06.技術的交渉
アクア:「では、出港する準備もありますので、
それまで中でお休み下さい。」
アクアさんは先導する様に浮き上がってから
洞窟の奥の方へゆっくりと飛んで行く。
僕達もアクアさんを追いかけて飛び立つ。
洞窟は上部だけが空洞で、下部の大半が水没しているため、
上部の空洞の部分を飛んで進んで行く。
先ほどの大きな船が入ってくるには
高さが少し足りないくらいで、十分に広い洞窟だ。
アイ:「ありがとう。私にも敬語はやめてね。
あと、さっきまでのやりとりは
みんなには秘密にしてほしいな…。
私の魔法の強さを見込んで
魔道具の作成を条件に受け入れた。
とか、そういう話にしてほしいな…。」
アクア:「かしこまりました。」
アイ:「………敬語じゃなくていいからね?
それと欲しい魔道具があったら教えてほしい。
一つじゃなくてもいいから。」
アクア:「そうですね…。
私達の一族は魔法適正者も多く、
優れた術式も多く継承されています。
ですので魔法で困っている事は特に無いですね…。
困っている事と言ったら…。」
アクアさんが僕の方を見る。
そうだよね…。そういう話だったよね…。
アイ:「うーん…。それはねぇ…。そうだ。
船が中まで入って来れる様に
洞窟を大きくして周囲を補強したり、
居住区を広げたりの工事はどう?」
アクア:「なんでも構いませんよ。
アイ様がご納得頂ければ、もうそれで。」
アイ:「何か私が我儘言ってるみたいになってない?
ちゃんと役に立ってみせるからね!」
アイ:(総司君、マリカさん、何かアイデアはない?)
マリカ:(アイさんが高速飛行で飛んで行って、
ドレイクさんを連れて来るとか。)
アイ:(それはエウリアさんに悪いなぁ…。)
総司:(アクアさんの一族って
この大陸と別の大陸との行き来を
サポートしてるんだよね?
だとすると行先の大陸にも一族の人が居るって事だよね?)
アイ:(聞いてみるけど、たぶんそうだと思う。)
総司:(なら電話…って言って通じるかな…。
要は離れていても会話出来る通信用の魔道具なんて、
役に立つんじゃない?)
アイ:(それいいね。)
総司:(あと、船で行き来してるんだと思うから、
推進力を上げる魔道具と、
それに伴って必要になる船体の強度の向上とか。)
アイ:(それもいいね。
魔法適正者が多いって話だから、
魂の器を使わなくても
魔素結晶に術式を組み込むだけで
使える物が作れると思う。)
総司:(良い案だったら嬉しいな。
たまには僕も役に立たないとね。)
アイ:(総司君は一緒にいてくれるだけで
十分なんだからね。)
マリカ:(そうそう。
そういうことを気にする必要はないから。
でも、なかなか良いアイデアだと思うよ。
偉いぞ総司。)
総司:(うん。ありがとう。
これからも気負わずに出来る事をしていくね。)
アイ:「アクアさん。
行先の大陸にもアクアさんの一族の方が居るの?」
アクア:「はい。現状は向こう側に二隻の船があり、
この大陸への渡航を希望する方を待っている状態です。」
アクア:「………。」
アクアさんがマジマジと僕達の方を見ている。
アクア:「そういえば、アイ様達を初めて見ましたが、
どのようにしてこの島へ渡って来られたのですか?
私共に知られずに、こちらに来るのは
相当難しいと思いますが…。」
アイ:「私と総司君は別の世界から
この大陸に転生してきたの。
だから別の大陸から渡ってきた訳じゃないんだ。」
アクア:「そうでしたか。
転生者の伝承はありますが、温厚な方だったと…。
実際はこのように怖い方達だったのですね…。」
アイ:「違うから。怖くないから。」
アクア:「申し訳ございません。
そういう事にしておくのでしたね。」
アイ:「ほんとに違うのに…。私のことはもう忘れて…。
総司君みたいなのが転生者の本当の姿だから…ね?」
アクア:「かしこまりました。」
なんかもうアクアさんがアイさんを
弄っているようにも見えてくるな…。
アイ:「話を戻すね。ここと別の大陸の一族の人と
会話が出来る魔道具があったら便利じゃない?」
アクア:「そうですね。
そのような魔道具が有るなら、とても助かります。」
アイ:「よかった!後で作ってみるね。
たぶん相手の姿を見える様にも出来ると思う。」
アクア:「その様な魔道具が有るのですか?」
アイ:「無いけど作れると思う。」
アクア:「そうですか…。」
アイさんは笑顔で答えるが、
アクアさんは半信半疑の様子だ。
少し斜めに曲がったところを超えると
洞窟の出口が見えてきた。
先に広い空間がありそうだ。
アクア:「どうぞ中へ。」
洞窟の出口を超えると広い空間が広がる。
空間の中ほどより先まで水面が続き、
奥の方だけ陸地になっている。
一番奥は傾斜で少しづつ高くなり、
その先の壁面には洞窟の入口が見える。
空間の左右にも水面が続く洞窟がある。
複数の人魚が通過しているのが見えるため、
左右の洞窟のどちらにも、奥に空間があると思われる。
また、空間の上部から日の光が射していて
概ね全体を照らしている。
幻想的な雰囲気で、とても美しい空間になっている。
それに人魚が暮らすにはとても適した環境に思える。
奥の陸地の部分の手前に二人の女性が立っていて、
その奥に更に二十人ほどの女性がいる。
人型だけど人魚が変化した姿だと思う。
服装…というか水着姿に近いが、
アクアさんと似た格好だ。
水面には数え切れないほどの人魚達がいて、
こちらを見ている。
アクアさんはそのまま奥まで飛んでいき、
手前にいる二人の女性の前に降りる。
「姉様、ご無事で何よりです。」
「アクア姉さん、良かった…。」
手前の二人がアクアさんに駆け寄る。
アクア:「私は大丈夫よ。
アイ様、総司君、ソフィさん、紹介します。
私の妹達です。上の妹のシトリン。
下の妹のスピネルです。」
シトリン:「初めまして。シトリンと申します。」
スピネル:「スピネルです。」
シトリンさんは金髪で優雅な笑みを浮かべている。
スピネルさんは赤髪で気が強そうな見た目だ。
系統は違うが、どちらもアクアさんの様に美しい女性だ。
アクア:「そして後ろにいる者達は
一族を代表する魔法使いです。
私も含めて、先ほどの無礼を改めて謝罪します。」
「申し訳ございませんでした。
また、傷の手当までして頂き感謝します。」
人魚達の一人が言い終わると全員で頭を下げていた。
みんな綺麗な女性だ。
たくさんの水着美女が並ぶ圧巻の光景である。
アクア:「次はお客人を。
こちらは先ほど私共を瞬時に制圧されました、
無比なる強者アイ様です。
とてもお優しい方との事ですが、
死にたくなければ、くれぐれも無礼の無い様に。」
アイ:「………アイです。仲良くして下さいね。」
アイさんが少し引き攣った笑顔で挨拶した。
ここに来てアイさんのいろいろな姿が見れる。
これだけでも、ここに来て良かったと思える。
人魚達のアイさんを見る目は恐る恐るという感じだ。
人となりはまだわからず、
暴れたら誰も止められない事だけは知っている
という状況では仕方がないだろう。
アクア:「こちらは総司君。仲良くして下さいね。
それと女性に見えるけど男性よ。」
人魚達の目が獲物を狙う猫のような目になり
アクアさんを見る。
アクアさんは目を閉じて軽く首を振った。
あからさまに全員が、がっかりした顔になる。
総司:「総司です。お世話になります。」
少し申し訳ない感じで挨拶した。
アクア:「こちらは竜族のソフィアさん。」
ソフィ;「ソフィアです。
気軽にソフィって呼んで下さい。」
ソフィさんが笑顔で答える。
僕はアイさんとソフィさんの手を引き
水辺の方へ一緒に向くようにする。
総司:「こっちがアイ、こっちがソフィア、僕は総司です。
お世話になります。」
言い終わった後に両手を上げて手を振る。
水辺の人魚達も僕に合わせて笑顔で手を振ってくれた。
アクア:「総司君ありがとう。」
アクアさんは笑顔で僕に御礼を言ってくれた。
少しずつイメージを回復していかないとね…。
再びアクアさん達の方を向く。
アクア:「アイ様達は別の大陸に渡りたいとの事で、
私共が手助けする事になりました。
代わりに魔道具の提供を受けることになっています。」
人魚達を見ると、皆が不思議そうな顔をしている。
アイ:「これまでに見た事も、
聞いた事も無い様な物でも、
要望があれば言ってね。
手始めに別の大陸の人とも会話出来る様な
魔道具を作ってみるね。
総司君、ソフィさん、ちょっと手伝って。」
アイさんは僕の前に立ち、
胸の前で両掌が向かい合うようにして目を閉じる。
両掌の間に光の珠が出現し、
直径20cm程度まで大きくなる。
周囲から「おお~」と感嘆の声が聞こえる。
アイ:「総司君、今からこれを板状にしていくから
落ちない様に下から支えておいて。」
総司:「わかった。」
光の珠は板状に変形していき、
すぐに32インチ程度の液晶モニターのような形になる。
アイ:「次はソフィさん、総司君と同じようにしてね。」
ソフィ:「わかったわ。」
再びアイさんが両掌を合わせて光の珠を作り、
モニターを作成する。
アイ:「総司君はそのまま右側へ移動して。
ソフィさんは左側へ。
シトリンさんは総司君のところに行って魔道具を起動して。
同時にスピネルさんはソフィさんのところに行って
魔道具を起動して。」
シトリンさんとスピネルさんがそれぞれアイさんの
指示通りに魔道具を起動する。
すると僕の持っているモニターにスピネルさん、
ソフィさんの持っているモニターにシトリンさんが映った。
「「「おおおおおお~~!すご~い!!」」」
陸地にいる人魚達が更に大きな感嘆の声をあげる。
たくさんの水辺の人魚達も
それを見ようと陸地に上がってくる。
尾ヒレを足に変化させているが、
半数以上の人魚がスカートを履いていない。
「「「私達にも見せてー!」」」
水辺に留まる人魚達からも声があがる。
アイ:「ちょっと待って!
水辺からも見える様にするから、
スカートを履いてない人達は水辺に戻って!」
アイさんが僕のところに来て、後ろから肩を押してくる。
陸地の先端側にモニターの正面を向ける様に
魔法で台座を作り、固定する。
同様にちょうど逆側に当たる位置にソフィさんを
連れて行き、台座を作りモニターを固定する。
アイ:「準備出来たよ。
シトリンさん、スピネルさん、
さっきと同じように画面の前に立って、
同じように魔道具を起動して。」
シトリンさんとスピネルさんは
それぞれのモニターへ移動して魔道具を起動する。
同様に各々のモニターに他方を起動した術者の姿が映る。
「「「「すご~~~い!」」」」
アイさんも誇らしげな顔をしている。
そうだ。アイさんの凄さはこういうところなんだ。
無双プレイだけがアイさんの凄さじゃない。
アイ:「すごいでしょー。
シトリンさんとスピネルさんで
何かお話ししてみて。」
二人は頷く。
シトリン:「スピネルの不細工な顔が映ってますわよ。」
スピネル:「姉さん疲れてるんじゃない?
いつも以上に酷い顔してるよ。」
シトリン:「なんですってぇ~~!」
二人は口喧嘩を始めた。実は仲が悪かったらしい。
アイ:「ちょっと待って待って。ね!
すごいでしょ。会話も出来るんだよ。」
「「「すごいですね!」」」
アイ:「しかも情報は魔力界を通して伝達しているから
このモニターを設置すれば地球上の何処からでも、
同じようにお話しが出来るんだよ。
だから別の大陸に住んでいるっていう
人魚の一族の人達とも会話が可能になるんだよ。」
「「「おおおお~~!」」」
アイ:「別の大陸に持って行くのも大変だから
この魔道具はこのままここに置いておいて、
別の大陸で新しいのを作るよ。
右側を一番、左側を二番、
別の大陸に設置したら三番にする。
それぞれ会話したい場所の番号をイメージすれば
その魔道具と繋がる様にするね。」
アクア:「アイ様。厚かましいお願いとは思いますが、
その魔道具をこの空間と、奥の空間、右の空間、
左の空間、船、別の大陸、
それぞれに設置して頂く事は可能でしょうか?」
アイ:「いいよ。
その代り、船での私との会話の記憶を
微塵も残さず忘れ去ること。
それと私を特別扱いしない。
この二つを約束して。」
アクア:「かしこまりました。」
アイ:「良かったぁ。それじゃ、やり直そう!
アクアさんよろしくね!」
アクア:「アイ様、これからもよろしくお願い致します。」
アイ:「変わってないよね?それはもうそれでいいよ…。」
アイさんが手を出すとアクアさんも
笑顔で手を取って握手した。
周りの人魚達は一瞬よくわからない顔をしたが、
その後に笑顔で拍手を始めた。
こうしてアイさんの暴力的な力技の黒歴史は、
技術的な力技によって封印された。




