。」

アイ:「そうか。

  魔法関係の何かと磁力って相性が悪いのかも。

  この世界に来て初めて知ることが結構あるな…。

  ちょっと離れてみるから

  コンパスが北を指したら光を

  揺らして合図して。」

総司:「わかった。」


アイさんが飛んで船から離れていく。なかなか変わらない。

しばらく待ってやっと変わった。

しかし船の進む方向ではなく、僕を指している。

一応光を揺らしてアイさんに知らせる。


アイ:「結構離れないとダメなのね。」

総司:「アイさんを指さなくなっても北は指さなかったよ。

  僕を指すように変わっただけ。」

アイ:「確かにそうなるよね。迂闊だったわ…。

  でも、魔法関係の何かの強さに

  反応して指してしまうのは確定だね。

  今は特に魔力は使ってないから、

  魔力量とか魂の器が関係してるな。

  魔力量と魂の器の大きさは

  魔力界に影響する力の量に等しいから、

  魔力界の魔素、特に霊子に影響して、

  物質界の電子に影響しちゃってるのかも。

  地球の中心と魔力界の中心の魔素結晶は

  重力で位置を固定しているし、

  そもそも魂の器で物質界に魔素を顕現させるから

  構造上繋がりは切れない。

  次元を変えることで

  直接的な影響は切っているつもりだったけど、

  想定外の影響が残っていて、魂の器が魔力界に、

  更に魔力界の霊子が物質界の電子に影響している。

  そういうことなんだと思う。

  羅針盤の作成のようなことは

  魔法適正者がすることが多いと思う。

  理論上は可能なことに気が付いて、

  実際に作ってみても自分の魂の器のせいで

  効果が正しく発現しない。

  状況によっては効果が確認できても

  公共性や再現性が無ければ

  技術として確立しにくい。」


アイさんが僕というかマリカさんに説明している。

口に出しちゃってるけど。


アクア:「魂の器とはどういうものなのですか?」


アイ:(私、口に出してた?

  しかもアクアさんが聞いてたか…。)

マリカ:(気にする必要はない。

  深くは聞いてこないと思うよ。

  真実と現実にほとんど違いが無いからね。

  みんな聞くだけ野暮って思ってるさ。)

アイ:(そう?なんか納得できないけど。

  でも確かに普通にしていればいいよね。)


アイ:「上位の魔素結晶のようなものだね。」

アクア:「そうですか。

  竜王国の神器にそのようなものが使われていたと、

  言い伝えにあったと記憶しています。

  それにアイ様が世界を作った様に聞こえましたけど、

  気のせいってことで良いんですよね?」

アイ:「私の妄想だよ。

  そういうの考えるのって面白いよね!」

アクア:「アイ様にもお茶目なところがあるのですね。

  とても可愛いです。」


アクアさんが笑顔でアイさんを見ている。


ソフィ:「竜王国の神器って太古の最強の竜王が

  持っていた装備のこと?」


アクアさんは目を閉じて、

再びアイさんを見てから

ソフィさんへ向き直り話を始めた。


アクア:「そうです。竜族が桁外れの力を持ちながら、

  他種族を支配したり、不要な介入をしないのは、

  その竜王が世界の守護者としての戒律を作り、

  今も竜族がそれを守っているからだと

  伝えられています。

  その竜王の逸話の中に

  少女像と竜王の装備についての

  伝承があります。

  どれも今は失われたとのことですが、

  神器とはその伝承の装備のことです。

  少女像は神器ではなかったそうですが、

  竜王が毎日お祈りしていたと言い伝えられており、

  神器よりも大切にされていたそうです。」


アイさんは船から外を見ている。


アイ:「ちょっと周りを見てくるね。」


アイさんは急にどこかに飛んで行った。


ソフィ:「アクアさんはいろいろ知ってるね。

  竜族の話で私も知らないことを知れて嬉しいよ。

  ありがとう。」

アクア:「人魚族は寿命が長いので、

  古い話が多く言い伝えられています。

  今の話も母から聞いた話です。

  母は私よりも古いことをいろいろと知っていますよ。

  今も北の大陸に住んでいますので、

  他にもいろいろと聞いてみると良いですよ。」


アクアさんは僕とソフィさんに言う。


竜族のソフィさんに太古の竜王と

世界の守護者の戒律について聞いていたが、

竜族以外のアクアさんも知っているくらいに有名な話らしい。


十分な力のある人が

自分がそうしたいように善い事をするよりも、

信じて見守ることの方がずっと難しいと思う。


太古の竜王はこの世界を信じて

愛情を持って見守っていたんだと思う。


すごい人だ。いや、すごい竜王か?

それに魂の器という言葉は

以前聞いたことがある気がする。


アイさんは念話でそれを使うとか

使わないとか言っていた。

竜王が持っていた神器にも使われるような

希少なものらしい。


しばらくするとアイさんが帰ってきた。


アイ:「そろそろ寝ようか。」

総司:「そうだね。」

アイ:「アクアさん、

  貴重なお話しをありがとうございました。」

アクア:「アイ様に喜んでもらえたなら私も嬉しいです。

  竜王様はこの世界と、

  この世界を創造された女神様が

  大好きだったのでしょう。

  私もこの世界が大好きですよ。」

アイ:「うん。ありがとう。」


アクアさんは笑顔でアイさんの言葉に答えた。

アイさんも更に笑顔で答える。

先に進んでいた僕にソフィさんが付いてくる。


アクア:「ソフィは私と夜の見張り番です。」

ソフィ:「え?なんで?」

アクア:「妹でしょ。姉に付き合いなさい。」

ソフィ:「わかったよ…。

  それじゃ、他にも面白い話をしてよ。」

アクア:「わかりました。それでは母から聞いた

  ドレイクという竜族の話をしましょう。」

ソフィ:「え…。それは聞きたくないかも…。」


アイさんと船室に入る。

アイさんは少し悲しそうにもみえる。


総司:「今日は一緒に寝ようか。」

アイ:「そうだね。ありがとう…。」


航海の初日は何事もなく順調に進んだ。

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