12.人魚族の繁栄の始まり
アクアさんの一族計画の報告から一週間が経過した。
神殿はアイさんの宣言通り、
この上なく立派な仕上がりになっている。
入口の壁面には人魚の彫刻が刻まれている。
入り口に立ち魔道具を起動すると
自動的に両開きの扉が開く。
扉を抜けるとその先は洞窟ではなく、
長方形の通路で壁面を補強された通路になっている。
通路を進むと順次5つの自動扉が開いていく。
最後の扉を抜けると左右と正面に通路がある。
そこはもう部屋内の構造だ。
部屋内は透明な壁で二重構造になった水槽で構成されてる。
左右の通路は外側が壁で内側が水槽になり、
中央部分の部屋が見える。
内側の部屋は上壁と側壁の全面が透明で、
床も透明な水槽構造で四隅に透明な支柱が下に伸びている。
内側の部屋だけでも一辺が20mの立方体になっていて
広い空間になっている。
内側の部屋の四隅に透明な人魚の彫刻があり、
これが魔道具になっている。
入口以外の視界のすべてに魚などが泳いでいるのが見える。
この空間の大外の床面と外海と中央広場の海底とが繋がる
大きな通路が作られ、
そこから魚などが入ってくる構造になっている。
内側の部屋の中心に透明なベッドが置かれ、
そこに御神体が寝ている。
大外の壁には多数のライトが配置されている。
そのライトが内側の部屋に水中で泳ぐ
魚の影などを映し出している。
透明な板からも虹の様な光のスペクトラムが見える。
屈折率の異なる透明な材質を組み合わせることで、
光による演出も考えられているみたいだ。
それが計算された様に御神体や四方の像を映している。
神域と呼ぶのに相応しい幻想的な雰囲気になっている。
アイさんの魔法とオーバーテクノロジーを結集した
異空間が出来上がっている。
アクア:「この世のものとは思えませんね。」
シトリン:「素晴らしすぎますわ…。」
スピネル:「すごすぎる…。」
アイ:「人魚達は水中にいるような感覚の方が
落ち着くと思って。」
総司:「アイさんのとびきり豪華って言葉を
甘く見ちゃったね…。」
ソフィ:「入り口からここに来るまでの全てが夢の世界だね。」
アイ:「久々に見たけど御神体がちょっと太ってない?」
スピネル:「たくさん食べれば
たくさん出してくれるかと思って。」
アイ:「それ関係ないから。
元に戻るまで食事の量を減らしてね…。」
スピネル:「わかった。
でも、みんなそう思って、
たくさん食べさせてると思うから
アクア姉さんからみんなに言っておいて。」
シトリン:「あら…。
楽しみが一つ減ってしまいましたわね。」
アクア:「食事の時に皆に伝えておきます。」
この場合、丁重に扱われていると思うべきか、
雑に扱われていると思うべきか、判断に迷う…。
アクアさんは真剣に考えていたが、
みんな早々に御神体に飽きそうな気がする。
総司:「そういえば御神体の寿命って僕と同じくらいなの?」
アイ:「そうね。総司君と一緒で不老の身体だから、
大事に扱ってくれれば、
ずっと御神体として祭れると思うよ。」
総司:「え?待って待って。僕って不老なの?
長寿とは聞いてたけど…。
アイさんはどうなの?」
アイ:「私も総司君と一緒だよ。」
総司:「僕はともかくアイさんもそのままなんだ。」
アイ:「それどういう意味かな?」
にっこり笑顔で僕に聞いてくる。
その瞬間、背筋に寒気を感じた。
総司:「そのままずっと美人のままなのかなって。」
アイ:「そうだよ。嬉しいでしょ。」
総司:「嬉しいなぁ。」
たぶんみんなが気が付いた。
寛容なアイさんにも言ってはいけない言葉があると。
アクア:「アイ様、組織の編成で
ご相談したいと思っていました。」
アイ:「え?もう私に相談しなくていいよ。
もう自分達だけで上手くやってよ。」
アクア:「それぞれの専門官に
魔法適正者を専任で当てます。
有事の際に神官長が不在の時は仲裁官が指揮を執ります。
防衛は全員が兼務するとして、
神事が2
行政が4
教育が3
仲裁が3
狩猟が2
採取が2
生産が3
航海が3
私を除き魔法適正者は22名ですので、
この割り振りが最適と考えております。
行政官は保全も兼ねますので、人数は多めにしています。
防衛を除いて、各々の専門官に割り当てた
魔法適正者の割合に応じて神官を割り当てます。
これで運用してみて過不足を調整します。
修正した方が良いところがありましたら
ご教授ください。」
アイ:「良いと思うよ。」
アクアさんはアイさんの発言を無視して言いきった。
結局アイさんは素直に返事をしている。
最近はこのやりとりが多い。
スピネル:「私は神事官。」
スピネルさんが嬉しそうにブイサインをしている。
シトリン:「くっ…。私は仲裁官ですわ。」
総司:「どうやって決めたの?」
スピネル:「希望して人気の高い専門官はくじ引きで決めた。
私はくじ運が強い。」
シトリン:「全員が神事官を希望したので激戦でしたわ。」
そんな方法なんだ。
アクアさんが指名したのかと思ったよ。
適任かは置いておいて…。
ソフィ:「アクアさんは変わらず代表っぽい神官長なんだね。」
アクア:「いえ、私は前の代表制からの引き継ぎとして
取り纏めのようなことをしていますが、
神官長は有事以外は任命されないと思います。」
シトリン:「アクア姉様は今までずっと頑張って下さいました。
本人から休みたいと言われたら、お願いしづらいですわ。」
スピネル:「アクア姉さんがやらないと
他の誰かってわけにもいかないからね。」
アクア:「こちらはアイ様のお蔭で
私がいなくても問題無い状況になりました。
アイ様達と北の大陸へ移動した後、
そのまましばらくは
北の大陸の方で生活したいと考えています。
急激に変わった竜の島の状況の説明も必要ですし。」
なるほど。
確かに差が大きくなってしまった一族間の調整のために
北の大陸の方の一族を何とかしたいと思っているのか。
アクアさんもアイさんと同じで
ワーカーホリックみたいだ。
アイ:「そろそろ私達も別の大陸へ行こうか。
準備をお願いして良い?」
アクア:「最後に一つお願いしたいことが有ります。」
アイ:「まだあるの?
まさかお願いし続けて
ずっとここで働かせる気じゃないでしょうね?」
アクア:「次こそ最後です。
現状は狩猟と採取で食料をまかなえておりますが、
一族が増えることによる過剰な狩猟や採取で、
一気に食料不足に陥る可能性もあります。
また、この地だけでは足りなくなるのは
目に見えていますので、今後は他の種族との交流も
考える必要があります。
交流のきっかけとして交易関係を結べれば、
平和的に種族間の融和が進むと思います。
他種族との密接な交流により、
子を生す可能性もあります。
このままですと、
この島の人魚の子供は全て総司様の
子供になってしまいます。
専門官に生産官を設けましたが、
これは食料の安定的な確保と
交易に使える生産品目を作り出すためのものです。
生産する品目について、ご教授頂きたいです。」
アイ:「この島は食料環境が良いから
自分達で生産する必要は無かったけど、
これからは自分達で生産して、
更にそれを特産品にして他種族と交易まで行いたいと。
もうそこまでしたいんだね。
そうね…。
この島は外輪山の形成された綺麗な火山島で
内海が広く形成されているから
海苔の養殖がやりやすいね。
海苔は乾燥させれば保存が効くから交易品に使える。
食料用に貝の養殖と一緒にやれば効率が良いから、
海では貝と海苔の養殖ね。
山間部は果樹もあるから、
それを増やして果実酒を作ろう。
とりあえず、その3つを足掛かりにして、
慣れたら自分達で考えて品目を増やしていってね。
とりあえず、やり方を説明するよ。
誰でも出来る簡単な魔法と魔道具を
上手く組み合わせた方法にするから、
簡単に出来ると思うよ。」
アクア:「ありがとうございます。
生産官と担当者達を呼んできます。」
アイ:「網とかいろいろ準備しなくちゃいけないから、
島の外にいるよ。
担当者達が集まったらそのまま島の外に来て。
貝殻とか捨てないで集めてあるのがあったら、
それも持ってきてね。」
アクア:「かしこまりました。」
アイ:「総司君とソフィさんも行こう。
どんなことでも知識は大事だからね。」
僕とソフィさんはアイさんについて行く。
シトリン:「私も行きますわ。」
スピネル:「私も行く。」
そしてまた二カ月、竜の島の人魚達は
当初の3品以外にも新しい知識を教えられた。
採取官と協力して、りんごとぶどうのような果物を
竜の島で見つけて外輪山で栽培。
これをお酒にしてシードルやワインのようなお酒にしたり、
ドライフルーツにしたり。
狩猟については
外海に出て複数の人魚が協力して網で魚を取る。
イカは干して保存食にしたり、
雑多な魚や内臓などは、まとめて魚醤にしたりと、
この島の環境を生かした、
多角的な新しい産業を次々に手に入れた。
島内とはいえ山間部での活動も増えるため、
有事の際にはドレイクさんとエウリアさんに
救援をお願いした。
もちろん快く引き受けてくれた。
無償というのも申し訳ないので、
生産が上手くいったら酒や特産品を
定期的に提供することになっている。
相手はほぼ個人とはいえ、竜の島の人魚にとっては
他種族との最初の交易になる。
ドレイクさんには
モニターを持って帰ってもらっていたので、
連絡や情報交換も簡単に出来る。
僕達が人魚の島に来てから三カ月程度だが、
本当にいろいろなことがあった。
アイ:「さてと…。
そろそろ私達も別の大陸へ行きたいんだけど、
今度こそ準備してくれるよね?」
アクア:「もちろんです。早速準備に取り掛かります。」
その言葉を聞いてシトリンさんとスピネルさん、
聞こえていた人魚達が悲しそうな顔をした。
シトリン:「総司様、アイ様、ソフィ。
数年後でも構いません。
必ずまた来てくださいね。
これまで本当にありがとうございました。」
スピネル:「絶対にまた来てね。
その時には可愛い子供もたくさんいると思うから。」
総司:「いつも僕の面倒をみてくれてありがとう。
僕も寂しいけど、次に会える時を楽しみにするよ。
みんな元気でね。」
アイ:「そんなに深刻にならなくてもいいよ。
航路さえ覚えれば、すぐに来れるから。
船に拘ったのは
総司君に船旅をさせたかったのもあるしね。
楽を覚えたらもう二度と乗らなくなるだろうし。
年に1回は様子を見に来るよ。」
シトリン:「さすがアイ様ですわ!よろしくお願いします。」
スピネル:「アイ様ありがとう。
心配ないのはわかってるけど、身体には気をつけてね。」
そうして出港の準備を進める。
僕達は特に荷物も無いので、
人魚達への挨拶に時間を使った。
みんな名残惜しそうに別れを惜しんでくれた。
お腹を撫でながら、お父さん行ってらっしゃい。
とも言われた。
複雑な気分だったが、行ってきます。
と言っておいた。
次に来るときが少し怖い…。
アクア:「皆様、準備が出来ました。船にお乗りください。」
搭乗するのは僕達とアクアさん、
航海官を含む担当者が20名。
元々は帆船だったが、魔道具の推進装置を複数取り付け、
十分な推力が得られるようになったためマストは外した。
船体も魔法により生み出した金属に変わっており、
装甲艦のようになっている。
全長20m程度の船だが、
200人程度は乗れるそうだ。
個室などは無く、雑魚寝のような状態だけど。
総司:「この船も改装してから初航海になるんだね。」
ソフィ:「改装ね…。大きさ以外、原型を留めてないけど…。」
アクア:「私も元の船はそのまま残して、
新しく船を作ってもらった方が早かったと後悔しました。
極短時間で、ここまでのことが出来るとは
思いもしませんでしたので。」
アイ:「元の船を残しておいても仕方ないと思うよ。
もうこっちの船しか使わないでしょ。」
アクア:「それもそうですね。それでは出港します。」
船尾から手を振る。人魚達は外海まで見送ってくれた。
滞在期間は三カ月程度だが、
強い信頼関係を築くことが出来たと思う。
みんなにはいろいろお世話になったし、
楽しい毎日にしてくれた。
次の場所である北の大陸でも、
楽しい毎日になることを願う。




