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バックヤードから出ると、ゲーセンはもう阿鼻叫喚。悲鳴だらけだった。
それでも大会は続いている。サーバーがダウンするまでに荷電粒子砲をゲットしていたヤツらが有利になりそうかと言えば、そうでもない。そもそもアレの装備条件を満たしている機体がいくつあることやら。
まず、射撃機体専用装備であること。次にスナイパーライフル系武器を1つ所持。まぁ射撃機体なら大体持ってる。
問題なのは、射撃で100体以上撃破していること。
Aランク帯ならたぶんそこそこ居ると思う。だけどBランク帯で射撃機で100体はそうそう居ないだろう。
なお、情報発表時にも注意事項としてわかりやすく書いてあったし、武器取得画面でも装備条件のところにわかりやすく書いてある。ちゃんと読んでいれば引っかかることはない。
でもきっと、ゲーセンで端末を見ているヤツらの中で何人かは、装備できないことに文句を言ってるだろう。読まないヤツは読まない。
帰ろうとした俺たちだったが、ゲーセン内が混み合っててなかなか出れない。そのうちに何人かがこっちに気付いた様子だったので、よーへいさんとヨウタさんがコウヨウちゃんを隠した。
困っていると今度はゲーセンスタッフに声を掛けられ、従業員出入り口からこそっと出ることに成功する。良かった。
外は明るく、一瞬光に目がくらむ。風は冷たいが日差しは少し暖かい。
大きく伸びをして深呼吸した俺は、後ろの3人を振り返った。たった1戦しかしていないのに非常に疲れた。3人も似たような表情だ。
「なんか、怒濤の展開だったなー」
「はい……」
「大会が続いたとして、二回戦以降どうする? やる?」
「主目的は果たしちゃったからなぁ……」
正直、もういいかなというのが俺の気持ちだ。
くそ野郎はぶっ倒したし、東城さん達の様子だとヤツらは出禁処置食らうだろうし。
それにエリア内の敵全体攻撃なんてチート武器なんてものがあるとわかってしまったことで、俺的には萎えた。
「就活準備も真面目にやらなきゃいけないし、紅蒼自体を卒業しても良いかなーと思ってる」
だから素直な気持ちを吐き出した。次は4年だし、就活準備しないと。ゲームしか真面目にしてない。やばい。
「私も、モデルと大学両立のために頑張らないと……勉強……」
コウヨウちゃんも遠い目をした。その勉強はどっちのだろう。どっちもな気がする。大変そうだ。
「私も卒業だなー。来月から正式に美容師見習いとして店に出ることになったから」
「マジか! おめでとう!!」
「すごいすごい! おめでとー!」
「ありがとー!!」
美容学校自体は卒業して資格もあるらしいが、店長に認められていないって言ってたけど、やっと認められたのか!
このまま祝いにどこかのカフェに行こうとコウヨウちゃんが検索をかける。
「ヨウタがいないなら僕も卒業だね」
よーへいさんがそっとタブレットを取り出しながら続いた。
タブレットにはカフェの画面が出ている。デッカいパフェが有名なとこらしい。アクセスを見ると電車で3駅。今からならピーク時間前に入れるだろう。
午後から二回戦目の予定だったが、よーへいさんがゲーセンに電話して、辞退を申し出た。そもそも二回戦をするのかも不明だけど、言っておくのは礼儀だ。
そのまま俺たちは駅へと向かった。ヨウタさんはともかく、コウヨウちゃんはあの量のパフェ食えるんだろうか。
家に帰って配信を確認すると、コメントがすごかった。すぐに非公開にした。無我夢中だったが、改めて聞くとこっぱずかしい台詞のオンパレード。よくもまぁ言えたものだ。
俺なんか比にならないのがコウヨウちゃんの配信。Bランク初の《蒼のヴァルフリーク》に、新称号なんだから反響も大きかろう。
これはサーバーもダウンするはずだ。
夜になってようやく繋がるようになったが、MVP投票や武器取得などは出来ない。閲覧だけの状態で制限されていた。お問い合わせも混み合っているため一時的に撤去されている。
それで確認するとMVPが3桁を超えていた。称号も複数取得できている。装備品に何個か見覚えのない物が増えていた。ちょっと威力の高いサーベルもあった。
ロインが音を立てたので起動する。コウヨウちゃんがスクショを貼り付けていた。
「ぶへぇぇ!?」
MVP1000越えの画面に思わず笑いながら変な声が出てしまった。いや出るだろこれ。
『トーゴが! あの馬鹿が! 自分のモデルアカウントで私の配信を宣伝してました!』
なるほど。それなら視聴者数が多いのも納得だ。ご丁寧に紅蒼のページまで載せてたら、まぁサーバーも落ちるだろう。
『探されても困るので、モデルアカウントで紅蒼の卒業を宣言しました!』
言われたのでSNSを見てみれば、『モデル業に専念するため、紅蒼を卒業します。最後に大暴れできて楽しかったです!』と書かれていた。コメントは見ないことにする。
あの配信を見ていれば、みんな納得もするんじゃなかろうか。
なお、二回戦以降も予定通り大会は行われると通知は来たが、俺たちは辞退しているのでもう関係の無い話だ。
問題はあのくそ野郎どもがこの配信とSNSの書き込みから、コウヨウちゃんを狙わないかと言うことだが、その辺りはモデル事務所が、というか兄の椿さんが請け負うことになっている。
ああ、そうだ。俺が就活始めるから、大学での護衛について相談しないと。
椿さんにロインを送る。しばらくして返ってきた言葉に、俺は少し固まり、笑いながら返事を打つ。
『うちの事務所、新しいモデルのマネージャーを探しているんだ。仕事はスケジュール管理と送り迎えとちょっと営業。未経験者でも大歓迎。どうかな?』
「俺なんかで良ければ、是非」
俺の就活、2分で終わった。
特にやりたい仕事もなかったから、流されるだけ流されてみよう。
*****
あれから、数年経った。
俺は大学卒業までアルバイトとして《純・ふぁくとりー》で雑用をしながら、業界のこと、マネージャー業のことを学んだ。
卒業後はコウヨウちゃん改め小夜ちゃんのマネージャーであり、レッド改めトーゴのマネージャー補佐として就職する事になった。
小夜ちゃんは一年ですっかりと綺麗になった。出会った頃とは全くの別人だ。椿さんがやっと可愛い小夜ちゃんが戻ってきたと喜んでいた。
ヨウタさんは二人の専属ヘアスタイリストになった。小夜ちゃんが何度言ってもドライヤーを掛けないし、寝癖が酷いことに激怒して、ある日ヘアスタイリストとして乗り込んできた。
よーへいさんは実家が呉服屋だった。小夜ちゃんの卒業式の袴を用意したのは彼だ。絶対すごく高いだろう着物を小夜ちゃんは怯えながら着て、卒業式に出た。
その後、SNSでちょっと話題になったことから、よーへいさんは渋る両親を説得してカタログやHPを作成。モデルとして2人をよく呼んでいる。『高身長でも、低身長でも、着物は合わせられる!』がコンセプトとのこと。たまに低身長男として俺も呼ばれている。
イエロー改め黄瀬と、ブルー改め啓介も《純・ふぁくとりー》でそれぞれプロとして働いている。先日、結婚をしたと昼飯の雑談で聞かされて、会社の社長含め全員が驚愕の声を上げてビルを揺らした。式は上げたくないとのことなので、ふざけんな祝わせろとウェディング写真は撮らせた。
次はお前だぞ。と啓介に背中を蹴られた俺は、ちょっと途方に暮れている。
俺と小夜ちゃんは、小夜ちゃんの卒業式の日からお付き合いを始めた。
迎えに来た俺に、小夜ちゃんから告白された。俺が言おうとしてたのに、彼女は遠距離から狙撃してきやがった。
どういうことかって? 校門前で待ってた俺の所にたどり着く前に、彼女が叫んだのだ。
「せんぱーい! 好きですー! 付き合ってくださいー!!」
着物のせいで走れない彼女が、逸る気持ちを抑えきれずに人が多いというのに叫んだ。SNSで話題になったというのも、これだ。モデルの小夜が公開告白。そりゃ話題になる。
俺は思わず駆けて彼女を抱き上げ、即座に椿さんとトーゴが待機する車に放り込んだ。
その後は俺の正体があのタイヨウだと何故かバレ(たぶんトーゴ辺りがなんかした)動画は非公開にしたのに、あのこっぱずかしい台詞オンパレード部分の切り抜きが作られ(たぶんよーへいさん辺りだ)小夜ちゃんのファンからは特に大きな反発も無く受け入れられた。
好きだからいいけども、恥ずかしいからやめなさいと窘めたのも今では笑い話だ。
始まりこそ彼女からだったが、今回はと俺は決意を固めて挑んだデート。
俺たちは可愛いパンケーキの店でケーキを待っていた。話題は適当に。
プロポーズする場所は考えてある。
「海さん、そろそろ結婚しません?」
というのに、彼女はそんなことお構いなしにぶち込んでくるから本当に酷い。
顔を悪戯っぽい笑みにしているが、口の端が少し震えていてやらかしたと思っているのが分かる。小夜ちゃんはドジっ子なので、たまにこうしてやらかすことがある。
だから俺は喧噪で聞こえなかったことにして、聞き返してやった。いまなんて?
彼女は顔を真っ赤にして、何でも無いと笑ってみせる。どこかホッとした様子なのはやはり本人としても不本意に漏らしてしまったのだろう。
なので、予定を変更した。頼んでいたパンケーキとコーヒーが届き、いただきますと両手を合わせたところでぶちこむ。
「小夜ちゃん、結婚しよう」
彼女がカトラリーを取り落とした。
俺は冷静に落としたカトラリーを拾って店員さんを呼び、新しいものをお願いする。
すぐに持ってきてくれたのでそれを差し出しながら小夜ちゃんを観察すれば、睨まれた。
「聞こえてんやないですか」
「不意打ちしてくる方が悪い」
カウンターは俺の得意技だからと笑って言えば、彼女は悔しそうに頬を膨らませた。
「海さん、ホンマ人が悪い!」
「結婚しない?」
「しますっ!!」
拗ねる彼女が可愛らしくて、俺は声を上げて笑った。
ああ、うん。幸せだ。
お付き合いいただき、ありがとうございました。




