11.一族計画
アクア:「アイ様、一族計画が出来たのでご報告します。」
アイ:「聞きましょう。」
アクア:「丁寧な言葉遣いはおやめください。
あの時のことを思い出しそうです。」
アイさんはアクアさんをジト目で見る。
アクアさんは目を逸らす。
アイ:「私がやめてって言ってもやめなかったくせに…。」
アクア:「続けさせて頂きます。
少々長くなりますがご容赦ください。
まず、細かな決め事の前に
原則としての考え方を申しあげます。
アイ様より頂きました、
「一族の末永い繁栄を考えること」
「総司様の人形を丁重に扱うこと」
この二つのお言葉を特に重視しております。
また、年月、代を重ねても永続出来るように考えて、
私共の一族の有り様から考えさせて頂きました。」
アイ:「ええ…。そう言ったけど、
単純に回数制限をつけたかっただけなんだけどね。
その言い様だと一生使うぞって聞こえるね。」
アクア:「続けさせて頂きます。
私共の一族は代表を一人置くだけで、
組織と呼べるような体制ではありませんでした。
今後は一族も急激に多くなり、
今の体制では一族の結束を
保てなくなることが容易に予測されます。」
総司:(二度スルーしたね。
アイさんも諦めた顔してるよ…。)
マリカ:(案外アイさんは雑に扱われるのが好きだからね。
アクアさんは賢い人だから
それもまた理解してやってるんだろうね。
スルーする割には話を一旦切って、
アイさんの顔色を見るそぶりも見せている。
わざと感想を引き出し、
内容の相違を聞いている状況にして、
最終的に出した結論に
合理性とアイさんが断り難い何かを示して、
納得してもらう筋書きなのかな。)
総司:(マリカさんの言う事も難しいね…。)
アクア:「組織化する上で最も重要なのは
皆が敬うに足りる象徴です。
それが有るのと無いのでは、
組織の結束に大きな違いがあります。
今回この前提となる象徴をアイ様より頂きました。
皆が敬愛する総司様を模した人形は、アイ様の秘術により、
優れた一族を生み出す御業をも宿らせております。
まさに御神体と呼ぶべきものです。
御神体が創造されて以降、
私共の一族全員が毎日のように参拝し、
若く未熟な者までが、
成長に向けて弛まぬ努力をするように変わっております。
象徴としてこの上ない御神体です。
この御神体を象徴として祭る一族として組織化します。」
総司:(言葉を飾っただけじゃないの?
見事に事実ではあるけど、
動機が動機なだけに素直に納得出来ないよね…。)
マリカ:(良いんだよ。こういうのも様式美で、
儀礼化してるって事になるの。)
総司:(そうなんだ…。
まあ、下品な物でも尊い物って気になるよね。
あれを祭られるのか…。
そもそも御神体に飽きたりしないのかな?)
マリカ:(元の世界でもそういうのあったしね。
それに比べればまだ上品だと思うよ。)
アイ:「ここまではいいよ。
ちょっと曲解もあるけど、私の希望にも沿ってる。
総司君の扱いはどうするの?
御神体そのものの生きた存在になっちゃうけど。
その一点だけで、私は全てをひっくり返すからね。」
アクア:「承知しております。
祭るのはあくまで御神体で、御神体の現身であり、
御神体の創造に関わった総司様は一族の賓客として。
御神体の創造主であり、総司様の庇護者のアイ様は、
神ではなく御神体の聖母として、
総司様と同様に一族の賓客とさせて頂きます。
ソフィ様は血縁者であり
御神体の創造に関わった者として
名誉一族とさせて頂きます。」
総司:(神様扱いされないのは良かったけど、
それでも分不相応だよ…。)
マリカ:(アクアさんはよくわかってるね。
アイさんは神様扱いを嫌う。
ソフィもちゃんと絡めることで
特別扱いをしていない感じにしてるし。
でも、実際にはアイさんを一族の強い助言者として
引き入れて庇護者にさせるようにしているね。
アイさんのような万能な存在を
一族の庇護者に出来るメリットは大きい。
それは御神体や総司とは比べものにならない。
御神体の聖母って言い方もよく考えている。
アイさんが受け入れそうな肩書きを、
一族の呼び名として付けたのは大きい。
総司はアイさんを釣り上げる餌だよ。
全てがアイさんに配慮している。
いつもは弄ったりしているけど、
アクアさんのアイさんへの敬愛は相当深いな。
本当によくアイさんのことを理解しているよ。)
総司:(アクアさんは一族の代表なんだもんね。
いろいろ考えてるんだね。)
アイ:「御神体の聖母…ね…。わかった。
あざといけど受け入れる。」
アクア:「ありがとうございます。
では具体的な決まり事に入ります。
・総司様を模した人形を御神体として信奉する。
・御神体の現身であり、
御神体の創造に関わった総司様を賓客とする。
・御神体の創造主であるアイ様を聖母とし賓客とする。
・御神体の創造に関わったソフィ様を名誉一族とする。
・一族は神事を執り行う神官職を設ける。
・神官は人型化が可能な全ての一族が任じられる。
・神官は御神体を信奉する神事を執り行う。
・神事を行う神殿を設ける。
・神事は一族の秘儀とする。
・神官は毎日三回御神体へ供物を捧げ、適宜に清めを行う。
・専門官を設け、神官は各々の専門官に所属する。
・専門官は(神事、行政、防衛、教育、仲裁、
航海、狩猟、採取、生産)を設ける。
・神事官は各専門官および一族の陳情により、
話し合いの場を設ける必要がある。
・専門官は前任者の指名による。
・専門官は神官の半数以上が反対する場合は罷免する。
・専門官は兼務を可能とする。
・必要に応じて専門官を新設する。
・神官の半数以上の合意で神官長が設けられる。
・神官長は半数以上の合意が得られるものが任命される。
・神官長は全ての事案に執行権、任命権、拒否権を有する。
・賓客の総意は神官長と同様の権限を有する。
・賓客の総意により神官長を罷免出来る。
・賓客の名を汚すような行動は慎むこと。
以上となります。」
総司:(今まで代表が居るだけで何もルールが
無かったのに急にこんなに作るんだ。)
マリカ:(ルールが無くても良いのは
権力者が大多数から認められていて、
その権力者が全てを上手に
コントロールできる量の間だけだ。
所帯が大きくなればそれが難しくなる。
そうすると組織化が必要だし、
組織にはルールが必要になる。
そしてルールは一つ決めると
あれもこれもってなるからね。
ルールって難しいんだよね。
下手にルールを設けると、
ルールに無いものは自由意思になりやすく、
これまで暗黙のルールとして存在していたものが
軽視されるようになるからね。)
総司:(例えば慣例とか常識とか倫理とかそういうの?)
マリカ:(そう。その辺は全てを明文化するのは難しく、
しない方が良い場合も多い。
まあ、私の考えってだけで間違ってるかもしれないから、
参考程度に聞いてね。
そしてこのタイミングでそっちに一気に舵を切った
アクアさんはすごいと思う。
アイさんがいる間に形にしたかったんだろうね。)
総司:(それと神事は一族の秘儀って事になってるけど、
あれのことだよね…。)
マリカ:(明文化し難い内容だしね…。)
アイ:「話を大きくして回数のことをうやむやにしたのね。
それはすぐに問題があるわけではないから、今は良い。
それと賓客って言葉で
ごまかしてるつもりかもしれないけど、
実質は私と総司君を権力者の立場にしてるのは
どうなのかな?
ただ、一族以外の意見を取り入れようとするのは
良いと思う。」
アクア:「そもそも一族計画は総司様とアイ様に頂いた
御神体のお蔭で成り立ちます。
アイ様がして下さいました、この島の改善内容は
一族の歴史の中で行われてきたものを既に超えています。
その他の行動も私共の一族が繁栄する
基礎になるものばかりです。
今後旅立たれることも考えて、
義務は無く、権利のみある立場です。
お手間を取らせない程度に
気にかけて頂けるだけで構いません。
アイ様のお蔭で、稀な発展をする私共の一族が、
世界の調和を乱すことがある場合、
それを止めて頂くためのものとお考え下さい。」
総司:(アイさんは世界の調和なんて考えてたの?)
マリカ:(ノーコメントで…。)
総司:(なにそれ…。)
アイ:「確かに最後のは私も気にしてなくもない…。
あくまで一人の人間としてだよ。
上手く言い包められた気がしないでもないけど、
わかった。いいよ。
私が出来る範囲でいろいろとお手伝いするよ。」
アクア:「ありがとうございます!」
人魚達:「「「「「ありがとうございます!」」」」」
総司:(結局全部オッケーなんだね。)
マリカ:(アイさんは優しいからね。
後で何とでも出来るし。
こういうふうに自主的に発展しようとする意思を
喚起するのもアイさんが望んだ通りなんだろうしね。
アクアさんの存在が大きいけど。)
アイ:(総司君とマリカさんも当事者なんだからね?
さっきから他人事みたいに言っちゃって…。
私も聞いてから答えちゃったじゃない。
マリカさんがアクアさんに贔屓するから
返事もそっちに寄っちゃったよ…。)
マリカ:(私は強く賢い女性の味方だからね。)
ソフィ:(アイさんは自分で好き勝手にやってるのかと
思う部分があったけど、実際は好き勝手言ってる
総司君とマリカさんの思いも組んで
上手に決着させてたんだね。
ほんとお母さんみたいだ…。)
マリカ:(アイさんに任せておけば
最善の結果になるからね。)
総司:(いつもごめんね…。
でもマリカさんの言う通りだしね…。)
ソフィ:(アイさんの凄さを改めて知ったよ。
こうやって念話でアイさんと会話出来るって
すごい特典だよね。)
アイ:(そんなことないよ。
みんなを幸せにするのが私の望みだし、
それが出来ているって思わせてくれるだけで、
私は嬉しいよ。)
総司:(アイさんに呆れられない様に頑張らないとね。)
マリカ:(そうだね。頑張ろうな。総司。)
ソフィ:(ところで名誉一族ってことは
私も神事に関われるってことだよね?)
アイ:(この場で聞く度胸があれば
聞いてみればいいんじゃない?)
ソフィ:(あとでこっそり聞くからいいよ…。)
アクア:「一族計画を施行するにあたって、
まずはお願いしたい事があります。」
アイ:「神殿を作ってほしいって話でしょ。」
アクア:「はい。一番良い場所なのですが、
岩盤が硬くて工事が進まずに放置されている場所に
造って頂こうと考えています。」
アイ:「中央の空間の奥の洞窟の先だよね。
今の言い様だとそこしかないもんね。
私は何か理由があって
放置されているのかと思っていたけど、
単純に硬かっただけだったんだね。
総司君の人形を置くんだから、
とびきり豪華に造っちゃうんだからね!」
総司:「僕も手伝うよ。防音は重視しようよ。
みんながここに集まるんだから。ね?」
アイ:「そうだね。
ここって全部オープンスペースなんだよね。
私もオープンスペースの方が好きだけど、
目的が目的だしね。」
アクア:「私も最大限協力させて頂きます。」
アイ:「硬い岩盤の位置ならいっそ強固に作って、
何かあったときの避難場所にも使える様にするよ。
御神体は味はわからないから、美味しくはないけど、
栄養のバランスのとれた飲み物を作れる魔道具も
設置するから、御神体にはそれを飲ませて。
避難したときのみんなの食料と飲料にも使えるし、
一石二鳥だよね。
御神体と一緒なら避難して不安なときにも
精神的に耐えやすいだろうし、
良いこと多いよね。」
アクア:「アイデアをご教授頂けるだけでも
ありがたいです。」
大事になったが、
アイさんなら最良の結果を実現するのだろう。
竜の島の人魚の一族は
大きく変わっていくことになりそうだ。
アイさんはワーカーホリック気味だから、
やることを見つけて次から次へと始めてしまう。
別の大陸に行くには、まだまだかかりそうだ…。




