13.航海
外海に出てから直ぐに、
人魚達の数人が武器を持って海に飛び込み、
船に並走するように泳ぎ始めた。
総司:「みんな泳ぐの速いね。
特に速く泳げる人達を選んだの?」
アクア:「このくらいは子供でも出来ますよ。」
総司:「そうなの?一緒に遊んでいた時は僕と同じか、
ちょっと遅いくらいだったけど。」
アクア:「どんな遊びをしていたんです?」
総司:「水中での鬼ごっこみたいな感じ…かな…?」
ソフィ:「そんなことしてたの?私もやりたかったなー。」
アクア:「なるほど。
捕まって気を引きたかったのと、
総司様が楽しめる様に、
ゆっくり泳いでいたんだと思いますよ?
シトリンとスピネルも一緒にやったのですか?」
総司:「え?シトリンさんとスピネルさんだけじゃなくて、
この船に乗ってるみんなともやったよ?」
アクアさんが周りを見ると、みんな目を逸らせた。
アクアさんにだけ秘密だったらしい。
総司:「みんな気を遣ってくれてたんだね。ありがとう。」
人魚達:「総司様に楽しんで欲しかっただけです。」
人魚達:「総司様と一緒にいたくて…。」
人魚達:「総司様に触って欲しくて…。」
いつも訓練の合間に声をかけてくれていた。
僕の様子を見て楽しめる様に考えてくれていたんだと思う。
本当にありがたい。
アクア:「一部の海獣を除けば
人魚は水中では最強の一族です。
水中であれば昼の総司様に
後れをとることはないのですよ?
こうして船の傍を人魚が泳いでいれば、
まず襲われることはありません。」
人魚達:「航海中は私共が命に代えても
総司様達をお守りします。
安心して航海を楽しんでください。」
総司:「うん。ありがとう。
外にいる人達にも後でお礼を言わないとね。」
アイ:「みんなありがとう。
ついでに航海日程と、
着く前に北の大陸のことを教えてほしいな。」
アクア:「以前の帆船であれば、
途中で食料の調達も必要になり
三週間ほどかかりましたが、
この速度であれば、途中で食料を調達する必要もなく、
三日程度で着くと思います。
北の大陸ですが、竜の大陸と同様の大きさで、
その中でいくつかの種族が暮らしています。
有力な種族として私共の一族と、
ペンギン族、人間族、狐人族、長耳族、
それと鳥人族が季節によって滞在しています。」
ソフィ:「竜の大陸と違って、いろいろな種族がいるんだね。」
アクア:「竜の大陸は竜族と恐竜族が主な種族です。
特に恐竜族は、竜族を除き地上と空中で最強の種族です。
恐竜族へは交渉も出来ません。
竜族だけが唯一、恐竜族に抗し得るのです。
竜の大陸は気候も温暖で緑が豊かです。
本来は生物が暮らすのに最適な環境ですが、
最強の二種族が独占している形になります。
人魚の島は離島ですので、
海から侵入する恐竜を退治することと、
洞窟内に住むことで空中からの襲撃も回避することで、
私達人魚は何とか住むことが可能でした。
竜の大陸が特殊と思って下さい。」
ソフィ:「恐竜は食料って認識だけど、
他の種族ではそうはいかないんだね。」
アクア:「ソフィが恐竜族以外で初めて会った他種族は、
アイ様と総司様だと思いますので
誤解しても仕方ありませんが、
竜族に抗し得る種族は存在しません。」
ソフィ:「アクアさんの魔法も結構すごいし、
竜族もそこまで強いってことはないんじゃない?」
アクア:「これでも私は人魚族の中でも歴代最強と言われ、
子供の時から代表を務めていました。
人魚族は強い種族と言われていますが、
それでもこの程度です。
アイ様とお会いしたことで、
自分がいかに世間知らずだったかを思い知りました。」
ソフィ:「そんなことないよ。
人魚の島に行った日に私達を襲撃したのが
仮に竜族だったとしても、
結果はまったく変わらなかったと思うし。」
アクアさんとソフィさんがアイさんを見るが、
アイさんはシレッと目を逸らした。
アイさんもアクアさんから多くを学んだようだ。
アクア:「話を続けますね。
狐人族は東の大森林、
長耳族は南東の大森林にそれぞれが暮らしており、
他種族との交流はほとんどなく、
閉鎖的な社会を作ってます。
狐人族と長耳族がどのように生活しているかは
分かっていません。
北部から西部の沿岸にペンギン族が住んでいます。
主に海で海産物を取って生活しています。
中央部から南西部にかけて人間族が住んでいます。
農業、漁業、畜産、あとペンギン族を狩って
食料にしながら生活しています。
私共の一族は西部沿岸のペンギン族と
共に暮らしています。
獲った海産物を提供してもらう代わりに
人間族から庇護することで共存しています。
人魚の子供は人間族に攫われる危険があるので、
子供が生まれた場合も
船で竜の島の一族の方へ送り届けられます。」
アイ:「あの可愛いペンギンを食べちゃうんだね。
人魚の子供を攫ったりと
人間族は碌なことしてないね…。」
アクア:「あくまで私共の一方的な見方です。
私共は私共で、捕まえた人間はその場で殺しますし、
捕まえた人間に魔法適正者の男性がいれば、
拘束して使っていたりもしましたし。」
何に使っていたんだろう…。
いや、聞かなくても分かる。
結局はどっちもどっちで、
それぞれの種族で必要と思うことを
しているということだ。
アイ:「やっぱり種族間の融和って難しそうね。」
マリカ:(アイさんは
念のためアレにも注意した方が良いと思う。
アレがあった場合、それを見た人がいたら面倒だ。
そろそろ広く旅をした人がいる可能性がある。
まあ、私は知られたからって問題無いとは思うけど。)
アイ:(アレってなに?)
マリカ:(アイさんのアレだよ。
ここがどの辺の事象か分からないが、
あった事象はあるのだから。)
アイ:(あー…。)
総司:(アイさんのアレってなに?)
アイ:(悪い事はしてないんだけど、指名手配的な?)
ソフィ:(別にいいんじゃない?
アイさんを捕まえるとか無理でしょ。)
マリカ:(不要なトラブルは避けた方がいい。)
アイ:(そうね。わかった。)
アイ:「せっかく新しい大陸に行くんだし、
ちょっとイメチェンしようかな。
総司君お願い。」
総司:(え?どうすれば良いの?)
マリカ:(私がやるよ。とりあえず返事をしなさい。)
総司:「わかったよ。」
マリカ:(まずアイさんの髪をツインテールにして。)
総司:(はいはい。ちょっと髪触るね。)
アイ:(いいよ。)
マリカさんが魔法で櫛を出したので、それを使って
マリカさんの指示通りにアイさんの髪を分ける。
触ったら汚してしまうのではないかと心配してしまう程に
透き通るような綺麗な髪だ。
マリカ:(次はアイさんの顔の前に掌を向けて。)
総司:(はいはい。)
アイさんの顔にメガネが出来る。
縁の太い玩具みたいなメガネだ。
レンズも入っていないため伊達メガネ以下の代物だ。
人魚達も誰もメガネをしていないため、
僕はこの世界でメガネをかけた人を見たことが無い。
この世界にメガネ文化はあるのだろうか?
マリカ:(次はアイさんの両肩に手を置いて。
上から服を作るから。)
総司:(嫌な予感しかしないんだけど…。)
言われた通りにする。
人形が着ていそうなフリルの
子供っぽい服を着たアイさんが出来た。
アクアさんとソフィさんの顔が青くなっていく。
アクア:「総司様…正気ですか?」
人魚達:「「「キャー!アイ様可愛い!!!」」」
事情を知らない人魚達が絶賛している。
アイ:「総司君、どういうことかな?」
総司:(え?僕じゃないよね?
アイさんにも聞こえてたよね?)
マリカ:(サングラスとマスクも考えたが、
それはそれで怪しすぎる。
方向性は上か下かだ。
上は背伸びした子供みたいで痛い。
そうすると見た目通りの下に振り切るしかない。)
マリカさんは男らしく(男じゃないが)
言ってはいけないことを言い切った。
継ぐ言葉がマリカさんから出てこない。
これで済ますつもりだ。
僕がなんとかしないと…。
初めての状況で何が起きるかわからない。
周りを見る。
アクアさんとソフィさんが目を逸らした。
人魚のみんなが笑顔で僕に頷いてくれた。
人魚達:「アイ様、可愛くて素敵です。」
人魚達:「これまで怖い人だと思っていた部分もあったけど、
今のアイ様はそんなことないです。」
人魚達:「今までよりずっと親しみが持てます。」
人魚達:「可愛いだけで、私達と一緒に見えます。」
人魚達が近寄って来て更に絶賛する。
わざとらしくアイさんの頭を抱きしめる人もいる。
アイ:「そう…?それならこれでも良いかな…。」
いつも少し距離を置かれていたので、
アイさんはすごく嬉しそうだ。
そうだ。
僕は三姉妹だけでなく、
この人達にずっと助けられてきた。
僕はアイさんから見えないタイミングで
深く腰を折ってお辞儀をする。
人魚達は笑顔で答えてくれた。
その後は特に何もなく、順調に航海は進んだ。
僕は甲板でマリカさんと魔法の訓練をしたり、
人魚達と話をしたりして楽しい時間を過ごした。
みんなで夕飯を食べたり、
船の上だが、いつもと変わらない日常を過ごす。
そして夜も更けていく。
空を見上げると、月は2つあるが星はない。
この世界では星が見えない。
夜間の航海は星が見えないと方向が分からなくなり、
遭難する危険が高くなる。
月は動くし、毎日同じ位置に出るわけではない。
総司:「夜の海は周りは暗くて何も見えないし、
月で方向がわかるの?」
アクア:「いいえ。
私共は同族が多数いる方向がわかるのです。
なので北の大陸の一族の方向へ進めば
正しい方向へ進むことが出来ます。
人魚特有の能力ですので、
他種族は陸の見える海路を進み、
夜間は停泊する必要があります。
陸から大きく離れる必要がある竜の島への航海は
他種族では難しいです。
鳥人族や鳥は他に方向を知る能力を
持っているという話ですが、
飛べるため船での航海は必要ないですし、
していないようです。」
アイ:(星が無いとそんな弊害もあったのか…。)
マリカ:(羅針盤がまだ発明されてないんだね。)
アイ:(そうなのかな…。
そんなに難しいものじゃないし、
気が付きやすい現象だと思うけど…。
まあ、無いなら試しに作ってみよう。
広めれば世界中で交流が活発になるかもしれないよね。)
アイさんは丸い何かを作り出す。コンパスだ。
アイ:「あれ?ちゃんと北に進んでる?」
アクア:「そのはずです。」
アイ:「おかしいな…。」
総司:「ちょっと貸して。」
アイさんからコンパスを受け取る。
総司:「やっぱり。アイさんを指してるね。」
アイ:「そうか。
魔法関係の何かと磁力って相性が悪いのかも。
この世界に来て初めて知ることが結構あるな…。
ちょっと離れてみるから
コンパスが北を指したら光を
揺らして合図して。」
総司:「わかった。」
アイさんが飛んで船から離れていく。なかなか変わらない。
しばらく待ってやっと変わった。
しかし船の進む方向ではなく、僕を指している。
一応光を揺らしてアイさんに知らせる。
アイ:「結構離れないとダメなのね。」
総司:「アイさんを指さなくなっても北は指さなかったよ。
僕を指すように変わっただけ。」
アイ:「確かにそうなるよね。迂闊だったわ…。
でも、魔法関係の何かの強さに
反応して指してしまうのは確定だね。
今は特に魔力は使ってないから、
魔力量とか魂の器が関係してるな。
魔力量と魂の器の大きさは
魔力界に影響する力の量に等しいから、
魔力界の魔素、特に霊子に影響して、
物質界の電子に影響しちゃってるのかも。
地球の中心と魔力界の中心の魔素結晶は
重力で位置を固定しているし、
そもそも魂の器で物質界に魔素を顕現させるから
構造上繋がりは切れない。
次元を変えることで
直接的な影響は切っているつもりだったけど、
想定外の影響が残っていて、魂の器が魔力界に、
更に魔力界の霊子が物質界の電子に影響している。
そういうことなんだと思う。
羅針盤の作成のようなことは
魔法適正者がすることが多いと思う。
理論上は可能なことに気が付いて、
実際に作ってみても自分の魂の器のせいで
効果が正しく発現しない。
状況によっては効果が確認できても
公共性や再現性が無ければ
技術として確立しにくい。」
アイさんが僕というかマリカさんに説明している。
口に出しちゃってるけど。
アクア:「魂の器とはどういうものなのですか?」
アイ:(私、口に出してた?
しかもアクアさんが聞いてたか…。)
マリカ:(気にする必要はない。
深くは聞いてこないと思うよ。
真実と現実にほとんど違いが無いからね。
みんな聞くだけ野暮って思ってるさ。)
アイ:(そう?なんか納得できないけど。
でも確かに普通にしていればいいよね。)
アイ:「上位の魔素結晶のようなものだね。」
アクア:「そうですか。
竜王国の神器にそのようなものが使われていたと、
言い伝えにあったと記憶しています。
それにアイ様が世界を作った様に聞こえましたけど、
気のせいってことで良いんですよね?」
アイ:「私の妄想だよ。
そういうの考えるのって面白いよね!」
アクア:「アイ様にもお茶目なところがあるのですね。
とても可愛いです。」
アクアさんが笑顔でアイさんを見ている。
ソフィ:「竜王国の神器って太古の最強の竜王が
持っていた装備のこと?」
アクアさんは目を閉じて、
再びアイさんを見てから
ソフィさんへ向き直り話を始めた。
アクア:「そうです。竜族が桁外れの力を持ちながら、
他種族を支配したり、不要な介入をしないのは、
その竜王が世界の守護者としての戒律を作り、
今も竜族がそれを守っているからだと
伝えられています。
その竜王の逸話の中に
少女像と竜王の装備についての
伝承があります。
どれも今は失われたとのことですが、
神器とはその伝承の装備のことです。
少女像は神器ではなかったそうですが、
竜王が毎日お祈りしていたと言い伝えられており、
神器よりも大切にされていたそうです。」
アイさんは船から外を見ている。
アイ:「ちょっと周りを見てくるね。」
アイさんは急にどこかに飛んで行った。
ソフィ:「アクアさんはいろいろ知ってるね。
竜族の話で私も知らないことを知れて嬉しいよ。
ありがとう。」
アクア:「人魚族は寿命が長いので、
古い話が多く言い伝えられています。
今の話も母から聞いた話です。
母は私よりも古いことをいろいろと知っていますよ。
今も北の大陸に住んでいますので、
他にもいろいろと聞いてみると良いですよ。」
アクアさんは僕とソフィさんに言う。
竜族のソフィさんに太古の竜王と
世界の守護者の戒律について聞いていたが、
竜族以外のアクアさんも知っているくらいに有名な話らしい。
十分な力のある人が
自分がそうしたいように善い事をするよりも、
信じて見守ることの方がずっと難しいと思う。
太古の竜王はこの世界を信じて
愛情を持って見守っていたんだと思う。
すごい人だ。いや、すごい竜王か?
それに魂の器という言葉は
以前聞いたことがある気がする。
アイさんは念話でそれを使うとか
使わないとか言っていた。
竜王が持っていた神器にも使われるような
希少なものらしい。
しばらくするとアイさんが帰ってきた。
アイ:「そろそろ寝ようか。」
総司:「そうだね。」
アイ:「アクアさん、
貴重なお話しをありがとうございました。」
アクア:「アイ様に喜んでもらえたなら私も嬉しいです。
竜王様はこの世界と、
この世界を創造された女神様が
大好きだったのでしょう。
私もこの世界が大好きですよ。」
アイ:「うん。ありがとう。」
アクアさんは笑顔でアイさんの言葉に答えた。
アイさんも更に笑顔で答える。
先に進んでいた僕にソフィさんが付いてくる。
アクア:「ソフィは私と夜の見張り番です。」
ソフィ:「え?なんで?」
アクア:「妹でしょ。姉に付き合いなさい。」
ソフィ:「わかったよ…。
それじゃ、他にも面白い話をしてよ。」
アクア:「わかりました。それでは母から聞いた
ドレイクという竜族の話をしましょう。」
ソフィ:「え…。それは聞きたくないかも…。」
アイさんと船室に入る。
アイさんは少し悲しそうにもみえる。
総司:「今日は一緒に寝ようか。」
アイ:「そうだね。ありがとう…。」
航海の初日は何事もなく順調に進んだ。




