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 びっくりしつつもそれなら話は早いとさっそく駅前のファミレスに入った。

 メニューを見て俺たちはハンバーグや照り焼きセットを頼んだが、彼女はピザとサラダだけだった。値段を気にしているのだろうか。

「あ、値段なら気にしないでね?」

 ヨウタさんが気を遣って声を掛けたが、彼女は困ったような笑みで首を振る。

「すいません。見た目に反して、量が入らないんです。多分ピザも少し残しちゃうと思います。……すいません」

 あまりにも彼女が恐縮するので、せめてドリンクバーぐらいは付けろと押しつけた。


 注文を終えて、ボックスの奥の席だった俺と彼女で先にドリンクを取りに来たのだが。

「……何してるの?」

「にゅわっ!」

 ホット用の機械の前できょろきょろと不安げに見回している彼女。思わず声を掛けたら猫のような声が彼女の口から出た。

 バッと慌てて口を隠しても出てきた声は戻らない。わかる。驚いたときの声って恥ずかしい。

 でも彼女は、顔を青ざめさせて振り返ってきた。

「すいません。お恥ずかしいところを……」

「いいんだけど。使い方分からない?」

 この子は謝るのが癖になってるみたいだ。そこまで謝るほどのことじゃないのでさらっと流して、ホット用のドリンクバーの機械を指差して問う。

「ええっと……恥ずかしながら……」

 彼女は視線を彷徨わせて、微かに頷いた。

 恥ずかしいことは何も無い。ジュースの機械は大体同じだが、ホット用の機械はファミレスによって違う。

 彼女が飲みたいものを聞いて、説明しながら操作する。簡単なことなのに彼女は酷く感心したようだった。

「ファミレスあまり来たことない?」

「はい。大体モク……モックとかなので」

 今、言い直したけどモクドって聞こえた。関西圏の子らしい。家族でこっちに引っ越してきたんだろうか。

 そうだ。そもそも門限は大丈夫だろうか。

「そういや、時間大丈夫? ご家族心配しない?」

「え、あ、大丈夫です。一人暮らしなので」

「ええっ!? 中学生で一人暮らし!?」

 それって大丈夫だろうか。漫画とかにある親は海外出張とかそういう話? ネグレクトじゃね?

 慌てに慌てる俺に、彼女はむすっとした表情になって足早に席に戻った。

 俺がたどり着いたときには自分の鞄を漁ってパスケースを取り出す。そして、印籠の如く俺に突きつけた。

 パスケースの内側にあったのは、俺の大学の学生証だった。学年は俺よりも下。

「大学生……ははは……」

「ついでに、先輩とは何度かボランティア活動でチーム組んで活動してました!」

「すいませんでした!!」

 きっちり九十度の謝罪をさせていただきました。


「中学生!! よりにもよって!! あははははは!!」

 その後、事情を説明する前にヨウタさんとよーへいさんにも飲み物を取ってきてもらった。

 落ち着いたところで自己紹介をして、先ほどのやりとりを説明すれば、ヨウタさん大爆笑である。店に配慮して音量は小さめだが、机に突っ伏してまでの爆笑。

 よーへいさんも口元を抑えてぷるぷる震えている。ちくしょう。

 彼女――プレイヤー名、ヨーコちゃんはむすっとしてココアを混ぜていた。

「本当にごめん! どうしたら機嫌直してくれる?」

 俺に女の子の心の機微なんて分からない。察しろよと酒飲み友達には怒られるのだが、俺の周りの女子は女帝とか女王とか、とにかく気が強い系なので、全く参考にならなくて全然経験値が積めない。

 だから素直に聞いてみた。

 するとヨーコちゃんはそう来るとは思ってなかったのだろう、見るからに慌てた。

「すいません、調子に乗りました。そこまで怒ってないです」

 突っ伏していたヨウタさんが目を見開いてヨーコちゃんを見る。怖い。

「ヨーコさん。怒ったなら怒ったって言っていいんだよ。そうだ、デザート見て悩んでたよね。ピザ半分押しつけてデザートたのも!」

「ええっ!? いえ、そこまでは」

「いや、それじゃあ俺の気が済まない! ピザ丸々食べるから、好きなデザート食べてくれ!」

「ぴ、ピザも食べたいので、えと、あの、ええっと」

 ちなみにヨーコちゃんとヨウタさんは同い年らしい。見えない。ヨウタさんの方が年上に見える。

 困ってしまったヨーコちゃんはよーへいさんに視線を向けて助けを求めた。

「うーん。無理矢理は良くないけど、さっきこのティラミス見てたよね」

「タイ君!」

「あいよっ!」

「ふきょぉっ!」

 無理矢理は良くないと言いつつ、よーへいさんは容赦が無い。

 俺たちは見事な連携で店員さんを呼び、ティラミスを追加で頼んだ。ヨーコちゃんの奇声がなかなか面白い。

「ふっふっふ。私たち、あなたの腕が欲しいの。絶対に逃がさないからね」

「そうそう」

 ヨウタさんがわざと悪ぶって、顔の横に持ってきた両手もがおーと言わんばかりに指を曲げて威嚇している。俺も同意したが威嚇まではやめておいた。俺がやっても怖いだけだ。

「そんな、私なんて大したことできませんよ……撃墜できないからチームのお荷物ですし……射撃センスないって言われましたし……」

 反して、ヨーコちゃんは俯いて落ち込んだ。

 こうなるとは予想してなかった俺たちは慌ててよーへいさんに助けを求める。

 チームの参謀は苦笑して、テーブルに腕を置いて目線をなるべく下げた。

「ヨーコさん。今日のゲームでやった最後の砲撃。あれは狙ってやったんだよね?」

「え? ええっと……」

 質問にヨーコちゃんは顔を上げ、よーへいさんを見て視線を彷徨わせる。

 どうしよう、と迷っているのが察しの悪い俺でも分かった。

「そう、ですね。信じてもらえないと思いますけど、狙いました。まぐれって言われましたけど……」

「大丈夫、分かるよ。あの位置ならロックオン出来なくてもギリギリ当たる。だってキミ、味方機のマークを目印にビルの上から撃ったんでしょう?」

「!?」

「は、はい! そうです!」

 よーへいさんの言葉に、俺とヨウタさんは驚く。ヨーコちゃんも驚きながらも頷いた。

 柔和な笑みを浮かべながらよーへいさんは頷き、タブレットを取り出した。少し操作してテーブルに置かれたのは市街地Bの俯瞰図。

「ここ、何も書いてないように見えるけど、壊せるビルが建ってるんだ。

 紅蒼の俯瞰図は略式だからね。壊せるオブジェクトは表示されない。だから、観客には見えないんだけど、彼女はずっとビルの上から撃ってたんだよ」

「へー……」

 それは知らなかった。見分けが付くようなら覚えておこう。ビルを破壊して通路を塞いだりとか出来そうだ。

「高いところからの曲射――もういっそ爆撃だね。爆撃だから、ビルの裏に隠れても当たったんだ」

「それはたまたまですけど……」

「あれだけのビル群から狙った場所に向けて撃てるのは、充分すごいことだよ」

「そうだよ! ロックオンが当たり前の砲撃系で、ロックオン外でも撃とうって考えるだけでもすごいんだから!」

「え……」

 よーすけさんとヨウタさんの褒め攻撃に俯いていた彼女は、不思議そうに顔を上げた。

「あそこ、ロックオンの外なんですか?」

「「「……え?」」」

 ヨーコちゃんの問いに、俺たちは固まった。

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