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アイの新世界(物語)  作者: 夢のファイヤー
始まりの物語
11/89

S07.マリカのチュートリアル 訓練

---------- マリカの視点 ----------

目が覚める。

テントの扉を開けて外に出ると、アイさんが笑顔で走って来る。


アイさんの家は基本的に無音だ。

テントの扉を開ける音で気が付くのだろう。

いつも転生者選定システムのところからすぐに走ってくる。


テントの中には寝袋があり、いつも寝袋で寝ている。

アイさんのテントの中にも寝袋がある。

正直寒くないので寝袋はいらない。

暑さも感じないから、寝袋で暑くなることもない。


わざわざ寝袋が用意してあるということは

寝袋で寝るのがアイさんの様式美なのだろう。

もしかたら寝袋が魔道具なのかな?


アイさんは私より早く寝たことはない。

そして私より遅く起きたこともない。

つまり私はアイさんの寝顔を見たことが無い。


寝ていないのかとも思ったが、

アイさんのテントの寝袋には寝た形跡があり、

寝てはいるみたいだ。


今度一緒に寝ようと言ってみようかな…。

アイさんは私の希望を断ることは一度も無かった。

もちろん無茶なことは言っていない。

出来る範囲で必ずなんとかしてくれる。

ずっとそうしてきたんだろう。


「おはようございます。」

「おはよう。」


アイさんは今日もニッコニコだ。

私も幸せな気持ちになれる。今日も頑張ろう。


アイさんはいろいろなことを教えてくれる。

この新しい世界のこと、魔法の使い方、戦い方など。


アイさんは訓練中はほとんど口を出してこない。

私に危険がないかをすぐ近くで見ているだけだ。


仮であっても若い身体になれば気持ちも若返った。

訓練自体も面白い。


身体強化の魔法で強化すると5m以上ジャンプ出来る。

これ以上は骨折覚悟になる。


痛覚制御と瞬間回復とを合わせれば

骨折前提のジャンプも可能だ。


ただ、中級の空気を操る魔法を覚えれば、

離陸と着地の直前に竜巻起こすことで

更に高くジャンプ出来て骨折もしなくなるらしい。


骨の強化は難しいらしく、単純な身体機能の限界は

骨の強度で決まっているみたいだ。


身体強化を覚えると

アイさんとの格闘技の訓練も入ってくる。

録画してくれていて、

都度、映像を見ながら改善点を教えてくれる。


草刈りも生前とは、まったく違う方法だった。

シンプルではある。

加熱の魔法で地面の下から焼いていく。

身体から距離が離れるほど魔法の効果が下がるので、

近場の前方の地面から半円状に焼いていく。


暑いので大量に焼く場合は

機動隊のような縦に長い盾を装備して

歩いていくとよいとのことだった。


作業自体は単純だが、

地面の下の根まで焼く調整が難しかった。


その後もいくつかを覚えて、初級も終了である。

ここまでで約半年かかった。


「初級は全部覚えたよ。認定試験とかあるのかな?」


「試験はありません。

 中級で詰まる内容で何が足りないかは分かりますので、

 その時に足りない部分を復習する方がいいと思います。

 緩く覚えて先に進むことで、

 より早く理解が進むということもあります。

 その方が結果的に効率が良かったりもします。

 急ぐ必要はないので、無理せず、楽しめることが

 他に見つかったら、そちらに時間を割いて問題ありません。

 私に手伝えることがあったら遠慮なく言って下さい。」


なるほど。確かにアイさんの言う通りだと思う。


元の世界と新世界とアイさんの家は

それぞれ独立した事象の系譜なので、時間が切り離されている。

あえて急ぐ必要も無いのだろう。


進みは任せてくれている。

言葉は堅いが、いつもの様に笑顔で言っているので、

あんまり気にしなくていいのかな。


「うーん…特に思い付かないかな。

 そのまま先のことを覚えるよ。

 中級ってどんな感じなのかな?」


「中級は魔法適正がないと使えない魔法、

 物質を生み出す魔法が主になります。

 まずは空気を生み出し、強い風を起こすこと。

 次に自分の周りに竜巻を起こすこと。

 次に身体強化と併用して強い風での急加速、

 竜巻と同時にジャンプすることで、

 より高く飛び、着地でも竜巻で衝撃を緩和し、

 身体へのダメージを軽減させること。

 併用すれば今まで以上に早く動き、

 高く飛ぶことが可能になります。

 その先には空だって飛べちゃいます。」


アイさんの言葉がちょっと砕けた。

やはり空を飛ぶとかワクワクするよね。


私がそうなるのを想像して

楽しそうな雰囲気になってくれているのかな。


よし。頑張ろう。


そして繰り返すこと半年、

安定して飛べるようになってきた。


最初は落ちそうになって、

アイさんが飛んできて受け止めてくれたりした。

今ではそういうことも無いくらいには飛べていると思う。


最近は格闘技も魔法を組み合わせての訓練になっている。

身体強化のみの時と違い、打撃系が主になる。

蹴りにつま先から空気を発生させて斬撃を出したりもする。


既に元の世界とはかけ離れた戦いになっている。

有名な格闘アニメの世界だ。


人はこんな短期間にここまでのことが

出来るようになるのだろうか?


いや、私がどうこうじゃなくて、

魔法によるありえない身体能力と、特種な環境、

そして何よりアイさんの指導によるものだろう。


ここまで出来るとかなり楽しい。

魔法により男女の差など皆無と思える。

いや、アイさんとしか戦ったことないけど。


男女の差といえば服装は気になる。

私は下はデニムパンツだが

アイさんは相変わらずワンピースだ。


動きが大きければ裾も捲れる。

しかし膝から上が見えることは無い。

風の魔法で器用に制御しているみたいだ。


そこまでしてワンピースを着続けるのは

思い入れのある服装なのだろうか。


そろそろ次に進もう。


「空を飛べるって気持ちいいよね。

 空を飛ぶなんて、それだけで人の夢だもん。

 ここだと景色はほぼ無いけど、

 新世界の空を飛んだら、すごく綺麗なんだろね。」


「はい。新世界は自然も豊かで大樹も多いです。

 市井の街並み、魔法使いが作った巨大建造物など、

 飛びながら上空から見たら、本当に綺麗だと思います。

 私もいつか新世界の空を飛んでみたいと思います。」


アイさんはウットリした顔で言っている。

そうか。アイさんも新世界の空を飛んだことが無いのか。


いつか広い空をアイさんと一緒に飛んでみたい。

叶わない望みと知りつつも、そう願わずにはいられない。


「空気を発生させて操るのも上手く出来る様になってきたし、

 次は空気じゃなくて固体を生み出すんだよね?」


「はい。当たり前ですが、物質を生み出す、

 特に固体をそのまま生み出すことで、

 出来ることは飛躍的に広がります。

 入手が困難な状況でも魔法で生み出せば簡単です。

 作れるものは購入する必要が無くなります。

 普通に生活する分には金銭の心配などありません。

 直接金銭を生み出すことも可能です。

 ただ、金銭に使われているような重金属を生み出すには

 相当な知識と魔力が必要になるため、

 強力な魔法使いにならないと出来ません。

 生活に必要なものを生み出し、使い、売る。

 そういう使い方が良いと思います。」


おお…。そういう状況になっちゃうのか。

無から有を生み出す行為だもんね。

なんでもありな世界になっちゃうよね。


元の世界なら、まさしく神の御業。

まあ、空を飛んでいる時点で今更だけど。

ただ、これは言わない方がいいな。


アイさんのこと、アイさんのすることに対して

神という言葉を使うとあまり反応がよくない。


「元の世界では、

 お金と、お金によって得られる恩恵に

 とても大きな価値を感じて、

 それこそ人生を通じてお金を稼いでいたよ。

 私もそうだった。

 せっかく使えるようになる魔法だし、

 それを上手に使うことで新しい価値、

 それこそ生きがいっていうのかな。

 そういうのも探しといた方がいいかもね。

 格闘技もアイさんに教えてもらって楽しくなってきたし、

 新世界では武闘家になるなんてのもいいかも。」


「はい。新世界にはそういう方が数多くいらっしゃいます。

 戦う相手に困ることは無いです。

 固体を生み出す魔法で

 いくつかの物質の生成を覚えたら中級は終了です。」


やはり脳筋の多い世界か。

ここにきて私も強くなることを目標にして

ずっと頑張っているから、

脳筋の仲間入りしちゃったかな。

新しい人生だし、割り切っていこう。


中級も終盤だし、

格闘技の方に時間を割くようにしようかな。

新しい内容にチャレンジしていこう。


そして格闘技は武器も使いだした。

武器を使ったらもう格闘技って認識は正しくないかな。

ここからは武術だね。


私が作った武器は直ぐに折れるので、

アイさんに作ってもらった。


武器は刀にした。アイさんも刀だ。

剣や槍はどちらかと言うと刺突武器に類すると思う。

剣は斬ることも考えられた武器だが、

剣の切るは重量で押し切る構造だと思う。


大剣や斧、槌もあるが、

重量によって得られる破壊力がなくても

強化された身体の力で十分だと思う。

むしろ重量でスピードが落ちる分の

デメリットの方が大きいと思う。

刀は突くことにも切ることにも優れている。


新世界の生物はとにかく強いらしい。

仕留めるには頭、首、心臓を突く。

無力化させる場合には四肢を切り落とす。


魔法使いは首を切るくらいでは直に回復するそうで、

切り落とすようにして身体から離すくらいでないと

すぐにつながるらしい。すごい世界だ。


私が躊躇していたら、

アイさんは私の四肢と首を切り落とした。

私の四肢と身体が消えて首から生えた。

魔素の身体だとこんなものらしい。


こういう時のアイさんは躊躇がない。

アイさんの笑みの消えた真剣な顔で、

私は動けなくなった。


まずはこの辺から慣れないと話にならない。

もっと背筋が凍るような状況だってあるだろう。


しかし、アイさんが首だけになった

私を抱き抱えてくれなかったら、

しばらくは武術の練習は出来なかっただろう。


いや、痛覚操作で痛みはほぼ消していたから、

たいして痛くはないんだけどね。

気持ちの問題だね。


たまにキツイこともあるけど、魔法は本当に面白い。

でも、ここまでの訓練が必要と思われている

新世界のリスクは真剣に考えた方が良さそうだ。


そろそろ実際に新世界を見に連れて行ってもらおうかな。

いや、もう少し強くなってからにしよう。

今行ったら一発で心が折れそうな気もするから。


アイさんの役に立ちたい。

これは私の心からの想いになっている。


そんなこんなで、また半年が経過した。

いよいよ最後の上級だ。


「中級の魔法ももう大丈夫だと思う。

 最後は上級だよね。どういう内容になるの?」


「はい。上級は中級魔法の組み合わせと

 魔道具の作成が主になります。

 中級で身体強化と空気の魔法を組み合わせることで、

 運動能力を更に上げたり、

 浮遊したりと覚えて頂きましたが、

 上級は固体を生み出し、

 それを射出して攻撃することを覚えます。

 生み出す固体によって特性が変わますし、

 形状によって射出方法も変わります。

 覚えたら慣れて頂く必要もあります。

 基本的に固体の射出の魔法が先制攻撃になりますので、

 とても重要です。

 あとは食材の魔法です。

 食材の魔法は実際には魔道具で何とかなりますので、

 優先度としては他に比べて低くて良いかと思います。

 食材の魔法は基本栄養素のブドウ糖、アミノ酸、

 脂質を生成して、それぞれを炭水化物、タンパク質、

 脂肪にまで結合するところまでです。

 魔道具に術式を組み込めば使うのは簡単です。」

「ありがとう。頑張って覚えるね。」


それを食材と呼ぶのか…。確かに食材ではあるけど…。

それはまったく想像の中に無かったよ。

全部味がほとんど無さそう。


炭水化物って米とかパンじゃない炭水化物って

どんなのなんだろ。

タンパク質も肉とか大豆じゃなくて、

そのものってどんなだろう。

脂肪はまあ、どっちにしろ味が無いからいいかな。


楽しみにしていたけど、

急に覚えなくていいかなという気になる。

食材の魔法は魔道具を作ってもらうでいいかな。


「食材の魔法は魔道具の作成を頼んでもいいかな?」


「はい。魔道具で作る場合は

 術式が複雑でも一度記載すれば繰り返し使るので、

 ちょっと複雑ですが、塩、コショウ、醤油、パン、

 米、麺、パスタ、鶏肉、豚肉、牛肉、ニンジン、キャベツ、

 ネギ、レタスなど、一般的に食べられている

 物が生み出せるようにしておきます。

 これなら調理も出来ると思います。」


「それ超嬉しい。

 でも、そんなにたくさん身に着けられるかな…。

 一番小さくて身に付けやすい指輪だとしても、

 そんなにたくさん身に着けていたら、

 メリケンサックを常時着けてる人

 みたいになっちゃうよね…。

 友達できなそう。」


「指輪一つに全ての術式を記載出来るので大丈夫です。

 通常の魔道具では不可能ですが、

 魂の器を使った魔道具であれば、

 そのくらいは問題ありません。」


「良かった。ホントありがとう。

 これから魔道具の作成も教えてもらうんだけど、

 通常の魔道具と魂の器の魔道具ってどう違うの?」


「通常の魔道具は魔素結晶で作ります。

 魔素結晶の大きさによりますが、小さなものですと、

 大規模な術式は記載出来ません。

 中規模の術式で2つ、小規模の術式で5つが目安です。

 そして術者本人が身に付けていないと発動できません。

 魂の器の魔道具は大規模な術式で20程度記載できます。

 術者が身に着けていなくても、

 繰り返し発動の状態にしておけば、

 止めるか壊れない限り、永続的に発動し続けます。

 新世界にあるマーカーも魂の器を使った魔道具で、

 転生者の方に新世界に持ち込んで頂いた物です。

 確認できる範囲で魂の器の魔道具は

 私が作成した物が有るのみです。」


軽く聞いちゃったが、

魂の器の魔道具は神器と呼ぶべきお宝だな。


それと聞き流してはいけない。

永続して生み出すとなると、米や肉が勝手に

どんどん作られていくなんて代物なのか。


まさに神器だね。

いや、アイさんには言わないけど。


「厚かましいとは思うけどお願いしちゃいます!」

「はい。」


アイさんはニッコリ微笑んで答えてくれた。


以前聞こうと思っていたマーカーのことも分かった。

転生者の方々に持って行ってもらっていたのか。


マーカーの無い時期に新世界に行った方って、

どんな世界かもわからずに飛び込んだのか…。

勇気あるな。

それともコピーだったのかな?

まあ、どっちでもありがたい話だ。


さあ、最後の上級だ。

武術の訓練はアイさんが

魔素で作る新世界の生物との実戦も始まった。

相手には人種もいる。魔法も使ってくる。


魔素の身体は血を流さない。

血を見ると平常心を失うこともあるので

無心で戦えるように十分に訓練が必要とのことだった。


これもまた生前では考えられなかった世界である。


偽善だとは思うが、生き物を殺すのは抵抗がある。


それに新世界の生物ってアイさんが作ったんだよね?

聞きにくいけど、

今度その辺をどう思っているのか聞いてみようかな。


そうしてまた半年が過ぎた。

食材の魔法もかなりの種類を覚えることが出来た。


もう予め用意されていた内容で

覚えられることも無くなってきた。


そろそろ決断しなきゃいけない。


アイさんには言えないが、私は新世界に行ったら

もう一つやりたいことが出来ていた。


「そろそろ新世界を見学させて貰っていい?」


「はい。では、明日から透子さんが

 希望する場所に順次ご案内します。

 ですが、それほどマーカーは無いので、

 行ける場所の範囲ということになります。」


「よろしくね。いつも感謝してるよ。ありがとう。」


「御礼を言いたいのは私の方です。

 一緒に居てくれるだけでも本当に嬉しいです。」


少し寂しそうにしている。

アイさんのそういう顔は初めて見た。


私が出ていく用意を始めたのを察して

そう思ってくれてるのかな。


違和感を感じる。少し考える。

私、いや、これまでの転生者も含めて

誤解してるんじゃないか?


最初は新世界の事象の分岐を増やす、

新世界の可能性を広げることが目的だったのは間違いないと思う。


でも、もう新世界は私の手を離れるくらいに

成長しているとも言っていた。


ここに来た人は、アイさんをすぐに慕い、

アイさんの思いに応えるように

用意されたものを一生懸命にこなしていく。


そして勝手に誤解して、

正しくないかもしれない空気を読んで出ていく。


アイさんは今では転生者を探すというより、

次に一緒に居てくれる人を探している。

そういう可能性だってなくはない。


元の世界でも誤解ばかりだったと思う。

相手の思いを理解出来ていることなんて、

むしろほとんどない。


聞いてもアイさんは自分で自分に課した役割から

外れる様なことは言えないと思っているだろう。

ある意味、ここに人を呼べる大義を否定するのに等しい。


直接聞くことに意味は無い。

まだ次の転生者も決まってない。

どうするのがいいのか。私は一歩踏み出す。


「アイさん。今日は一緒に寝よう。」

「はい。」


注意深く反応を見る。感情の揺らぎは感じられない。

いつものニコニコ笑顔だ。

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