09.後始末
目が覚める。まだちょっと暗いな。
昨日は早く寝たから早く目が覚めたみたいだ。
なんだか右手が痺れている感じがする。
総司:「ん?」
僕の右手を腕枕にしてアイさんが寝ている。
か…可愛いすぎる…。
しかし、昨日の夜何があった?
左右を見ると、たくさんの人魚達が寝ている。
僕とアイさんを中心に、2mくらい先で
円になるように集まって寝ているみたいだ。
昨日の夜何かがあったみたいだ…。
総司:(マリカさん起きてる?)
返事が無い。まだ寝ているみたいだ。
アイ:「うーん…。お、総司君起きてたんだ。おはよう。」
アイさんが眠そうに目を擦っている。
仕草が可愛すぎる…。
総司:「おはよう。ちょうど今、目が覚めたところ。」
アイ:「私はまだちょっと眠いなぁ。」
眠そうな顔をしながらニコッと笑う。
いちいち仕草が可愛すぎる…。
頭を撫でたくなっちゃうから、もういい加減やめてほしい。
総司:「僕は昨日は寝るのが早かったからね。
先に起きるよ。」
アイ:「待って。私から離れない方がいいよ。
私も起きるから、ちょっと待って。」
総司:「うん。いろいろといつもと違うんだけど…。
とりあえず何があったか聞いていい?」
アイ:「いいけど…。
特に想定外の事があった訳じゃないの。
予定通りに私と総司君が戦って、
終わった後に寝ただけ。」
総司:「えーと…。アイさんがすぐ隣で寝ていた理由は?」
アイ:「私がここに居ないと総司君が酷い事になるから。」
総司:「みんなが周りで寝ているのは?」
アイ:「総司君がここで寝ていて、私が傍に居るから。」
うーん…。アイさんが間違った事を言うはずがない。
簡潔に理由を教えてくれているのだと思う。
簡潔過ぎて僕が理解出来ないだけだろう。
しかし状況が荒唐無稽なだけに
何をどう聞いたら良いのかも分からないな。
総司:「僕が酷いことになるって言ってたけど、
アイさんがここに居なかったら、どうなってたの?」
アイ:「鎖につながれて種馬みたいになってたと思う。」
そうか…。それは確かに酷い状況だ。
僕にそんな未来があったなんて想像もしたことない。
アイ:(マリカさーん。起きて。起きて。
ちゃんと責任を取りなさい。)
総司:(責任って…やっぱり何かあったの?
人魚達を怒らせるような?)
アイ:(怒らせる様な事はしてないね…。
むしろ過剰に喜ばせた感じかな…。)
総司:(そうだよね。マリカさんが悪い事する訳ないよね。)
アイ:(過剰なサービス精神による行動が、
思わぬ結果になってしまう事って結構あるのよ。
総司君は心配しなくて大丈夫だよ。
絶対私が何とかする。
よく無い方法だけど解決策はあるんだ。
様子を見てどうするか決めるよ。
よく無くても、みんながハッピーになれる方法だし。)
総司:(いつもごめんね…。)
アイ:(総司君は悪くないし、誰も悪くない。
ただ総司君と人魚の相性がね…。)
総司:(え…僕は人魚の人達好きなのに…。
僕と相性が悪いんだ…。)
アイ:(違う違う。良過ぎると言っていい。
でも、過ぎたるは何とやらってね…。
とりあえず、みんなが目を覚ます前に、
中央の空間に移動しようか。)
総司:(わかった。)
僕とアイさんは飛んで中央の空間に移動する。
まだ誰もいない。陸地に降りる。
壁際に映写機のような物体がある。
たぶん戦闘記録の魔道具だろう。
あれを見るのが楽しみだ。
総司:「そういえばソフィさんが居ないね。
昨日の夜間に合わなかったの?」
アイ:「間に合ったよ。
ドレイクさんもエウリアさんも始まる前に着いたよ。」
総司:「良かったね。でも、だとすると何処に居るのかな?」
アイ:「たぶん周りで寝ていた人魚達に混じっていたと思う。」
総司:「呼んでくる?」
アイ:「私から離れないで。心配はいらないよ。
目が覚めたらここに来るから。
とりあえずマリカさんが目を覚ますまで待ちましょう。」
総司:「それなら、あの映写機みたいな装置を見ていい?
アレって昨日の戦闘記録でしょ?」
アイ:「うん。いいよ。」
総司:「ありがとう!」
魔道具を起動する。頭に映像が映し出される。
アイさんは相変わらず、ぶっ飛んだ強さだ。
それに対抗するマリカさんの動きはすごく綺麗でカッコいい。
そして強く美しい。僕と同じ身体とはとても思えない。
この勝負に勝敗は意味がない。本当にそう思える。
総司:「すごいねー!」
アイ:「総司君に見せるためにマリカさんと一緒に
頑張ったんだから喜んでもらえて良かったよ。」
総司:「うん。ありがとう!」
「「「アイ様、総司様おはよう~。」」」
アイ:「おはよう。」
総司:「おはよう。」
みんなで笑顔で挨拶する。
人魚達が起きてきたみたいだ。
挨拶に何だか違和感を感じたけど気のせいかな…。
みんな水辺から顔だけ出してこちらを見ている。
まだ人型に変化出来ない人魚達だ。
いつもは挨拶してくれたら各々どこかへ移動するが、
今日はずっとその場からこっちを見ている。
少し顔が赤く見える。
アイ:「やっぱり一晩寝たくらいじゃダメそうね。」
総司:「みんなどうしたのかな?僕を待ってるのかな?
ちょっと行ってきていい?」
アイ:「絶対ダメ。今日は水に入っちゃダメ。」
総司:「そうなの?まあ、いいけど…。」
アクア:「アイ様、総司君、おはようございます。」
総司:「おはようございます。」
アイ:「おはよう。アクアさんは大丈夫なの?」
アクア:「私はまだ本能に支配されてはいません。
ですが、総司君はこの島から出た方が良いかもしれません。
アイ様と総司君の信頼に答えられる自信がありません…。」
アイ:「もうどうにもならない感じかな?」
アクア:「人魚は女性しかいないため
種族の本能として強い種を求めます。
一人を皆で共有できるという点も悪く作用します。
強い種は一族のため、一族の宝という本能が働きます。
個々人で独占しようという意識は低く、
皆で獲得すべく行動します。」
総司:「このまま僕が居るとどうなるの?」
アクア:「もともと総司君は皆に好かれていました。
個人の利益と全体の利益が一致しています。
更に一部の者は熱烈な思いになっています。
命がけの行動もありえるでしょう。
誰か一人でも総司君に襲いかかれば、
連鎖的に全員が襲いかかる可能性があります。
本能が命じるのです。善悪は関係なくなります。
アイ様ほどの強者が傍にいれば生存本能により
自制が効きますが、総司君だけの場合は
隙があれば襲いかかる可能性はあります。」
アイ:「正直に話しをしてくれてありがとう。
少し考えるから待って。」
アクア:「わかりました。」
総司:(マリカさん起きた?)
マリカ:(さっき起きた。深刻な話になっちゃったかな…。)
アイ:(昨日のが良くなかったね。
想定してなかったのは迂闊だったよ。
この上なく強い種であることを示しちゃったから、
本能にガッツリ訴えちゃった感じだね…。
マリカさんが戦う前に感情面からも
無防備にしちゃったから、
それも良くなかったんだよ…。)
総司:(よく分からないけど深刻な状況なんだね。
何とかならないのかな…。)
アイ:(大丈夫。心配いらないよ。策は有るって言ったでしょ。
でも総司君、マリカさんにも手伝ってほしい。
特に総司君には少し思うところがある方法かもだけど…。)
総司:(なんでも手伝うよ。
思うところって何だか分からないけど、
少しくらいなら大丈夫。)
アイ:(良かった。)
マリカ:(私もアイさんの考えた方法なら問題ない。
で、どんな方法なのかな?)
アイ:(総司君の人形を作る。)
総司:(え?)
マリカ:(………マジで?)
アイ:(マジです。しかも子孫も残せちゃうやつです。
これでみんながハッピーです。)
総司:(確かに僕にも直接の不利益はないね…。
だから少し思うところがある方法って事か…。
う~ん…。)
アイ:(ここは人魚の島よ?人間の倫理や常識は
ひとまず置いておこうね。)
マリカ:(郷に入っては郷に従えだね。)
総司:(そう…だね。わかった。)
「「「「アイ様、総司様おはよう。」」」」
魔法使いの人魚達も起きてきたみたいだ。
シトリンさんとスピネルさんもいる。
アイ:「おはよう。」
総司:「おはよう。」
ソフィ:「おはよう。良かった。
ちゃんといつもの総司君に戻ってるね。」
ソフィさんも起きてきた。ソフィさんはいつも通りだ。
シトリン:「総司様、昨日はとっても素敵でしたわ。」
スピネル:「総司様、かっこ良かった。」
総司:「ありがとう。」
呼び方が変わってるね。僕を見る目も少し変わっている。
いつもならもっと近くまで来てくれるが、
今日は僕と少し距離を取っている。
マリカ:(総司、シトリンとスピネルは
ちょっと気をつけた方がいい。)
総司:(いつも一番親切にしてくれたのに。
でも、そういう事なんだね…。)
マリカ:(いつもより近づいてこないのは
アイさんを警戒しているからだと思う。
アイさんを警戒するってことは、そういうことだ。)
総司:(僕は二人のこと好きだから、何とかならないかな…。)
マリカ:(そういう八方美人は良くないぞ?)
アイ:(大丈夫。私が何とかするから。)
今日はみんなどこにも行かない。
ここに留まってこっちを見ている。
これだけでも昨日までとは全然変わっている。
アクア:「みんな朝ご飯にしましょう。」
いつもはアクアさんの号令でみんなが動き出す。
しかし今日は誰も動かず、変わらずこっちを見ている。
行動すべき優先順位が変わったということなんだろう。
アクアさんだけ真っ青な顔になる。
事態は思っていた以上に深刻らしい。
ソフィさんもおかしな雰囲気に気がついている。
誰も動かない。誰も何も言わない。
皆の笑顔の中に狂気がある。
アイ:(ちょっとマズい雰囲気だね…。)
総司:(ちょっと怖いね…。)
マリカ:(こういうときは大胆にいった方がいい。
総司、お腹空いた、とか言ってみな。)
総司:(は?この雰囲気で?)
マリカ:(いいからいいから。死ぬことは無い。
このままって訳にもいかないだろう。)
総司:(マリカさんの
そういうカッコいいとこが悪かったんだね。)
マリカ:(関係ないだろ…。)
アイ:(大丈夫。私が確実に守る。)
総司:(んじゃ、言うよ…。)
総司:「お腹が空いたな。」
シトリン:「すぐに用意しますわ。」
スピネル:「私が先。」
みんな一斉に動き出す。ソフィさんがこっちに来る。
ソフィ:「なんかみんな変じゃない?」
アイ:「そうね…。ソフィさんはしばらく
総司君の傍から離れないで。」
ソフィ:「わかったわ。」
アクア:「申し訳ないです。
もう私にどうこう出来る状況ではありません。」
アイ:「みんな完全に無視してたね…。」
アクア:「先程も言いましたが人魚は一族の意識が強く、
一族の利益が重視されます。
シトリンとスピネルの強い思いが、
自分達の思いと共感して、その行動の方が利益があると、
そう思われているのだと思います。
妹達はあれでも私に次ぐ実力ですから…。」
アイ:「やっぱりやるしかないねー。」
アクア:「総司君を外へ逃がすのですか?
シトリンとスピネルは、この大陸中を竜族と戦ってでも
探し出そうとするかもしれませんが…。」
アイ:「逃がすかもしれないけど、
その前にみんなにお土産を作ります。」
アクア:「お土産?どんな魔道具でも
今更惹かれるとも思いませんけど…。」
アイ:「子供も作れる総司君人形です。
本人の了承も取っています。」
総司:「そうね…。」
アクア:「は?本気で言ってます?」
アイ:「本気です。アクアさんも手伝ってね。」
アクア:「それが本当なら何でもします。
今更嘘とか言ったら私も変わっちゃいますよ?」
アクアさんがアイさんを真剣な顔で見る。
アイ:「とりあえず、総司君人形が出来るまで
他の人魚達が邪魔しないように
この周辺に防御壁を展開して。」
アクア:「わかりました。」
アイ:「ソフィさんも手伝って。」
ソフィ:「いいけど…。あとで私にも総司君人形貸して。」
総司:「何言ってるの…。」
ソフィ:「もちろん冗談だよ?言ってみただけだよ?」
アイ:「総司君は痛覚を無効にして両手を上げて。」
総司:「了解だよ。」
僕は痛覚を無効にして、その場で両手を上げた。
何をされるか分かった。
たぶんかなりの部分を斬られるんだ…。
アイ:(マリカさんは全力で身体の復元を。
かなりザックリいくから。)
マリカ:(わかった。)
アイ:「ソフィさんは総司君を後ろから
両脇を掴んで持ち上げて。」
ソフィ:「わかった。」
アイ:「総司君、今から大きな魔素結晶を作るから、
作り終わった魔素結晶を今上げてる手で持って
状態を維持しておいて。」
総司:「了解だよ。」
アイ:「それじゃ、総司君人形作成の開始だよ!」
アイさんがいつものように両掌を向かい合わせて魔素結晶を作る。
いつもよりかなり大きい。
アイ:「よし、出来た。総司君持ってて。」
総司:「はい。」
アイさんは魔法で刀を作り出し、
僕の胸から下を切り落とす。
マリカさんの回復魔法が始まり、
僕の身体は復元していく。
アイさんは素早く魔素結晶を僕から受け取って
斬り落とした身体に埋め込んでいく。
胸、肩、手、首、頭、みるみる僕の身体が出来ていく。
初めて自分の顔をはっきり見た。
僕によく似ているが女の子みたいだ。
アイさんは再び掌を向かい合わせる。
先ほどの魔素結晶よりは小さいが、
比べものにならない程に光り輝く珠が出現した。
それも僕のコピーの身体に埋め込んでいく。
その後、アイさんは総司君人形に両掌を当てて目を閉じている。
アイ:「よし!出来た!」
そのころには僕も完全に復元されて、
いつも通りに戻っている。
ソフィさんは僕を下してくれた。
総司:「出来ちゃったね…。ちょっと複雑な気分だ…。」
落ち着いて周りを見てみると、
人魚達がアクアさんの展開した
防御壁の周りで、こちらの様子を見ている。
特に妨害行動などはしてこなかったらしい。
アイ:「はい!皆さん注目!」
みんながアイさんを見る。
アイさんは完成した総司君人形を後ろから抱えて立たせる。
そして総司君人形のズボンを一瞬下げて元に戻す。
人魚達:「「「「「「「「!!!!!!!!」」」」」」」」
なんて酷い事をするんだ…。
シトリン:「美しいですわ。」
スピネル:「すごい。」
僕の表情の変化に気が付いて
シトリンさんとスピネルさんが慌てて言う。
マリカ:(二人に気を使われたね…。)
総司:(優しさが痛い…。美しいってなんだよ…。
生えてないこと?慰めになってないよ…。)
アイ:「これが欲しかったら私の言うことを聞きなさい。」
周囲の人魚達、アクアさん、ソフィさんまでが頷く。
マリカ:(容赦ない方法で人魚達を支配したね…。)
アイ:「私が総司君人形を渡すまで触ってはいけません。
アクアさん、防御壁を解除して。」
アクア:「わかりました。」
防御壁が解除されると、みんなが一斉に近づいてくる。
みんなが食事に待てをされた犬のようになっている。
アイ:「まず、総司君人形の説明をします。
意識が無いだけで、
その他は総司君本人とまったく一緒です。
最も確認したいことだと思いますが、
子供も作れます。」
人魚達:「「「「「欲しいいいいいいいい!!!!」」」」」
アイ:「口元に食べ物を持って行けば食べますので、
ちゃんと三食食べさせて下さい。
食べさせないと死んでしまいます。
また、食べるということは排泄もします。
清潔に保ってください。
不潔に扱ったら私が持ち帰ります。」
アクア:「一族を代表して確実に遂行することを誓います。」
人魚達:「「「「「誓います!」」」」」
アイ:「傷つけたり、粗末に扱ってはいけません。」
シトリン:「そんなことは絶対させませんわ。」
スピネル:「私が毎日見るから大丈夫。」
人魚達:「「「「「そんなこと絶対しません!」」」」」
アイ:「一族計画を作って下さい。
遺伝子が偏らない様に配慮すること。
たとえば一人二人までとか。」
人魚達:「「「「「…………………」」」」」
アイ:「あれ?守れませんか?」
アクア:「一族計画は私達で作って良いんですよね?」
アイ:「そうですね。ちゃんと一族の
末永い繁栄を考えて下さいね。」
アクア:「それこそ私の望むところです。」
アイ:「わかりました。
それなら、みんなで話し合って決めた
ルールに従えますか?」
人魚達:「「「「「従います!」」」」」
アイ:「総司君から他に何かある?」
総司:「ちゃんと専用の設置場所を作った方がいいんじゃない?
みんな開放的だから、その辺で使っちゃったりしないかな…。」
アイ:「確かにそうね…。
それじゃ、右側の空間からは出さないこと。」
人魚達:「「「「「わかりました!」」」」」
アイ:「そんなとこかな?」
総司:「そうだね。特に思い付くことは無いかな…。」
アイ:「それじゃ、右側の空間で総司君人形の
引き渡しをします。」
人魚達:「「「「ありがとうございます!!!!」」」」
アイ:「それじゃ、行ってくるね。総司君は来なくていいよ。
ソフィさんは総司君を見てて。」
ソフィ:「え?私も行きたい。」
アイ:「本人の方が良いでしょ。」
ソフィ:「本人だと出来ないこともあるでしょ?」
総司:「そういうの聞きたくなかったよ。」
アイ:「ソフィさん、よろしくね。私は行ってくるねー。」
アイさんが総司君人形を抱えて飛んで行った。
人魚達は全員それに付いて行く。
総司:「そういえばお腹空いたね。」
ソフィ:「用意はしてくれてあるから食べようか。」
僕とソフィさんの二人で朝食を取る。
そういえば、まだ朝だったね…。




