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遅くなりました。

 コウヨウちゃんのカウントに合わせて後ろに下がる。

 提案された瞬間、ビルの向こうからの爆撃をするんだろうなと理解はしたが、まさかピンポイント爆撃とは恐れ入った。

 相手の頭に突き刺さるナパーム弾という光景はそうそうお目にかかれないだろう。

「あれ? なんか、相手に炎マークが……」

「燃焼マークだよ。燃えてるんだ」

 コウヨウちゃんの疑問によーへいさんが答える。

 敵は上半身が炎のエフェクトに包まれている。しかも頭に刺さったのでメインカメラが破損しているはずだ。

 この隙を逃さず、フェンシングの突きのようにサーベルを突き出して胸の弱点部位を壊す。

【Blue02、Retire】

「ぃよっし!」

 開始15分以内で3機撃墜はかなりのハイペースだ。Bランク帯になると大体4機~5機落とせばエネルギー切れになるから、あと1機か2機落とせば勝てる。

「ヨウタ、下がれそう?」

「行けるけど、カウントはこっちでやらせて!」

「わかった!」

 コウヨウちゃんは今度はヨウタさんの方でも同じ事をするようだ。ヨウタさんのカウントで行動を開始する。

 だが、相手も情報共有が出来ていたようで、すぐさまヨウタさんについて行った。

 これじゃあ狙いがはずれるのではないか。フォローに向かうべきかと踵を返したところで、


【Blue03、Retire】


 そこがビルとビルの間で、ライフルの射線が通る場所だと、無機質なアナウンスで気づいた。

 最初から爆撃ではなく、射撃を狙って下がるように指示を出したのか。

 それを考えていたのだとしたら、本当にとんでもない逸材だ。


【Battle End Winner Red】


 俺たちの勝利でゲームが終わるが、コウヨウちゃんの力を前に3人とも言葉がなかった。

 リザルト画面では当然コウヨウちゃんがMVP。

 ここまで一方的な試合はそうそうない。


 手早く荷物を纏めて筐体から出た俺に、レッドが気づいて片手をあげる。

「お疲れ」

「初陣どうだった?」

「いやー……すごかった」

 レッドから手渡された水を受け取り、蓋を開けながらブルーに感想を言おうとするのだが、感動しすぎて言葉が出てこない。

 あまりにも鮮やかな射撃に心が奪われた。

「想像以上の力だったよ」

 言葉を探しながら水を飲んでいたところに、よーへいさんが怪しく笑いながら合流する。

「あそこまで地形を把握する力……敵にロックオンされて硬直するかと思ったけどそんなこともない胆力。そして判断力……ふふふふふふ…………」

 怪しい。怪しすぎる。

 そのままタブレットを取り出して作戦を考え始めるよーへいさんは放っておいて、女性陣の方を見た。

 何やらキャッキャと盛り上がっているようだ。コウヨウちゃんは照れくさそうに笑っている。女性陣が楽しそうにしている様は見ていて和むなぁ。

「ヨウタ! コウヨウ! ちょっといいかい?」

「はいはーい?」

「なんですか?」

 よーへいさんが2人を呼んだ。タブレットには地図が映っているから、作戦会議って所だろうか。

 ただ、漫画やアニメのマッドサイエンティストみたいな怪しい笑いを浮かべていたせいで、コウヨウちゃんが固まった。

「よーへいさん、顔が怖い」

「おおっと」

 ヨウタさんにツッコミを受けてよーへいさんの笑いは引っ込んだけど、まぁたぶんこれ、また浮かべるだろうな。その頃にはコウヨウちゃんも慣れているだろう。


「まず。想像以上にコウヨウさんが動けるので、僕らの点取り屋をヨウタからコウヨウさんに変えます」

「わ、私ですか!?」

「うん。というのもね。紅蒼の今のセオリーでは、スナイパーが追い込んで近接が倒すのが主流なんだ。味方機を墜とすの(フレンドリーファイア)が怖いからね」

 確かに、現行のルールだと味方のポイントが減ってしまうので、誤射は非常に怖い。スナイパーは支援が多いのもそこが理由だ。

 だからといってスナイパーは無用かと思うとそうでもなく、ロックオンされていると言うだけで意識をそちらに裂かなければならないし、接敵までの間に一方的に撃たれるのは非常にやりにくい。

 なのでチーム編成は格闘・近接が2~3機、スナイパー機が1機、支援機が0~1機が理想とされている。

「だけど、コウヨウさんは誤射の心配がほとんどない。それにロックオン外からの射撃なんて、分かっていてもなかなか避けられないと思うから、十分効果があると思う」

「何度聞いても信じられないけど、ホント、ちょっと規格外だよね」

「当てられそうだから当ててるだけなんですけど……」

「それがすごいことなんだってば」

 狙ったところに投げることが難しいように、狙ったところを撃てるのは相当な才能だと思う。本人は全く自覚してくれないけれど!

「盤面は僕がある程度整えるつもりだけど、今日みたいにコウヨウさんがやりたいことあるなら、その都度、積極的に出して」

「わ、わかりました」

「囮になら、いくらでもなるから」

「間違えて撃っても、衝撃なんて軽く揺れる程度だから! 気にしなくて良いからね!」

「は、はい! でも撃ちたくないので慎重にはします!」

 両手を握りこぶしにして伝えてくるけれど、筐体に載ったらその辺り忘れて味方の間を縫う射撃をすると思う。


 でもまさか次の試合でされるとは思わなかったです。

「みゃああああ!!!! 先輩、すいませんんんん!!!!!」

「大丈夫、大丈夫。かすっただけだし、ダメージもないから」

 接敵していた相手の頭が吹っ飛ぶ様を見せられて、ちょっと放心しつつも、錯乱しかけているコウヨウちゃんを宥める。

 射線が通ったからって、味方ごしに敵を撃つのはなかなかクレイジーだ。ちょっと角度がずれていたら、俺の機体の頭か肩が吹っ飛んでいた。

 彼女的に、当たる。と確信しての射撃だろうから、怒りはしないけれども。

「……せめて今度からは、何か一言呟いて。いけるとかでもいいから」

「はい! はい! やってみま……努力します!」

 あ、出来ないと思ったな。


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