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 遮蔽物のほとんどないそのフィールドは、練習には少し不向きなシチュエーションと言える。

 ヨーコはみなが進む中、弾の飛距離の感覚を掴むことに苦労していた。

 ゆっくりと明滅するように砂嵐が激しくなったり、晴れたりするのもしんどい。

 それでも砂漠の僅かに隆起した部分や、砂漠から出てる岩を目印に射撃訓練を続ける。

 二十発ほど撃ったところで、彼女は敵陣に向けて動き出した。

「すいません。スナイパーの撃墜を狙ってみて良いですか?」

「お、あの目立つ奴? いいよ! やってみて!」

「一発で仕留められなかったら、俺たちの後ろに隠れてね!」

「はい、わかりました」

 俯瞰図で見れば、敵陣に攻め込みに行ったが、敵陣近くの高台を陣取るスナイパーのせいで攻めあぐねているように見えるだろう。

 だが、ヨーコの練習の流れ弾を貰わないために敵陣近くまで行っただけで、今日は勝つ気がない。

 ヨーコは知らなかったが、上位ランクになればなるだけスナイパーは貴重なのだ。晴れてBランク帯に上がってスナイパー機体と武器を手に入れても、上手く当てることが出来ずに近接機に乗り直す者は多い。

 ロックオンが出来ても、敵は移動するのである。それを狙い撃つには集中力と忍耐力が必要だ。

 逆に言えば。動かない敵は、格好の的と言える。


 もちろん敵も馬鹿ではない。ロックオンされればすぐに逃げられるように立った状態で撃っている。

 脇から一機近付いてきているのをレーダーはちゃんと捉えている。そのために広範囲索敵レーダーを交換し、装備しているのだ。

 だけれどどういうわけかその機体は途中で止まった。スナイパー機だと思うのだが、Bランクに上がったばかりの新人なのかもしれない。

 放っておいて良さそうだと意識を前に向けた瞬間、衝撃が襲った。


 撃っていて分かったが、スナイパーライフルは反動での硬直時間が少し長い。

 だから本来は一発撃ったら逃げるべきだが、敵のスナイパーは何故か動かない。これ幸いとずれた照準を修正して頭を撃ち抜く。

【Blue04、Retire】

「すいません。一発で仕留めきれなかったのに隠れませんでした」

 無機質なアナウンスを聞きながら、ヨーコは言われたことを守らなかったことを心から詫びた。硬直が解けてすぐに彼らの後ろに隠れたが、勝手な行動をしてしまったことをひたすら反省する。

「いやいやいやいや!? すごいね!?」

「何したの今!?」

「反撃受けてない!? 無傷!?」

「え、あ、はい。無傷です」

 何故かとても心配されたことに面食らう。

「ええー、本当にスナイパー初なのー? 神だべ」

「た、多分、たまたまです」

 狙撃したときは砂嵐がたまたま止んでいただけで、今はまた前が分からないほどの状況になっている。

 またやれと言われても出来る気がしない。

「あ、すみません」

 ちょうど砂嵐が晴れたところで、味方と味方の間から敵の姿が見えた。距離といい、角度と良い、ちょうど良い位置だ。

 その頭を思わず撃っていた。

【Blue01、Retire】

 無機質なアナウンスに、自分がやったことの危険性に思い至ってヨーコは顔を青ざめさせる。

「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 平謝りをしたものの、メンバーからの反応はない。

 撃たれる衝撃に備えてレバーから手を離し、頭を抱えて身を丸くした。

「すっごい!! すごいよヨーコさん!!」

「へ……?」

「マジで今のなに!? オレ鳥肌がとまんねー!!」

「いやぁ、Aクラスの神業だよ。センスあるどころの騒ぎじゃない」

「あなた、うちのチームにおいでよ!」

「いやいや、タイヨウのカードでやってんだから、あいつのチームメイトだからね。引き抜くな」

「引き抜きたいよ!! ね、ね、もっかい出来る!?」

「バーカ! あーいうのは一回だけでいいんだよ!」

「やーだー! もっかい見たいー!! リプレイ機能付けとけば良かったぁぁ!!」

「あー、うるさくてごめんね、ヨーコさん」

「ちょ、やべ! ヨーコ、ヘッドホン外してみ! 面白いもん聞こえるぜ!」

 返ってきたのは、銃弾の嵐ではなく賞賛の嵐だった。

 一人に促されてヘッドホンを外す。筐体に付けられたドアは音を遮断すると言っても完璧ではない。近くで声を掛ければそれなりに聞こえる。

 大声で騒いでいれば、それも充分に聞こえる。

 それは、歓声だった。

 ヨーコに対する、賞賛の声だった。

「え、あれ、なん……っ!?」

 逃げるようにヘッドホンをして、どういうことかを問いたかったが、驚愕で言葉が詰まってきちんと喋れない。

「あ~。ほんと、初陣をうちが貰っちゃって悪いな。あとでジュースでも奢ろう」

「オレもオレも!」

「私はヨーコさんに武器ポイントー!」

 訳が分からなくて混乱して、それでもヨーコは一つの確信を得た。

 少なくとも、撃っていいのだ。思う存分。

「……あの。もっと撃って、いいですか……?」

 返ってきた答えは、

「もちろん!」


 ****


 その後は一方的な試合……といかず、ひたすら練習することにしたらしい。

 誰が入っているのか名簿を確認したら知り合いだった。世話になった礼として後でジュースでも奢ろう。

「な、なぁ。あれお前んとこのスナイパーか?」

「おう。すげーだろ」

 いつの間にか隣に来ていた顔見知りのプレイヤーに、思わずどや顔で言ってしまった。

 勿体ない素材を捨てたもんだ。ちゃんと育てれば、彼女はこれほど強いというのに。

 蒼は自陣に籠もってコアを守る作戦に切り替えたようだ。だが、そこに砲撃が降ってくる。

 ヨーコちゃんはちゃんと俺が付けたサブウェポンに気づいて、そして容赦なく使っていた。

「えっぐぅ!!」

 敵陣近くの高台に乗っても、その方角からの攻撃に備えた高い防壁があるので中は狙えない。ならば高台を捨て、防壁の近くから砲撃を投げ込む。

 Bランク上位の人達がやっている戦法だ。砲撃を投げ込んでいぶり出すのが目的なのでロックオンは必要ない。

 ただ、これをヨーコちゃんは、当てる。

 爆撃をしながらも位置調整と角度調整をして、空からコアを狙い、そして落とした。


『蒼のコアが壊れたーー!! こんな戦法有りなのか!! 勝者、赤チーム!! 素晴らしい戦いでした!』

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