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戦闘が終わり、リザルトも終わってプレイヤーが出てくる。
やっぱり顔見知りのプレイヤーたちだ。彼らはヨーコちゃんに手を差し出し、握手を交わしてこちらにやってくる。
『素晴らしい戦いでした! あの奇跡のショットを見せた方はどなたですか!? あ、純然たる興味ですのでお答えいただかなくても大丈夫です!!』
誰もが拍手で迎える中、二階の実況者が遠慮せずに誰もが訊きたかったであろうことを訊いた。
が、リーダーの青年は腕を大きくバツにして答えを拒否。実況者は残念がりながらも大人しく引いた。
不安げにキョロキョロ見回しているヨーコちゃんに片手を上げて存在を示せば、ぎゅっと眉間に皺を寄せて顔をしかめられる。しかしそれもすぐにほっとしたように緩んで、小走りで走ってきた。
もしかして彼女、目が悪いんだろうか。
「先輩、すいませんでした!」
「いいよいいよ。俺も追いつけずにごめんな」
ぺこりと頭を下げてカードを差し出す彼女に、俺もカードを差し出して交換する。
「スナイパー、楽しかった?」
「はい!」
ヨウタさんが訊けば、力強い返事と笑顔が返ってきた。それだけでも間違えた価値はあった。
「よぉ! お前んとこのスナイパー面白いな!」
「ごめんね。初陣貰っちゃった」
「いいよ。むしろ世話焼いてくれてサンキュー」
チーム『ハラペコナンジャー』のメンバー、切り込み隊長のレッドとリーダーのブルーと挨拶のハイタッチを交わす。戦隊物っぽいチーム名なのに、リーダーがブルーなのはツッコんじゃいけないポイントだ。
紅一点のイエローはヨウタさんの後ろに隠れたヨーコちゃんに迫っていた。
あちらのチームもスナイパーが欲しいと言っていたので狙っているのだろう。
「先ほどプレイをしたお客様ー!」
「あん?」
ひとまず休憩に自動販売機コーナーに行こうとして、店員が呼んでいることに気づいた。
レッドが代表として事情を聞きに行く。少し話して俺たちを手招いた。
ぞろぞろと行ってみると、ヨーコちゃんが呼ばれる。
「な、何かしましたか!?」
「いや、さっきのプレイで画面が映らないとかなかったか? なんかモニターが不調でたまに砂嵐が起きてたっぽい」
見ればちょうどヨーコちゃんが入っていた筐体に、急遽書いたのだろう故障中の紙が貼られるところだった。
「……砂嵐といえば。ヨーコさん、バトル開始時に砂嵐とか呟いてなかった?」
「あ、えと、はい。砂漠が見えたかと思ったら、ざざーって砂嵐の中みたいに視界が悪くなって……え、まさか」
「あー……それだわ」
聞いていた俺たちは絶句する。
何度も彼女には驚かされていたが、いっそう驚いた。十全ではない状態でのヘッドショット&コア爆撃とは何者だ。
不調ならすぐに言ってくださいと店員から注意を受けて、ヨーコちゃんは頭を下げて謝罪する。
「ますますうちに欲しい!」
「うちの子だからだめ!」
その後ろで、女子二人が戦っていた。男どもは苦笑しかできない。
「Bランクになると、フィールドが増えて天候が追加されるとは聞いていたので、てっきりそれかと……すいません」
休憩所でジュースを奢り奢られしながら話を聞いてみると、ヨーコちゃんはやはりとんでもないことを言う。
普通はモニターの不調を疑うのに、たまに綺麗に映るもんだから彼女はフィールド効果と勘違いしたらしい。
「変に立ち止まるからおかしいなとは思ってたんだ……」
「ツイーヨしてにも現実味がないぞこれ。嘘松乙で終わる」
まさに事実は小説より奇なり。である。
実際見ていた俺たちですら信じられないんだから、ネットなんてもっと信じてもらえないだろう。
やはりとんでもない逸材だ。
「武器ポイントあげたいからアカウント教えて!」
「あ、あの、えと」
「ああ、ヨーコちゃんは称号狙いで1からやり直すんだ。だからアカウントはまだない」
ようやくチームに入れることを諦めたイエローが、気を取り直して携帯を手に迫ってくる。
勢いに押されてやや身を引いたヨーコちゃんを庇い、俺が横から説明した。ヨーコちゃんも頷く。
ここまで機体操作に慣れていて、実はやったことがない。なんて言い訳は出来ない。でもアカウントをやり直すと言うことは相当の理由が必要だ。
あいつらにやられた事を言いふらしてもいいのだが、それで悪評が立って立場が悪くなったアイツらがヨーコちゃんに報復に出るかもしれない。
ヨーコちゃんを守ろうと思ったら、一番安全なのが称号狙いという理由だった。
「えー。勿体ない」
「いや、分からんでもない。あの称号狙いだな?」
「その通り」
紅蒼では戦績によって称号を貰える。
初出撃すれば必ず貰える【期待のルーキー】。初撃墜で【祝! 初撃破】。50機撃墜で【中堅パイロット】辺りは誰でも持っているだろう。
珍しい称号となると、条件が厳しかったり、そもそも公式が存在を明かしているのに取得条件は不明な物もあったりする。
「彼女の腕前なら、【蒼のヴァルフリーク】を狙ってみたくはなるな」
その中でも特に、Cランクから気をつけていないとゲットできない称号がある。
【紅のヴァルフリーク】と【蒼のヴァルフリーク】だ。
条件は撃墜数が500を越えること。それだけでもキツいのに【紅】は格闘・近接武器だけで撃墜。【蒼】は砲撃・射撃武器だけで撃墜しなければならない。一回でも他の武器で撃墜すればゲットできない。
【紅】は撃墜数がネックなだけで獲得しやすい。俺とヨウタさんも実は持っている。しかし【蒼】はAランクにたった2人だけ。
なんせ、砲撃だけでCランクを乗り越えなければならないのだ。仲間に手伝ってもらってBランクに上がっても、そこから撃墜数を稼ぐのは難しい。スナイパーはどうしてもサポートに回りがちだ。
「まぁ、どうなるかわからないけどな」
もちろん、【蒼のヴァルフリーク】狙いというのは建前だ。
だがこの称号なら1からやり直しても不自然ではない。彼女の腕前を知っていれば尚のこと自然に見える。
「そういうことなら、ヨーコさんをさっさとBにあげちゃおう! レッドー! 彼らにチーム対抗戦を申し込みまーす!」
「ああ、いいね。俺らも敵に回ったヨーコさんの脅威を知っておきたいし。レッド、それでいい?」
「あー? 聞いてなかったがヨーコのレベリングなら付き合うぞ。オレのポイント持ってけー」
イエローとブルーの突然の提案を、少し離れてヨウタさん、よーへいさんと話していたレッドは二つ返事で了承する。
ヨウタさんたちもOKを出したので、チーム対抗戦の日付を決めるために俺たちは休憩所から出た。
ヨーコちゃんだけはチーム対抗戦? と首を傾げていたので、あとで説明しようと思う。