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大会初日。初戦。それはつまり、俺たちは何も知らない状態でフィールドに投げ出されると言うことである。
対戦相手は予想通り、コウヨウちゃんが虐げられていたチーム『鮮紅の傭兵団』
「はー。何これ」
ヨウタさんの思わずといった感じの呟きに、俺も内心で同じ事を返していた。何だこれ。
燦々と輝く太陽が破壊された工場地帯を照らす。
そこに無数の円盤形のドローンが漂っていた。地上ではカマキリのような細い足に細い胴体の黒い機体が、我が物顔で闊歩している。あまりにもいっぱいだ。適当に撃ってもどれかには当たるだろう。
「……なるほど。侵略されてるのか」
よーへいさんが冷静に状況を分析して、キーボードを叩く音がする。少しして彼からの通信でマップに敵情報が表示された。支援機だけが使えるモードだ。キーボードは備え付けの物があるが、支援機を使う人は大体持ち込みである。
黄色の丸がうじゃうじゃ居る様子に、お菓子にたかる蟻を思い出した。
これ、集合体恐怖症の人とか吐かないだろうか。
「……よーへいさん、吐きそうなので私だけ表示を軽減というか、なんかこう、その」
「ああ、ごめん。大型の物だけ表示するね。後は目視で頑張って」
「はい……」
コウヨウちゃんが吐きそうになってた。そういえばこういうのが苦手だった。
「それで、この勝利条件って……対戦ゲームの大会のはずなのに、ちょっと無謀すぎませんか運営ぃ!?」
ヨウタさんが再び叫んで、俺も再び内心で同意した。
《勝利条件1:戦闘終了まで両軍のコアを守りきる》
《勝利条件2:敵の殲滅》
《どちらかの勝利条件を満たすこと》
これって、対戦してきた相手と協力プレイをするか、今まで通り敵対するかを即座に選んで交渉しなければならない。
作戦タイムが3分もあるのはこれのためか。対戦相手とも会話が出来る理由が分かった気がする。チーム対抗戦の時に相手チームとも喋れるようにするためかと思ったが、おそらくこれを想定しての先行実装だ。
「こちらチーム『ヨーソロー』。そちらと戦闘の方針を相談させてください」
よーへいさんが事務的な声音で向こうへと通信を投げる。
少しして向こうから返事が来た。
「そちらのメンバーをこちらに移籍させるなら相談とやらに乗ってやってもいい」
高圧的な態度にカチンと来るが黙る。相手との対応は全てよーへいさんに任せると事前に決めていた。
こういう時に一番に叫ぶヨウタさんはマイクがミュートになっている。賢い。見習って俺も静かにミュートにしておいた。
「ヘッドハンティングですか。残念ながら他を当たってください」
「うちのヨーコを返せと言っているんだ」
「どなたのことでしょう? ヨーコという人はうちには所属してませんが」
「コウヨウとかいう名前になってんだろ! おい、ヨーコ! お前みたいなクズでのろまなデブが上手くやっていけるわけねーだろ! 戻ってこい!」
聞き捨てならない暴言に叫びかけて堪える。ヨウタさんですら堪えているのだ。ここで俺が叫ぶわけにはいかない。
「――――ええ加減にせぇよ」
その低い声は、静かに怒りに燃えていた。
俺ですら背筋が凍るほどの怖い声だ。え、これ誰。よーへいさんにしては声が高い。ヨウタさん?
「誰がそんな暴言吐かれるような最悪な場所に戻るか。ホンマふざけんのも大概にしろ」
違う。ヨウタさんじゃない。
声に合わせてモニターのアイコンが明滅する。誰が喋っているか明確にするシステムだ。
低い声に合わせて、コウヨウちゃんのアイコンが明滅していた。
「ズタボロのボロ雑巾みたいな扱い受けて、毎日毎日暴言吐かれる生活をなんでせなあかんねん」
コウヨウちゃんがあいつらに反論する可能性は考えていた。
よーへいさんも彼女だけはキレる権利があるから、好きなようにやってしまえと背中を押した。本人は怖くて震えてしまうからきっと何も出来ないと言っていたけど。
「ヨーコ、リーダーの言葉は確かに行きすぎだ。謝罪させるし、暴言はもう吐かないと誓うから――」
「じゃかましいわ」
元彼の言葉もコウヨウちゃんは恐れることなく一蹴する。
「元とはいえ彼氏の言うこと――」
「誰が彼氏や。うちのこと妹としか見てへんかったんやろ。兄としても最悪やけどな。妹に高額の商品貢がせたり、部屋の掃除、炊事、洗濯まで全部やらせて、自分は女とイチャイチャしとるんやから」
それには全員が絶句した。
向こうのチームからも「彼女だったんじゃ……」「ヨーコ、外見はアレだけど、性格は良かったじゃんよ……」との声が届いている。暴言を吐いたリーダーですら「それはねーわ……」と呟いていた。
「お前……ッ!!」
相当怒って言葉が出てこない様子の元彼に、言いたいことは全部出したとコウヨウちゃんがマイクとスピーカーをオフにする。俺も合わせて向こうとの通信を切った。
「はい、交渉決裂。僕らの大切なチームメイトを貶したそちらを敵と見做します」
よーへいさんの声がチーム通信で聞こえる。
「僕ら相当怒ってるんで。覚悟しとけよ」
俺たちの怒りを、よーへいさんが代表して向こうに叩きつけてくれた。
さぁ、戦闘開始だ。




