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そのまま『ハラペコナンジャー』で戦い、コウヨウちゃんはBランクに上がった。
3戦して、砲撃機で4機撃墜。味方への誤爆は無し。そして一度も撃墜されていない。最良の戦績だ。
「スナイパー機ゲットー!!」
「わーい!!」
皆から貰った武器ポイントもあって、Bランクに上がりたてだがコウヨウちゃんの機体は強くなった。
まだ初期機体しか解放されていないので機体は初期だが、メイン武装に連射機能が高く、硬直時間の少ないアサルトライフルMk-Ⅱを付け、サブ武装にキャノンを付けた。更に広範囲レーダーを装備だ。
サブ武装のキャノンは燃焼のデバフが付くナパーム弾になっている。攻撃力としては全く期待できないが、燃焼効果が付いている間だけ、相手の機体の動きが遅くなる効果がある。接近戦での少しの遅れは、致命的な弱点だ。
さらにこのナパーム弾だけは、頭に炸裂したときだけ何故か閃光弾の様な効果があり、相手のメインカメラが一時的に映らなくなるというバグがある。紅蒼の謎バグだ。
放物線を描く武器で動き回る相手の頭を狙うなんて芸当は、普通は出来ない。
だけど、コウヨウちゃんならおそらく出来る。出来なくても、乱戦中に味方に当てずにナパーム弾を落としてくれるだけで、こちらが有利になる。
「これで作戦第一段階完了だ。
次の段階に行くよ、コウヨウさん」
「はい! よろしくお願いします!」
カスタムが終わったら次からは『ヨーソロー』の出番だ。
来月の大会では対戦成績によってマッチングする相手が決まるので、俺たちが狙っているチームを戦おうとすると、それなりの戦績が必要になる。
そう。俺たちがぼこぼこにしてやりたいアイツらは、Bランクのトップ30にいるのだ。
あの野郎どもはコウヨウちゃんと組んでいたチームとは別のチームで戦績を上げ、トップに食い込んでいた。上がったり下がったりで安定はしていないようだが、それでも今の俺たちよりも上位なのは変わりない。
だから、俺たちは急いで順位を上げる必要がある。
「でもしばらくは武器ポイント稼ぎとコウちゃんの練習だからね。気負わずにいこう!」
「うん!」
ヨウタさんにも敬語が抜けてきたコウヨウちゃんが、両手を握りこぶしにして気合いを入れる。やる人によってはぶりっこに見えるポーズも、無自覚でやるのだから可愛い。
「先輩! お願いします!」
「おう!」
さて、今度こそ『ヨーソロー』初陣と行きますか!
****
機体が軽い。ジャンプ力が高いらしいが、ジャンプをした回数など片手で足りるほどなので、違いなど分からない。
ペダルを踏めばジャンプするのは知っていたが、いつもペダルが遠くて困っていた。背の高い人用のゲームではないかと何度も思ったほどだ。
まさか座席を移動させるなんて知らなかったし、リクライニングもあるなんて知らなかった。
否。
知ろうとしていなかった。
言われるがまま、全部鵜呑みにしていた。
初期の頃は、少しは調べたのだ。この武装が良いとか。こうしたいと提案したこともあった。
近接は怖いから支援機での支援を提案すれば、作戦立案の遅さ、視野の狭さから却下された。
砲撃機はジャンプが出来ないことと移動速度が遅いこと、そして味方を間違えて撃ってしまったことから下ろされた。
距離感を練習して当たるようにしても、彼らは話を受け付かなかった。
どれもこれも提案しては却下されて、時には恫喝されて、彼女は次第に黙ることを選んだ。
調べることをやめた。情報を取り入れることをやめた。
初めて出来た彼氏の言うことを聞かなければならないと思っていたのだ。だって彼は、事ある毎に彼女に言った。
『俺を愛してくれるのはお前だけだ』
だから、愛さなければならないと思った。
彼の言うことを聞いて、黙って従うことで、彼への愛情とした。
(……今思うと、あれは憐憫の情やったんやろな)
誰にも愛されないのは可哀想だと、無意識に彼を見下していたのだろう。
理不尽な暴力こそなかったが、あんな雑な扱いをされていたのは、彼も無意識下で察していたからに違いない。
そうじゃなければ、彼は非道なことを平気で出来る男だったということだ。
流石に違うと思いたい。
自分が悪かったから、相手の態度も悪くなっていったのだと、そう思っていたい。
幸せを感じた時間は、確かにあったのだから。
(だからといって、浮気して良い理由にも、搾取して良い理由にもならん。
なによりも、うちのことを妹やと思っとったなんて、別れ際に言う台詞やない!!)
場所は市街地B。何度も戦ったことのあるビル群だ。
ジャンプすれば一度でビルの屋上まで登れた。西から3機近付いているのを高性能レーダーが捉える。
「コウヨウさん。西からの奴らを数発、威嚇して」
「はい! ぶちかまします!」
指揮官のよーへいも同じように捉えていた。
指示通り、数発。威嚇を兼ねて距離確認のためにサブ武装を撃ち込む。
砲撃位置、感覚のずれは無し。
「見えたら撃っていいです?」
「うん。やっちゃって」
「了解です!」
一応了承を得てから、ビルの隙間から見えている敵機の影を見つめ、出てきた瞬間に頭を撃ち抜いた。
【Blue04、Retire】
「まずは1機」
「コウちゃんナイス!」
「負けてられないな!」
「コウヨウさんはその位置から東の1機を威嚇しつつ、ビルの上をジャンプして移動する練習しながら、囮になってて。
ヨウタ、タイヨウは敵を西から東へ誘導。ルートは任せる。以上」
「「「了解!」」」
指示通りにコウヨウはペダルを踏んで跳ぶ。
踏み込む角度によってジャンプ力は違うし、手元のレバーによって前方か後方か変わる。左右に引けばもちろん左右へ。
端から見ると、スナイパー機を練習している初心者に見えるだろう。その通りだが。
ロックオンされた警告がモニターに出る。東の1機が見えた。
だが、彼女は知っている。その武器でその位置、その角度からでは、決して一撃では落ちないことを。
だから冷静にビルから一瞬降りて、ブースターですぐに元の位置に戻る。敵は銃を下ろして、二車線の道路を走ってこようとしていた。
「遅い」
コウヨウが登り直したことに気づいて慌てて立ち止まり、構えてロックオンしても、彼女の方が速い。
【Blue01、Retire】
開始10分以内に2機を撃墜した。
「……よし。作戦変更。コウヨウさん、そのまま好きに動いて。撃墜されても良い。
僕らはそのフォローをする。今回は撃墜数を稼いでいこう」
「え、あ、はい」
よーへいの指示に戸惑いながらも了承し、コウヨウは動き出す。
ビル群を跳んで、一旦よーへいの位置まで戻り、西からヨウタたちの所を目指す。北東側に敵の拠点があるので、そちらに敵を追いやるのだろう。
敵が見えたところで大きく跳び上がり、わざとらしくビルの屋上に乗る。
そしてライフルを構えればビルの影に隠れた。
「誘い込みも上手いね!」
すかさずタイヨウがビルの影に敵を固定する。レーダーにはちゃんと敵と味方のマーカーが映っている。
「広範囲索敵レーダー、いいですね! もっと良いのだと違うんでしょうか」
「それ以上大きいと僕みたいな支援機が使う形だから、スナイパーには向かないかな」
「なるほど。残念です」
会話しながらもう1機へとライフルを向けるが、それもまたビルに隠れる。今度はヨウタがビルの裏に固定した。
「先輩、今の敵の立ち位置、四車線のどこです?」
「えーと、俺から見てで良い?」
「はい」
「じゃあ、真ん中やや右ってとこ」
「わかりました」
先にタイヨウの方へと向きを調整し、キャノンの角度も調整。
「先輩、えと」
提案して良いのかと迷うが、彼らには何でも言えと言われている。むしろ言わないと怒るとも。
だから一瞬躊躇したものの、コウヨウはやりたいことを提示した。
「私の3カウント後に下がってもらえますか?」
「あいよ」
軽い了承が返ってきて安堵する。
出来るかどうかは分からないが、やってみたいと思ったことは試したい。
「行きます! 3、2、1!」
「よっと!」
キャノンを放つ。
同時にタイヨウの機体が下がったのがレーダーで見えた。
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。