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 ヨウタさんは元彼との事で、俺たちが知ってる範囲のことを洗いざらい話したらしい。

 聞いた椿さんの行動は早く、現在コウヨウちゃんが住んでいる家の解約と引っ越しを決めた。

 彼女を反撃をしない弱者と認識したやつらが、家に押しかけて何らかの危害を加える可能性があるからだ。

 次の家が見つかるまでは椿さんの家で同居することになった。

 流石に大学にまで来ることはないだろうから登校は1人だけど、ゲーセンへの移動は俺が一緒だ。

 バイト先はこのモデル事務所。最初は雑用係だが、肌が治って痩せたらモデルをやってみようという話になった。社長さんがレッドから話を聞いて、椿さんの妹ならと軽くOKしたらしい。

「なんで皆さんそんなにしてくれるんですか……?」

 あっという間に決まっていくあれこれに、当事者であるコウヨウちゃんはぽかんとしている。出てきた問いも、本当に不思議でたまらないとの副音声が聞こえてくる。

 コウヨウちゃんの隣でカフェオレを飲みながら疑問に答えた。

「何度も言うけど、キミを助けたいからだよ。

 会って一ヶ月どころか二週間程度しか経ってないけどさ。そんな俺たちでも怒りを覚えるくらい、キミはあまりにも酷いことをされていたんだ」

 思い返したら本当に酷い。何を考えたらこんな酷いことが出来るのか。人間かあいつら。

「いえ、でもそれは、私が馬鹿だから」

「馬鹿だったら、何されても良いの? 搾取されて、ボロボロになって良いの?」

「……良くはないですけど、そうなった原因は私にあるんで」

 だから、仕方ないのだとコウヨウちゃんは俯く。

「典型的なDV被害者の思考回路ね」

 やることがなくなったらしいヨウタさんがコウヨウちゃんの隣に座る。

「コウヨウさん。あなたが元彼にやられていたのは、精神的DVと呼ばれる行為だ」

 よーへいさんがタブレットを持って向かい側に座り、ゆっくりと言い聞かせるように説明する。

「交友関係を絞ること、金銭面で苦しめること。性行為の強要はなかったようだけど、紅蒼での衝撃レベル最大で撃墜するなど身体的負担のかかる行為をしていたこと。

 これらは全てDV行為なんだよ」

 顔を上げたコウヨウちゃんが、違うと首を振った。

 信じたくないと横顔が言っている。

「でも、金銭面は私の働き方が悪かったせいで……」

「いや、そもそも大学生に家賃と同じ金額の化粧品を買わせている時点でおかしいからね」

「携帯代払えなくて借りたこともありますし」

「それはヤツに貢いだり、紅蒼に来るように強要されてたからでしょ」

「割の良いバイトをしろって言われてましたし」

「具体的な提案はあった?」

「……なかったです」

 ヨウタさんとよーへいさんがコウヨウちゃんの言葉をことごとく正論で打ち落とす。

 アレ? と彼女が首を傾げた。

「…………うち、もしかして、アイツのせいで金がないのに、アイツに金借りてたんです?」

「そういうことになるね」

「お前の働き方と金の使い方が悪いからだと言われてたんですけど、うちの金、ほとんどアイツの女の化粧品に消えてへん?」

「あ、収支確認してみようか。時給いくらだった?」

「えーと、深夜で――」

 出てきた数字は深夜帯での仕事だというのに割り増しはなく、さらに最低賃金以下だった。

 よーへいさんがざっと調べたら、大阪での最低賃金ではあるらしい。

「俊也さーん。あのクソ店長、最低賃金法すら守ってなかったですー」

「わかったー。殺すー」

「え、でも知らなかったとは言え合意してしまったけど」

「合意だろうと最低賃金というのは法律で決められた額なので、使用者――雇い主は払う義務があるんだよ。守らなかったら罰則が定められてる」

 それは俺も知らなかったので勉強になる。というかよーへいさん、やたらと法律に強すぎないか。

 聞いてもはぐらかされるだろうから聞かないけど。

「それで収支計算してみたけど、うん。明らかに相手の化粧品が負担になってるね。ていうか基礎化粧品ってこんなに高いんだね……」

「普通はこんなに高くないわよ!! デパコスの中でも最上級よこれ!!」

 こんな商品はランキングサイトでしか見たことがないとヨウタさんが叫ぶ。

 彼女が使っている基礎化粧品の値段を教えてもらったが、確かに一桁は違った。容量も倍近く違う。コスパがいい。

 コウヨウちゃんはヨウタさんに教えてもらった商品のサイトを見て、そっと閉じた。

 目を瞑り、息を大きく吸って、吐く。

 そして目を開けた彼女は、決意をした顔をしていた。

「……よーへいさん。あいつら見返してやる方法ってないですか」

 コウヨウちゃん越しに俺とヨウタさんが顔を見合わせて、ニンマリ笑う。

「あるよ。とっておきの秘策が」

 よーへいさんが、ニヤリと笑った。

「ただ、それには僕たち『ヨーソロー』だけでなく、この場にいる全員の力が必要だ。

 キミにそれを借りる覚悟が、あるかい?」

「あります」

 即答だった。

 そして、彼女は立ち上がる。ブランケットを抱きしめて全員を見渡した。

 打ち合わせをしていた椿さんと『ハラペコナンジャー』の3人も彼女を見る。

「あいつらをぶん殴るため、うちに力を、貸してください」

 頭を下げたコウヨウちゃんに、全員が力強く応えた。


「じゃあまず、小夜の部屋の荷物を運び出そう。美奈子、空き段ボール持ってきて」

「あ、段ボールいらんよ。大型家電しかないし、教科書類は学校やし、布団もないし、服もこれに入るから」

 俺たちの元彼への殺意が膨れ上がった。

 布団もないってどういう状況だよ、オイ。

すいません、予約投稿できてませんでした。

変則的に更新です。

次回は12月20日17時です。

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