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 あれから数日経った。

 その数日でヨーコちゃんについて分かったことがいくつかある。

 まず、自己評価がとてつもなく低いと言うこと。

 次に、口癖が「すいません」「私なんて」「常識だから」。

 あとは、家事スキルが高い。酒に弱い。焦ると関西弁が出る。悲鳴が猫。

 そして、ドジっ子。


「さー! 今日は私たちチーム『ヨーソロー』の初陣よ!」

「「「おー!」」」

 いつもの大スクリーンのゲーセン。

 ヨーコちゃんの元チームメイトや元彼がいるかもしれないので本当は来たくなかったが、行こうと思っていたゲーセンが筐体入れ替え作業のために臨時休業していて、仕方なくこちらに来たのだ。

 待機名簿に名前を書いて待つ。一応見てもらったが元チームメイト達の名前はなかったそうで安心した。

 ヨウタさんが気合いを入れたが、チームとして動くのは1プレイ後である。

 なぜならヨーコちゃんが新規アカウントを作るから。

 元々持っていたアカウントの武器ポイントが、200近くプレイしているというのに空っぽで、武器もマシンガンしか無かったからだ。

 普通は3プレイほどで新しい機体分のポイントが貯まるから、すぐ機体を乗り越える。しかし彼女は初期機体のまま。これはPK時にエネルギーコストを抑えるため、初期装備を強制していたとしか思えない。

 彼女をロックオンできないからという理由で前衛に押し込めたのも、自分達が彼女を撃墜しやすくするためだったと考えられる。

 まともな人間ならロックオンが出来ない原因を究明して、出来るまで練習に付き合うのがチームメイトだろうに。

 うちの場合、ロックオンが出来ないことを逆手にとってロックオン外射撃なんてしようとしているが。正直、まともな感性では無い。しかしあの時の曲射が全員忘れられずにいたから仕方がない。だってスナイパーライフルでも同じ事が出来るなら、絶対に強い。

 ヨーコちゃん自身はまぐれだし、スナイパーには向かないと思うと言っているので、再現出来なそうならロックオン練習に付き合うことになっている。

 当の本人はにこにこと嬉しそうな顔で新しいカードを見ていた。

 その隅にはぷにぷにと膨らんだ肉球シールが貼ってある。ヨウタさんが貼ったチームの証だ。俺もよーへいさんも貼られた。

「嬉しい?」

「はい! あ、タイヨウさんのシールはなんですか?」

「俺のは猫だったかな」

 と言ってもこのシール、猫も犬も違いがよくわからないのだが。

「……猫ですかね?」

「……わからん」

 肉球の周りの色が色が茶色と黒と白なので三毛猫っぽいなとは思っている。

 ヨーコちゃんがよく見たいというのでカードを手渡した。難しい顔をしてカードを真剣に見ている。

「プレイヤー名、ヨーコさまー」

「あ、呼ばれた。じゃあ、行ってきます」

「うん。行ってらっしゃい」

 ヨーコちゃんからカードを返してもらい、見送る。

 そしてカードに目を落として、慌てて彼女を呼び止めようとした。

「ヨーコちゃん! カード!」

 肉球の周りが白いシールは、ヨーコちゃんのカードだ。

 ゲーセンの音がうるさくて声が届かない。それでも振り返った彼女は手を振っている俺に気づいてくれたが、はにかんで小さく手を振り返してくれただけでその手の中のカードに気づいてない。

 筐体に乗り込み、音を遮断するためのドアが閉められる。

「あ~~~」

 絶対にパニックを起こしそうだ。やばい。

「どしたの?」

 戻ってきたヨウタさんたちに、俺は大慌てでカードの取り違えを説明した。


 ****


 ヨーコは混乱していた。

 いつものようにシートベルトをして、座席やレバーの位置を調整して、クレジットを入れる。

 それからカードを所定の位置に置いたところで、その間違いに気づいた。

「ひええええ……」

 勝手にマッチング画面になってしまったのだ。カードを見ると、白いシールではなく、三毛猫カラーのシールになっている。

 筐体に乗る前、タイヨウが手を振っていた理由が分かった。応援ではなくて、このカード間違いを指摘していたのだろう。

 混乱しているとシュポンッと携帯から軽快なポップ音が響いた。

 一度シートベルトを外して鞄から携帯を取り出すと、ロインの通知が入っている。

『落ち着いて』

 そのメッセージはよーへいからだった。

 ロインを開くと、タイヨウとヨウタも同じ事を言っており、全員から心配されていることに申し訳なさを感じる。

 しかし、声を掛けて貰えたことで何とか落ち着いた。

『まずはマッチングした人に説明』

「あ、そうか」

 よーへいの指摘に慌ててヘッドホンを付け、通話をオンにする。

「よろしくお願いします」

「よろ~」

「女の子だ~。あ、同じ店舗! よろしく~!」

「よろ。あれ、タイヨウなのに女の子? タイヨウの知り合い?」

「あ、はい」

 どうやら一人はタイヨウと知り合いらしい。チームの証のシールを見比べていたら間違えたと説明したら、全員が笑った。

「あなたのランクは? あとポジション」

「まだCです。ポジションは、えと、スナイパー希望ですけど、やったことはないです」

「Cならそうだべ。んじゃ、今回は俺たちと練習しようぜ」

「ええっ!? でも、そんな、申し訳ないです!」

「いやいや! スナイパー志望者なら先に体験しといて損はない! 機体と武器変更できない?」

「ええっと、ちょっとタイヨウさんに確認を……」

「この際、機体は初期でいいからさ。武器だけ買ってもらえるか聞いてみてー」

「わ、わかりました」

 応えながら携帯を見れば、もう既にタイヨウとよーへいから連絡が来ていた。

「えと、タイヨウさんからもう連絡があって『スナイパー初期機体と装備のマイセットを作ってある』って」

「おー! やるじゃん!」

 紅蒼には、戦場や組んだ相手に合わせて瞬時に装備を入れ替えられるように、組み合わせを記憶しておく機能がある。それは筐体に乗らずともネットで組み合わせが可能だ。

 ヨーコが間違えて入ったことに気づいた後、即座に組んでくれたのだろう。

 マイセット機能を一度も使ったことがなかったので少々迷ったが、他のメンバーが丁寧に教えてくれたので問題なく装備を変更できた。

『初期装備でごめんね』

 タイヨウからのメッセージに、ヨーコは見えていないとわかりながらも首を振る。

『ありがとうございます』

 色々言いたいが今はそれだけを送って、携帯を鞄にしまい、シートベルトを付け直す。

 もう既に戦場セレクトは終わって、敵とマッチングした。作戦会議タイムだ。

「お待たせしました」

「だいじょーぶ!」

 明るい女性の声に、緊張が少し解れる。前ならば、怒声が響いていた。

「ヨーコさんは機体に慣れる練習。射撃機はジャンプ力が高いからね。あとスナイパーライフルは砲撃と違って飛距離すごいから、味方を撃たないように気をつけて。

 俺らは彼女が撃ちやすいように敵を引きつけ気味に行こう」

「はーい。楽しんでいこーね!」

「あ、俺たちは撃っちゃやーよ?」

「はいっ! 行けるときしか撃ちません!」

「うんうん。じゃ、のんびりいきましょー」

 作戦タイム終了。

 プレイスタートの文字と同時に、画面が砂嵐に遭ったように非常に見えにくくなってしまった。

「わぁ。砂嵐」

 Bランク帯のステージはなんと過酷なのだろう。

 見えにくい視界の中、ヨーコは機体を動かした。

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